アルヴェル・オンライン
1話
「──そんでよ! マジで終わったーって思ったら、ギルメンがたまたま近くにいたみたいで助けてくれてさ! いやーマジでギリギリだったぜ!」
──『県立 玄武高校』の二年一組。放課後なのに、まだ残っている生徒がいた。
ボウズ頭の少年が、楽しそうに昨日プレイしていたゲームの内容を話している。
「へぇ……何だっけ、そのイベントって?」
「『精霊の訪れ』ってイベント! 精霊ってモンスターがマップにランダムポップするから、それを倒すってイベントだな! 精霊がポップする数は限りがあるし、初心者でも勝てるようなレベルに調整してあるから、みんな必死に精霊を狩ってんだよ! ドロップアイテムも多いし、金策にもなるしな!」
「……で? その精霊を狩ってる時に死にかけたのか?」
「たまたま精霊の近くに高レベルのモンスターがいてなー。ま、何とかなったからよかったけど!」
ボウズ頭の少年が話しているのは、『アルヴェル・オンライン』というゲームだ。
『アルヴェル・オンライン』はフルダイブ型のVRRPGで、プレイヤーの間では『アルヴェル』の愛称で親しまれている。
現代において『アルヴェル・オンライン』を知らない者はいないと言われている、超有名ゲームだ。
「ってか、そろそろテルも『アルヴェル』始めろよー。この学校で『アルヴェル』してないの、お前くらいだぞ?」
「別にそこまで興味ないしなぁ……」
「いやいやいや! 始めてみればハマるって! お前いっつも休日筋トレとかランニングばっかじゃん! 趣味の一つくらい持てって!」
「筋トレもランニングも立派な趣味だろ。バカにすんな」
「そんだけトレーニングしてんなら、部活でもすりゃいいのによ」
「しょうがないだろ。うちの高校には古武術部とかねぇんだし」
ボウズ頭に絡まれているのは、鴇坂 輝樹。幼い頃から中学卒業まで古武術を習っていた少年だ。
休日や空いている時間には筋トレとランニング。それ以外はスマホでゲームをしたり動画を見たりして過ごしている。
この高校おいて、スマホゲームをしている生徒は輝樹くらいだろう。輝樹以外の生徒は『アルヴェル・オンライン』をプレイしていると断言できる。
「つってもなぁ……ま、無理には誘わねーけど。機材とか揃えたりしたら、バカみたいに金かかるしな」
「まあ、そうだな」
「でも『アルヴェル』始めたら教えろよ? テルと一緒にプレイしたいし!」
「わかったわかった。つーかお前、そろそろ部活行けよ」
「おう! んじゃ、また来週な!」
ボウズ頭の少年が鞄を手に取り、元気よく教室を飛び出していく。
本当、みんな『アルヴェル・オンライン』ばっかりしてるなぁ。
そんな事を思いながら、輝樹は椅子から立ち上がって鞄を手に取った。
「──うひゃ?!」
「おっ、と」
くるりと反転して扉に向かおうと──して、後ろから歩いてきた少女とぶつかった。
持っていた黒板消しが教室内を飛び──尻餅をついた少女が、慌てて輝樹に頭を下げる。
「ご、ごめんなさいっ」
「こっちこそごめん、土御門。大丈夫か?」
「う、うんっ、本当にごめんなさい。私、ちゃんと前見てなくて……」
「いや、誰もいないと思ってた俺も悪いし……」
少女の名前は、土御門 雲雀。輝樹のクラスメイトだ。
今日の日直だったため、雲雀は黒板消しを綺麗にしに行っていたのだろう。
「そっか、日直だったな。遅くまでお疲れ」
「あ、ありがとう……」
「もう日直の仕事は終わったのか?」
「う、ううん。あと教室の掃除があるよ」
「……多分、真面目に教室の掃除までしてるの土御門だけだぞ?」
「そ、そうなの?」
「みんな面倒くさいって言って帰るからな。ま、『アルヴェル・オンライン』がしたいから早く帰りたいんだろうけど」
黒板消しを拾う土御門に、輝樹は苦笑を漏らす。
