アルヴェル・オンライン
13話
──フェザントの体が、地面に崩れ落ちる。
一人はLv8、一人はLv9──たった二人の初心者プレイヤーが、推奨Lv30の高難度クエストをクリアした。
その光景を前に、上級プレイヤーであるムラマサは目を見開いた。
「……マジッスか……初心者プレイヤー二人で、強化状態のフェザントを倒しやがった……」
驚愕に目を剥くムラマサが、ラークに視線を向けた。
──プレイヤーとモンスターのLvの差が10以内ならば、別に勝てなくはない。勝率は五分五分だろうし、死ぬほど苦戦するだろうが。
Lvの差が15になると、勝率は三割にまで下がる。相手に有利な属性が使えれば、もしかしたら──というレベルだ。
そして、Lvの差が20になれば──勝率は一割を切るだろう。ほぼ勝ち目はない。相手の弱点を的確に攻撃し続ければ、あるいは──というレベルだ。
今回のフェザントのレベルは──推奨レベルと同じく、Lv30。
アイビスもラークも、フェザントとのLvの差は20以上。なのに──
「あのアイビスってプレイヤー……マジで何者だ……?!」
驚愕が止まらないムラマサは、ラークを見つめ続ける
だが──ラークの意識は、フェザントに向いている。
体力はゼロになった。なのに、フェザントは他のモンスターのように消えない。
警戒心を切らさず、ラークは長杖を構えた。
『──ふ、はは……ふっはははははッ! ……ああ、まさか余が敗北するとは……思わなんだ……なあ、メス猿?』
──フェザントの体が、キラキラとポリゴンへと変貌していく。
勝った──そう思った直後、フェザントが頭を持ち上げた。
「ひっ──」
『そう構えるな……これは、余からの褒美だ』
「褒美……?」
『余の力を、軟弱な人間二人で上回った。まあ、汝は怯えて震えていてばかりだったが……余に対して、あれだけの啖呵を切って見せたのだ。それだけで、褒美を与うに値する。受け取るが良い』
──ピコンピコンと主張する視界内のお知らせアイコンに気づき、装備画面を開いた。
そこに、見慣れぬ装備がある事に気づく。
「……『棄児無の誇り』……?」
『それを、ソナタに授けよう……』
「なんスかそれ……攻略サイトにも載ってないアイテム……?!」
『さらばだ……臆病ながらも勇気ある少女よ……なかなか良い時間だったぞ──』
フェザントがククッと笑った──その直後、その体がポリゴンとなって消えた。
『レベルアップ! Lv9→Lv15』
『ステータスポイントを3獲得!』
『スキル獲得! 【アースド・ゴーレム】』
『スキル獲得! 【バースト・アース】』
「……………」
沈黙が辺りを包み込む。ラークは新たに習得した魔法に目を向けた。
======================
【アースド・ゴーレム】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv10にする。
効果
対象のステータスを参照としたゴーレムを召喚する。
ゴーレムは最大二体まで同時に存在可能。
【バースト・アース】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv13にする。
効果
自分が召喚した土属性の魔法が存在する時、その魔法を爆発させる。
爆発の威力は使用者のINT×2に固定される。
======================
「新しい、魔法……」
「ちょ、ちょっといいッスか? さっきフェザントから貰ったアイテム、ちょっと見せてもらえないッスか? 見せるのが嫌なら、効果を読んでくれるだけでもいいッスから」
「え、え? あ、えっと……」
どこか興奮した様子のムラマサに、ラークは慌てて装備画面を開いた。
新たに入手した『棄児無の誇り』という装飾品を確認し──眉を寄せる。
「装飾品、『棄児無の誇り』……これを装備した時、プレイヤーは特殊スキル【棄児無の願い】獲得する……」
「それで?」
「【棄児無の願い】は風属性で、任意発動スキル……獲得条件は、『棄児無の誇り』を装備した状態にする事……」
「それで?!」
「【棄児無の願い】の効果は……使用者のLvに応じた風属性のスキルを使用可能になる……そして、職業“テイマー”の場合──『棄児無の授神 フェザント・インバイブ・サクリファイス』を召喚可能……そして──私にのみ、装備可能……」
自分で説明文を読みながら、ラークは大きく目を見開いた。
──使用者のLvに応じた風属性のスキルを使用可能になる……それはつまり、土の魔法や補助の魔法以外にも、風属性という攻撃魔法が使えるという事だ。
これがあれば、私は──
「アイビスさんの、足手まといにならないかも……」
「──はぁ…… “テイマー”用の装備ッスか……ま、そう簡単に強力な未発見装備は見つからないって事ッスね」
