アルヴェル・オンライン
6話
『リスポーン地点が『始まりの街』の宿屋に更新されました!』
『リスポーン地点は、宿屋や特定の場所を訪れる事によって更新されます。新しい街に着いたら、リスポーン地点を更新する事を忘れないようにしましょう!』
『次の目的地は『雉鳴きの村』にある『雉鳴きの祭壇』です! レベル上げ、装備更新をしてから挑みましょう!』
======================
アイビス
“拳闘士” Lv6
右手:サラマンドラ・グローブ
STR +18
火傷耐性
左手:サラマンドラ・グローブ
STR +18
火傷耐性
頭部:呪い状態のため装備不可
胴体:旅人のローブ
VIT +1
脚部:旅人のズボン
VIT +1
履物:旅人のサンダル
AGI +1
装飾:怒れる蜥蜴の黒き炎
AGI +10
頭部装備に対する呪い付与
火傷耐性
特殊スキル【ヘル・ブレイズ】
:装備無し
:装備無し
残りステータスポイント 0
STR 1
INT 0
VIT 0
MND 0
AGI 1
LUK 0
所持スキル
【受け流し:拳 Lv2】打属性 常時発動スキル
獲得条件
相手の攻撃を1回受け流す。
効果
受け流し時におけるノックバックの軽減。
【貫手 Lv2】貫属性 常時発動スキル
獲得条件
貫手を使用する。
効果
貫手で攻撃した際のダメージアップ。
【衝撃波:拳 Lv2】打属性 任意発動スキル
獲得条件
拳闘士をLv3にする。
効果
攻撃時に衝撃波を発生させる。
【ヘル・ブレイズ】火属性 任意発動スキル
獲得条件
『怒れる蜥蜴の黒き炎』を装備した状態にする。
効果
使用者の頭部及び両腕に『黒炎』を付属する。
頭部・両手から『黒炎』を放つ事ができる。
通常攻撃時・『黒炎』による攻撃時、稀に攻撃対象を『火傷状態』にする。
『黒炎』の威力は使用者のINT・怒りに依存する。
======================
======================
ラーク
“地術師” Lv7
右手:柏木の長杖
INT +2
左手:装備無し
頭部:装備無し
胴体:レザーローブ
VIT +2
脚部:レザースカート
VIT +2
履物:レザーシューズ
VIT +1
AGI +2
装飾:アース・ネックレス
土属性による与ダメージ増加
:装備無し
:装備無し
残りステータスポイント 0
STR 0
INT 2
VIT 0
MND 1
AGI 0
LUK 0
所持スキル
【アースド・バレット】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師を選択する。
効果
四発の土の弾丸を放つ。
攻撃対象は最大四体。
威力は使用者のINTに依存する。
【ヒール】聖属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv3にする。
効果
対象のHPを回復する。
回復量は使用者のINTに依存する。
【アースド・ウォール】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv5にする。
効果
任意の場所に土の壁を発生させる。
耐久力は使用者のMNDに依存する。
======================
宿屋にてお互いのステータスを確認し合ったアイビスとラーク。ラークの所持スキルはサラマンダーと戦った時に聞いた通り。ステータスポイントは魔法攻撃力と魔法防御力に振っている。後衛向きのステータスだ。
対するアイビスのステータスは、装備の効果もあって物理アタッカー。俊敏性にもステータスが振られており、また【ヘル・ブレイズ】という魔法が使えるため、遊撃向きのステータスだろう。
とりあえず『マップ』を確認し、次の街に向かう事にした二人は、『始まりの街』を出て『ステップ草原』にある『雉鳴きの村』に向かっていた。
「──うわぁ……す、すごく綺麗な草原ですねっ……!」
「ですね。『雉鳴きの村』までは真っ直ぐみたいなんで、迷う事もなさそうです」
「そ、そうなんですね。アイビスさんがいてくれて助かります」
「と言っても……まあ、モンスターはいるみたいですけどね」
「……み、みたいですねっ」
隣に並んで歩くラークが歩みを止め、木製の長杖を出して身構える。
アイビスも装備している『サラマンドラ・グローブ』をオブジェクト化させ、進路を阻むモンスターの群れに視線を向けた。