持っていた鞄を机の上に置き直し、教室の後方に置かれている掃除道具入れに近づいた。
「そんじゃ、パパッと掃除終わらせようぜ。手伝うよ」
「えっ──うえぇ?! い、いいよ! 私がやるから!」
「いいって。土御門も早く帰りたいだろ?」
「あ……ありがとう、鴇坂くん」
輝樹の取り出したホウキを受け取る雲雀が、せっせと掃除を始める。
それに倣って、輝樹も教室の掃除を開始した。
「……そ、その」
「ん?」
「さっきの話、聞こえてたんだけど……鴇坂くんって、『アルヴェル・オンライン』してないんだね……?」
「まあ、機材とか何も持ってないし。そこまでゲームに興味ないしなぁ。『アルヴェル』ってそんなに面白いのか?」
「う、うん……面白いって聞くよね」
「聞くよね、って……土御門って『アルヴェル・オンライン』してないのか?」
「その……先週、誕生日だったの。その誕生日プレゼントで、『アルヴェル・オンライン』を買ってもらって……今日届くみたいだから、帰ってから始めるんだ」
「そうなのか。なら、なおさら早く帰らないとな。ってか、先週誕生日だったのか。おめでとう、土御門」
「あ、ありがとう……」
その後、雲雀と一緒に教室の掃除を終わらせ、輝樹は帰路に就いた。
─────────────────────
「──ただいま」
「ん、お帰り父さん。今日は遅いね」
「おう。ちょっと外せない用事があってな」
夜の8時前。帰宅した父親の姿に、テレビを見ていた輝樹は首を傾げた。
何やら大きな箱を持っている。何を持って帰って来たのだろうか。
「外せない用事って?」
「ふふ、見て驚け──これを取りに行ってたのさ!」
そう言うと、父親は机の上に持っていた大きな箱を置いた。
──何となく、見たことのある箱だ。どこで見た事あったんだったか……
「どうだ、驚いただろ! VRだ!」
「あー……なんか見た事あると思ったら、動画の広告で見た事あったのか」
「反応薄いなオイ?!」
「……それで? 父さんも『アルヴェル・オンライン』を始めるの?」
「んなワケねぇだろ。お前に買って来たんだっての」
「はぁ? なんで?」
VRの機械が入った箱の上に、父親は小さなカセットケースを置いた。
『アルヴェル・オンライン』──そのカセットだ。
「お前、来週誕生日だろ。ちょっと早いけど、誕生日プレゼントだ」
「あ、ああ……ありがとう」
「こう言うのもなんだが、お前筋トレとかランニングばっかりしてるからな。明日は土曜日だし、たまにはゲームでもして息抜きしろよ?」
「……わかった」
VR機器とカセットケースを受け取り、輝樹は自室に向かった。
とりあえずVR機器を開封しながら、カセットケースの裏面に視線を向ける。
「……ゲーム、ねぇ」
──『アルヴェル・オンライン』。
広大な大陸アルヴェルを舞台に、あなたの世界が始まります。
果てしない冒険を楽しむのも良し、かけがえのない仲間と共闘するのも良し、釣りや鍛治などを極めるも良し。
どこまでも自由なアルヴェルの世界をお楽しみ下さい。
「『アルヴェル・オンライン』のアルヴェルって、大陸の名前だったのか」
箱からVRゴーグル付きのヘッドギアを取り出し、輝樹はベッドに腰掛けた。
──クラスメイトや世間が大絶賛する『アルヴェル・オンライン』。まさか、こんな形で手にする事になるとは。
輝樹自身、特に欲しいとは思っていなかったのだが……せっかく父親が買ってくれたのだ。
「……やってみるか」
『アルヴェル・オンライン』はフルダイブ型のVRRPG。五感の全てを接続し、意識をゲームの世界に転送させるのだとか。
何ともオカルトチックだ。どういう構造なのか全くわからない。
カセットをゴーグルに差し込み、ヘッドギアを被る。
そのままベッドに横になり、輝樹は目を閉じた。