ムラマサはガシガシと頭を掻き、その場を立ち去ろうとする。
その姿を見て、ラークは大声を上げた。
「ま、待ってください! “テイマー”ってなんですか?! それに、この装備は一体?!」
「…… “テイマー”ってのは、モンスターの力を借りて戦う職業の事ッス。と言っても、“テイマー”は上級職ッス。下級職──アンタの“地術師”をLv30にすれば、転職機能が追加されるんで、そうしたら“テイマー”になれるッスよ」
「こ、この装備は?!」
「……『ユニーク・アイテム』……特定のプレイヤーにしか使用できない、装備できない物ッス。アンタが手に入れたそれは、アンタにしか装備できない『ユニーク・アイテム』……それも、オレみたいな上級プレイヤーでも見た事がない『ユニーク・アイテム』……相当のレア物ッスよ、それ。ちゃんと使ってあげるッスよ」
ヒラヒラと手を振り、マサムネがその場を後にする。
すっかり静まり返った戦場──ようやく思い出したのか、ラークは声を上げた。
「あ、アイビスさん?!」
──────────────────────
「──ぁ……あ、あー……」
──目を覚まし、声を出す。自分は生きていると確認する。
体を起こし、少年は自分の体に視線を落とした。
──『アルヴェル・オンライン』のアバターだ。つまりここは、まだゲームの中。
「……チッ……まさか、殺されるとはな……」
『“ラーク”さんからフレンド申請がありました。承認しますか? はい・いいえ』
眼前にメッセージウィンドウが現れる。考える必要もなく、アイビスは虚空に浮かぶ『はい』という文字に指を当てた。
──ピコンッ♪ と音を立て、新規メッセージが届く。
『from ラーク
アイビスさん、今どこにいますか?』
ラークからのメッセージだ。アイビスは素早くメッセージを返す。
『To アイビス
『雉鳴きの祭壇』の端にある小屋にいます。
今日はもう遅いから、明日またやりましょう』
アイビスの視界にデジタル時刻が表示される。午前0時50分。いつもならばとっくに寝ている時間だ。
『From ラーク
わかりました! 明日は何時に会いましょうか?』
『To アイビス
10時とかでどうですか?』
『From ラーク
わかりました! よろしくお願いします!』
メッセージを確認し、アイビスは目を閉じた。
そして──真っ暗な視界に、メッセージが表示される。
『ログアウトしますか?』
メッセージを承認し、アイビスが目を開く。
──見慣れた天井。動かしにくいが動かし慣れた体。
現実世界だ──そう確信し、輝樹は体を起こした。
「……はぁ……」
輝樹は頭を手を当て、大きくため息を吐いた。
──ゲームの世界だったのだ。先ほどまでの光景は。現実には一切関係のない、フィクションの世界だったのだ。
なのに──輝樹の体は、興奮が冷めていないかのように熱い。
「……高校に入ってから、ちゃんと八極拳してなかったからな……すっかり体が鈍っちまってるな」
掌を開閉し、輝樹は悔しそうに歯を噛み締めた。
──もしも、仮に、輝樹が全盛期だったのなら。
「……ゴブリンロードも、フェザントも……」
──俺一人で、倒し切れたのに。
横着、不遜──ともすれば傲慢とも言える。
だが、ゲームの性能によって軽くなった体より──使い慣れた体で、使い慣れた武術が使える方が、戦いに活かせる。
ならば──
「──久しぶりに、道場に行くか」
暗闇の中で、輝樹がニイッと笑い──ふと思い出したように、輝樹はスマホを操作した。
──『アルヴェル・オンライン』で死亡した場合のペナルティ。
「……やっぱりペナルティとかあるのか」
──『アルヴェル・オンライン』で戦闘不能になった場合、3つの内からデスペナルティを選ぶ必要があります。
一つ目。今回ログインしてから獲得した経験値をゼロにする。
二つ目。これから一時間、入手する経験値がゼロになる。
三つ目。死亡してから5分以内にログアウトし、それから一時間ログインができなくなる。
5分以内に、上記3つのデスペナルティから選択しなかった場合、強制的に三つ目のデスペナルティが与えられます。
「……って事は──」
今回輝樹は、フェザントにやられてラークにメッセージを送り、ログアウトした。
デスペナルティの選択なんてしていない……いや、もしかしたらデスペナルティの表示が出る前にログアウトしたのかも知れない。
「今回のデスペナルティは、ログアウトしてから一時間ログインができない」
まあ、それならそれでいい。こんな時間なのだ、今からまた『アルヴェル・オンライン』をしようとは思えない。
大きくアクビを漏らし、輝樹はベットに寝転がった。
「……少し早く起きて、体でも動かすか」
スマホのアラームを設定し、輝樹は興奮が収まらないまま眠りについた。