──緑色の体色に、頭から生えた短い角。身長はアイビスの半分程度、手には木製の棍棒を持っている。
ゴブリン──モンスターの頭上に表示された名前を見て、アイビスはコキッと首を鳴らした。
「ゴブリン、数は5匹……とりあえず俺が突っ込むんで、ラークさんは魔法で援護をお願いします」
「わ、わかりましたっ」
「それじゃ──行きますッ!」
グッと足に力を込め──ゴブリンの群れに向かって駆け出す。
『怒れる蜥蜴の黒き炎』により強化された俊敏性は、サラマンダーと戦った時のアイビスのは比べ物にならず──瞬く間にゴブリンの群れの前に移動したアイビスは、腰を捻って拳を放った。
「──【衝撃波】ッッ!!」
「ギャギッ──?!」
「ガギッ──?!」
ゴブリンの顔面に拳を叩き込み、すかさず【衝撃波】を発動。
周りにいたゴブリン諸共、HPがゼロになる。
これが、アイビスが入手した装備の力──『サラマンドラ・グローブ』の物理攻撃力か。
「……一撃か。油断はできないけど、しばらくは余裕そうだな」
「えっ──うぇ?! な、なんで?! 一撃ですか?!」
「みたいですね。さすがサラマンダーの装備、苦労した甲斐がありましたよ」
「サラマンダーの装備って、そんなに強いんですか? す、すごいですねぇ……」
アイビス的には、新しく獲得した【ヘル・ブレイズ】というスキルを使ってみたいのだが……【衝撃波】の余波で倒せる相手に使うのは、何というか……こう言っては何だが、可哀想というか卑怯な気がする。
強者との戦いを経験し、ステータス・装備共に強くなったアイビスは、正直に言うならば慢心していた。
サラマンダーと戦った時にも、自分の古武術は通用していた。サラマンダーの武器を装備しているおかげで、『ステップ草原』のモンスターも一撃で倒す事ができる。
アイビス──鴇坂 輝樹は、自分の培ってきた古武術を信じ切っていた。人生の半分以上を費やしてきた八極拳が最強だと慢心していた。
この後──想像を絶するような強敵と出会うとも知らずに。
─────────────────────
──『ビギナーズ・フォレスト』。
『アルヴェル・オンライン』をプレイし始めた者が配置される初心者マップ。初心者を脱したプレイヤーは、経験値が低いからと訪れる事はない。中堅プレイヤーでも忘れてしまうような、印象の薄いマップ。上級者や熟練者ですら、良いドロップアイテムがないと割り切るようなマップ。
そんなマップに、誰がどう見ても上級者だと言うようなプレイヤーの姿があった。
「……『ビギナーズ・フォレスト』にポップしていたと聞いていたが……見当たらないな」
──白銀の鎧。背中に背負った邪竜の大剣。マントに刻まれた、剣が交差したギルドマーク。
一人で歩いていた鎧の男は、マップを表示して兜の下で目を細めた。
──『アルヴェル・オンライン』において、四大ギルドの一つと称される《神聖騎士団》。
ギルドに所属している全員がギルドマークの入ったマントを付けなければならないというルールがあるこのギルドは、『アルヴェル・オンライン』において最強と称されるギルドでもある。
「──団長! サラマンダーと思われる戦闘痕跡を発見しました!」
「そうか。どこだ?」
団員らしきプレイヤーに連れられて、団長と呼ばれた鎧の男が『ビギナーズ・フォレスト』の奥へと歩みを進める。
──木々が焼け落ちた戦場。そこにはプレイヤーやモンスターの姿はなく、激戦の痕跡を残すのみ。
団員たちが付近を探索する中、団長と呼ばれた男は兜の下で怪訝そうに眉を寄せた。
「……黒炎……ここにいたのは、二つ名持ちのサラマンダーに間違いないか」
『アルヴェル・オンライン』には、二つ名持ちのモンスターというのが存在する。
普通のモンスターとは一線を画す力を持っており、何も知らない状態で挑めば返り討ちに遭う事すらある──それほどまでの力を持っているのだ。
とはいえ、HPや耐久力は普通のモンスターと同等のため、対策していればそこまで脅威でもない。
まだ燃えている黒い炎を見て、団長は辺りを見回した。
「だが、ここまでの惨状……一撃で討伐した感じではない。という事は……いや、まさか──」
──『精霊の訪れ』。それは、初心者でも勝てるような精霊というモンスターが、ランダムポップするイベント。精霊のポップ数には限りがあり、一日十匹しかポップしない。