そして──輝樹の意識は、『アルヴェル・オンライン』の世界に呑み込まれていった。
──『県立 玄武高校』の二年一組。放課後なのに、まだ残っている生徒がいた。
ボウズ頭の少年が、楽しそうに昨日プレイしていたゲームの内容を話している。
「へぇ……何だっけ、そのイベントって?」
「『精霊の訪れ』ってイベント! 精霊ってモンスターがマップにランダムポップするから、それを倒すってイベントだな! 精霊がポップする数は限りがあるし、初心者でも勝てるようなレベルに調整してあるから、みんな必死に精霊を狩ってんだよ! ドロップアイテムも多いし、金策にもなるしな!」
「……で? その精霊を狩ってる時に死にかけたのか?」
「たまたま精霊の近くに高レベルのモンスターがいてなー。ま、何とかなったからよかったけど!」
ボウズ頭の少年が話しているのは、『アルヴェル・オンライン』というゲームだ。
『アルヴェル・オンライン』はフルダイブ型のVRRPGで、プレイヤーの間では『アルヴェル』の愛称で親しまれている。
現代において『アルヴェル・オンライン』を知らない者はいないと言われている、超有名ゲームだ。
「ってか、そろそろテルも『アルヴェル』始めろよー。この学校で『アルヴェル』してないの、お前くらいだぞ?」
「別にそこまで興味ないしなぁ……」
「いやいやいや! 始めてみればハマるって! お前いっつも休日筋トレとかランニングばっかじゃん! 趣味の一つくらい持てって!」
「筋トレもランニングも立派な趣味だろ。バカにすんな」
「そんだけトレーニングしてんなら、部活でもすりゃいいのによ」
「しょうがないだろ。うちの高校には古武術部とかねぇんだし」
ボウズ頭に絡まれているのは、鴇坂 輝樹。幼い頃から中学卒業まで古武術を習っていた少年だ。
休日や空いている時間には筋トレとランニング。それ以外はスマホでゲームをしたり動画を見たりして過ごしている。
この高校おいて、スマホゲームをしている生徒は輝樹くらいだろう。輝樹以外の生徒は『アルヴェル・オンライン』をプレイしていると断言できる。
「つってもなぁ……ま、無理には誘わねーけど。機材とか揃えたりしたら、バカみたいに金かかるしな」
「まあ、そうだな」
「でも『アルヴェル』始めたら教えろよ? テルと一緒にプレイしたいし!」
「わかったわかった。つーかお前、そろそろ部活行けよ」
「おう! んじゃ、また来週な!」
ボウズ頭の少年が鞄を手に取り、元気よく教室を飛び出していく。
本当、みんな『アルヴェル・オンライン』ばっかりしてるなぁ。
そんな事を思いながら、輝樹は椅子から立ち上がって鞄を手に取った。
「──うひゃ?!」
「おっ、と」
くるりと反転して扉に向かおうと──して、後ろから歩いてきた少女とぶつかった。
持っていた黒板消しが教室内を飛び──尻餅をついた少女が、慌てて輝樹に頭を下げる。
「ご、ごめんなさいっ」
「こっちこそごめん、土御門。大丈夫か?」
「う、うんっ、本当にごめんなさい。私、ちゃんと前見てなくて……」
「いや、誰もいないと思ってた俺も悪いし……」
少女の名前は、土御門 雲雀。輝樹のクラスメイトだ。
今日の日直だったため、雲雀は黒板消しを綺麗にしに行っていたのだろう。
「そっか、日直だったな。遅くまでお疲れ」
「あ、ありがとう……」
「もう日直の仕事は終わったのか?」
「う、ううん。あと教室の掃除があるよ」
「……多分、真面目に教室の掃除までしてるの土御門だけだぞ?」
「そ、そうなの?」
「みんな面倒くさいって言って帰るからな。ま、『アルヴェル・オンライン』がしたいから早く帰りたいんだろうけど」
黒板消しを拾う土御門に、輝樹は苦笑を漏らす。
持っていた鞄を机の上に置き直し、教室の後方に置かれている掃除道具入れに近づいた。
