臨魁学園物語――転校生とガチ恋をして、二人で幸せになる話――
9章 28週目~29週目 まさかの事態に振り回される4人
次の日の部活に、佐々さんと前田さんの姿はなかった。と言うのも、南東先生と西塔先生から、「他にも良い部活があるから、色々回ってきなさい。話はそれから」と言われ、渋々それに従ったらしい。まぁ、さすがに顧問の前で「気になる人がいるから」と言うのは言いにくいよな、と思う。
僕は彼女たちが部活に来ていないことに、ちょっと安堵していた。
更紗の方も、あれから瀬戸との会話は事務的なものに限られているようで、彼女自身も少しずつ状況が良くなっているようだった。
部活後の帰り道、いつものように並んで歩きながら、瀬戸のことについて話をする。
「植田さんが瀬戸くんに話しかけに行っているのもあるんだけど、私のことは諦めたみたい。植田さんと直接話す機会があったから聞いてみたんだけど『瀬戸くんと話をしてみて、悪い人じゃないなとは思うよ。こっちの話題も理解してくれているし、彼の話題もこっちに合わせてもらっている感じ』って」
なんて言う更紗の表情は、緊張感の中にも柔らかさが出てくる。
「そうやって話をしてくれる分には、全然問題なさそうだけど、何があるか分からないからね。気にはしていよう」
更紗も、僕のその思いに納得する。
「そう。でもね、なんか、本当は私と話をしたいのかなって思うことはあるよ。視線を感じることは授業中も休み時間もあるし」
考えすぎだと良いんだけど、と更紗は付け加えた。
「僕もそうあってほしいと思うよ。それじゃ、更紗、また明日ね」
更紗の家の前で僕は希望的観測を話し、会話を終えて別れる。
「うん、また。明日はお弁当ね」
「了解。楽しみにしてる」
僕も更紗も満面の笑みで別れる。作る喜び、食べる喜び、それが僕たちが感じる幸せなのかもしれない。
家に帰って夕食を食べ、風呂に入ってから自室で勉強を始める。時間は20時半。更紗がグループライナーに加わってからたまに賑やかになっていたメッセージも最近は大人しい。学校で話しているだけで、かなり十分だからというのもあって、たまに啓一や毅史からメッセージが来ることはあるけど、それくらいだった。
だけどこの日は違っていて、ピコっと通知が鳴る。
「?」
誰だろうと思って通知を見ると、そこには「夢衣」の文字があった。珍しいな…。
『慎吾くん、ごめんなさい。今お時間よろしいですか?通話したいです』
夢衣から1対1での通話はもっと珍しい。何かあったのだろうか?幸弘と上手くいってないことがあるのだろうか?
さすがに不安なので、矢も楯もたまらず、
「いいよ。かけてきて」
と返事する。待つこと20秒で、ライナーのビデオ通話の着信が鳴った。
「どうしたの?夢衣。珍しいね」
僕は内心の焦りをできる限りかくして応答する。
『あ、慎吾くん、ごめんなさい。急に。少し、聞きたいことがあるんです』
「幸弘のことについて?」
僕は確認すると、向こうで頷くような気配を感じた。
『そうなんです。幸弘さんの誕生日って、もうすぐですよね』
そう言えば、そうだ。この仲間4人の中では、一番誕生日が早くて5月2日だ。
僕は、そうだね、と相づちを打つ。
『それで、プレゼントを渡したいと思っているのですけど、幸弘さんの好きなF1のチームとかドライバー関連のグッズが良いかなって思うのです。さすがに今聞いてしまうとあからさまかなって思いまして、慎吾くんに聞いたわけです』
なるほどな…。それは確かに良いかもしれない。
そして同時に、幸弘との間で何かあったわけではないことに安堵する。
「でも、よく幸弘がF1好きとか知ってたね。あまり夢衣は興味ないと思うんだけど…」
『実は、先週末に日本グランプリがあったと思うのですけど、幸弘さんの家でライブ中継を一緒に見たんです。それで、少しだけ興味を持ちました。でも、まだ知らないことばかりなので、慎吾くんも好きだとその時に伺ったものですから』
ああ、そうだった。実は僕も、更紗を家に呼んで晴兄や父さんと一緒にリビングで観戦したんだった。僕の推しである日本人選手が、戦闘力の劣るマシンで10位入賞できたから、ものすごく興奮して、ゴール後は更紗と両手を合わせてから抱き合って喜んでしまい、「親の前でする態度じゃないよな~」と両家の父親から突っ込まれて僕たち二人とも顔を真っ赤にしてしまった。
「そうか、まぁ、そういうことなら教えてあげられるけど、今すぐにはちょっと難しいね。勉強中だし」
『そうですよね、すみません』
「でも、明日以降なら大丈夫だと思う。ライナーで教えようか?」
すると、驚くべき返答が返ってきた。
『それでしたら、今度の日曜日、喫茶店で直に会って話しませんか?いかがでしょう?』
…どう返事するべきなのだろうか。確かに、今はお互いの相手がいるから、その相手の了承さえ取れれば良いと思う。お互いに信用しているから、了解は取れるとは思うんだ。
でも、本当にそれで良いのか、迷う。
「夢衣は、それでも大丈夫?」
『ええ。クラスメイトの多くは、私と幸弘さん、慎吾くんは幼稚園からの幼馴染みと言うことを知っていますけど、今は私、幸弘さんとお付き合いしているから不思議に思う人も確かにいるでしょうね。噂になった時は、お互い相手の了承を取っていることも含めて、説明しようと思います』
「…だよね。できる限りそんなリスクは負いたくないのだけど」
『はい、それはそうだと思いますが、ライナーで送られる情報だけではちょっと心配で、通販で買うにしても慎吾くんに見てもらえると安心して買い物できるかなって思うんです』
そうか、そうだ。昔から夢衣は心配性な所もあった。通販なんて滅多にしていないし、知らないジャンルの買い物だから、尚更なのだろう。
「分かった。それじゃ、お互いに了承を取ろう。あ、でも、更紗には来てもらった方が良いと思うんだけど、それでもいい?」
『勿論です。その方が噂にもなりにくいでしょうから』
「じゃ、また明日」『はい、よろしくお願いします』
そして、通話は切れた。
これは、ちょっと急を要するかなぁ?まぁ、明日の朝に更紗とは話せば良いように思うけど、一応今のうちに一報入れておくか。幸弘にも、詳細は伏せて夢衣と出かけることは言っておいた方が良いだろう。
『更紗、ゴメン、今、大丈夫?』
と、ライナーのメッセージを打つ。程なく、彼女から返信が来る。
『うん、大丈夫だよ。最近にしては珍しいね。何か、急ぎの用?』
更紗も何か察するところがあったのかな?
『ああ、さっき夢衣からライナーが来て、幸弘の誕生日プレゼントを選ぶことについて相談に乗ってほしいと連絡があったんだ。ライナーだけだと不安だから、週末会って欲しいって』
僕がそう打って送ると、やや間があってから、
『ちょうど今、夢衣ちゃんからもその内容のライナー来たよ。二人のこと、信頼しているから全然構わないよ。たまには幼馴染みとデートしてきたら?』
なんて、ちょっと暢気なメッセージが返ってきた。
更紗には来て欲しい気持ちもある一方、かなり信頼されていて、それはそれで嬉しいことなのだけど…来てもらう方が余計な誤解を生まなくて良いから、一緒に来て欲しいとメッセージを打つつもりだけど、どう切り返そうかと少し迷っていた。すると、更紗からもう一度メッセージが届く。
『夢衣ちゃん、私にも来て欲しいって。確かに、お互い彼氏彼女持ちなのにそれぞれの相手と二人きりで会っていたら怪しまれるもんね。私は全然構わないんだけど、慎吾はそれで良いの?』
夢衣が先に連絡してくれて助かる。僕は、
『うん、それで構わないよ。と言うかそうして欲しいと僕からもお願いしようと思っていたんだ。お互いのためにもね』
と返事する。すると更紗からは、『OK』と言うスタンプが届いた。
『詳細は、明日の登校の時に考えて良い?もうちょっと眠いから』
スタンプのあとにそうメッセージが来て、僕は
『うん、良いよ。ゴメンね、こんな遅くにメッセしちゃって』
と返すと、更紗の方からも、
『うん、ゴメン。また明日ね。お休み』
とメッセージが来る。
『うん、お休み。更紗、大好き。また明日ね』
ちょっと更紗に好きな気持ちを出すと、顔を赤くしたキャラのスタンプが届き、
『私も大好きだよ、慎吾。じゃ、今度こそ、お休み』
とメッセが来て、僕のスマホは沈黙する。
「…幸弘にも伝えておくか」
独りごちて、今度は幸弘にライナーを送る。夢衣が幸弘への誕生日プレゼントのことで迷いがあるから、僕に相談してきた旨を伝え、夢衣と週末会う、更紗にも同席してもらうことを伝えると、幸弘は『了解。すまない、夢衣のこと頼んだ』とメッセージが来る。あっさりと承諾してくれるのは、やっぱり付き合いが長いからなのだろう。
『ありがとう、じゃお休み』
とライナーを送ると、僕も更紗みたいに眠くなってきた。
幸い、明日の予習は全部終わっている。
「寝よ」
僕は、ベッドに潜り込むと、ほんの数分で眠りに就いた。
翌朝、慎吾と一緒に登校する。話題は、昨日のライナーのこと。
「夢衣ちゃん、矢野くんへのプレゼントを買うために、慎吾を頼るのはよく分かるよ。いらぬ誤解を招かないように、一緒にいてあげたいと思う。慎吾、それでいい?」
私が昨日の「夢衣ちゃんは私にもいて欲しい」と言ったことをもう一度確認する。
「うん、僕もその方が良いと思っているから、是非そうして欲しい。ゴメンね、時間取らせて」
慎吾は謝るけど、何気に私も俄然興味が出てきている。と言うのは――
「あとね、お願いがあるんだけど。私にも、ネット通販のやり方教えて欲しいんだ」
と言うことだ。お父さんも最近、サバンナに登録して、通販で買い物をすることを覚えたみたいだから、私も興味あって。慎吾は何度もやっているベテランさんだから、教えてくれるととっても嬉しいな、と思う。
そのことを伝えると、
「おお、そうなんだね。いいよ、いくらでも教えるよ」
と慎吾も乗り気だった。
登校後、いつもの4人で話をする。
「と言うわけで、すまんが次の日曜日に夢衣と更紗と3人で出かけるから」
と幸弘に伝えると、「ああ、分かってる。夢衣のこと、頼んだぞ」と言ってくれる。
「何をプレゼントしてくれるのか、すごく楽しみなんだ」
と更に付け加えた幸弘に、夢衣はクスッと笑う。
「はい、期待していてくださいね。慎吾くんという強力な助っ人に手伝ってもらうのですから、絶対にがっかりさせません」
などと話をしていると、時間はもうすぐ始業になる。そんな遅刻ギリギリの時間に、瀬戸くんが登校してきた。
「おはよっす」「おはよ」
最低限の挨拶だけ交わして、彼は椅子に座る。
そして慎吾は、
「それじゃ、日曜日よろしく、夢衣」
と言って、教室から出て行った。
「…日曜日に何かあるのか?」
瀬戸くんが聞いてくるけど、私はあえて答えなかった。幸弘くんも同じみたい。だけど、無視はできないかなって思いなのだろう、夢衣ちゃんが
「慎吾くんと出かける話をしていただけです」
と答えた。すると、瀬戸くんは口角を上げて、
「二人で行くのか?なんか、それ怪しくね?」
と言うから、つい私は、
「私も一緒に行くから問題ないんだけど?」
と、ちょっときつめに言ってしまった。すると瀬戸くんは意外そうな顔をして、
「へぇ~そうなのか、いいなあいつ、両手に花かよ。どこへ?」
「別に、おし…」私は教える義理はないんだけどって言おうと思ったけど、夢衣ちゃんが「商店街のカフェですよ」と教えてしまう。
「ふ~ん、そっか」
と、瀬戸くんは口角を上げて少し笑うんだけど、目は全然笑っていなかった。
その笑みに、私はすごくイヤな予感がした。
そして、あっという間に日は過ぎて、日曜日。今日は大会直前なんだけど、というか、直前だからこそ、身体を休めなさいと言われて、今日は部活はお休み。だからこそ、慎吾と夢衣ちゃんの三人で出かけられるのだけど、ここで、問題が発生した。
朝起きて着替えると、私たち姉妹の寝室から、
「ごほっ、ごほ…」
という咳き込む声が聞こえる。私は寝室に戻って、
「綸子、大丈夫?」
と聞くと、「ううん、大丈夫じゃないかも」という綸子の弱々しい声。彼女のおでこに手を当てると、かなり熱くなっていた。
「体温計!綸子、熱計って!」
体温を計ると、38度3分。…風邪かな?
「熱高いね…。ベッドで寝ようよ。今、氷枕とおでこの熱冷ましシートを持ってくるから」
「うん、ごめんなさい」
普段、ちょっと生意気なところのある妹だけど、今の綸子はそんなことを感じさせない、気弱な子どもになっていた。
私は、薬箱から熱冷ましシート、冷凍庫から氷を取り出し、アイスピックで砕きながら氷枕に氷を入れる。ある程度の準備ができたら、綸子の所へ持って行く。
「ほら、氷嚢と熱冷ましシート。ちょっと頭を上げて」
「うん」
綸子が頭を上げたところで、私は氷枕を頭の下に滑り込ませ、おでこに熱冷ましシートを貼ってあげる。
「どう?」「冷た~い。気持ちいい~」
ちょっとホッとした表情を綸子は見せる。あぁ、タイミングが悪いなぁ。今日は慎吾と夢衣ちゃんと3人でお出かけなのに…。
その私の心を見透かしたように、綸子が私に話しかける。
「お姉ちゃん、今日お出かけじゃなかったっけ?」
「そうね。でも…」
私は逡巡する。体調の悪い綸子を一人家に置いて、自分だけ楽しみにいくのは気が引ける。
「今日は止めておくね。綸子のことが心配だし」
「え?行かないの?」
「うん…。綸子がそうやって辛い思いをしているのに、私だけ楽しむ訳にはいかないかなって」
「行けばいいのに…。私、どうせ寝てるだけだよ?」
それでも、やっぱり心配だから。私は行かない。慎吾も夢衣ちゃんも、分かってくれる。
「出かけている間に、万が一何かあったら後悔するから、そうならないように綸子と一緒にいるわよ。取りあえず、今からおかゆ作るから。昼食夕食も任せなさい。ごめんね、部活が忙しいからって、平日はだいたい夕食作ってもらっていたから、疲れが溜まっていたんだよね…」
「うん、おかゆお願い。でも、言うほど疲れは溜まってないと思うんだ。なんで風邪引いたのか分からないよ」
「それなら、誰かから移されたかもよ。咳してる友だちいなかった?」
そう聞くと、綸子は暫く考えてから、
「…いたかも」
「移されたかもね。まぁ、とにかく、綸子は寝てなさい。おかゆ作るね」
「よろしく」
キッチンに向かうと、お父さんがもう起きていた。
「あれ?お父さん、朝早く起きてくるの珍しいね」
「ああ、おはよう更紗。なんか目が覚めちゃってね。今ちょっと声聞こえたけど、綸子は風邪か?」
「うん、そうみたい。今からおかゆ作るね」
私は、キッチンに立ってご飯をお鍋に盛り、水を入れておかゆを炊く。お父さんはそんな私を見ながら、
「ああ、分かった。自分のも作ってもらっていいか?昨日の飲み会で、結構食べ過ぎて、お腹辛いんだ」
って言う。
「飲んで二日酔いじゃなくて、食べ過ぎてお腹辛いって言うの、初めて聞いたかも」
お父さんは、稀に二日酔いはあるけど、こんな事言うのは初めてな気がする。
「まぁ、俺も40歳越えたら、ちょっと胃腸が弱ってきたのかなぁ…。脂っこいものが若い頃よりも入らなくなってきたかな」
「お父さん…40なんてまだまだ若いじゃない」
私の言葉に、お父さんは苦笑い。
「まぁ、たしかにそうなんだが…。でも、実際にこの歳になると20代の頃と比べたら脂っこいものを食べる量が減ったかも…」
…そういうものなのかなぁ…。そう言われると、ちょっと心配だし、私たちの作る食事も考えた方が良いのかな?とおかゆを作りながら話をする。
「ねぇ、それなら私たちの作る食事も脂っこいものを減らした方が良いかな?」
そう聞くと、お父さんは優しく笑って、
「大丈夫だよ。お前たちは育ち盛りなんだから、お前たちの食べたいものを作って食べる方が良いよ」
と言ってくれる。それは、それなら良いんだけど…やっぱり心配な気持ちはあるけれども、お父さんの言うことなら大丈夫と思って、私は頷いた。
「わかった。でも、お父さんもちょっとそう言われると心配だから、体調がおかしいと思ったら病院行ってよね」
「分かったよ」
お父さんはそう言って、私の作ったおかゆをしっかり食べて「美味しかったよ、更紗、ありがとう」と言って自分の部屋に戻る。
私は綸子のために作ったおかゆを綸子が寝ている寝室に持って行く。
「綸子、おかゆできたよ」
「お姉ちゃん、ありがと」
綸子はちょっとだるそうに身体を起こす。そして、私がお盆に乗せて持って来たおかゆを食べる。私も一緒におかゆを食べる。うん、鰹節と醤油が良い味出してる。
「あ、イイ感じで冷めてる。味付けもちょうど良くて、スルスル入るよ」
「うん、そう思ってちょっと時間置いたんだ。熱すぎても良くないから、少し冷めたくらいが丁度良いって思ってね」
私はしたり顔で綸子に笑いかける。
「でも、お姉ちゃん、今日本当に行かないの?」
と、今日の予定をキャンセルしようとすることを自分のせいだと思ってしまっているのかな?