一人はLv8、一人はLv9──たった二人の初心者プレイヤーが、推奨Lv30の高難度クエストをクリアした。
その光景を前に、上級プレイヤーであるムラマサは目を見開いた。
「……マジッスか……初心者プレイヤー二人で、強化状態のフェザントを倒しやがった……」
驚愕に目を剥くムラマサが、ラークに視線を向けた。
──プレイヤーとモンスターのLvの差が10以内ならば、別に勝てなくはない。勝率は五分五分だろうし、死ぬほど苦戦するだろうが。
Lvの差が15になると、勝率は三割にまで下がる。相手に有利な属性が使えれば、もしかしたら──というレベルだ。
そして、Lvの差が20になれば──勝率は一割を切るだろう。ほぼ勝ち目はない。相手の弱点を的確に攻撃し続ければ、あるいは──というレベルだ。
今回のフェザントのレベルは──推奨レベルと同じく、Lv30。
アイビスもラークも、フェザントとのLvの差は20以上。なのに──
「あのアイビスってプレイヤー……マジで何者だ……?!」
驚愕が止まらないムラマサは、ラークを見つめ続ける
だが──ラークの意識は、フェザントに向いている。
体力はゼロになった。なのに、フェザントは他のモンスターのように消えない。
警戒心を切らさず、ラークは長杖を構えた。
『──ふ、はは……ふっはははははッ! ……ああ、まさか余が敗北するとは……思わなんだ……なあ、メス猿?』
──フェザントの体が、キラキラとポリゴンへと変貌していく。
勝った──そう思った直後、フェザントが頭を持ち上げた。
「ひっ──」
『そう構えるな……これは、余からの褒美だ』
「褒美……?」
『余の力を、軟弱な人間二人で上回った。まあ、汝は怯えて震えていてばかりだったが……余に対して、あれだけの啖呵を切って見せたのだ。それだけで、褒美を与うに値する。受け取るが良い』
──ピコンピコンと主張する視界内のお知らせアイコンに気づき、装備画面を開いた。
そこに、見慣れぬ装備がある事に気づく。
「……『棄児無の誇り』……?」
『それを、ソナタに授けよう……』
「なんスかそれ……攻略サイトにも載ってないアイテム……?!」
『さらばだ……臆病ながらも勇気ある少女よ……なかなか良い時間だったぞ──』
フェザントがククッと笑った──その直後、その体がポリゴンとなって消えた。
『レベルアップ! Lv9→Lv15』
『ステータスポイントを3獲得!』
『スキル獲得! 【アースド・ゴーレム】』
『スキル獲得! 【バースト・アース】』
「……………」
沈黙が辺りを包み込む。ラークは新たに習得した魔法に目を向けた。
======================
【アースド・ゴーレム】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv10にする。
効果
対象のステータスを参照としたゴーレムを召喚する。
ゴーレムは最大二体まで同時に存在可能。
【バースト・アース】土属性 任意発動スキル
獲得条件
地術師をLv13にする。
効果
自分が召喚した土属性の魔法が存在する時、その魔法を爆発させる。
爆発の威力は使用者のINT×2に固定される。
======================
「新しい、魔法……」
「ちょ、ちょっといいッスか? さっきフェザントから貰ったアイテム、ちょっと見せてもらえないッスか? 見せるのが嫌なら、効果を読んでくれるだけでもいいッスから」
「え、え? あ、えっと……」
どこか興奮した様子のムラマサに、ラークは慌てて装備画面を開いた。
新たに入手した『棄児無の誇り』という装飾品を確認し──眉を寄せる。
「装飾品、『棄児無の誇り』……これを装備した時、プレイヤーは特殊スキル【棄児無の願い】獲得する……」
「それで?」
「【棄児無の願い】は風属性で、任意発動スキル……獲得条件は、『棄児無の誇り』を装備した状態にする事……」
「それで?!」
「【棄児無の願い】の効果は……使用者のLvに応じた風属性のスキルを使用可能になる……そして、職業“テイマー”の場合──『棄児無の授神 フェザント・インバイブ・サクリファイス』を召喚可能……そして──私にのみ、装備可能……」
自分で説明文を読みながら、ラークは大きく目を見開いた。
──使用者のLvに応じた風属性のスキルを使用可能になる……それはつまり、土の魔法や補助の魔法以外にも、風属性という攻撃魔法が使えるという事だ。
これがあれば、私は──
「アイビスさんの、足手まといにならないかも……」
「──はぁ…… “テイマー”用の装備ッスか……ま、そう簡単に強力な未発見装備は見つからないって事ッスね」
ムラマサはガシガシと頭を掻き、その場を立ち去ろうとする。
その姿を見て、ラークは大声を上げた。