「そんじゃ、パパッと掃除終わらせようぜ。手伝うよ」
「えっ──うえぇ?! い、いいよ! 私がやるから!」
「いいって。土御門も早く帰りたいだろ?」
「あ……ありがとう、鴇坂くん」
輝樹の取り出したホウキを受け取る雲雀が、せっせと掃除を始める。
それに倣って、輝樹も教室の掃除を開始した。
「……そ、その」
「ん?」
「さっきの話、聞こえてたんだけど……鴇坂くんって、『アルヴェル・オンライン』してないんだね……?」
「まあ、機材とか何も持ってないし。そこまでゲームに興味ないしなぁ。『アルヴェル』ってそんなに面白いのか?」
「う、うん……面白いって聞くよね」
「聞くよね、って……土御門って『アルヴェル・オンライン』してないのか?」
「その……先週、誕生日だったの。その誕生日プレゼントで、『アルヴェル・オンライン』を買ってもらって……今日届くみたいだから、帰ってから始めるんだ」
「そうなのか。なら、なおさら早く帰らないとな。ってか、先週誕生日だったのか。おめでとう、土御門」
「あ、ありがとう……」
その後、雲雀と一緒に教室の掃除を終わらせ、輝樹は帰路に就いた。
─────────────────────
「──ただいま」
「ん、お帰り父さん。今日は遅いね」
「おう。ちょっと外せない用事があってな」
夜の8時前。帰宅した父親の姿に、テレビを見ていた輝樹は首を傾げた。
何やら大きな箱を持っている。何を持って帰って来たのだろうか。
「外せない用事って?」
「ふふ、見て驚け──これを取りに行ってたのさ!」
そう言うと、父親は机の上に持っていた大きな箱を置いた。
──何となく、見たことのある箱だ。どこで見た事あったんだったか……
「どうだ、驚いただろ! VRだ!」
「あー……なんか見た事あると思ったら、動画の広告で見た事あったのか」
「反応薄いなオイ?!」
「……それで? 父さんも『アルヴェル・オンライン』を始めるの?」
「んなワケねぇだろ。お前に買って来たんだっての」
「はぁ? なんで?」
VRの機械が入った箱の上に、父親は小さなカセットケースを置いた。
『アルヴェル・オンライン』──そのカセットだ。
「お前、来週誕生日だろ。ちょっと早いけど、誕生日プレゼントだ」
「あ、ああ……ありがとう」
「こう言うのもなんだが、お前筋トレとかランニングばっかりしてるからな。明日は土曜日だし、たまにはゲームでもして息抜きしろよ?」
「……わかった」
VR機器とカセットケースを受け取り、輝樹は自室に向かった。
とりあえずVR機器を開封しながら、カセットケースの裏面に視線を向ける。
「……ゲーム、ねぇ」
──『アルヴェル・オンライン』。
広大な大陸アルヴェルを舞台に、あなたの世界が始まります。
果てしない冒険を楽しむのも良し、かけがえのない仲間と共闘するのも良し、釣りや鍛治などを極めるも良し。
どこまでも自由なアルヴェルの世界をお楽しみ下さい。
「『アルヴェル・オンライン』のアルヴェルって、大陸の名前だったのか」
箱からVRゴーグル付きのヘッドギアを取り出し、輝樹はベッドに腰掛けた。
──クラスメイトや世間が大絶賛する『アルヴェル・オンライン』。まさか、こんな形で手にする事になるとは。
輝樹自身、特に欲しいとは思っていなかったのだが……せっかく父親が買ってくれたのだ。
「……やってみるか」
『アルヴェル・オンライン』はフルダイブ型のVRRPG。五感の全てを接続し、意識をゲームの世界に転送させるのだとか。
何ともオカルトチックだ。どういう構造なのか全くわからない。
カセットをゴーグルに差し込み、ヘッドギアを被る。
そのままベッドに横になり、輝樹は目を閉じた。
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