初心者でも勝てるとされているが、それは精霊に対する知識を身に付け、最低限の対策を行えば勝てる、という意味だ。『アルヴェル・オンライン』を始めたばかりで初期装備しか持っていない初心者では、間違いなくやられてしまう。
「……おい」
「はい?」
「『ビギナーズ・フォレスト』に精霊がポップする、という情報を掴んだのは我々が最初だよな?」
「そのはずッスけどねぇ」
「そうか……お前はこの惨状、どう思う?」
「この感じだったら、初心者プレイヤーが討伐したんじゃないッスか? 中堅プレイヤーにもなれば精霊は一撃で充分なので、炎を使われる前に倒せるはずですし。と言っても、わざわざ『ビギナーズ・フォレスト』にいる初心者プレイヤーなんていないでしょうから、『アルヴェル・オンライン』を始めたばっかの初心者って事になるんスかね?」
飄々とした態度でアクビを漏らす、白い羽衣を纏った青年。その背中には、ギルドマークの入ったマントが装備されている。《神聖騎士団》の副団長と呼ばれているプレイヤーだ。
「今日は二つ名の個体がポップする日だったよな? 二つ名持ちの精霊を、『アルヴェル』を始めたばかりの初心者が討伐できるか?」
「相性が良かったら勝てるんじゃないです? サラマンダーが相手なら……“槍使い”か“弓使い”、あと“地術師”とか。と言っても、始めたばかりのプレイヤーが二つ名持ちを討伐するなんて、普通じゃ考えられないッスけど」
「……そうだな」
「まあ、現実で武道とか格闘術をしてたプレイヤーなら、あり得ない話でもないんじゃないです? 『アルヴェル・オンライン』じゃ、現実での経験を活かして強くなる──なんて、珍しくもないッスからね。どうします? この感じだと『ビギナーズ・フォレスト』の精霊は倒されてるみたいですし、引き返します?」
「そうするか。帰還のメッセージを送信しておいてくれ」
「了解ッス」
──炎の精霊 サラマンダー。その二つ名個体、黒炎のサラマンダー。
『アルヴェル・オンライン』を始めたばかりのプレイヤーが、黒炎のサラマンダーを討伐した──その事実に、団長は薄く笑った。
「強いな。いつか会ってみたいものだ」
『リスポーン地点は、宿屋や特定の場所を訪れる事によって更新されます。新しい街に着いたら、リスポーン地点を更新する事を忘れないようにしましょう!』
『次の目的地は『雉鳴きの村』にある『雉鳴きの祭壇』です! レベル上げ、装備更新をしてから挑みましょう!』
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アイビス
“拳闘士” Lv6
右手:サラマンドラ・グローブ
STR +18
火傷耐性
左手:サラマンドラ・グローブ
STR +18
火傷耐性
頭部:呪い状態のため装備不可
胴体:旅人のローブ
VIT +1
脚部:旅人のズボン
VIT +1
履物:旅人のサンダル
AGI +1
装飾:怒れる蜥蜴の黒き炎
AGI +10
頭部装備に対する呪い付与
火傷耐性
特殊スキル【ヘル・ブレイズ】
:装備無し
:装備無し
残りステータスポイント 0
STR 1
INT 0
VIT 0
MND 0
AGI 1
LUK 0
所持スキル
【受け流し:拳 Lv2】打属性 常時発動スキル
獲得条件
相手の攻撃を1回受け流す。
効果
受け流し時におけるノックバックの軽減。
【貫手 Lv2】貫属性 常時発動スキル
獲得条件
貫手を使用する。
効果
貫手で攻撃した際のダメージアップ。
【衝撃波:拳 Lv2】打属性 任意発動スキル
獲得条件
拳闘士をLv3にする。
効果
攻撃時に衝撃波を発生させる。
【ヘル・ブレイズ】火属性 任意発動スキル
獲得条件
『怒れる蜥蜴の黒き炎』を装備した状態にする。
効果
使用者の頭部及び両腕に『黒炎』を付属する。
頭部・両手から『黒炎』を放つ事ができる。
通常攻撃時・『黒炎』による攻撃時、稀に攻撃対象を『火傷状態』にする。
『黒炎』の威力は使用者のINT・怒りに依存する。
======================
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ラーク
“地術師” Lv7
右手:柏木の長杖
INT +2
左手:装備無し
頭部:装備無し
胴体:レザーローブ
VIT +2
脚部:レザースカート
VIT +2
履物:レザーシューズ
VIT +1
AGI +2