「うん、でも、綸子のせいじゃないよ。確かに綸子が風邪を引いて寝込んでいることは原因だけど、風邪を引いたのがたまたま今日だった話。そして、キャンセルするのを決めるのは私」
…このあたりの考え方って、慎吾に似てきたなぁ…うん、確かに自分でコントロールできないことで自分の気持ちが左右されることがなくなってきた。
「ゴメンね、お姉ちゃん」
私の言葉にまた綸子は謝るけど、
「大丈夫。謝らなくて良いんだよ。まぁ、私が風邪を引いて休んだら、これと同じようにおかゆを作ってくれたらそれで良いから」
「うん、ありがとう」
私は、「半分冗談だよ」と言い残して、空になったお椀をキッチンに運ぶ。
皿洗いをする前にスマホを取りだし、慎吾にメッセージを送る。
『慎吾、朝にゴメン。綸子が風邪引いちゃって看病したいから、今日は休むね。夢衣ちゃんにも同じ内容のメッセージ打っておくから、二人で行ってきてね』
そして、夢衣ちゃんにも同じ内容のメッセージを送り、皿洗いをしているうちに、慎吾からメッセージが返ってくる。
『そうなんだ…残念。また次の機会だね。通販するなら早いほうが良いから、夢衣と話させてもらうよ。それじゃ、また夜にライナーするね』
夢衣ちゃんからも、
『分かりました。じゃあ、慎吾くんをお借りしますね。結果はまたお知らせします』
とのことで、私は安心して綸子の看病をした。
でも、どこかで一抹の不安が常によぎっているのを、感じている一日だった。
「そうか、更紗は来られないのか…」
僕は更紗からのメッセージを見て落胆する。折角の休みで夢衣との用事が終わったあとは二人でデートしていこうかなと思っていたのに、残念なことだ。
でも、綸子ちゃんのせいにしてはいけない。僕は仕方ないと自分の心を落とし込んで、更紗へメッセージを打つ。
『そうなんだ…残念。また次の機会だね。通販するなら早いほうが良いから、夢衣と話させてもらうよ。それじゃ、また夜にライナーするね』
って。夜には結果報告と、綸子ちゃんの体調は回復したか聞くためだ。
今日は、更紗と水族館へ行った時と上は同じ服装で、モスグリーンのチノパンではなく、普通にGパンにした。ラフな格好だけど、夢衣はそんなことで文句言わないしね。…更紗もだけど。
午前中は明日の予習に費やし、昼食を食べたら商店街へ向かう。
公園の桜はもう殆ど散ってしまって、新緑が綺麗な季節になってくる。若葉の季節、新しい出会いはあったけど、懸念を抱えてしまって、正直に言うと少し億劫だ。
でも、そんな気持ちは若葉が少しだけいやしてくれた。まだまだ、出会いがある。抱えた懸念は、そのうち解消される、大丈夫だよって。
城西商店街の入り口が見えるところまでやってくると、夢衣がもう先に来ているのが見えた。
今日の夢衣は、ピンクのフリルワンピースに白のパンプスといった感じ。ロングヘアと相まって、すごく目立つ。ただ、表情に感情が出てくることが多くない彼女は、声をかけられそうなんだけど、かけられずにいる。
「夢衣、お待たせ」
僕が声をかけると、夢衣も「あ、今日は慎吾くん。ありがとうございます」と言ってお辞儀をしてくれる。
「それじゃ、行こうか?」「はい」
僕たちは、並んで歩き始める。勿論、手は繋がない。
比較的近いところにあるチェーン店のカフェに入る。別にやましいことはないので、窓際の席に座って、メニューを見る。
「夢衣はアイスティー?」
僕が聞くと、夢衣は頷いて「さすがですね」と嬉しそうに笑う。僕はアイスコーヒーを注文し、ドリンクが来るまでの間も、早速夢衣から話を聞き出していた。
「日本グランプリの時に、幸弘さんの好きなドライバーって、チャーリー・ルークって聞きました」
うん、幸弘からそのことは前から聞いている。幸弘らしいなって、思って聞いていた。
「ああ、跳ね馬のチームだね。イケメンだし、格好いいよな。じゃあ…」
僕は、スマホを取りだして、検索ボックスから『チャーリー・ルーク』『グッズ』と入れて検索ボタンをタップする。
すると、思いの外たくさんのページがヒットしたから僕は思わず、
「うぉ、結構たくさんあるよ」
と言い、夢衣にスマホの画面を見せる。夢衣も、自分のスマホで同じように検索をし、一通りスクロールさせて、
「どんなページが良いのか分からないので、選んでもらえませんか?」
と言うものだから、
「そうだね、こんなページとか」
と、僕は自分のスマホで日本企業が運営するグッズ販売のページをタップする。
そこには、Tシャツやキャップ、ミニチュアモデルなど、色々なグッズが並ぶ。さすが、跳ね馬のチームだけあって、赤が多いのだけどね。
「うわぁ、目移りしてしまいます。格好いいですね」
夢衣は、並んでいる商品を見て歓声を上げる。
そこで、アイスティーとアイスコーヒーが運ばれてきた。
それぞれミルクやガムシロップを入れてストローでかき混ぜて一口。
「ふぅ~」
と一息入れてから、またもや画面とにらめっこする。
少し見ていると夢衣は、
「でも、全体的にすごく高いですよね」
と言う。そうだなぁ、高いのは高いなぁと思う。
「まぁ、有名スポーツメーカーと提携しているのもあるし、多分、円安とかも影響しているのかもしれないよ。とは言え、僕の小遣いで買える額のものは限られるけど、夢衣はある程度買えるんじゃない?」
社長令嬢の夢衣だから、お小遣いもそこそこもらっていることは知っているから、そう言ってみたんだけど、
「ええ。そうですね。でも、ゴールデンウィークのことを考えると、使いすぎるのも問題なので、1万円くらいを予算として考えてます」
夢衣は、微笑みを浮かべながらスマホに目を落としている。飲み物が来た段階で、夢衣自身のスマホで検索し、僕がさっき開いたページを見ていた。
「そっか、OK。その辺で見てみるよ」
僕たちは、お互いのスマホに目を落として品物を物色する。色々悩んだけど、5分位してから、
「ねえ、夢衣。こんな組み合わせはどうかな?ちょっと予算オーバーかもしれないけど、これからの季節には丁度良いかなって」
「どんな組み合わせですか?」
僕はもう一度、自分のスマホを夢衣の方に向ける。
「半袖Tシャツと、ウォーターボトル。合わせると1万ちょっとなんだけどどうだろう?」
すると夢衣は満足そうに、
「それが良いと思います。それじゃ、通販の方法教えてもらえませんか?」
と言う。僕は頷いて、
「まずは、商品をタップして、カートに入れようか」
「こうですか?」
夢衣は僕の言ったとおりに買おうとしている商品をタップし、「カートに入れる」ボタンをタップした。
カートの部分がきらっという感じのアニメーションをして、右上に①という数字が表示される。
「ボトルの方も同じようにしてね」「はい」
そして夢衣は同じように操作して、カートには②という数字が表示された。
「そうしたら、『お会計に進む』をタップして」「はい」
と、一連の流れを一つ一つ説明する。
このページで良かったのは、会員登録が必須でないことだ。まぁ、登録しても良いとは思うけど、一見さんになる可能性が高い場合、会員登録するのは気が引ける。
「へぇ~そういう考え方なんですね。分かりました」
「…って、僕が勝手に思っていることで、もしかしたら一般的な考えと外れてるかもしれないと言うのは肝に銘じておいて」
「はい」
支払い方法は、これもたまたまだけど、コンビニ払いがあったことが幸いする。
「コンビニ払いがあるから、これ選んでおこう。多分比較的早く番号が届くと思うから、コンビニ行って払っちゃおう。そこまで面倒見るから」
「便利ですね」
「便利だから、コンビニエンス…でも、便利になった分、店員さんは覚えることが増えて大変なんだって何かで聞いたことあるなぁ」
夢衣は僕の返しに目を丸くして、
「そうなんですか?」
と言うものだから、僕は頷いて、
「うん、まぁ、買い物サイトによるから、一概には言えないけど…」
と言う。夢衣は、
「そうなんですね。それじゃ、買っちゃいます」
と言って、『注文を確定する』ボタンをタップした。
「買ってしまいました」
夢衣は笑う。その表情は、小学校時代の嬉しそうな顔から殆ど変わっていなくて、不覚にも少しだけ胸が高鳴った。でも、それはおくびにも出さず、冷静に、
「それじゃ、少し待とう。注文確定のメールとか、支払い番号とか、数通メールが来るはずだよ」
と告げる。それと同時に、夢衣のスマホがメールの着信を告げた。
「え?もう?」
夢衣は心底驚いて、通知を見る。
「うん、注文確定…」
夢衣はそう言いながら呟く。
「OK。まずはそのメールが来ることで、注文が間違いなく受理されたことが分かるよ。あとは、支払い番号の通知メールを待とう」
10分ほど、幸弘の誕生日にどうやってプレゼントを渡したり、料理を出したりするのかを話していると、またもや夢衣のスマホからメール着信の音がした。
「お支払い番号来ましたよ、慎吾くん」
メールの内容を確認して、夢衣は僕に伝えてくれた。
「よし、それじゃ飲んでしまってからコンビニへ行こう」
お互い、まだ少しだけ残っていた飲み物をちゅ~っと飲み干し、会計をして(僕は自分の分は自分で出すって言ったけど、私の我が儘に付き合って戴くのですから、と夢衣に押し切られておごってもらってしまった)、一路コンビニへ向かおうと扉を開ける、二人並んで外に出た、その瞬間――
「きゃっ!」
夢衣が扉の段差につまずいて、倒れそうになった。
「危ないっ!」
僕は咄嗟に両腕を差し出して、夢衣を支えようとする。
しかし、少しばかり勢い余って抱き留める形になってしまった。
「ごめんなさい、慎吾くん!大丈夫?」
夢衣はすぐさま離れたんだけど、少しだけ、夢衣の体型のぬくもりがこの腕に残る。
…更紗と違って、やっぱりか細くて儚い感じだったのは小学校時代から変わっていなかった。
「大丈夫だよ。夢衣こそ大丈夫?結構派手に転びそうになったけど」
僕は居ずまいを正しながら夢衣に確認する。
「はい、大丈夫です。支えてくれて、ありがとうございます」
夢衣は答えながら笑顔を見せる。
「それじゃ、行こうか?」
「はい、早く支払ってしまいたいです」
恥ずかしさもあったのだろうか、少し焦る夢衣の表情に僕はちょっと可笑しさを感じて、
「大丈夫。支払いはだいたい1週間猶予あるから、そんなに急ぐとまた転ぶよ」
と言ってしまう。さすがにいつも表情に怒りが出ない夢衣でも珍しく頬を膨らませて、
「もう、意地悪です」
と僕を責める。
「ごめんごめん」
こうしていると、どこにでもいるカップルに見えるのだろうけど、お互いにパートナーがいるから、これ以上踏み込んだことはなるべくしないように、コンビニへ向かった。
そして、コンビニの支払機でバーコードを打ち出し、レジへ。夢衣は財布からお金を出して支払って、領収書を受け取る。これで、一連の流れは終わりだから、あとは商品が届くのを待てば良い。
「慎吾くん、ありがとう。初めての通販、ドキドキしました」
「うん、あとは、暫くすると代金領収確認のメールや、発送した旨のメールも届くと思うから、その都度また報告してくれると有り難いよ」
「分かりました」
夢衣は女子にしては珍しくAPhoneではなく、アンドロ端末、それも結構マイナー機種だ。おそらく、お父さんの趣味と思われるスマホを夢衣は愛おしそうに見つめながらそう答えた。
「それじゃ、送っていくよ。それか、幸弘に迎えに来てもらう?」
僕が聞くと夢衣は「う~ん」と考えて、
「幸弘さんに迎えに来てもらいます。それまで、もう少しお相手をお願いしてよろしいですか?」
と言うから、「勿論、喜んで」と僕は応えて、更紗と長話をする時に使ういつもの公園に向かい、ベンチに座って話を続けた。
15分後、「お~い」と幸弘がやってくる。
「お、幸弘、サンキュー」「幸弘さん、ありがとうございます」
「問題ない。夢衣、上手くできたか?俺もこういうのはやったことがないから、慎吾に任せて良かったと思うぞ」
「慎吾くんのおかげです。ちゃんとできました」
夢衣の笑顔を見て、幸弘も顔がほころんでいる。
「慎吾、ありがとな」
幸弘が僕のことを信頼してくれているのがよく分かる。
「バッチリできてたよ。幸弘、誕生日楽しみにしていてな」
僕はサムアップして幸弘に笑いかける。
「OK!楽しみにしてるぜ。夢衣、ありがとな」
幸弘は夢衣に笑いかけ、右腕を夢衣の肩に回してイチャつく。
「幸弘さん、恥ずかしいです」
「いや、楽しみだなって思うと夢衣が愛おしくてな」
「…でも。慎吾くん、今日は更紗さんが参加できなくなったので一人なんです。目の前でイチャつくのは止めましょう」
そう言われて幸弘は僕の誰もいない両隣を何度か見て、大仰に夢衣の肩に回していた右手を自分の両目をふさぐように置いて天を仰ぎながら、
「あ、すまん、大原いないの気づかなかった…どうしたんだ?」
「綸子…妹ちゃんが風邪引いてしまって、看病したいってさ」
大原家が父子家庭であることは、12月のうちに幸弘にも話してあるから、
「そうか、そうだよな…わりぃ、慎吾。気づかなかったとは言え」
「いいや、大丈夫だよ。普段から僕たちの方がイチャついていると思うからね」
僕と幸弘は顔を見合わせてからハイタッチ。すると夢衣が、
「慎吾くん、更紗さんの家に顔を出したらどうですか?」
と言ってくれたから、僕は「そうだね」と頷いて、スマホを開いてライナーで更紗にメッセージを送る。
返事が来るまでの間、3人で次の週末に行われるF1の展望を語る。…尤も、その話は僕と幸弘がメインで、たまに相づちを夢衣が打つような感じだった。
程なく、更紗からメッセージがあった。
『綸子の熱も少し下がって回復傾向にあるから、来てもらってもいいよ』
とのことだったので、早速二人に「更紗の家に行ってくるよ、あとは二人でお楽しみください。じゃ、また明日」とちょっと茶化すように伝えると、幸弘は「ああ、また明日な」とあっさりした一方で、「お楽しみって…」と顔を真っ赤にしてしまう夢衣。僕はちょっとほっこりしながら、「それじゃ、また明日ね」と言って公園から出て行く。
出る前に、スマホで時計を確認すると、15時を少し過ぎたところ。綸子ちゃんはずっと寝ていたのかな。そんなことを思いながら更紗の家に向かう。
すると、その途中であまり会いたくなかった人と会ってしまう。瀬戸だ。
「あら?どうしたんだ?三上に振られたのかい?彼女もめちゃくちゃ可愛いからなぁ。あんな娘が矢野の彼女というのは納得いかないけどな」
僕を見るなり失礼な口をきいてくる瀬戸。僕は、いらっとくる感情を押し殺し、
「ホント、口を開けば失礼なことしか言えないよな、君は。用事が終わったから帰るところだよ。瀬戸こそ、どうしてここに?」
このとき、僕はそう言って良かったと、あとになって思った。
「そうか。ま、あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな」
「…何を言いたい?」
僕がそう聞くと、瀬戸は「はっ」と一笑に付して、
「いや、独り言。じゃあな」
瀬戸は逃げるように走って行く。
「何だ…あいつ…」
僕は、何か嫌な気分にしかならなかった。
「…更紗の家に行くのは止めた方が良さそうだよな」
僕は、瀬戸が後をつけてないか気になって、わざと遠回りして自分の家に向かう。
歩きながら時折止まっては、スマホで更紗にメッセージを送る。
「瀬戸と偶然会ってしまった。なんだかイヤな気しかしないから、家に行くの止めておくよ。家に帰ったら、ビデオ通話しよう」
瀬戸は、どうもつけてはいなかった…と思うし、そう思いたい。
そうこうしているうちに更紗から、
「分かった。綸子も楽しみにしていたんだけど、残念。待ってるね」
と、納得してくれた。
家に帰って自室に引きこもったら、早速更紗にコールする。
待っていてくれたのか、コール半分聞かないうちに出てくれた。ビデオ通話で更紗の顔が見える。
「やっほ~。慎吾、どうだったの?」
明るい更紗の声が耳に入ってきて僕は幸せな気持ちになる。
「うん、バッチリ夢衣は通販できたよ。あとは品物が来るのを待つばかりだね」
「そっかぁ、それは良かったね。でも、途中で瀬戸くんと会ったのね」
更紗の顔と声がちょっと暗くなったような気がした。それに釣られるように、僕の声も暗くなる。
「まぁ、僕が一人でいる時に出会っただけだから、何もないとは思うんだけど、ただ、あいつ、俺に『あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな』って言ったんだ。どう思う?」
更紗は、「う~ん」と画面の向こうで首をひねって、
「そんな言い方するのってさ、なんか裏があるような気がするんだけど」
と言う。
「そうだね…あいつの言うことがホントか嘘かは分からないんだけど、う~ん、最後に嫌な気分になっちゃったよ。ゴメン、愚痴になっちゃって」
僕が謝ると、更紗は首を振って話題を変える。
「ううん。ホント、ゴメンね。私も行けると良かったんだけど」
「でも、綸子ちゃんの看病だから仕方がないよ。綸子ちゃんの調子はどう?」
僕がそう言うと、その声を聞きつけたのか、綸子ちゃんが姿を現した。
「東条さん!?大丈夫です。しっかりと寝て、お姉ちゃんの栄養満点のおかゆを食べたら、もう元気になりました!」
綸子ちゃんは笑っている。僕はその笑顔にさっきの話題の不安が少しだけだけど、軽くなる。
「それは良かった!明日から学校も行けるね」
「はい!心配してくれてありがとうございます!」
そう言って、綸子ちゃんはキッチンへ行った。どうも、おやつを食べに行ったらしい。
「綸子ちゃん、元気になって良かったね。更紗、通販の方法なのだけど明日教えようか?」
今日、夢衣と一緒にやろうとしていたことを、明日やってみようかと提案してみる。
「うん、でも、部活あるしね。今すぐ欲しいものがあるわけじゃないし。欲しいものが見つかったら、その時に声をかけるね」
その返事に僕は納得して、
「OK。それじゃ、明日はいつも通りで」
と言ったところで、時間は16時を過ぎる。ライナーの無料通話だから特段問題はないんだけど、30分くらい通話してる。
「まあまあ話しちゃったね。また明日も話できるから、また明日にしようか?」
「うん、いいよ。次の週末はいよいよ大会だから、部活もしっかりね」
「勿論だよ!気合い入れて行こう!」
僕たちは、画面に向かってお互いに手を合わせる。一瞬、お互いのスマホの画面はお互いの手のひらで顔が見えなくなる。
「それじゃ、また明日ね。明日も楽しみにしてる。好きだよ、慎吾」
「僕も大好きだよ、更紗。また明日ね」
お互いに「好き」と言って通話を切るのが、ここ最近の僕たちのルーティン。
でも、翌日の朝、僕たちはとんでもないものを見ることになる。
翌朝、いつもの登校路で私と慎吾は昨日の話の続きとばかりに、通販の話をしていた。
「そう言えば、昨日の晩ご飯のあとに、サバンナみてたらさ、この靴のメーカーの…」
と慎吾が言って、自分の履いている靴をクイっと上げる。
「スニーカーがあってさ、結構良い色が安く売っていたのを見つけたんだ。一緒に買わない?何気にちょっと底が減ってきていてね」
そう提案してくれた。もしかしたら、私に通販の手引きをしてくれるためのネタを探してくれたかなと思って、
「うん、いいわね。あ、それって私に通販のやり方を教えるネタとして、靴のことを教えてくれたの?」
慎吾は笑顔で頷いて、