「ま、待ってください! “テイマー”ってなんですか?! それに、この装備は一体?!」
「…… “テイマー”ってのは、モンスターの力を借りて戦う職業の事ッス。と言っても、“テイマー”は上級職ッス。下級職──アンタの“地術師”をLv30にすれば、転職機能が追加されるんで、そうしたら“テイマー”になれるッスよ」
「こ、この装備は?!」
「……『ユニーク・アイテム』……特定のプレイヤーにしか使用できない、装備できない物ッス。アンタが手に入れたそれは、アンタにしか装備できない『ユニーク・アイテム』……それも、オレみたいな上級プレイヤーでも見た事がない『ユニーク・アイテム』……相当のレア物ッスよ、それ。ちゃんと使ってあげるッスよ」
ヒラヒラと手を振り、マサムネがその場を後にする。
すっかり静まり返った戦場──ようやく思い出したのか、ラークは声を上げた。
「あ、アイビスさん?!」
──────────────────────
「──ぁ……あ、あー……」
──目を覚まし、声を出す。自分は生きていると確認する。
体を起こし、少年は自分の体に視線を落とした。
──『アルヴェル・オンライン』のアバターだ。つまりここは、まだゲームの中。
「……チッ……まさか、殺されるとはな……」
『“ラーク”さんからフレンド申請がありました。承認しますか? はい・いいえ』
眼前にメッセージウィンドウが現れる。考える必要もなく、アイビスは虚空に浮かぶ『はい』という文字に指を当てた。
──ピコンッ♪ と音を立て、新規メッセージが届く。
『from ラーク
アイビスさん、今どこにいますか?』
ラークからのメッセージだ。アイビスは素早くメッセージを返す。
『To アイビス
『雉鳴きの祭壇』の端にある小屋にいます。
今日はもう遅いから、明日またやりましょう』
アイビスの視界にデジタル時刻が表示される。午前0時50分。いつもならばとっくに寝ている時間だ。
『From ラーク
わかりました! 明日は何時に会いましょうか?』
『To アイビス
10時とかでどうですか?』
『From ラーク
わかりました! よろしくお願いします!』
メッセージを確認し、アイビスは目を閉じた。
そして──真っ暗な視界に、メッセージが表示される。
『ログアウトしますか?』
メッセージを承認し、アイビスが目を開く。
──見慣れた天井。動かしにくいが動かし慣れた体。
現実世界だ──そう確信し、輝樹は体を起こした。
「……はぁ……」
輝樹は頭を手を当て、大きくため息を吐いた。
──ゲームの世界だったのだ。先ほどまでの光景は。現実には一切関係のない、フィクションの世界だったのだ。
なのに──輝樹の体は、興奮が冷めていないかのように熱い。
「……高校に入ってから、ちゃんと八極拳してなかったからな……すっかり体が鈍っちまってるな」
掌を開閉し、輝樹は悔しそうに歯を噛み締めた。
──もしも、仮に、輝樹が全盛期だったのなら。
「……ゴブリンロードも、フェザントも……」
──俺一人で、倒し切れたのに。
横着、不遜──ともすれば傲慢とも言える。
だが、ゲームの性能によって軽くなった体より──使い慣れた体で、使い慣れた武術が使える方が、戦いに活かせる。
ならば──
「──久しぶりに、道場に行くか」
暗闇の中で、輝樹がニイッと笑い──ふと思い出したように、輝樹はスマホを操作した。
──『アルヴェル・オンライン』で死亡した場合のペナルティ。
「……やっぱりペナルティとかあるのか」
──『アルヴェル・オンライン』で戦闘不能になった場合、3つの内からデスペナルティを選ぶ必要があります。
一つ目。今回ログインしてから獲得した経験値をゼロにする。
二つ目。これから一時間、入手する経験値がゼロになる。
三つ目。死亡してから5分以内にログアウトし、それから一時間ログインができなくなる。
5分以内に、上記3つのデスペナルティから選択しなかった場合、強制的に三つ目のデスペナルティが与えられます。
「……って事は──」
今回輝樹は、フェザントにやられてラークにメッセージを送り、ログアウトした。
デスペナルティの選択なんてしていない……いや、もしかしたらデスペナルティの表示が出る前にログアウトしたのかも知れない。
「今回のデスペナルティは、ログアウトしてから一時間ログインができない」
まあ、それならそれでいい。こんな時間なのだ、今からまた『アルヴェル・オンライン』をしようとは思えない。
大きくアクビを漏らし、輝樹はベットに寝転がった。
「……少し早く起きて、体でも動かすか」
スマホのアラームを設定し、輝樹は興奮が収まらないまま眠りについた。
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