装飾:アース・ネックレス
土属性による与ダメージ増加
:装備無し
:装備無し
残りステータスポイント 0
STR 0
INT 2
VIT 0
MND 1
AGI 0
LUK 0
所持スキル
【アースド・バレット】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師を選択する。
効果
四発の土の弾丸を放つ。
攻撃対象は最大四体。
威力は使用者のINTに依存する。
【ヒール】聖属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv3にする。
効果
対象のHPを回復する。
回復量は使用者のINTに依存する。
【アースド・ウォール】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv5にする。
効果
任意の場所に土の壁を発生させる。
耐久力は使用者のMNDに依存する。
======================
宿屋にてお互いのステータスを確認し合ったアイビスとラーク。ラークの所持スキルはサラマンダーと戦った時に聞いた通り。ステータスポイントは魔法攻撃力と魔法防御力に振っている。後衛向きのステータスだ。
対するアイビスのステータスは、装備の効果もあって物理アタッカー。俊敏性にもステータスが振られており、また【ヘル・ブレイズ】という魔法が使えるため、遊撃向きのステータスだろう。
とりあえず『マップ』を確認し、次の街に向かう事にした二人は、『始まりの街』を出て『ステップ草原』にある『雉鳴きの村』に向かっていた。
「──うわぁ……す、すごく綺麗な草原ですねっ……!」
「ですね。『雉鳴きの村』までは真っ直ぐみたいなんで、迷う事もなさそうです」
「そ、そうなんですね。アイビスさんがいてくれて助かります」
「と言っても……まあ、モンスターはいるみたいですけどね」
「……み、みたいですねっ」
隣に並んで歩くラークが歩みを止め、木製の長杖を出して身構える。
アイビスも装備している『サラマンドラ・グローブ』をオブジェクト化させ、進路を阻むモンスターの群れに視線を向けた。
──緑色の体色に、頭から生えた短い角。身長はアイビスの半分程度、手には木製の棍棒を持っている。
ゴブリン──モンスターの頭上に表示された名前を見て、アイビスはコキッと首を鳴らした。
「ゴブリン、数は5匹……とりあえず俺が突っ込むんで、ラークさんは魔法で援護をお願いします」
「わ、わかりましたっ」
「それじゃ──行きますッ!」
グッと足に力を込め──ゴブリンの群れに向かって駆け出す。
『怒れる蜥蜴の黒き炎』により強化された俊敏性は、サラマンダーと戦った時のアイビスのは比べ物にならず──瞬く間にゴブリンの群れの前に移動したアイビスは、腰を捻って拳を放った。
「──【衝撃波】ッッ!!」
「ギャギッ──?!」
「ガギッ──?!」
ゴブリンの顔面に拳を叩き込み、すかさず【衝撃波】を発動。
周りにいたゴブリン諸共、HPがゼロになる。
これが、アイビスが入手した装備の力──『サラマンドラ・グローブ』の物理攻撃力か。
「……一撃か。油断はできないけど、しばらくは余裕そうだな」
「えっ──うぇ?! な、なんで?! 一撃ですか?!」
「みたいですね。さすがサラマンダーの装備、苦労した甲斐がありましたよ」
「サラマンダーの装備って、そんなに強いんですか? す、すごいですねぇ……」
アイビス的には、新しく獲得した【ヘル・ブレイズ】というスキルを使ってみたいのだが……【衝撃波】の余波で倒せる相手に使うのは、何というか……こう言っては何だが、可哀想というか卑怯な気がする。
強者との戦いを経験し、ステータス・装備共に強くなったアイビスは、正直に言うならば慢心していた。
サラマンダーと戦った時にも、自分の古武術は通用していた。サラマンダーの武器を装備しているおかげで、『ステップ草原』のモンスターも一撃で倒す事ができる。
アイビス──鴇坂 輝樹は、自分の培ってきた古武術を信じ切っていた。人生の半分以上を費やしてきた八極拳が最強だと慢心していた。
この後──想像を絶するような強敵と出会うとも知らずに。
─────────────────────
──『ビギナーズ・フォレスト』。