「そうそう。それもあってね、今週は、綸子ちゃんうちに来る週でしょ?だから約束通り、今日うちに寄ってもらっている間に一緒に通販しちゃおうよ」
そう、今週は綸子を慎吾の家で面倒見てもらう予定だった。だからこそ、昨日熱が出た時は行けるのかなぁと不安もあったんだけど、昨日1日で熱が引いたから、慎吾のお母さんに『綸子、朝熱を出したんですが、今は熱も引いて元気になったんです。でも、風邪だと思いますから明日はやめておいて良いですか?』って連絡したら、お母さんから『でも、逆にそれなら一人にする方が不安じゃない?学校に行けるくらい元気になっていたら、うちに寄ってもらっていいし、早退するとなっても、休むになっても、私が迎えに行くから』とものすごく!有り難いお言葉をいただいて、本当に恐縮してしまう。思わず通話してしまい、お父さんに変わってもらって『ありがとうございます。本当に申し訳ありません』とお父さんも恐縮。
そんな私たちに慎吾のお母さんは『全然構いませんよ。もう、みなさんとは家族みたいなものですから』なんて本当に有り難いことを仰ってくださるものだから、通話を切ったあと、本当に3人で慎吾のお母さんの優しさが、私たちのお母さんの優しさとかぶって泣いていた。
そんなこんなで、今朝の綸子は元気いっぱいで、『東条さんのおうちで待ってるね、お姉ちゃん!』と言うので、私は『学校から東条さんのおうちへ行くまでの間も、気をつけてね』と、伝えておいた。勿論、『わかってるよ~』と元気な返事が返ってきた。そして、今に至る。
そんな状態だから、丁度慎吾の家で通販を教えてもらうのは有り難いから、
「うん、わかった。お願いするね。初めてのことをするのって、ドキドキするけど楽しみだな~」
と言って、私も笑う。
「そうだよね、初めてのことをするのはドキドキするよね。僕も楽しみだよ。楽しい時間を二人で過ごすことも含めてね」
「もう、何言うのよ、恥ずかしい…」
周りに人がいないけど、慎吾は私に照れることを言ってくる。
「お~、いつものこととは言え、いつもよりお熱そうだなぁ」
と、背後からかけてくる耳に慣れた声は、矢野くんだ。
「昨日はありがとうございました、慎吾くん。更紗さん、綸子ちゃん、回復されたようで良かったですね」
勿論矢野くんの隣には夢衣ちゃんがいて、昨日のお礼を慎吾に、そして、綸子への気遣いを私に話してくれる。昨日の夜に、綸子が回復したことは報告済みだ。
「夢衣ちゃん、ありがとう」「こちらこそ、礼には及ばないよ」
私と慎吾が夢衣にそれぞれ一言言って、いつものように校門をくぐり、教室へ向かう。
私たちの登校は早いほうなのだけど、それでも、私たちより登校が早い生徒は何人かいるわけで、その生徒たちは白板の前でなにやら見ているようだった。
そして、私たちが入ってくるとそろいもそろって視線を投げかけてきて、その中の一人――植田さんだ――がびっくりした顔で、
「大原さん、これ…」
と私の腕を引いてホワイトボードの前に連れて行かれた。
そこには、1枚の写真。
「なに…これ…?」
私の瞳は釘付けになる。
「夢衣ちゃんと…慎吾?」
二人の顔が見えるんだけど、二人の姿が映っているのは、いわゆる、そういうホテルの前だった。慎吾に抱きつくようにいる夢衣ちゃん。そこから出てきたような雰囲気だ。
「ん?どうした?」
矢野くんを先頭に、ホワイトボードの前に出てくる。
「矢野くん…慎吾、夢衣ちゃん…これは、何だろ?」
矢野くんも、慎吾も、夢衣ちゃんも、その写真を見て沈黙する。
そして、口を開いたのは、慎吾だった。その顔は、あのガチギレを起こした時の顔。
「ああ、そういうことをするんだ…卑怯な真似を…そこまでして、人を陥れて得することなんかないのにな…」
静かに言う慎吾の声には、殺気が籠もっていた。それは、矢野くんも同じだったようで、「夢衣のことも一緒に陥れやがったな…犯人は、誰だ?」
やっぱりね。二人がそんなことをするわけがないもの。
「…何となく分かっちゃった。」
私は二人の怨嗟の声を聞いて、昨日の慎吾との会話が蘇ってくる。
「…?違うの?というか、疑わないの?」
植田さんが目を丸くしながら私に聞いてくる。
「だって、慎吾と夢衣ちゃんって二人して超奥手だもの。こんな目立つ行動はできないと思う。それに、慎吾は私しか見てないから。確かに、昨日は夢衣ちゃんと二人で出かけてる。それは、私も了承してのことだからね」
私はそう言うと、植田さんは、
「すごい信頼だね」
と言うものだから、
「うん、たった半年だけど、そこまでの信頼関係を築いてきたし、もう家族ぐるみでのお付き合いにもなっているからね」
と返すと、「それでも、裏切る奴は裏切るよなぁ」と背後から声がしてきた。
瀬戸くんだ。薄ら笑いを浮かべている。その顔は、これまで見ていた中でも一番醜かった。
「イケメンが台無し…あなたの顔、とっても下品に見える」
思わず、私はそう言ってしまったものだから、瀬戸くんの顔は更に怒りで醜くなる。
「何でだよ…あんな裏切るような真似をする奴を信じるのかよ!?」
そんなことを言われても、私には全然響かない。
「ええ、慎吾のことを信じるよ。あなたと慎吾、どっちが信頼できるかって聞かれたら、即答できるもの。それが、あなたと慎吾の明確な差よ。初対面で、人の容姿に引かれてナンパする人は私は好きじゃないから、その時点で私はあなたのことを信頼していない。この写真を見たところで、これは何か違うとしか思えない」
私は、一気にまくし立てると、慎吾の腕を取る。
「ねぇ慎吾、これは何か作られているんだよね?」
そう問いかけると、慎吾は真剣な顔をして、
「うん、勿論、僕と夢衣の間に、疚しいことは何もないから。二人で出かけたのはちょっと軽はずみだったよね、結果論だけど。どうも、喫茶店の出口で夢衣が転びかけたところを撮られたのは間違いなさそうだ」
と言ってくれる。そして、その横で矢野くんと夢衣ちゃんも、
「夢衣さ、慎吾とは何もないことは信じてるから」「はい、勿論なにもありません。ただ、二人だけで出かけたことは、隙を見せてしまったのかもしれません。この体勢は、慎吾くんの言うとおり、喫茶店の出口で私がつまずいた時に助けてもらった体勢です」
と会話を交わして、私たち自体は何も問題はない。
でも、そんな様子に瀬戸くんは納得いかないようで、
「なんでだよ!こいつらがホテルに行っていたのは事実だろうがよ!なんでそれが間違いだなんて言えるんだ!?」
と大きな声をあげてしまう。その声は廊下まで届いていたようで、理系クラスの子も数人、文系クラスの教室に入ってきて、写真を見てしまう。
「え?こんなことがあったの?」
と、ちょっと眉をひそめる。でも、私たちは、「これ、何かの間違いだと思うのよね」と言って、ホワイトボードから写真を取る。
その写真を慎吾は改めてまじまじと見ていると、
「さっきも言ったとおり、これは喫茶店の出口の写真だと思うよ。それを、何かしらの手段で合成したのかもしれない。」
と慎吾は言う。そして、その言葉に瀬戸くんの表情が少し変わるのを、私は見逃さなかった。
ただ、野次馬はまだ集まってきて収拾がつかなくなってしまい、時間が過ぎていく。
そうこうしているうちに、南東先生がやってきた。
「なんだなんだ!?どうした?」
と教職コースの面々をはじめとする野次馬がたくさんいる状態に先生が戸惑っていると、これをチャンスをいわんばかりに瀬戸くんが、
「先生、不純異性交遊している奴らがいたんで、写真撮りました~」
と言う。南東先生は、目が点になって、
「何だって?」というのがやっと。
「これが証拠です」
と、自分の胸ポケットから写真を取り出した。
ホワイトボードの写真は私が取っていたから、瀬戸くんが写真を複数持っていたようだ。
それって、ばらまくつもりでいたと言うことなんだろうか?
南東先生は、その写真を見て仏頂面になる。そして、
「東条、三上、瀬戸、職員室に来なさい。1限目は自習だ」
と言って、教室を出る。
「え?俺もっすか?」
と瀬戸くんは「何で俺も」という体で聞くけど、
「現場を押さえた人間の証言も大切だからな」
と、南東先生は有無を言わせず瀬戸くんに来るように促した。こういう時の南東先生は、意外と怖いんだよね…。
私は慎吾と夢衣ちゃんに、「大丈夫?」と聞くけど、二人は「ああ、大丈夫」「ええ、大丈夫です」「ただ、更紗も幸弘も呼び出しがあるかもしれないから、その時はよろしく」と慎吾は言って、教室から出て行った。
その前に慎吾は、「先生、もしものためにスマホは持っていて良いですか?先生の許可を得た時しか使いませんので」と言って、許可をもらっていた。それは、夢衣ちゃん、瀬戸くんにも適用してもらっていたのだけど、そんなことよりも私は、
「お願い、二人に何事もありませんように」
と願うことしかできなかった。
そうか、卑怯な真似をする瀬戸には、正直がっかりだ。もっと正々堂々と勝負してくるのかと思ったけど、こんな事で人を陥れようとするのであれば、それは自分がレベルの低い人間であることを証明しているようなものだ。
僕はまず僕自身と夢衣の身の潔白を証明する必要があるのだけど…。
僕と夢衣、瀬戸の3人は、それぞれ職員室に入ったあと、別々の先生――生徒指導部の先生方だ――に連れられて、「生徒相談室①」「生徒相談室②」「生徒相談室③」と書かれた部屋に別々に入れられた。そこで、個別に話を聞くようだ。
…なんだか、警察の取り調べのような雰囲気に、僕の表情は硬くなるけど、夢衣や幸弘、そして何より更紗のためにこんなところでへたれる訳にはいかなかった。
「東条慎吾くんだね。ホテルに入った事実は?」
と、単刀直入に英田先生(生徒指導部長で結構年配だが強面だ)に聞かれたから、僕は堂々と先生の顔を見て、
「ありません」
と答える。英田先生は僕の言動をメモしている。
「証拠の写真があるようだが?」
「そこに移っている僕と夢衣は、確かに抱き合っているように見えますが、それは昨日、夢衣に彼氏である矢野幸弘の誕生日プレゼントについて相談を受けて、喫茶店でその相談に乗り、店を出る時に彼女が転びそうになったのを支えた時の体勢です」
「喫茶店?でも、その写真はホテルだが?」
「合成でもしたのではないでしょうか?ハッキリ言って、ホテルに行っていないことの証明は難しいですね、喫茶店の防犯カメラの画像を見せてもらうようなことはできません。悪魔の証明ですね」
英田先生は、僕の言葉に嘘がないか見極めようと、厳しい顔をして僕の顔を見ているけど、僕もこんなところでひるむわけにはいかないから同じように厳しい顔をして先生を見る。
僕があまりにもハッキリものを言うせいか、英田先生は、
「…本当に、ホテルには入ってないんだな?」
と、もう一度聞くから、僕は、
「勿論です。僕には更紗しかいないのに、どうして裏切らなくちゃいけないんですか?」
と言う。すると、英田先生は、
「じゃあなぜ、三上と二人で会っていたんだ?」
と別の質問をしてくる。
「さっきも言ったとおり、幸弘の誕生日プレゼントを選ぶためです。どんなプレゼントが良いか、彼と趣味が共通し、かつ幼稚園からの幼馴染みである僕に『何を買うと良いか。そして、通販のやり方を教えて欲しい』と相談してくれたので、その相談に乗っただけです。あと、本当は更紗もそこに同席する予定でしたが、妹さんが熱を出してしまったので同席できなくなったんです。嘘だと思うなら、更紗は勿論、幸弘にもその話はしてありますから、二人に話を聞いてください」
僕はそこまで一気に言うと、一つ大きい息をつく。そして、もう一つ続けた。
「それと、夢衣と、迎えに来た幸弘と別れて更紗の家に行こうと思い、彼女の家に向かっていたところ、瀬戸に出会いました。そこで、気になることを言われたんです。
『あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな』と。何か胸に一物持っているような物言いだったので、一言一句覚えています」
英田先生はそこまで僕の話を聞くと、先生も大きく息をついて、
「分かった、二人にも話を聞いてみる。ただ、瀬戸くんの言葉については、どうとでも取れるから、彼が犯人だという確信はないよ」
「もちろん、それは分かっています。誘導するような言い方でした。すみません」
「ああ。その謝罪は、きちんと受け取ったよ。ちょっと行ってくる」
と、教室を出て行こうとしたその時、ピコン!と僕のスマホが鳴る。
「あ、マナーモードにするの忘れていました、すみません。通知だけ見て良いですか?」
と聞くと、先生は「ああ、いいぞ」と言ってくれたので、スマホを取りだして通知を見る。
そこには、「アンドロマップから、タイムラインのお知らせ」という通知が見えた。
そこで、僕の頭に「!」とひらめくものがあった。
「先生!ホテルに行っていない証明、できます。スマホ触って良いですか?先生も一緒に見てください」
そして、スマホを先生の監視の下、とある操作をする。
2分後、「なるほどな、それなら行っていないな。と言うことは、あの写真は…」
「はい、合成ですね。質が悪いと思います。あと、夢衣のスマホもアンドロOSなので、同じようにしてもらえると行っていない証拠が見えると思います。…ただ、夢衣のスマホも同じように設定してもらっていれば、ですが」
僕と英田先生の間に流れる空気は、もう柔らかくなっていた。
「生徒相談室②」に入った私、三上夢衣は、すごく緊張していたけれども、どこか冷静でした。
「生徒指導部の西塔です」
女子バドミントン部の顧問の西塔先生でした。
「よろしくお願いします」
私がそう言うと、
「はい、良い返事ね。さて、え~っと、東条くんとホテルに行った、これは、事実?」
と、早速聞いてきました。
「いいえ、事実ではありません」
私はそう返事をしました。すると、西塔先生は、
「そうよね~そうだと思うのよ。だって、大原さんにぞっこんな東条くんが、そんなことをするはずがないもの」
「…?先生は、疑ってないのですか?」
思わず聞いてしまう。すると、西塔先生はあっけらかんと、
「ええ、三上さん、矢野くん、東条くんは幼馴染みでしょ?そのことも知っているし、今、あなたと矢野くんが付き合っていることも知っているからね。だから、正直疑ってはいないんだけど、これは仕事だから、一応成り行きだけは聞いておくわね」
と、完全に信頼している感じで私の話を聞いて戴いたのです。
私の方から、慎吾くんに幸弘さんの誕生日プレゼントについて相談したこと。
日曜日に本来なら更紗さんも同席してもらって、プレゼントの相談と、通信販売のやり方を教えてもらうことになっていたこと。
でも、更紗さんは綸子ちゃんの発熱に対する看病のために、更紗さんは同席できなかったこと。
あの写真の抱き合っているように見えているシーンは、喫茶店を出る時に私がつまずいてしまって、慎吾くんが助けてくれた時のこと。
「…そういうことで、私と慎吾くんの間には、何もありません。私からは以上です」
私が話を終えると、それまでずっと無言でたまに相槌を打ちながらメモを取っていた西塔先生はうんうん、と頷いてから、
「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。ホント、性格悪いわね。あなたたちみたいなとっても素直で性格の良い子たちを貶めようだなんて、誰なんだろうね」
西塔先生は、プリプリと怒った顔をして呟いていました。
そこで、扉からノックが聞こえました。
「西塔先生、ちょっと」
と言うのは、英田先生でした。
外で何かお話をされているような声が聞こえてきましたが、ほんの2,3分のことで西塔先生が戻ってきます。そこには、英田先生も一緒にいました。
「三上さん、スマホ出してもらっていいかな?」
英田先生が、相談室に入ってきてそう言いました。私は「なぜ?」と思いながら、スマホを出しました。すると、英田先生は、
「じゃあ、今から言うとおりに操作して欲しい」
と言って、私にスマホの操作を促しました。
「アンドロマップのアプリを開いて…」
と、促されるまま、アプリを操作すると、タイムラインというものがあることを私は初めて知りました。
そして、そこから昨日の分を開くと、
「自宅を出て、商店街の入り口、喫茶店、公園、そして、自宅…」
私が昨日訪れた場所がそこに記録されていました。
「?こんな機能があったのですか?」
私は驚いて英田先生に聞きました。
「ああ、東条くんがこのことに気づいてね、君の分も見て欲しいと。ちなみに彼の履歴も、だいたい同じだったよ。三上さん、君はこんな機能があったことを知らなかったようだね?」
と聞かれたので、私は「はい、知りませんでした」と答えました。
英田先生は、「なら、これが無実の証拠になる」と私たちの話に偽りがないことを信じて戴いたようです。
「と、なると、あと一人の彼は、どうなっているのかな?」
英田先生の眼光が鋭くなったような気がしました。
英田先生は僕の聴取部屋から出て行ってから5分位して、戻ってきた。
「三上さんのスマホも調べてきたよ。東条くん、君の履歴とほぼ同じだった」
英田先生の言葉に、僕は、
「と、言うことは…?」
と聞くと、
「ああ、君たちは問題ないね。ただ、一応念のため大原さんと矢野くんにも話を聞いておこう」
と、言われてようやく僕は安心できた。
その後、更紗と幸弘も呼ばれて話をされたようだけど、特に問題はなかったようだ。
結局、1限目だけでは話は終わらず、2限目まで時間はかかってしまった。でも、そのおかげで僕たちの間には何もなかったことが明るみに出て、身の潔白が証明された訳だけど、瀬戸の方は、そうはいかなかったようだ。
瀬戸は春日先生が担当したらしく、後々その時の様子を聞かせてくれた。
「僕は春日。隣のクラスの担任だ。よろしくね」「はい」
このときの瀬戸は、余裕の表情で、椅子にもたれかかっていたらしい。
「早速だけど、このホテルはなんて言うの?」「えっと…覚えてません」
「どうして?確認してないの?」「はい、あまりにも突然だったので写真を取るだけで精一杯でした」
「でも、この看板には『ホテル クイーン』ってあるけど?」「あ、そういう名前でしたか」
そこで、メモを取っていた春日先生は自分のスマホを取りだして、検索をしたようだ。
「『ホテル クイーン』なんて言うホテル、この街にはないようだけど?」
その時の、瀬戸の顔は豆鉄砲を食らったような感じでポカンとしてしまったようだ。
「え?」
「…一番近いところでも、電車で行くしかない距離なんだが、そんなにこの街から離れているところで、偶然に君と二人がいるなんてことがあるかな?」
きわめて冷静に、春日先生は言ってくれたのだ。
「え…あ…はい、二人がそういう話をしているのを聞いて、俺も行ってみたんです」
瀬戸は椅子から一旦腰を上げ、姿勢を正して座り直す。
「でも、その近いところと言うのは本当に片田舎で何もないところだ。万一彼らがそういう行為をするために、目立たないというか、人があまり行くことがないところにしようと考えるのは自然な話だろうが、君はそこにいるというのは何の目的だったのかな?もしかして、尾行していたのかな?」
「はい、そうです」
「それも変な話だよね」
春日先生はメモを見ながら、瀬戸が先生に合わせた話をぶちこわす。
「だってそんな会話、今瀬戸くんが言ったみたいに誰かに聞かれていたらイヤだから、ライナーでひっそり連絡し合うと思うんだけど?聞こえよがしに会話するとは思えないんだよね。特に、あの二人の場合は。東条がそういう所は抜け目ないと思うし、三上は純粋で引っ込み思案すぎて、『ラブホ』という言葉すら口に出して言うことを憚る子だ。それに…」
春日先生は、スマホである事柄を検索して、瀬戸にもう一つ問いかける。
「これって、夜だよね?何時頃?」
「えっと、9時を過ぎていたと思います」
その言葉に、春日先生は声を上げる。
「瀬戸くん、知ってる?ホテルのある街に停まる電車って、終電が21時なんだ。そして、こちらに向かうバスも無い。君はどうやって帰ってきたのかな?昨日の今日で、歩いて帰ってこれる距離じゃないし」
「…親に迎えに来てもらいました」
「…じゃあ、親に連絡して、確認しても良いかな?」
その言葉に、瀬戸はうろたえた様子で、
「え、えっと~今日父は出張で…」
と苦し紛れの言い訳をしたらしい。すると、
「じゃあ、お母さんにお願いするよ」
と春日先生は瀬戸の個人票を見ながら聞いたそうだ。すると、瀬戸は震えてしまったみたいで、
「え、あ…」
と固まってしまったらしい。
その時、英田先生が部屋に入ってきて僕と夢衣の聴取の結果を春日先生に報告する。その結果を知った春日先生は、眉をひそめて瀬戸を見る。
「ふ~む、二人はそんなところへ行った記録がないらしいよ」
瀬戸の顔は一気に紅潮して、
「なんで分かるんですか!?」
と焦った表情で聞いてくる瀬戸に、春日先生は
「スマホの地図アプリに残された訪問場所のログだよ」
と言われ、
「え?何でそんなものがあるんだ?」
なんて放心。
「君も知らなかったんだね。東条くんは知っていたよ。それと、証拠だと言っていた写真は合成なのじゃないかと違和感も持っていたしね」
春日先生はそう瀬戸に告げる。すると瀬戸は、
「あいつが知っていると言うことは、ログの消し方も知っているんだろ!そんなのに先生もだまされてるなんて、どうかしてる!」
と叫んだらしい。たしかに、僕の聴取が終わって暫くしてから大声が聞こえてきた気がしたけど、その声だったのかも。
「瀬戸くん、まあ落ち着きなさい。確かにその可能性はあるかもしれないけど、東条くんは嘘がつけない性格だから、ログを消してまでそういう行為をするとは思えない。それに、彼がこのログに気づいたのはついさっきのことだし、三上さんのスマホに関しても日曜日から当然触ってもいない。三上さんはスマホの扱いに長けているわけではないから、その機能も知らなかったよ。さっきそのことを知って、びっくりしていたからね」
英田先生はそう言って、眼光鋭く瀬戸くんを見る。続けて春日先生が、
「瀬戸くん、君のスマホの中に入っている写真を見せてくれ」
「どうして?」
瀬戸はぎょっとして春日先生を見たらしい。
「無実であるなら、さっと取り出してみせられるよね?二人がホテルに入っていく写真もきちんと単体で写真フォルダに入っている。だよね?」
「何であいつは信用されていて、俺は信用してくれないんですか?これは贔屓だ!不当ですよ!」
と瀬戸は反抗するけど、
「ああ、長い時間をかけてどういう人間かある程度把握している担任をしていた生徒と、転校してきたばかりでこれから見極める生徒で差を作ることはできないよ。でも、現状あの二人にはそう言う事実がないことがほぼ証明されているのに、君はそれと矛盾した写真を持っている。そして、その行為をするのに無理がある場所でとなれば、それはおかしいと思っていけないのかい?」
そう言われて、瀬戸はスマホを取り出す。
その手は震えていて、写真アプリを起動するのも、手が震えて別の所をタップしていたらしい…でもそれは、せめてもの抵抗だったのかも。
そして、開かれた写真アプリには、喫茶店の前で転ぶ夢衣と、支える僕の写真が。そして、アプリの別フォルダ「合成AI」と言うフォルダの中に、同じ状態でホテル前にいる僕たちの写真が入っていて、これがほぼ動かぬ証拠。
AIイラストを作成するアプリで、喫茶店など、周りの風景を透明化、そして、ネットで拾ってきたホテルのイラストに貼り付けて、多少レタッチしたらしい。
「ちょっと、この写真データをこっちに送ってくれ」
「はい…」
もう瀬戸は言いなりになるしかない。彼はそのデータを春日先生が持って来ていた学校用のタブレットに送る。
春日先生はネットを検索して、そのデータをアップロード。
「…やっぱり、フェイク…」
春日先生は問題の画像が生成AIによるフェイク画像であることを、ネットの真偽判定サイトで調べたようだ。そこには、どの部分に加工の痕があって、フェイクであるという判定がされたようだった。アップロードした画像は10分で向こうのサーバから破棄されるから、問題の画像が流出する危険性は低いとのことだった。
僕が感じていた違和感は、そのレタッチ部分だった。あとで改めて見せてもらったのだけど、僕たちの部分だけ、なんだか浮いていた感じに見えたんだよね。ぱっと見は分からなかったかもしれないけど、データを拡大すればすぐに分かるんだ。そして、足下の影。これが、全くなかったのだ。少しの光の下でもできる影が、全くなかったのは不自然だ。
「あ、ああ…」
ねつ造の証拠を見つけられ、真贋もこの場で暴露された瀬戸は、もう顔面蒼白で机に突っ伏すしかなかったみたいだった。
「どうしてこんな事をしたの?」
春日先生が聞くと、もう抵抗する気力もなくなったようで、
「大原の彼氏面している東条のことに本当に腹が立ったから。大原に言い寄ろうとしている時に、邪魔された挙げ句、『自分の方が格好いいし、更紗が僕のものであるべきだとか考えているのなら、それは思い上がりだ。そんな人間には、更紗は絶対になびかない。君は、スタートから間違っている』なんて言われたから、マジで切れてしまった。ふざけんなって思った。あいつがどうやって大原を彼女にしたのかは分からないけど、スタートから間違っているってどういうことなんだよ、あいつだって、大原の顔と身体が目当てなんだろう!だったら、あいつもそんな最低な奴に落としたくなった。だから…」
「ねつ造してまで、東条を貶めたかったと。三上も巻き込んで?」
「…はい。やっぱりそういうのが一番ダメージを与えられると思って…」
すると、春日先生の表情は、怒髪天を衝くような怒り顔になって、
「お前は人として最低だ!ライバルを蹴落とそうとして、他人まで巻き込んで!人を貶めるために自分が堕ちていることに気づかない愚か者だ!」
怒鳴り声が、僕のいる相談室まで響いてきた。
「東条が大原の顔と身体が目当て?ああ、確かに一目惚れだったらしいな。俺があいつと大原を隣同士にしたんだが、お前みたいに言い寄ろうとはしなかったぞ。必要なことを必要なときに話すだけ。初めての教員の授業のやり方に対する説明をしたり、クラスメイトの計らいで放課後に校内探索したりしたらしいが、その時も言い寄ったりせず、必要なところへ、必要なことを話していたってさ。だから、『スタートから間違っている』という東条の台詞は、まさしくその通りなんだ。」
「…」
瀬戸は、春日先生の言葉に『そんな奴いるわけないだろ』と小声でつぶやいたようだけど、「それはお前の偏見だ。そういう浅はかな考えだから、そんな短絡的なやり方を思いつくしかなかったんだろう?時間をかけて、自分がいい男だと言うことを態度で示していれば、クラスメイトからの信頼を早くに構築できたと思うがね」
の春日先生の一言で瀬戸はうなだれたそうだ。
「ああ、確定なんですね…」
春日先生の怒鳴り声が聞こえてきた僕は思わず呟いてしまうと、一緒にいた英田先生は、「やっぱりそう言うことだったんだな…写真のねつ造って、普通に犯罪だし、それに三上と一緒に貶めたことは、まずいよな…」と呆れ顔。
「ですね…」
僕も英田先生に同意する。夢衣が社長令嬢と言うことは知らないのだろう。それも、建築デザイン系らしく、色々顧客と話をしたりする中で揉まれたと夢衣のお父さんから聞いたことがあるから、こういう行為に出るような人間に対しても、何かしらの反応を示すのではないかと思う。
「瀬戸、成仏しろよ」
僕は最後にそう呟いた。
それから、すぐに学年集会が開かれ、今回は写真だけ、それも小さい範囲だけですんだからまだましだったとは言え、犯罪行為だし、これをSNSで拡散したらそれこそ炎上した挙げ句、「デジタルタトゥー」として僕と夢衣(集会では、該当生徒と言うことで実名は出されなかったんだけど、噂はあっという間に広まっていた)は一生消せないデータに悩まされること、それは勿論、拡散した犯人にも言えるということ。そういったことを注意された。
教職コースや、ITテクニカルコースの生徒はさも当然というように受け止めていたけど、 ファッションビューティーコースの生徒をはじめ、陽キャの多いコースは「え?マジで?」「もしかしたら、やっちゃいけないことやってたかも!?」みたいな反応をする生徒が少なくなく、今ここで注意されて良かったのだろう。
放課後、僕たちは部活をする気力がなく、休むことにした。
アンケートに「欠席」としてから芹沢に「すまん、大会前だけど今日は休ませてくれ」とメッセージを送ったら、彼も、「今日は休んでもらおうと思ったよ」と有り難い言葉をくれたので、甘えさせてもらった。それは、幸弘、夢衣も同じだったようで、下校前に誰もいなくなった文系クラスで少し話をする。
「いや、何事もなくて良かったよ。さすがに、あんなことをしてくるなんてね」
「でも、杜撰で稚拙だったな」
僕の言葉に幸弘が反応する。そして夢衣は、
「魔が差したんでしょうね。チャンスと思って後先考えずにしてしまったのではないでしょうか?」
と言い、更紗は夢衣の言葉に頷きつつも、
「それでも、やって良いことと悪いことがあるよね。瀬戸くんは、一線を越えてしまった。人としてダメな方へね」
と眉をつり上げて言う。僕たちはその言葉に大きく頷いた。
「さ、それじゃ帰ろう。今日はなんか疲れたよね」
更紗の言葉に、もう一度僕たちは頷いて、
「かえろかえろ」「ゆっくり休みましょう」
と幸弘と夢衣は立ち上がる。
続いて僕と更紗も立ち上がって、教室を出た。
そして疲れてはいたけれども、僕と更紗は僕の家に帰って朝の約束を実行する。
「まずは、サバンナの会員登録ってしてある?」
僕が聞くと、更紗は頷いて、
「お父さんに家族会員としてを登録してもらったよ」
「なら、話は早い。アプリはインストールした?」
「うん、ログインまでは終わらせてあるよ」
おお、なかなかにアグレッシブ。僕は、
「よっし、じゃ、朝に話したスニーカーの検索してみよう」
「うん」
そして更紗は、スニーカーのメーカーと、サイズを入力して検索する。
「これだね」
元々安くなっているのに、更にタイムサービスの表示があって、更に1000円ほど安くなっていた。
「これをカートに入れて、支払いすれば良いんだよね?」
更紗がそう僕に聞くので、僕は頷いて、
「うん、そうだよ。あとは支払い方法なんだけど…スマホ決済か、コンビニ払いかな?」
「そうね、コンビニ払いにする。タイミングが合えば帰りにコンビニ寄れるでしょ?」
「そうだね」
僕はもう一回頷いて、更紗が「注文確定」のボタンをタップするところを見る。
うん、問題ないね。
「よし、これであとはメールが来るのを確認して支払いをすれば、今日の買い物は終わりだよ」
僕が言うと、更紗は「はぁ~~~」と大きく一つ、息を吐いて、
「あ~緊張した」
って言って、わざとらしくテーブルに突っ伏す姿が可愛くて。
「あとは、コンビニで支払いするだけね」
と言う更紗に僕は頷いて、
「そうだね。ご飯食べている間に支払い番号がメールで来ると思うから、食べちゃおう」
「うん、分かった」
そして、綸子ちゃんや僕の家族も交えて、みんなで食事をして、僕は更紗と綸子ちゃんを家まで送る。予想通り、夕食時に更紗の元に届いた1本のメールを開いてコンビニに行き、支払い番号を機械に入力してレシートを出し、レジへ持って行く。
そして、支払いを済ませて3人で一緒に帰る。綸子ちゃんも3年生だ。基本的に、2年生とメンバーは同じだから真新しいことはないようだけど、転校して半年になって、クラスの女子とは大分仲良くなり、男子とも話せる子が増えてきたらしい。その中で、告白されることもあったみたいだけど、
「でも、ちゃんと人を見て判断してる。東条さんのような人に巡り会いたいから、受験もあるけど人間観察もしていこうかなって」
なんて言う。だから、僕と更紗は二人して、
「人間観察か…綸子ちゃんって、心理士とかカウンセラーとか、向いているかもしれないね」
なんて言って、「からかわないでよ~」と笑う綸子ちゃんを見て、「今日の疲れが吹き飛ぶね」とちょっと深刻な顔で僕たちは言ってしまったものだから、綸子ちゃんは敏感に反応して、
「何かあったんだね」
と厳しい顔をして言うから、そのことについては後日話をすることにして納得してもらってこの日は幕を閉じた。
更に翌日、瀬戸は、学校に来なかった。
どうも、自宅謹慎を言い渡されたようで、更紗は主のいない机を見て、少しホッとしたらしい。
この話は、当然教職コース2クラスに伝わり、そこを拠点にジワリと噂は広まっていく。
「この話って、夢衣はお父さんにした?」
部活のあと、夢衣と幸弘が僕たちを待っていてくれた。僕が聞くと、夢衣は「はい」と頷いて、
「勿論、話をすることにしました。お父様は、顔を真っ赤にして怒っていました」
「ああ、僕の父さんも怒っていたよ。今回は悪質だから、普通に被害届出すかもしれないな」
僕はそう言って、夢衣の反応を見る。
「ええ、お父様もそのつもりだそうです。さらに、名誉毀損で訴えようとしています。そこまではやりすぎのような気がしますけど」
そこに幸弘が話に加わる。
「まぁ、正直夢衣の彼氏としては、そこまでやっても良いと思うよ。俺の彼女も慎吾と一緒に貶めてくれたのだから、それ相応の償いはしてもらおうと思っているぞ」
夢衣も更紗も、その言葉に目を見開いて、
「そう、ですね…確かに、そうなのでしょう。でも、やり過ぎな気もします」
「それと、瀬戸くんは、どうなるんだろう?」
と口々に言うけど、僕は、
「夢衣、君は優しいからそう言うのは分かるけど、一つ間違えたら僕たちは後ろ指を指されながら残りの高校生活、いや大学生活を送ることになったかもしれない。そして、卒業できたとしても、教職に就けないかもしれない、それだけの威力を、あの写真は持っていた。そんな写真をねつ造するのは、やっぱり人としてあり得ない。相応の報いを受けるべきだと、僕は思うよ」
と言い、幸弘も、
「…それにな、夢衣。下手をすると、俺と夢衣、慎吾と大原の人生にも影を落とす可能性があることだ。今回のことはさすがに許せないよ」
と厳しい表情で言うものだから、更紗も夢衣も、「…そうだよね」と言うことしかできなかった。
後日、うちと三上家の連名で、警察に名誉毀損の被害届を出して受理してもらったけれども、最終的には示談にした。甘いかもしれないけど、瀬戸は1週間の謹慎中に、教職コースから普通コースへのコース変更を打診され、受け入れた。そして、教職コースへの立ち入りを禁止された。
それもあって暫くは、瀬戸は色々と言われたし、それで彼はげっそりと痩せた。それでも、不登校にならずに毎日歯を食いしばっていたし、僕たちに謝罪文も書いていた。そんな姿にほだされたのもあるんだけど、瀬戸の両親からも謝罪があって、それ以上追求することは三上家と話し合いをした上で止めた。
十分反省しているし、あんな姿見たらほだされる。アレが演技だとしたら、ある意味本当にすごいからね。
これは後日談だけど、普通クラスの生徒からも後ろ指指されていたらしい。でも、一つ一つの物事に真摯に受け答えするようにするうちに、クラスメイトからの信頼も徐々に戻ってきて、1学期が終わる頃には、普通に生活することができるようになっていた。
もう一つ言うと、高等部卒業の少し前、たまたま廊下で瀬戸に会った時に、「最初は色々あったけど、よく持ち直したよな」と話しかけたら、「あのあと、自分に正直になると言うことが、単なる我が儘を通すことじゃなくて、折り合いをつけることだと分かったから、かな。あとは、お前たちに迷惑をかけた申し訳なさもあったし、親から「お前は自分のやったことをきちんと身にしみるように学校に行け、休むことは許さない」と言われて…じゃないと勘当って言われたからね…さすがに行くしかなかったけど、それで行って白い目で見られて、それも当たり前と思ったら、今、自分にできることをやろうと自然に思ったよ。で、クラスで色々やっていくうちに、みんなが普通に接してもらうことができるようになって、ああ、東条の言っている事って、こういうことなんだなって実感した。だから、お前には感謝してもしきれない。ありがとう」なんて言われてしまって、ちょっと照れてしまい、更紗に「慎吾、やるじゃん!」って肘鉄食らったなぁ…
そんな訳で、この事件は終わった…と思う。しばらくは、僕たちの周りも少しばかりざわざわしていたけど、事実無根の噂はすぐにかき消されていった。
3年生が始まって10日くらい、こんな感じでとっても疲れたし、更紗も幸弘も、夢衣も、神経が張っていた毎日からようやく解放されて穏やかな1日を過ごせていたんだけど…。
一難去ってまた一難。大会終了後の部活から、また僕と更紗は頭を悩ませることになった。
僕は彼女たちが部活に来ていないことに、ちょっと安堵していた。
更紗の方も、あれから瀬戸との会話は事務的なものに限られているようで、彼女自身も少しずつ状況が良くなっているようだった。
部活後の帰り道、いつものように並んで歩きながら、瀬戸のことについて話をする。
「植田さんが瀬戸くんに話しかけに行っているのもあるんだけど、私のことは諦めたみたい。植田さんと直接話す機会があったから聞いてみたんだけど『瀬戸くんと話をしてみて、悪い人じゃないなとは思うよ。こっちの話題も理解してくれているし、彼の話題もこっちに合わせてもらっている感じ』って」
なんて言う更紗の表情は、緊張感の中にも柔らかさが出てくる。
「そうやって話をしてくれる分には、全然問題なさそうだけど、何があるか分からないからね。気にはしていよう」
更紗も、僕のその思いに納得する。
「そう。でもね、なんか、本当は私と話をしたいのかなって思うことはあるよ。視線を感じることは授業中も休み時間もあるし」
考えすぎだと良いんだけど、と更紗は付け加えた。
「僕もそうあってほしいと思うよ。それじゃ、更紗、また明日ね」
更紗の家の前で僕は希望的観測を話し、会話を終えて別れる。
「うん、また。明日はお弁当ね」
「了解。楽しみにしてる」
僕も更紗も満面の笑みで別れる。作る喜び、食べる喜び、それが僕たちが感じる幸せなのかもしれない。
家に帰って夕食を食べ、風呂に入ってから自室で勉強を始める。時間は20時半。更紗がグループライナーに加わってからたまに賑やかになっていたメッセージも最近は大人しい。学校で話しているだけで、かなり十分だからというのもあって、たまに啓一や毅史からメッセージが来ることはあるけど、それくらいだった。
だけどこの日は違っていて、ピコっと通知が鳴る。
「?」
誰だろうと思って通知を見ると、そこには「夢衣」の文字があった。珍しいな…。
『慎吾くん、ごめんなさい。今お時間よろしいですか?通話したいです』
夢衣から1対1での通話はもっと珍しい。何かあったのだろうか?幸弘と上手くいってないことがあるのだろうか?