『アルヴェル・オンライン』をプレイし始めた者が配置される初心者マップ。初心者を脱したプレイヤーは、経験値が低いからと訪れる事はない。中堅プレイヤーでも忘れてしまうような、印象の薄いマップ。上級者や熟練者ですら、良いドロップアイテムがないと割り切るようなマップ。
そんなマップに、誰がどう見ても上級者だと言うようなプレイヤーの姿があった。
「……『ビギナーズ・フォレスト』にポップしていたと聞いていたが……見当たらないな」
──白銀の鎧。背中に背負った邪竜の大剣。マントに刻まれた、剣が交差したギルドマーク。
一人で歩いていた鎧の男は、マップを表示して兜の下で目を細めた。
──『アルヴェル・オンライン』において、四大ギルドの一つと称される《神聖騎士団》。
ギルドに所属している全員がギルドマークの入ったマントを付けなければならないというルールがあるこのギルドは、『アルヴェル・オンライン』において最強と称されるギルドでもある。
「──団長! サラマンダーと思われる戦闘痕跡を発見しました!」
「そうか。どこだ?」
団員らしきプレイヤーに連れられて、団長と呼ばれた鎧の男が『ビギナーズ・フォレスト』の奥へと歩みを進める。
──木々が焼け落ちた戦場。そこにはプレイヤーやモンスターの姿はなく、激戦の痕跡を残すのみ。
団員たちが付近を探索する中、団長と呼ばれた男は兜の下で怪訝そうに眉を寄せた。
「……黒炎……ここにいたのは、二つ名持ちのサラマンダーに間違いないか」
『アルヴェル・オンライン』には、二つ名持ちのモンスターというのが存在する。
普通のモンスターとは一線を画す力を持っており、何も知らない状態で挑めば返り討ちに遭う事すらある──それほどまでの力を持っているのだ。
とはいえ、HPや耐久力は普通のモンスターと同等のため、対策していればそこまで脅威でもない。
まだ燃えている黒い炎を見て、団長は辺りを見回した。
「だが、ここまでの惨状……一撃で討伐した感じではない。という事は……いや、まさか──」
──『精霊の訪れ』。それは、初心者でも勝てるような精霊というモンスターが、ランダムポップするイベント。精霊のポップ数には限りがあり、一日十匹しかポップしない。
初心者でも勝てるとされているが、それは精霊に対する知識を身に付け、最低限の対策を行えば勝てる、という意味だ。『アルヴェル・オンライン』を始めたばかりで初期装備しか持っていない初心者では、間違いなくやられてしまう。
「……おい」
「はい?」
「『ビギナーズ・フォレスト』に精霊がポップする、という情報を掴んだのは我々が最初だよな?」
「そのはずッスけどねぇ」
「そうか……お前はこの惨状、どう思う?」
「この感じだったら、初心者プレイヤーが討伐したんじゃないッスか? 中堅プレイヤーにもなれば精霊は一撃で充分なので、炎を使われる前に倒せるはずですし。と言っても、わざわざ『ビギナーズ・フォレスト』にいる初心者プレイヤーなんていないでしょうから、『アルヴェル・オンライン』を始めたばっかの初心者って事になるんスかね?」
飄々とした態度でアクビを漏らす、白い羽衣を纏った青年。その背中には、ギルドマークの入ったマントが装備されている。《神聖騎士団》の副団長と呼ばれているプレイヤーだ。
「今日は二つ名の個体がポップする日だったよな? 二つ名持ちの精霊を、『アルヴェル』を始めたばかりの初心者が討伐できるか?」
「相性が良かったら勝てるんじゃないです? サラマンダーが相手なら……“槍使い”か“弓使い”、あと“地術師”とか。と言っても、始めたばかりのプレイヤーが二つ名持ちを討伐するなんて、普通じゃ考えられないッスけど」
「……そうだな」
「まあ、現実で武道とか格闘術をしてたプレイヤーなら、あり得ない話でもないんじゃないです? 『アルヴェル・オンライン』じゃ、現実での経験を活かして強くなる──なんて、珍しくもないッスからね。どうします? この感じだと『ビギナーズ・フォレスト』の精霊は倒されてるみたいですし、引き返します?」
「そうするか。帰還のメッセージを送信しておいてくれ」
「了解ッス」
──炎の精霊 サラマンダー。その二つ名個体、黒炎のサラマンダー。
『アルヴェル・オンライン』を始めたばかりのプレイヤーが、黒炎のサラマンダーを討伐した──その事実に、団長は薄く笑った。
「強いな。いつか会ってみたいものだ」
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