さすがに不安なので、矢も楯もたまらず、
「いいよ。かけてきて」
と返事する。待つこと20秒で、ライナーのビデオ通話の着信が鳴った。
「どうしたの?夢衣。珍しいね」
僕は内心の焦りをできる限りかくして応答する。
『あ、慎吾くん、ごめんなさい。急に。少し、聞きたいことがあるんです』
「幸弘のことについて?」
僕は確認すると、向こうで頷くような気配を感じた。
『そうなんです。幸弘さんの誕生日って、もうすぐですよね』
そう言えば、そうだ。この仲間4人の中では、一番誕生日が早くて5月2日だ。
僕は、そうだね、と相づちを打つ。
『それで、プレゼントを渡したいと思っているのですけど、幸弘さんの好きなF1のチームとかドライバー関連のグッズが良いかなって思うのです。さすがに今聞いてしまうとあからさまかなって思いまして、慎吾くんに聞いたわけです』
なるほどな…。それは確かに良いかもしれない。
そして同時に、幸弘との間で何かあったわけではないことに安堵する。
「でも、よく幸弘がF1好きとか知ってたね。あまり夢衣は興味ないと思うんだけど…」
『実は、先週末に日本グランプリがあったと思うのですけど、幸弘さんの家でライブ中継を一緒に見たんです。それで、少しだけ興味を持ちました。でも、まだ知らないことばかりなので、慎吾くんも好きだとその時に伺ったものですから』
ああ、そうだった。実は僕も、更紗を家に呼んで晴兄や父さんと一緒にリビングで観戦したんだった。僕の推しである日本人選手が、戦闘力の劣るマシンで10位入賞できたから、ものすごく興奮して、ゴール後は更紗と両手を合わせてから抱き合って喜んでしまい、「親の前でする態度じゃないよな~」と両家の父親から突っ込まれて僕たち二人とも顔を真っ赤にしてしまった。
「そうか、まぁ、そういうことなら教えてあげられるけど、今すぐにはちょっと難しいね。勉強中だし」
『そうですよね、すみません』
「でも、明日以降なら大丈夫だと思う。ライナーで教えようか?」
すると、驚くべき返答が返ってきた。
『それでしたら、今度の日曜日、喫茶店で直に会って話しませんか?いかがでしょう?』
…どう返事するべきなのだろうか。確かに、今はお互いの相手がいるから、その相手の了承さえ取れれば良いと思う。お互いに信用しているから、了解は取れるとは思うんだ。
でも、本当にそれで良いのか、迷う。
「夢衣は、それでも大丈夫?」
『ええ。クラスメイトの多くは、私と幸弘さん、慎吾くんは幼稚園からの幼馴染みと言うことを知っていますけど、今は私、幸弘さんとお付き合いしているから不思議に思う人も確かにいるでしょうね。噂になった時は、お互い相手の了承を取っていることも含めて、説明しようと思います』
「…だよね。できる限りそんなリスクは負いたくないのだけど」
『はい、それはそうだと思いますが、ライナーで送られる情報だけではちょっと心配で、通販で買うにしても慎吾くんに見てもらえると安心して買い物できるかなって思うんです』
そうか、そうだ。昔から夢衣は心配性な所もあった。通販なんて滅多にしていないし、知らないジャンルの買い物だから、尚更なのだろう。
「分かった。それじゃ、お互いに了承を取ろう。あ、でも、更紗には来てもらった方が良いと思うんだけど、それでもいい?」
『勿論です。その方が噂にもなりにくいでしょうから』
「じゃ、また明日」『はい、よろしくお願いします』
そして、通話は切れた。
これは、ちょっと急を要するかなぁ?まぁ、明日の朝に更紗とは話せば良いように思うけど、一応今のうちに一報入れておくか。幸弘にも、詳細は伏せて夢衣と出かけることは言っておいた方が良いだろう。
『更紗、ゴメン、今、大丈夫?』
と、ライナーのメッセージを打つ。程なく、彼女から返信が来る。
『うん、大丈夫だよ。最近にしては珍しいね。何か、急ぎの用?』
更紗も何か察するところがあったのかな?
『ああ、さっき夢衣からライナーが来て、幸弘の誕生日プレゼントを選ぶことについて相談に乗ってほしいと連絡があったんだ。ライナーだけだと不安だから、週末会って欲しいって』
僕がそう打って送ると、やや間があってから、
『ちょうど今、夢衣ちゃんからもその内容のライナー来たよ。二人のこと、信頼しているから全然構わないよ。たまには幼馴染みとデートしてきたら?』
なんて、ちょっと暢気なメッセージが返ってきた。
更紗には来て欲しい気持ちもある一方、かなり信頼されていて、それはそれで嬉しいことなのだけど…来てもらう方が余計な誤解を生まなくて良いから、一緒に来て欲しいとメッセージを打つつもりだけど、どう切り返そうかと少し迷っていた。すると、更紗からもう一度メッセージが届く。
『夢衣ちゃん、私にも来て欲しいって。確かに、お互い彼氏彼女持ちなのにそれぞれの相手と二人きりで会っていたら怪しまれるもんね。私は全然構わないんだけど、慎吾はそれで良いの?』
夢衣が先に連絡してくれて助かる。僕は、
『うん、それで構わないよ。と言うかそうして欲しいと僕からもお願いしようと思っていたんだ。お互いのためにもね』
と返事する。すると更紗からは、『OK』と言うスタンプが届いた。
『詳細は、明日の登校の時に考えて良い?もうちょっと眠いから』
スタンプのあとにそうメッセージが来て、僕は
『うん、良いよ。ゴメンね、こんな遅くにメッセしちゃって』
と返すと、更紗の方からも、
『うん、ゴメン。また明日ね。お休み』
とメッセージが来る。
『うん、お休み。更紗、大好き。また明日ね』
ちょっと更紗に好きな気持ちを出すと、顔を赤くしたキャラのスタンプが届き、
『私も大好きだよ、慎吾。じゃ、今度こそ、お休み』
とメッセが来て、僕のスマホは沈黙する。
「…幸弘にも伝えておくか」
独りごちて、今度は幸弘にライナーを送る。夢衣が幸弘への誕生日プレゼントのことで迷いがあるから、僕に相談してきた旨を伝え、夢衣と週末会う、更紗にも同席してもらうことを伝えると、幸弘は『了解。すまない、夢衣のこと頼んだ』とメッセージが来る。あっさりと承諾してくれるのは、やっぱり付き合いが長いからなのだろう。
『ありがとう、じゃお休み』
とライナーを送ると、僕も更紗みたいに眠くなってきた。
幸い、明日の予習は全部終わっている。
「寝よ」
僕は、ベッドに潜り込むと、ほんの数分で眠りに就いた。
翌朝、慎吾と一緒に登校する。話題は、昨日のライナーのこと。
「夢衣ちゃん、矢野くんへのプレゼントを買うために、慎吾を頼るのはよく分かるよ。いらぬ誤解を招かないように、一緒にいてあげたいと思う。慎吾、それでいい?」
私が昨日の「夢衣ちゃんは私にもいて欲しい」と言ったことをもう一度確認する。
「うん、僕もその方が良いと思っているから、是非そうして欲しい。ゴメンね、時間取らせて」
慎吾は謝るけど、何気に私も俄然興味が出てきている。と言うのは――
「あとね、お願いがあるんだけど。私にも、ネット通販のやり方教えて欲しいんだ」
と言うことだ。お父さんも最近、サバンナに登録して、通販で買い物をすることを覚えたみたいだから、私も興味あって。慎吾は何度もやっているベテランさんだから、教えてくれるととっても嬉しいな、と思う。
そのことを伝えると、
「おお、そうなんだね。いいよ、いくらでも教えるよ」
と慎吾も乗り気だった。
登校後、いつもの4人で話をする。
「と言うわけで、すまんが次の日曜日に夢衣と更紗と3人で出かけるから」
と幸弘に伝えると、「ああ、分かってる。夢衣のこと、頼んだぞ」と言ってくれる。
「何をプレゼントしてくれるのか、すごく楽しみなんだ」
と更に付け加えた幸弘に、夢衣はクスッと笑う。
「はい、期待していてくださいね。慎吾くんという強力な助っ人に手伝ってもらうのですから、絶対にがっかりさせません」
などと話をしていると、時間はもうすぐ始業になる。そんな遅刻ギリギリの時間に、瀬戸くんが登校してきた。
「おはよっす」「おはよ」
最低限の挨拶だけ交わして、彼は椅子に座る。
そして慎吾は、
「それじゃ、日曜日よろしく、夢衣」
と言って、教室から出て行った。
「…日曜日に何かあるのか?」
瀬戸くんが聞いてくるけど、私はあえて答えなかった。幸弘くんも同じみたい。だけど、無視はできないかなって思いなのだろう、夢衣ちゃんが
「慎吾くんと出かける話をしていただけです」
と答えた。すると、瀬戸くんは口角を上げて、
「二人で行くのか?なんか、それ怪しくね?」
と言うから、つい私は、
「私も一緒に行くから問題ないんだけど?」
と、ちょっときつめに言ってしまった。すると瀬戸くんは意外そうな顔をして、
「へぇ~そうなのか、いいなあいつ、両手に花かよ。どこへ?」
「別に、おし…」私は教える義理はないんだけどって言おうと思ったけど、夢衣ちゃんが「商店街のカフェですよ」と教えてしまう。
「ふ~ん、そっか」
と、瀬戸くんは口角を上げて少し笑うんだけど、目は全然笑っていなかった。
その笑みに、私はすごくイヤな予感がした。
そして、あっという間に日は過ぎて、日曜日。今日は大会直前なんだけど、というか、直前だからこそ、身体を休めなさいと言われて、今日は部活はお休み。だからこそ、慎吾と夢衣ちゃんの三人で出かけられるのだけど、ここで、問題が発生した。
朝起きて着替えると、私たち姉妹の寝室から、
「ごほっ、ごほ…」
という咳き込む声が聞こえる。私は寝室に戻って、
「綸子、大丈夫?」
と聞くと、「ううん、大丈夫じゃないかも」という綸子の弱々しい声。彼女のおでこに手を当てると、かなり熱くなっていた。
「体温計!綸子、熱計って!」
体温を計ると、38度3分。…風邪かな?
「熱高いね…。ベッドで寝ようよ。今、氷枕とおでこの熱冷ましシートを持ってくるから」
「うん、ごめんなさい」
普段、ちょっと生意気なところのある妹だけど、今の綸子はそんなことを感じさせない、気弱な子どもになっていた。
私は、薬箱から熱冷ましシート、冷凍庫から氷を取り出し、アイスピックで砕きながら氷枕に氷を入れる。ある程度の準備ができたら、綸子の所へ持って行く。
「ほら、氷嚢と熱冷ましシート。ちょっと頭を上げて」
「うん」
綸子が頭を上げたところで、私は氷枕を頭の下に滑り込ませ、おでこに熱冷ましシートを貼ってあげる。
「どう?」「冷た~い。気持ちいい~」
ちょっとホッとした表情を綸子は見せる。あぁ、タイミングが悪いなぁ。今日は慎吾と夢衣ちゃんと3人でお出かけなのに…。
その私の心を見透かしたように、綸子が私に話しかける。
「お姉ちゃん、今日お出かけじゃなかったっけ?」
「そうね。でも…」
私は逡巡する。体調の悪い綸子を一人家に置いて、自分だけ楽しみにいくのは気が引ける。
「今日は止めておくね。綸子のことが心配だし」
「え?行かないの?」
「うん…。綸子がそうやって辛い思いをしているのに、私だけ楽しむ訳にはいかないかなって」
「行けばいいのに…。私、どうせ寝てるだけだよ?」
それでも、やっぱり心配だから。私は行かない。慎吾も夢衣ちゃんも、分かってくれる。
「出かけている間に、万が一何かあったら後悔するから、そうならないように綸子と一緒にいるわよ。取りあえず、今からおかゆ作るから。昼食夕食も任せなさい。ごめんね、部活が忙しいからって、平日はだいたい夕食作ってもらっていたから、疲れが溜まっていたんだよね…」
「うん、おかゆお願い。でも、言うほど疲れは溜まってないと思うんだ。なんで風邪引いたのか分からないよ」
「それなら、誰かから移されたかもよ。咳してる友だちいなかった?」
そう聞くと、綸子は暫く考えてから、
「…いたかも」
「移されたかもね。まぁ、とにかく、綸子は寝てなさい。おかゆ作るね」
「よろしく」
キッチンに向かうと、お父さんがもう起きていた。
「あれ?お父さん、朝早く起きてくるの珍しいね」
「ああ、おはよう更紗。なんか目が覚めちゃってね。今ちょっと声聞こえたけど、綸子は風邪か?」
「うん、そうみたい。今からおかゆ作るね」
私は、キッチンに立ってご飯をお鍋に盛り、水を入れておかゆを炊く。お父さんはそんな私を見ながら、
「ああ、分かった。自分のも作ってもらっていいか?昨日の飲み会で、結構食べ過ぎて、お腹辛いんだ」
って言う。
「飲んで二日酔いじゃなくて、食べ過ぎてお腹辛いって言うの、初めて聞いたかも」
お父さんは、稀に二日酔いはあるけど、こんな事言うのは初めてな気がする。
「まぁ、俺も40歳越えたら、ちょっと胃腸が弱ってきたのかなぁ…。脂っこいものが若い頃よりも入らなくなってきたかな」
「お父さん…40なんてまだまだ若いじゃない」
私の言葉に、お父さんは苦笑い。
「まぁ、たしかにそうなんだが…。でも、実際にこの歳になると20代の頃と比べたら脂っこいものを食べる量が減ったかも…」
…そういうものなのかなぁ…。そう言われると、ちょっと心配だし、私たちの作る食事も考えた方が良いのかな?とおかゆを作りながら話をする。
「ねぇ、それなら私たちの作る食事も脂っこいものを減らした方が良いかな?」
そう聞くと、お父さんは優しく笑って、
「大丈夫だよ。お前たちは育ち盛りなんだから、お前たちの食べたいものを作って食べる方が良いよ」
と言ってくれる。それは、それなら良いんだけど…やっぱり心配な気持ちはあるけれども、お父さんの言うことなら大丈夫と思って、私は頷いた。
「わかった。でも、お父さんもちょっとそう言われると心配だから、体調がおかしいと思ったら病院行ってよね」
「分かったよ」
お父さんはそう言って、私の作ったおかゆをしっかり食べて「美味しかったよ、更紗、ありがとう」と言って自分の部屋に戻る。
私は綸子のために作ったおかゆを綸子が寝ている寝室に持って行く。
「綸子、おかゆできたよ」
「お姉ちゃん、ありがと」
綸子はちょっとだるそうに身体を起こす。そして、私がお盆に乗せて持って来たおかゆを食べる。私も一緒におかゆを食べる。うん、鰹節と醤油が良い味出してる。
「あ、イイ感じで冷めてる。味付けもちょうど良くて、スルスル入るよ」
「うん、そう思ってちょっと時間置いたんだ。熱すぎても良くないから、少し冷めたくらいが丁度良いって思ってね」
私はしたり顔で綸子に笑いかける。
「でも、お姉ちゃん、今日本当に行かないの?」
と、今日の予定をキャンセルしようとすることを自分のせいだと思ってしまっているのかな?
「うん、でも、綸子のせいじゃないよ。確かに綸子が風邪を引いて寝込んでいることは原因だけど、風邪を引いたのがたまたま今日だった話。そして、キャンセルするのを決めるのは私」
…このあたりの考え方って、慎吾に似てきたなぁ…うん、確かに自分でコントロールできないことで自分の気持ちが左右されることがなくなってきた。
「ゴメンね、お姉ちゃん」
私の言葉にまた綸子は謝るけど、
「大丈夫。謝らなくて良いんだよ。まぁ、私が風邪を引いて休んだら、これと同じようにおかゆを作ってくれたらそれで良いから」
「うん、ありがとう」
私は、「半分冗談だよ」と言い残して、空になったお椀をキッチンに運ぶ。
皿洗いをする前にスマホを取りだし、慎吾にメッセージを送る。
『慎吾、朝にゴメン。綸子が風邪引いちゃって看病したいから、今日は休むね。夢衣ちゃんにも同じ内容のメッセージ打っておくから、二人で行ってきてね』
そして、夢衣ちゃんにも同じ内容のメッセージを送り、皿洗いをしているうちに、慎吾からメッセージが返ってくる。
『そうなんだ…残念。また次の機会だね。通販するなら早いほうが良いから、夢衣と話させてもらうよ。それじゃ、また夜にライナーするね』
夢衣ちゃんからも、
『分かりました。じゃあ、慎吾くんをお借りしますね。結果はまたお知らせします』
とのことで、私は安心して綸子の看病をした。
でも、どこかで一抹の不安が常によぎっているのを、感じている一日だった。
「そうか、更紗は来られないのか…」
僕は更紗からのメッセージを見て落胆する。折角の休みで夢衣との用事が終わったあとは二人でデートしていこうかなと思っていたのに、残念なことだ。
でも、綸子ちゃんのせいにしてはいけない。僕は仕方ないと自分の心を落とし込んで、更紗へメッセージを打つ。
『そうなんだ…残念。また次の機会だね。通販するなら早いほうが良いから、夢衣と話させてもらうよ。それじゃ、また夜にライナーするね』
って。夜には結果報告と、綸子ちゃんの体調は回復したか聞くためだ。
今日は、更紗と水族館へ行った時と上は同じ服装で、モスグリーンのチノパンではなく、普通にGパンにした。ラフな格好だけど、夢衣はそんなことで文句言わないしね。…更紗もだけど。
午前中は明日の予習に費やし、昼食を食べたら商店街へ向かう。
公園の桜はもう殆ど散ってしまって、新緑が綺麗な季節になってくる。若葉の季節、新しい出会いはあったけど、懸念を抱えてしまって、正直に言うと少し億劫だ。
でも、そんな気持ちは若葉が少しだけいやしてくれた。まだまだ、出会いがある。抱えた懸念は、そのうち解消される、大丈夫だよって。
城西商店街の入り口が見えるところまでやってくると、夢衣がもう先に来ているのが見えた。
今日の夢衣は、ピンクのフリルワンピースに白のパンプスといった感じ。ロングヘアと相まって、すごく目立つ。ただ、表情に感情が出てくることが多くない彼女は、声をかけられそうなんだけど、かけられずにいる。
「夢衣、お待たせ」
僕が声をかけると、夢衣も「あ、今日は慎吾くん。ありがとうございます」と言ってお辞儀をしてくれる。
「それじゃ、行こうか?」「はい」
僕たちは、並んで歩き始める。勿論、手は繋がない。
比較的近いところにあるチェーン店のカフェに入る。別にやましいことはないので、窓際の席に座って、メニューを見る。
「夢衣はアイスティー?」
僕が聞くと、夢衣は頷いて「さすがですね」と嬉しそうに笑う。僕はアイスコーヒーを注文し、ドリンクが来るまでの間も、早速夢衣から話を聞き出していた。
「日本グランプリの時に、幸弘さんの好きなドライバーって、チャーリー・ルークって聞きました」
うん、幸弘からそのことは前から聞いている。幸弘らしいなって、思って聞いていた。
「ああ、跳ね馬のチームだね。イケメンだし、格好いいよな。じゃあ…」
僕は、スマホを取りだして、検索ボックスから『チャーリー・ルーク』『グッズ』と入れて検索ボタンをタップする。
すると、思いの外たくさんのページがヒットしたから僕は思わず、
「うぉ、結構たくさんあるよ」
と言い、夢衣にスマホの画面を見せる。夢衣も、自分のスマホで同じように検索をし、一通りスクロールさせて、
「どんなページが良いのか分からないので、選んでもらえませんか?」
と言うものだから、
「そうだね、こんなページとか」
と、僕は自分のスマホで日本企業が運営するグッズ販売のページをタップする。
そこには、Tシャツやキャップ、ミニチュアモデルなど、色々なグッズが並ぶ。さすが、跳ね馬のチームだけあって、赤が多いのだけどね。
「うわぁ、目移りしてしまいます。格好いいですね」
夢衣は、並んでいる商品を見て歓声を上げる。
そこで、アイスティーとアイスコーヒーが運ばれてきた。
それぞれミルクやガムシロップを入れてストローでかき混ぜて一口。
「ふぅ~」
と一息入れてから、またもや画面とにらめっこする。
少し見ていると夢衣は、
「でも、全体的にすごく高いですよね」
と言う。そうだなぁ、高いのは高いなぁと思う。
「まぁ、有名スポーツメーカーと提携しているのもあるし、多分、円安とかも影響しているのかもしれないよ。とは言え、僕の小遣いで買える額のものは限られるけど、夢衣はある程度買えるんじゃない?」
社長令嬢の夢衣だから、お小遣いもそこそこもらっていることは知っているから、そう言ってみたんだけど、
「ええ。そうですね。でも、ゴールデンウィークのことを考えると、使いすぎるのも問題なので、1万円くらいを予算として考えてます」
夢衣は、微笑みを浮かべながらスマホに目を落としている。飲み物が来た段階で、夢衣自身のスマホで検索し、僕がさっき開いたページを見ていた。
「そっか、OK。その辺で見てみるよ」
僕たちは、お互いのスマホに目を落として品物を物色する。色々悩んだけど、5分位してから、
「ねえ、夢衣。こんな組み合わせはどうかな?ちょっと予算オーバーかもしれないけど、これからの季節には丁度良いかなって」
「どんな組み合わせですか?」
僕はもう一度、自分のスマホを夢衣の方に向ける。
「半袖Tシャツと、ウォーターボトル。合わせると1万ちょっとなんだけどどうだろう?」
すると夢衣は満足そうに、
「それが良いと思います。それじゃ、通販の方法教えてもらえませんか?」
と言う。僕は頷いて、
「まずは、商品をタップして、カートに入れようか」
「こうですか?」
夢衣は僕の言ったとおりに買おうとしている商品をタップし、「カートに入れる」ボタンをタップした。
カートの部分がきらっという感じのアニメーションをして、右上に①という数字が表示される。
「ボトルの方も同じようにしてね」「はい」
そして夢衣は同じように操作して、カートには②という数字が表示された。
「そうしたら、『お会計に進む』をタップして」「はい」
と、一連の流れを一つ一つ説明する。
このページで良かったのは、会員登録が必須でないことだ。まぁ、登録しても良いとは思うけど、一見さんになる可能性が高い場合、会員登録するのは気が引ける。
「へぇ~そういう考え方なんですね。分かりました」
「…って、僕が勝手に思っていることで、もしかしたら一般的な考えと外れてるかもしれないと言うのは肝に銘じておいて」
「はい」
支払い方法は、これもたまたまだけど、コンビニ払いがあったことが幸いする。
「コンビニ払いがあるから、これ選んでおこう。多分比較的早く番号が届くと思うから、コンビニ行って払っちゃおう。そこまで面倒見るから」
「便利ですね」
「便利だから、コンビニエンス…でも、便利になった分、店員さんは覚えることが増えて大変なんだって何かで聞いたことあるなぁ」
夢衣は僕の返しに目を丸くして、
「そうなんですか?」
と言うものだから、僕は頷いて、
「うん、まぁ、買い物サイトによるから、一概には言えないけど…」
と言う。夢衣は、
「そうなんですね。それじゃ、買っちゃいます」
と言って、『注文を確定する』ボタンをタップした。
「買ってしまいました」
夢衣は笑う。その表情は、小学校時代の嬉しそうな顔から殆ど変わっていなくて、不覚にも少しだけ胸が高鳴った。でも、それはおくびにも出さず、冷静に、
「それじゃ、少し待とう。注文確定のメールとか、支払い番号とか、数通メールが来るはずだよ」
と告げる。それと同時に、夢衣のスマホがメールの着信を告げた。
「え?もう?」
夢衣は心底驚いて、通知を見る。
「うん、注文確定…」
夢衣はそう言いながら呟く。
「OK。まずはそのメールが来ることで、注文が間違いなく受理されたことが分かるよ。あとは、支払い番号の通知メールを待とう」
10分ほど、幸弘の誕生日にどうやってプレゼントを渡したり、料理を出したりするのかを話していると、またもや夢衣のスマホからメール着信の音がした。
「お支払い番号来ましたよ、慎吾くん」
メールの内容を確認して、夢衣は僕に伝えてくれた。
「よし、それじゃ飲んでしまってからコンビニへ行こう」
お互い、まだ少しだけ残っていた飲み物をちゅ~っと飲み干し、会計をして(僕は自分の分は自分で出すって言ったけど、私の我が儘に付き合って戴くのですから、と夢衣に押し切られておごってもらってしまった)、一路コンビニへ向かおうと扉を開ける、二人並んで外に出た、その瞬間――
「きゃっ!」
夢衣が扉の段差につまずいて、倒れそうになった。
「危ないっ!」
僕は咄嗟に両腕を差し出して、夢衣を支えようとする。
しかし、少しばかり勢い余って抱き留める形になってしまった。
「ごめんなさい、慎吾くん!大丈夫?」
夢衣はすぐさま離れたんだけど、少しだけ、夢衣の体型のぬくもりがこの腕に残る。
…更紗と違って、やっぱりか細くて儚い感じだったのは小学校時代から変わっていなかった。
「大丈夫だよ。夢衣こそ大丈夫?結構派手に転びそうになったけど」
僕は居ずまいを正しながら夢衣に確認する。
「はい、大丈夫です。支えてくれて、ありがとうございます」
夢衣は答えながら笑顔を見せる。
「それじゃ、行こうか?」
「はい、早く支払ってしまいたいです」
恥ずかしさもあったのだろうか、少し焦る夢衣の表情に僕はちょっと可笑しさを感じて、
「大丈夫。支払いはだいたい1週間猶予あるから、そんなに急ぐとまた転ぶよ」
と言ってしまう。さすがにいつも表情に怒りが出ない夢衣でも珍しく頬を膨らませて、
「もう、意地悪です」
と僕を責める。
「ごめんごめん」
こうしていると、どこにでもいるカップルに見えるのだろうけど、お互いにパートナーがいるから、これ以上踏み込んだことはなるべくしないように、コンビニへ向かった。
そして、コンビニの支払機でバーコードを打ち出し、レジへ。夢衣は財布からお金を出して支払って、領収書を受け取る。これで、一連の流れは終わりだから、あとは商品が届くのを待てば良い。
「慎吾くん、ありがとう。初めての通販、ドキドキしました」
「うん、あとは、暫くすると代金領収確認のメールや、発送した旨のメールも届くと思うから、その都度また報告してくれると有り難いよ」
「分かりました」
夢衣は女子にしては珍しくAPhoneではなく、アンドロ端末、それも結構マイナー機種だ。おそらく、お父さんの趣味と思われるスマホを夢衣は愛おしそうに見つめながらそう答えた。
「それじゃ、送っていくよ。それか、幸弘に迎えに来てもらう?」
僕が聞くと夢衣は「う~ん」と考えて、
「幸弘さんに迎えに来てもらいます。それまで、もう少しお相手をお願いしてよろしいですか?」
と言うから、「勿論、喜んで」と僕は応えて、更紗と長話をする時に使ういつもの公園に向かい、ベンチに座って話を続けた。
15分後、「お~い」と幸弘がやってくる。
「お、幸弘、サンキュー」「幸弘さん、ありがとうございます」
「問題ない。夢衣、上手くできたか?俺もこういうのはやったことがないから、慎吾に任せて良かったと思うぞ」
「慎吾くんのおかげです。ちゃんとできました」
夢衣の笑顔を見て、幸弘も顔がほころんでいる。
「慎吾、ありがとな」
幸弘が僕のことを信頼してくれているのがよく分かる。
「バッチリできてたよ。幸弘、誕生日楽しみにしていてな」
僕はサムアップして幸弘に笑いかける。
「OK!楽しみにしてるぜ。夢衣、ありがとな」
幸弘は夢衣に笑いかけ、右腕を夢衣の肩に回してイチャつく。
「幸弘さん、恥ずかしいです」
「いや、楽しみだなって思うと夢衣が愛おしくてな」
「…でも。慎吾くん、今日は更紗さんが参加できなくなったので一人なんです。目の前でイチャつくのは止めましょう」
そう言われて幸弘は僕の誰もいない両隣を何度か見て、大仰に夢衣の肩に回していた右手を自分の両目をふさぐように置いて天を仰ぎながら、
「あ、すまん、大原いないの気づかなかった…どうしたんだ?」
「綸子…妹ちゃんが風邪引いてしまって、看病したいってさ」
大原家が父子家庭であることは、12月のうちに幸弘にも話してあるから、
「そうか、そうだよな…わりぃ、慎吾。気づかなかったとは言え」
「いいや、大丈夫だよ。普段から僕たちの方がイチャついていると思うからね」
僕と幸弘は顔を見合わせてからハイタッチ。すると夢衣が、
「慎吾くん、更紗さんの家に顔を出したらどうですか?」
と言ってくれたから、僕は「そうだね」と頷いて、スマホを開いてライナーで更紗にメッセージを送る。
返事が来るまでの間、3人で次の週末に行われるF1の展望を語る。…尤も、その話は僕と幸弘がメインで、たまに相づちを夢衣が打つような感じだった。
程なく、更紗からメッセージがあった。
『綸子の熱も少し下がって回復傾向にあるから、来てもらってもいいよ』
とのことだったので、早速二人に「更紗の家に行ってくるよ、あとは二人でお楽しみください。じゃ、また明日」とちょっと茶化すように伝えると、幸弘は「ああ、また明日な」とあっさりした一方で、「お楽しみって…」と顔を真っ赤にしてしまう夢衣。僕はちょっとほっこりしながら、「それじゃ、また明日ね」と言って公園から出て行く。
出る前に、スマホで時計を確認すると、15時を少し過ぎたところ。綸子ちゃんはずっと寝ていたのかな。そんなことを思いながら更紗の家に向かう。
すると、その途中であまり会いたくなかった人と会ってしまう。瀬戸だ。
「あら?どうしたんだ?三上に振られたのかい?彼女もめちゃくちゃ可愛いからなぁ。あんな娘が矢野の彼女というのは納得いかないけどな」
僕を見るなり失礼な口をきいてくる瀬戸。僕は、いらっとくる感情を押し殺し、
「ホント、口を開けば失礼なことしか言えないよな、君は。用事が終わったから帰るところだよ。瀬戸こそ、どうしてここに?」
このとき、僕はそう言って良かったと、あとになって思った。
「そうか。ま、あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな」
「…何を言いたい?」
僕がそう聞くと、瀬戸は「はっ」と一笑に付して、
「いや、独り言。じゃあな」
瀬戸は逃げるように走って行く。
「何だ…あいつ…」
僕は、何か嫌な気分にしかならなかった。
「…更紗の家に行くのは止めた方が良さそうだよな」
僕は、瀬戸が後をつけてないか気になって、わざと遠回りして自分の家に向かう。
歩きながら時折止まっては、スマホで更紗にメッセージを送る。
「瀬戸と偶然会ってしまった。なんだかイヤな気しかしないから、家に行くの止めておくよ。家に帰ったら、ビデオ通話しよう」
瀬戸は、どうもつけてはいなかった…と思うし、そう思いたい。
そうこうしているうちに更紗から、
「分かった。綸子も楽しみにしていたんだけど、残念。待ってるね」
と、納得してくれた。
家に帰って自室に引きこもったら、早速更紗にコールする。
待っていてくれたのか、コール半分聞かないうちに出てくれた。ビデオ通話で更紗の顔が見える。
「やっほ~。慎吾、どうだったの?」
明るい更紗の声が耳に入ってきて僕は幸せな気持ちになる。
「うん、バッチリ夢衣は通販できたよ。あとは品物が来るのを待つばかりだね」
「そっかぁ、それは良かったね。でも、途中で瀬戸くんと会ったのね」
更紗の顔と声がちょっと暗くなったような気がした。それに釣られるように、僕の声も暗くなる。
「まぁ、僕が一人でいる時に出会っただけだから、何もないとは思うんだけど、ただ、あいつ、俺に『あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな』って言ったんだ。どう思う?」
更紗は、「う~ん」と画面の向こうで首をひねって、
「そんな言い方するのってさ、なんか裏があるような気がするんだけど」
と言う。
「そうだね…あいつの言うことがホントか嘘かは分からないんだけど、う~ん、最後に嫌な気分になっちゃったよ。ゴメン、愚痴になっちゃって」
僕が謝ると、更紗は首を振って話題を変える。
「ううん。ホント、ゴメンね。私も行けると良かったんだけど」
「でも、綸子ちゃんの看病だから仕方がないよ。綸子ちゃんの調子はどう?」
僕がそう言うと、その声を聞きつけたのか、綸子ちゃんが姿を現した。
「東条さん!?大丈夫です。しっかりと寝て、お姉ちゃんの栄養満点のおかゆを食べたら、もう元気になりました!」
綸子ちゃんは笑っている。僕はその笑顔にさっきの話題の不安が少しだけだけど、軽くなる。
「それは良かった!明日から学校も行けるね」
「はい!心配してくれてありがとうございます!」
そう言って、綸子ちゃんはキッチンへ行った。どうも、おやつを食べに行ったらしい。
「綸子ちゃん、元気になって良かったね。更紗、通販の方法なのだけど明日教えようか?」
今日、夢衣と一緒にやろうとしていたことを、明日やってみようかと提案してみる。
「うん、でも、部活あるしね。今すぐ欲しいものがあるわけじゃないし。欲しいものが見つかったら、その時に声をかけるね」
その返事に僕は納得して、
「OK。それじゃ、明日はいつも通りで」
と言ったところで、時間は16時を過ぎる。ライナーの無料通話だから特段問題はないんだけど、30分くらい通話してる。
「まあまあ話しちゃったね。また明日も話できるから、また明日にしようか?」
「うん、いいよ。次の週末はいよいよ大会だから、部活もしっかりね」
「勿論だよ!気合い入れて行こう!」
僕たちは、画面に向かってお互いに手を合わせる。一瞬、お互いのスマホの画面はお互いの手のひらで顔が見えなくなる。
「それじゃ、また明日ね。明日も楽しみにしてる。好きだよ、慎吾」
「僕も大好きだよ、更紗。また明日ね」
お互いに「好き」と言って通話を切るのが、ここ最近の僕たちのルーティン。
でも、翌日の朝、僕たちはとんでもないものを見ることになる。
翌朝、いつもの登校路で私と慎吾は昨日の話の続きとばかりに、通販の話をしていた。
「そう言えば、昨日の晩ご飯のあとに、サバンナみてたらさ、この靴のメーカーの…」
と慎吾が言って、自分の履いている靴をクイっと上げる。
「スニーカーがあってさ、結構良い色が安く売っていたのを見つけたんだ。一緒に買わない?何気にちょっと底が減ってきていてね」
そう提案してくれた。もしかしたら、私に通販の手引きをしてくれるためのネタを探してくれたかなと思って、
「うん、いいわね。あ、それって私に通販のやり方を教えるネタとして、靴のことを教えてくれたの?」
慎吾は笑顔で頷いて、
「そうそう。それもあってね、今週は、綸子ちゃんうちに来る週でしょ?だから約束通り、今日うちに寄ってもらっている間に一緒に通販しちゃおうよ」
そう、今週は綸子を慎吾の家で面倒見てもらう予定だった。だからこそ、昨日熱が出た時は行けるのかなぁと不安もあったんだけど、昨日1日で熱が引いたから、慎吾のお母さんに『綸子、朝熱を出したんですが、今は熱も引いて元気になったんです。でも、風邪だと思いますから明日はやめておいて良いですか?』って連絡したら、お母さんから『でも、逆にそれなら一人にする方が不安じゃない?学校に行けるくらい元気になっていたら、うちに寄ってもらっていいし、早退するとなっても、休むになっても、私が迎えに行くから』とものすごく!有り難いお言葉をいただいて、本当に恐縮してしまう。思わず通話してしまい、お父さんに変わってもらって『ありがとうございます。本当に申し訳ありません』とお父さんも恐縮。
そんな私たちに慎吾のお母さんは『全然構いませんよ。もう、みなさんとは家族みたいなものですから』なんて本当に有り難いことを仰ってくださるものだから、通話を切ったあと、本当に3人で慎吾のお母さんの優しさが、私たちのお母さんの優しさとかぶって泣いていた。
そんなこんなで、今朝の綸子は元気いっぱいで、『東条さんのおうちで待ってるね、お姉ちゃん!』と言うので、私は『学校から東条さんのおうちへ行くまでの間も、気をつけてね』と、伝えておいた。勿論、『わかってるよ~』と元気な返事が返ってきた。そして、今に至る。
そんな状態だから、丁度慎吾の家で通販を教えてもらうのは有り難いから、
「うん、わかった。お願いするね。初めてのことをするのって、ドキドキするけど楽しみだな~」
と言って、私も笑う。
「そうだよね、初めてのことをするのはドキドキするよね。僕も楽しみだよ。楽しい時間を二人で過ごすことも含めてね」
「もう、何言うのよ、恥ずかしい…」
周りに人がいないけど、慎吾は私に照れることを言ってくる。
「お~、いつものこととは言え、いつもよりお熱そうだなぁ」
と、背後からかけてくる耳に慣れた声は、矢野くんだ。
「昨日はありがとうございました、慎吾くん。更紗さん、綸子ちゃん、回復されたようで良かったですね」
勿論矢野くんの隣には夢衣ちゃんがいて、昨日のお礼を慎吾に、そして、綸子への気遣いを私に話してくれる。昨日の夜に、綸子が回復したことは報告済みだ。
「夢衣ちゃん、ありがとう」「こちらこそ、礼には及ばないよ」
私と慎吾が夢衣にそれぞれ一言言って、いつものように校門をくぐり、教室へ向かう。
私たちの登校は早いほうなのだけど、それでも、私たちより登校が早い生徒は何人かいるわけで、その生徒たちは白板の前でなにやら見ているようだった。
そして、私たちが入ってくるとそろいもそろって視線を投げかけてきて、その中の一人――植田さんだ――がびっくりした顔で、
「大原さん、これ…」
と私の腕を引いてホワイトボードの前に連れて行かれた。
そこには、1枚の写真。
「なに…これ…?」
私の瞳は釘付けになる。
「夢衣ちゃんと…慎吾?」
二人の顔が見えるんだけど、二人の姿が映っているのは、いわゆる、そういうホテルの前だった。慎吾に抱きつくようにいる夢衣ちゃん。そこから出てきたような雰囲気だ。
「ん?どうした?」
矢野くんを先頭に、ホワイトボードの前に出てくる。
「矢野くん…慎吾、夢衣ちゃん…これは、何だろ?」
矢野くんも、慎吾も、夢衣ちゃんも、その写真を見て沈黙する。
そして、口を開いたのは、慎吾だった。その顔は、あのガチギレを起こした時の顔。
「ああ、そういうことをするんだ…卑怯な真似を…そこまでして、人を陥れて得することなんかないのにな…」
静かに言う慎吾の声には、殺気が籠もっていた。それは、矢野くんも同じだったようで、「夢衣のことも一緒に陥れやがったな…犯人は、誰だ?」
やっぱりね。二人がそんなことをするわけがないもの。
「…何となく分かっちゃった。」
私は二人の怨嗟の声を聞いて、昨日の慎吾との会話が蘇ってくる。
「…?違うの?というか、疑わないの?」
植田さんが目を丸くしながら私に聞いてくる。
「だって、慎吾と夢衣ちゃんって二人して超奥手だもの。こんな目立つ行動はできないと思う。それに、慎吾は私しか見てないから。確かに、昨日は夢衣ちゃんと二人で出かけてる。それは、私も了承してのことだからね」
私はそう言うと、植田さんは、
「すごい信頼だね」
と言うものだから、
「うん、たった半年だけど、そこまでの信頼関係を築いてきたし、もう家族ぐるみでのお付き合いにもなっているからね」
と返すと、「それでも、裏切る奴は裏切るよなぁ」と背後から声がしてきた。
瀬戸くんだ。薄ら笑いを浮かべている。その顔は、これまで見ていた中でも一番醜かった。
「イケメンが台無し…あなたの顔、とっても下品に見える」
思わず、私はそう言ってしまったものだから、瀬戸くんの顔は更に怒りで醜くなる。
「何でだよ…あんな裏切るような真似をする奴を信じるのかよ!?」
そんなことを言われても、私には全然響かない。
「ええ、慎吾のことを信じるよ。あなたと慎吾、どっちが信頼できるかって聞かれたら、即答できるもの。それが、あなたと慎吾の明確な差よ。初対面で、人の容姿に引かれてナンパする人は私は好きじゃないから、その時点で私はあなたのことを信頼していない。この写真を見たところで、これは何か違うとしか思えない」
私は、一気にまくし立てると、慎吾の腕を取る。
「ねぇ慎吾、これは何か作られているんだよね?」
そう問いかけると、慎吾は真剣な顔をして、
「うん、勿論、僕と夢衣の間に、疚しいことは何もないから。二人で出かけたのはちょっと軽はずみだったよね、結果論だけど。どうも、喫茶店の出口で夢衣が転びかけたところを撮られたのは間違いなさそうだ」
と言ってくれる。そして、その横で矢野くんと夢衣ちゃんも、
「夢衣さ、慎吾とは何もないことは信じてるから」「はい、勿論なにもありません。ただ、二人だけで出かけたことは、隙を見せてしまったのかもしれません。この体勢は、慎吾くんの言うとおり、喫茶店の出口で私がつまずいた時に助けてもらった体勢です」
と会話を交わして、私たち自体は何も問題はない。
でも、そんな様子に瀬戸くんは納得いかないようで、
「なんでだよ!こいつらがホテルに行っていたのは事実だろうがよ!なんでそれが間違いだなんて言えるんだ!?」
と大きな声をあげてしまう。その声は廊下まで届いていたようで、理系クラスの子も数人、文系クラスの教室に入ってきて、写真を見てしまう。
「え?こんなことがあったの?」
と、ちょっと眉をひそめる。でも、私たちは、「これ、何かの間違いだと思うのよね」と言って、ホワイトボードから写真を取る。
その写真を慎吾は改めてまじまじと見ていると、
「さっきも言ったとおり、これは喫茶店の出口の写真だと思うよ。それを、何かしらの手段で合成したのかもしれない。」
と慎吾は言う。そして、その言葉に瀬戸くんの表情が少し変わるのを、私は見逃さなかった。
ただ、野次馬はまだ集まってきて収拾がつかなくなってしまい、時間が過ぎていく。
そうこうしているうちに、南東先生がやってきた。
「なんだなんだ!?どうした?」
と教職コースの面々をはじめとする野次馬がたくさんいる状態に先生が戸惑っていると、これをチャンスをいわんばかりに瀬戸くんが、
「先生、不純異性交遊している奴らがいたんで、写真撮りました~」
と言う。南東先生は、目が点になって、
「何だって?」というのがやっと。
「これが証拠です」
と、自分の胸ポケットから写真を取り出した。
ホワイトボードの写真は私が取っていたから、瀬戸くんが写真を複数持っていたようだ。
それって、ばらまくつもりでいたと言うことなんだろうか?
南東先生は、その写真を見て仏頂面になる。そして、
「東条、三上、瀬戸、職員室に来なさい。1限目は自習だ」
と言って、教室を出る。
「え?俺もっすか?」
と瀬戸くんは「何で俺も」という体で聞くけど、
「現場を押さえた人間の証言も大切だからな」
と、南東先生は有無を言わせず瀬戸くんに来るように促した。こういう時の南東先生は、意外と怖いんだよね…。
私は慎吾と夢衣ちゃんに、「大丈夫?」と聞くけど、二人は「ああ、大丈夫」「ええ、大丈夫です」「ただ、更紗も幸弘も呼び出しがあるかもしれないから、その時はよろしく」と慎吾は言って、教室から出て行った。
その前に慎吾は、「先生、もしものためにスマホは持っていて良いですか?先生の許可を得た時しか使いませんので」と言って、許可をもらっていた。それは、夢衣ちゃん、瀬戸くんにも適用してもらっていたのだけど、そんなことよりも私は、
「お願い、二人に何事もありませんように」
と願うことしかできなかった。
そうか、卑怯な真似をする瀬戸には、正直がっかりだ。もっと正々堂々と勝負してくるのかと思ったけど、こんな事で人を陥れようとするのであれば、それは自分がレベルの低い人間であることを証明しているようなものだ。
僕はまず僕自身と夢衣の身の潔白を証明する必要があるのだけど…。
僕と夢衣、瀬戸の3人は、それぞれ職員室に入ったあと、別々の先生――生徒指導部の先生方だ――に連れられて、「生徒相談室①」「生徒相談室②」「生徒相談室③」と書かれた部屋に別々に入れられた。そこで、個別に話を聞くようだ。
…なんだか、警察の取り調べのような雰囲気に、僕の表情は硬くなるけど、夢衣や幸弘、そして何より更紗のためにこんなところでへたれる訳にはいかなかった。
「東条慎吾くんだね。ホテルに入った事実は?」
と、単刀直入に英田先生(生徒指導部長で結構年配だが強面だ)に聞かれたから、僕は堂々と先生の顔を見て、
「ありません」
と答える。英田先生は僕の言動をメモしている。
「証拠の写真があるようだが?」
「そこに移っている僕と夢衣は、確かに抱き合っているように見えますが、それは昨日、夢衣に彼氏である矢野幸弘の誕生日プレゼントについて相談を受けて、喫茶店でその相談に乗り、店を出る時に彼女が転びそうになったのを支えた時の体勢です」
「喫茶店?でも、その写真はホテルだが?」
「合成でもしたのではないでしょうか?ハッキリ言って、ホテルに行っていないことの証明は難しいですね、喫茶店の防犯カメラの画像を見せてもらうようなことはできません。悪魔の証明ですね」
英田先生は、僕の言葉に嘘がないか見極めようと、厳しい顔をして僕の顔を見ているけど、僕もこんなところでひるむわけにはいかないから同じように厳しい顔をして先生を見る。
僕があまりにもハッキリものを言うせいか、英田先生は、
「…本当に、ホテルには入ってないんだな?」
と、もう一度聞くから、僕は、
「勿論です。僕には更紗しかいないのに、どうして裏切らなくちゃいけないんですか?」
と言う。すると、英田先生は、
「じゃあなぜ、三上と二人で会っていたんだ?」
と別の質問をしてくる。
「さっきも言ったとおり、幸弘の誕生日プレゼントを選ぶためです。どんなプレゼントが良いか、彼と趣味が共通し、かつ幼稚園からの幼馴染みである僕に『何を買うと良いか。そして、通販のやり方を教えて欲しい』と相談してくれたので、その相談に乗っただけです。あと、本当は更紗もそこに同席する予定でしたが、妹さんが熱を出してしまったので同席できなくなったんです。嘘だと思うなら、更紗は勿論、幸弘にもその話はしてありますから、二人に話を聞いてください」
僕はそこまで一気に言うと、一つ大きい息をつく。そして、もう一つ続けた。
「それと、夢衣と、迎えに来た幸弘と別れて更紗の家に行こうと思い、彼女の家に向かっていたところ、瀬戸に出会いました。そこで、気になることを言われたんです。
『あまり調子に乗ってると、痛い目遭うかもよ。気をつけろな』と。何か胸に一物持っているような物言いだったので、一言一句覚えています」
英田先生はそこまで僕の話を聞くと、先生も大きく息をついて、
「分かった、二人にも話を聞いてみる。ただ、瀬戸くんの言葉については、どうとでも取れるから、彼が犯人だという確信はないよ」
「もちろん、それは分かっています。誘導するような言い方でした。すみません」
「ああ。その謝罪は、きちんと受け取ったよ。ちょっと行ってくる」
と、教室を出て行こうとしたその時、ピコン!と僕のスマホが鳴る。
「あ、マナーモードにするの忘れていました、すみません。通知だけ見て良いですか?」
と聞くと、先生は「ああ、いいぞ」と言ってくれたので、スマホを取りだして通知を見る。
そこには、「アンドロマップから、タイムラインのお知らせ」という通知が見えた。
そこで、僕の頭に「!」とひらめくものがあった。
「先生!ホテルに行っていない証明、できます。スマホ触って良いですか?先生も一緒に見てください」
そして、スマホを先生の監視の下、とある操作をする。
2分後、「なるほどな、それなら行っていないな。と言うことは、あの写真は…」
「はい、合成ですね。質が悪いと思います。あと、夢衣のスマホもアンドロOSなので、同じようにしてもらえると行っていない証拠が見えると思います。…ただ、夢衣のスマホも同じように設定してもらっていれば、ですが」
僕と英田先生の間に流れる空気は、もう柔らかくなっていた。
「生徒相談室②」に入った私、三上夢衣は、すごく緊張していたけれども、どこか冷静でした。
「生徒指導部の西塔です」
女子バドミントン部の顧問の西塔先生でした。
「よろしくお願いします」
私がそう言うと、
「はい、良い返事ね。さて、え~っと、東条くんとホテルに行った、これは、事実?」
と、早速聞いてきました。
「いいえ、事実ではありません」
私はそう返事をしました。すると、西塔先生は、
「そうよね~そうだと思うのよ。だって、大原さんにぞっこんな東条くんが、そんなことをするはずがないもの」
「…?先生は、疑ってないのですか?」
思わず聞いてしまう。すると、西塔先生はあっけらかんと、
「ええ、三上さん、矢野くん、東条くんは幼馴染みでしょ?そのことも知っているし、今、あなたと矢野くんが付き合っていることも知っているからね。だから、正直疑ってはいないんだけど、これは仕事だから、一応成り行きだけは聞いておくわね」
と、完全に信頼している感じで私の話を聞いて戴いたのです。
私の方から、慎吾くんに幸弘さんの誕生日プレゼントについて相談したこと。
日曜日に本来なら更紗さんも同席してもらって、プレゼントの相談と、通信販売のやり方を教えてもらうことになっていたこと。
でも、更紗さんは綸子ちゃんの発熱に対する看病のために、更紗さんは同席できなかったこと。
あの写真の抱き合っているように見えているシーンは、喫茶店を出る時に私がつまずいてしまって、慎吾くんが助けてくれた時のこと。
「…そういうことで、私と慎吾くんの間には、何もありません。私からは以上です」
私が話を終えると、それまでずっと無言でたまに相槌を打ちながらメモを取っていた西塔先生はうんうん、と頷いてから、
「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。ホント、性格悪いわね。あなたたちみたいなとっても素直で性格の良い子たちを貶めようだなんて、誰なんだろうね」
西塔先生は、プリプリと怒った顔をして呟いていました。
そこで、扉からノックが聞こえました。
「西塔先生、ちょっと」
と言うのは、英田先生でした。
外で何かお話をされているような声が聞こえてきましたが、ほんの2,3分のことで西塔先生が戻ってきます。そこには、英田先生も一緒にいました。
「三上さん、スマホ出してもらっていいかな?」
英田先生が、相談室に入ってきてそう言いました。私は「なぜ?」と思いながら、スマホを出しました。すると、英田先生は、
「じゃあ、今から言うとおりに操作して欲しい」
と言って、私にスマホの操作を促しました。
「アンドロマップのアプリを開いて…」
と、促されるまま、アプリを操作すると、タイムラインというものがあることを私は初めて知りました。
そして、そこから昨日の分を開くと、
「自宅を出て、商店街の入り口、喫茶店、公園、そして、自宅…」
私が昨日訪れた場所がそこに記録されていました。
「?こんな機能があったのですか?」
私は驚いて英田先生に聞きました。
「ああ、東条くんがこのことに気づいてね、君の分も見て欲しいと。ちなみに彼の履歴も、だいたい同じだったよ。三上さん、君はこんな機能があったことを知らなかったようだね?」
と聞かれたので、私は「はい、知りませんでした」と答えました。
英田先生は、「なら、これが無実の証拠になる」と私たちの話に偽りがないことを信じて戴いたようです。
「と、なると、あと一人の彼は、どうなっているのかな?」
英田先生の眼光が鋭くなったような気がしました。
英田先生は僕の聴取部屋から出て行ってから5分位して、戻ってきた。
「三上さんのスマホも調べてきたよ。東条くん、君の履歴とほぼ同じだった」
英田先生の言葉に、僕は、
「と、言うことは…?」
と聞くと、
「ああ、君たちは問題ないね。ただ、一応念のため大原さんと矢野くんにも話を聞いておこう」
と、言われてようやく僕は安心できた。
その後、更紗と幸弘も呼ばれて話をされたようだけど、特に問題はなかったようだ。
結局、1限目だけでは話は終わらず、2限目まで時間はかかってしまった。でも、そのおかげで僕たちの間には何もなかったことが明るみに出て、身の潔白が証明された訳だけど、瀬戸の方は、そうはいかなかったようだ。
瀬戸は春日先生が担当したらしく、後々その時の様子を聞かせてくれた。
「僕は春日。隣のクラスの担任だ。よろしくね」「はい」
このときの瀬戸は、余裕の表情で、椅子にもたれかかっていたらしい。
「早速だけど、このホテルはなんて言うの?」「えっと…覚えてません」
「どうして?確認してないの?」「はい、あまりにも突然だったので写真を取るだけで精一杯でした」
「でも、この看板には『ホテル クイーン』ってあるけど?」「あ、そういう名前でしたか」
そこで、メモを取っていた春日先生は自分のスマホを取りだして、検索をしたようだ。
「『ホテル クイーン』なんて言うホテル、この街にはないようだけど?」
その時の、瀬戸の顔は豆鉄砲を食らったような感じでポカンとしてしまったようだ。
「え?」
「…一番近いところでも、電車で行くしかない距離なんだが、そんなにこの街から離れているところで、偶然に君と二人がいるなんてことがあるかな?」
きわめて冷静に、春日先生は言ってくれたのだ。
「え…あ…はい、二人がそういう話をしているのを聞いて、俺も行ってみたんです」
瀬戸は椅子から一旦腰を上げ、姿勢を正して座り直す。
「でも、その近いところと言うのは本当に片田舎で何もないところだ。万一彼らがそういう行為をするために、目立たないというか、人があまり行くことがないところにしようと考えるのは自然な話だろうが、君はそこにいるというのは何の目的だったのかな?もしかして、尾行していたのかな?」
「はい、そうです」
「それも変な話だよね」
春日先生はメモを見ながら、瀬戸が先生に合わせた話をぶちこわす。
「だってそんな会話、今瀬戸くんが言ったみたいに誰かに聞かれていたらイヤだから、ライナーでひっそり連絡し合うと思うんだけど?聞こえよがしに会話するとは思えないんだよね。特に、あの二人の場合は。東条がそういう所は抜け目ないと思うし、三上は純粋で引っ込み思案すぎて、『ラブホ』という言葉すら口に出して言うことを憚る子だ。それに…」
春日先生は、スマホである事柄を検索して、瀬戸にもう一つ問いかける。
「これって、夜だよね?何時頃?」
「えっと、9時を過ぎていたと思います」
その言葉に、春日先生は声を上げる。
「瀬戸くん、知ってる?ホテルのある街に停まる電車って、終電が21時なんだ。そして、こちらに向かうバスも無い。君はどうやって帰ってきたのかな?昨日の今日で、歩いて帰ってこれる距離じゃないし」
「…親に迎えに来てもらいました」
「…じゃあ、親に連絡して、確認しても良いかな?」
その言葉に、瀬戸はうろたえた様子で、
「え、えっと~今日父は出張で…」
と苦し紛れの言い訳をしたらしい。すると、
「じゃあ、お母さんにお願いするよ」
と春日先生は瀬戸の個人票を見ながら聞いたそうだ。すると、瀬戸は震えてしまったみたいで、
「え、あ…」
と固まってしまったらしい。
その時、英田先生が部屋に入ってきて僕と夢衣の聴取の結果を春日先生に報告する。その結果を知った春日先生は、眉をひそめて瀬戸を見る。
「ふ~む、二人はそんなところへ行った記録がないらしいよ」
瀬戸の顔は一気に紅潮して、
「なんで分かるんですか!?」
と焦った表情で聞いてくる瀬戸に、春日先生は
「スマホの地図アプリに残された訪問場所のログだよ」
と言われ、
「え?何でそんなものがあるんだ?」
なんて放心。
「君も知らなかったんだね。東条くんは知っていたよ。それと、証拠だと言っていた写真は合成なのじゃないかと違和感も持っていたしね」
春日先生はそう瀬戸に告げる。すると瀬戸は、
「あいつが知っていると言うことは、ログの消し方も知っているんだろ!そんなのに先生もだまされてるなんて、どうかしてる!」
と叫んだらしい。たしかに、僕の聴取が終わって暫くしてから大声が聞こえてきた気がしたけど、その声だったのかも。
「瀬戸くん、まあ落ち着きなさい。確かにその可能性はあるかもしれないけど、東条くんは嘘がつけない性格だから、ログを消してまでそういう行為をするとは思えない。それに、彼がこのログに気づいたのはついさっきのことだし、三上さんのスマホに関しても日曜日から当然触ってもいない。三上さんはスマホの扱いに長けているわけではないから、その機能も知らなかったよ。さっきそのことを知って、びっくりしていたからね」
英田先生はそう言って、眼光鋭く瀬戸くんを見る。続けて春日先生が、
「瀬戸くん、君のスマホの中に入っている写真を見せてくれ」
「どうして?」
瀬戸はぎょっとして春日先生を見たらしい。
「無実であるなら、さっと取り出してみせられるよね?二人がホテルに入っていく写真もきちんと単体で写真フォルダに入っている。だよね?」
「何であいつは信用されていて、俺は信用してくれないんですか?これは贔屓だ!不当ですよ!」
と瀬戸は反抗するけど、
「ああ、長い時間をかけてどういう人間かある程度把握している担任をしていた生徒と、転校してきたばかりでこれから見極める生徒で差を作ることはできないよ。でも、現状あの二人にはそう言う事実がないことがほぼ証明されているのに、君はそれと矛盾した写真を持っている。そして、その行為をするのに無理がある場所でとなれば、それはおかしいと思っていけないのかい?」
そう言われて、瀬戸はスマホを取り出す。
その手は震えていて、写真アプリを起動するのも、手が震えて別の所をタップしていたらしい…でもそれは、せめてもの抵抗だったのかも。
そして、開かれた写真アプリには、喫茶店の前で転ぶ夢衣と、支える僕の写真が。そして、アプリの別フォルダ「合成AI」と言うフォルダの中に、同じ状態でホテル前にいる僕たちの写真が入っていて、これがほぼ動かぬ証拠。
AIイラストを作成するアプリで、喫茶店など、周りの風景を透明化、そして、ネットで拾ってきたホテルのイラストに貼り付けて、多少レタッチしたらしい。
「ちょっと、この写真データをこっちに送ってくれ」
「はい…」
もう瀬戸は言いなりになるしかない。彼はそのデータを春日先生が持って来ていた学校用のタブレットに送る。
春日先生はネットを検索して、そのデータをアップロード。
「…やっぱり、フェイク…」
春日先生は問題の画像が生成AIによるフェイク画像であることを、ネットの真偽判定サイトで調べたようだ。そこには、どの部分に加工の痕があって、フェイクであるという判定がされたようだった。アップロードした画像は10分で向こうのサーバから破棄されるから、問題の画像が流出する危険性は低いとのことだった。
僕が感じていた違和感は、そのレタッチ部分だった。あとで改めて見せてもらったのだけど、僕たちの部分だけ、なんだか浮いていた感じに見えたんだよね。ぱっと見は分からなかったかもしれないけど、データを拡大すればすぐに分かるんだ。そして、足下の影。これが、全くなかったのだ。少しの光の下でもできる影が、全くなかったのは不自然だ。
「あ、ああ…」
ねつ造の証拠を見つけられ、真贋もこの場で暴露された瀬戸は、もう顔面蒼白で机に突っ伏すしかなかったみたいだった。
「どうしてこんな事をしたの?」
春日先生が聞くと、もう抵抗する気力もなくなったようで、
「大原の彼氏面している東条のことに本当に腹が立ったから。大原に言い寄ろうとしている時に、邪魔された挙げ句、『自分の方が格好いいし、更紗が僕のものであるべきだとか考えているのなら、それは思い上がりだ。そんな人間には、更紗は絶対になびかない。君は、スタートから間違っている』なんて言われたから、マジで切れてしまった。ふざけんなって思った。あいつがどうやって大原を彼女にしたのかは分からないけど、スタートから間違っているってどういうことなんだよ、あいつだって、大原の顔と身体が目当てなんだろう!だったら、あいつもそんな最低な奴に落としたくなった。だから…」
「ねつ造してまで、東条を貶めたかったと。三上も巻き込んで?」
「…はい。やっぱりそういうのが一番ダメージを与えられると思って…」
すると、春日先生の表情は、怒髪天を衝くような怒り顔になって、
「お前は人として最低だ!ライバルを蹴落とそうとして、他人まで巻き込んで!人を貶めるために自分が堕ちていることに気づかない愚か者だ!」
怒鳴り声が、僕のいる相談室まで響いてきた。
「東条が大原の顔と身体が目当て?ああ、確かに一目惚れだったらしいな。俺があいつと大原を隣同士にしたんだが、お前みたいに言い寄ろうとはしなかったぞ。必要なことを必要なときに話すだけ。初めての教員の授業のやり方に対する説明をしたり、クラスメイトの計らいで放課後に校内探索したりしたらしいが、その時も言い寄ったりせず、必要なところへ、必要なことを話していたってさ。だから、『スタートから間違っている』という東条の台詞は、まさしくその通りなんだ。」
「…」
瀬戸は、春日先生の言葉に『そんな奴いるわけないだろ』と小声でつぶやいたようだけど、「それはお前の偏見だ。そういう浅はかな考えだから、そんな短絡的なやり方を思いつくしかなかったんだろう?時間をかけて、自分がいい男だと言うことを態度で示していれば、クラスメイトからの信頼を早くに構築できたと思うがね」
の春日先生の一言で瀬戸はうなだれたそうだ。
「ああ、確定なんですね…」
春日先生の怒鳴り声が聞こえてきた僕は思わず呟いてしまうと、一緒にいた英田先生は、「やっぱりそう言うことだったんだな…写真のねつ造って、普通に犯罪だし、それに三上と一緒に貶めたことは、まずいよな…」と呆れ顔。
「ですね…」
僕も英田先生に同意する。夢衣が社長令嬢と言うことは知らないのだろう。それも、建築デザイン系らしく、色々顧客と話をしたりする中で揉まれたと夢衣のお父さんから聞いたことがあるから、こういう行為に出るような人間に対しても、何かしらの反応を示すのではないかと思う。
「瀬戸、成仏しろよ」
僕は最後にそう呟いた。
それから、すぐに学年集会が開かれ、今回は写真だけ、それも小さい範囲だけですんだからまだましだったとは言え、犯罪行為だし、これをSNSで拡散したらそれこそ炎上した挙げ句、「デジタルタトゥー」として僕と夢衣(集会では、該当生徒と言うことで実名は出されなかったんだけど、噂はあっという間に広まっていた)は一生消せないデータに悩まされること、それは勿論、拡散した犯人にも言えるということ。そういったことを注意された。
教職コースや、ITテクニカルコースの生徒はさも当然というように受け止めていたけど、 ファッションビューティーコースの生徒をはじめ、陽キャの多いコースは「え?マジで?」「もしかしたら、やっちゃいけないことやってたかも!?」みたいな反応をする生徒が少なくなく、今ここで注意されて良かったのだろう。
放課後、僕たちは部活をする気力がなく、休むことにした。
アンケートに「欠席」としてから芹沢に「すまん、大会前だけど今日は休ませてくれ」とメッセージを送ったら、彼も、「今日は休んでもらおうと思ったよ」と有り難い言葉をくれたので、甘えさせてもらった。それは、幸弘、夢衣も同じだったようで、下校前に誰もいなくなった文系クラスで少し話をする。
「いや、何事もなくて良かったよ。さすがに、あんなことをしてくるなんてね」
「でも、杜撰で稚拙だったな」
僕の言葉に幸弘が反応する。そして夢衣は、
「魔が差したんでしょうね。チャンスと思って後先考えずにしてしまったのではないでしょうか?」
と言い、更紗は夢衣の言葉に頷きつつも、
「それでも、やって良いことと悪いことがあるよね。瀬戸くんは、一線を越えてしまった。人としてダメな方へね」
と眉をつり上げて言う。僕たちはその言葉に大きく頷いた。
「さ、それじゃ帰ろう。今日はなんか疲れたよね」
更紗の言葉に、もう一度僕たちは頷いて、
「かえろかえろ」「ゆっくり休みましょう」
と幸弘と夢衣は立ち上がる。
続いて僕と更紗も立ち上がって、教室を出た。
そして疲れてはいたけれども、僕と更紗は僕の家に帰って朝の約束を実行する。
「まずは、サバンナの会員登録ってしてある?」
僕が聞くと、更紗は頷いて、
「お父さんに家族会員としてを登録してもらったよ」
「なら、話は早い。アプリはインストールした?」
「うん、ログインまでは終わらせてあるよ」
おお、なかなかにアグレッシブ。僕は、
「よっし、じゃ、朝に話したスニーカーの検索してみよう」
「うん」
そして更紗は、スニーカーのメーカーと、サイズを入力して検索する。
「これだね」
元々安くなっているのに、更にタイムサービスの表示があって、更に1000円ほど安くなっていた。
「これをカートに入れて、支払いすれば良いんだよね?」
更紗がそう僕に聞くので、僕は頷いて、
「うん、そうだよ。あとは支払い方法なんだけど…スマホ決済か、コンビニ払いかな?」
「そうね、コンビニ払いにする。タイミングが合えば帰りにコンビニ寄れるでしょ?」
「そうだね」
僕はもう一回頷いて、更紗が「注文確定」のボタンをタップするところを見る。
うん、問題ないね。
「よし、これであとはメールが来るのを確認して支払いをすれば、今日の買い物は終わりだよ」
僕が言うと、更紗は「はぁ~~~」と大きく一つ、息を吐いて、
「あ~緊張した」
って言って、わざとらしくテーブルに突っ伏す姿が可愛くて。
「あとは、コンビニで支払いするだけね」
と言う更紗に僕は頷いて、
「そうだね。ご飯食べている間に支払い番号がメールで来ると思うから、食べちゃおう」
「うん、分かった」
そして、綸子ちゃんや僕の家族も交えて、みんなで食事をして、僕は更紗と綸子ちゃんを家まで送る。予想通り、夕食時に更紗の元に届いた1本のメールを開いてコンビニに行き、支払い番号を機械に入力してレシートを出し、レジへ持って行く。
そして、支払いを済ませて3人で一緒に帰る。綸子ちゃんも3年生だ。基本的に、2年生とメンバーは同じだから真新しいことはないようだけど、転校して半年になって、クラスの女子とは大分仲良くなり、男子とも話せる子が増えてきたらしい。その中で、告白されることもあったみたいだけど、
「でも、ちゃんと人を見て判断してる。東条さんのような人に巡り会いたいから、受験もあるけど人間観察もしていこうかなって」
なんて言う。だから、僕と更紗は二人して、
「人間観察か…綸子ちゃんって、心理士とかカウンセラーとか、向いているかもしれないね」
なんて言って、「からかわないでよ~」と笑う綸子ちゃんを見て、「今日の疲れが吹き飛ぶね」とちょっと深刻な顔で僕たちは言ってしまったものだから、綸子ちゃんは敏感に反応して、
「何かあったんだね」
と厳しい顔をして言うから、そのことについては後日話をすることにして納得してもらってこの日は幕を閉じた。
更に翌日、瀬戸は、学校に来なかった。
どうも、自宅謹慎を言い渡されたようで、更紗は主のいない机を見て、少しホッとしたらしい。
この話は、当然教職コース2クラスに伝わり、そこを拠点にジワリと噂は広まっていく。
「この話って、夢衣はお父さんにした?」
部活のあと、夢衣と幸弘が僕たちを待っていてくれた。僕が聞くと、夢衣は「はい」と頷いて、
「勿論、話をすることにしました。お父様は、顔を真っ赤にして怒っていました」
「ああ、僕の父さんも怒っていたよ。今回は悪質だから、普通に被害届出すかもしれないな」
僕はそう言って、夢衣の反応を見る。
「ええ、お父様もそのつもりだそうです。さらに、名誉毀損で訴えようとしています。そこまではやりすぎのような気がしますけど」
そこに幸弘が話に加わる。
「まぁ、正直夢衣の彼氏としては、そこまでやっても良いと思うよ。俺の彼女も慎吾と一緒に貶めてくれたのだから、それ相応の償いはしてもらおうと思っているぞ」
夢衣も更紗も、その言葉に目を見開いて、
「そう、ですね…確かに、そうなのでしょう。でも、やり過ぎな気もします」
「それと、瀬戸くんは、どうなるんだろう?」
と口々に言うけど、僕は、
「夢衣、君は優しいからそう言うのは分かるけど、一つ間違えたら僕たちは後ろ指を指されながら残りの高校生活、いや大学生活を送ることになったかもしれない。そして、卒業できたとしても、教職に就けないかもしれない、それだけの威力を、あの写真は持っていた。そんな写真をねつ造するのは、やっぱり人としてあり得ない。相応の報いを受けるべきだと、僕は思うよ」
と言い、幸弘も、
「…それにな、夢衣。下手をすると、俺と夢衣、慎吾と大原の人生にも影を落とす可能性があることだ。今回のことはさすがに許せないよ」
と厳しい表情で言うものだから、更紗も夢衣も、「…そうだよね」と言うことしかできなかった。
後日、うちと三上家の連名で、警察に名誉毀損の被害届を出して受理してもらったけれども、最終的には示談にした。甘いかもしれないけど、瀬戸は1週間の謹慎中に、教職コースから普通コースへのコース変更を打診され、受け入れた。そして、教職コースへの立ち入りを禁止された。
それもあって暫くは、瀬戸は色々と言われたし、それで彼はげっそりと痩せた。それでも、不登校にならずに毎日歯を食いしばっていたし、僕たちに謝罪文も書いていた。そんな姿にほだされたのもあるんだけど、瀬戸の両親からも謝罪があって、それ以上追求することは三上家と話し合いをした上で止めた。
十分反省しているし、あんな姿見たらほだされる。アレが演技だとしたら、ある意味本当にすごいからね。
これは後日談だけど、普通クラスの生徒からも後ろ指指されていたらしい。でも、一つ一つの物事に真摯に受け答えするようにするうちに、クラスメイトからの信頼も徐々に戻ってきて、1学期が終わる頃には、普通に生活することができるようになっていた。
もう一つ言うと、高等部卒業の少し前、たまたま廊下で瀬戸に会った時に、「最初は色々あったけど、よく持ち直したよな」と話しかけたら、「あのあと、自分に正直になると言うことが、単なる我が儘を通すことじゃなくて、折り合いをつけることだと分かったから、かな。あとは、お前たちに迷惑をかけた申し訳なさもあったし、親から「お前は自分のやったことをきちんと身にしみるように学校に行け、休むことは許さない」と言われて…じゃないと勘当って言われたからね…さすがに行くしかなかったけど、それで行って白い目で見られて、それも当たり前と思ったら、今、自分にできることをやろうと自然に思ったよ。で、クラスで色々やっていくうちに、みんなが普通に接してもらうことができるようになって、ああ、東条の言っている事って、こういうことなんだなって実感した。だから、お前には感謝してもしきれない。ありがとう」なんて言われてしまって、ちょっと照れてしまい、更紗に「慎吾、やるじゃん!」って肘鉄食らったなぁ…
そんな訳で、この事件は終わった…と思う。しばらくは、僕たちの周りも少しばかりざわざわしていたけど、事実無根の噂はすぐにかき消されていった。
3年生が始まって10日くらい、こんな感じでとっても疲れたし、更紗も幸弘も、夢衣も、神経が張っていた毎日からようやく解放されて穏やかな1日を過ごせていたんだけど…。
一難去ってまた一難。大会終了後の部活から、また僕と更紗は頭を悩ませることになった。
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コメント
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コメントを書く鳥原波
ありがとうございます!今回は結構どうするか悩みましたが、こういう形での決着になりました。瀬戸も根は悪くないが、感情的になると後先考えなかったので、これから直して卒業に至ります。次もライバルがらみになります。どうなるかお楽しみに~
ノベルバユーザー617419
春日先生カッケェー!刑事さんみたい☆
今回は学生あるあるがいぃ~っぱいあって首コクコクさせて読みました。
慎吾と夢衣が店出るとき「飲み物をちゅ~っと飲み干し」←学生さんみんなするよねwとかね
あと瀬戸の父親!【親として】の重く響くセリフ!素晴らしい☆
後日談の話でも瀬戸が「ありがとう」と言える人間になれて良かった