蒼子のおそうじ日記
第4話 大きな理想を捨てる
部屋のゴミも片付き、蒼子はやる気に満ちていた。
「すごい綺麗な部屋にしたい!」
『それはいいけど、大丈夫? そんなにやる気だして』
「だって片付けていたら、自信も出てきた。頑張ろう!」
『ちょっと、蒼子』
ピー子はこんな蒼子に色々と忠告していたようだが、耳に入ってこなかった。一刻も早く綺麗でし素敵な部屋にしたい。
フリマアプリの商品を発送した帰り、家の近くのショッピングモールへも行く。
特にインテリア雑貨の店を見ていると、理想が膨らんでくる。こんな店のディスプレイのようにシンプルで可愛い部屋にしたい。
蒼子は店にあるチェスト、観葉植物、レース付きのカーテン、可愛いスリッパやマットに心が奪われていた。
もっともチェスとトなどは値段を見て買うのは諦めたが、モコモコした可愛いスリッパは欲望に勝てず購入してしまった。このスリッパを買ったら後ろ髪を引かれ、結局花柄の可愛いマットも買ってしまった。
こうして家に帰ると、机やベッドの配置なども変え、バタバタと忙しく動き回ったが。
思った以上に理想通りの雰囲気にならない。頭の中には、お店のディスプレイのような可愛くてシンプルな部屋を描いているのに、何か違う。
まだ捨てられていないゴミもあるのだろうか。クローゼットを開け、ベッド下の衣料ケースなども開けたが、これ以上捨てるものも思いつかない。
「あ、なにこれ」
衣料ケースの下から、ノートが出てきた。今つけているノートではなく、会社に入ったばかりの時にとっていたメモ帳のようだ。
いちいち上司の指示もメモをとっていて、驚きだった。今だったらこんな丁寧に上司の指示はメモに取らない。
初々しいノートを見つけ、なんだか今やっている事が馬鹿らしくなる。当時は一歩一歩丁寧に仕事をし、前に進めていた。
今は逆だ。理想だけ大きくなり、バタバタと落ち着きなく動き回っているだけだった。
さっき買った可愛いマットやスリッパも急に何か違う気がしてきた。
店では可愛いものも自分の部屋に合うとは限らない。今は自分に似合う服も研究中だったが、可愛いと思う服が必ずしも、ピッタリと合うわけでも無い事も思い出す。
蒼子はピンクやイエローなどの服が可愛いと思うが、実際鏡を見ながら似合うのはブルーや紺色のスッキリしたシンプルな服。
好きな服と似合う服は全く違う。
これと同じようにこの部屋に合うものと似合わないものもあるかもしれない。
『ようやく気づいたわね、蒼子!』
そこにピー子がパタパタと飛んでやってきた。
『そうよ。売り物は可愛いわ。でも、実際の家でしっくるくるものの方がいいわよ』
「そうだよなぁ……」
可愛いスリッパやマットを見ながら、新ためて思う。壁紙が白く、灯りも白っぽいこの部屋は、やっぱり可愛いものは似合わないと気づく。
それに、そこまで可愛いものが好きかと問われたら、そうでもない。完全にお店のムードに流された結果だった。
「わー、私って商業のカモになっているというか、理想高すぎた?」
『ここで自分を責めたらダメよ!』
「うっ……」
『自分の欠点が一つわかって良かったじゃない?』
「そうかも……」
それはピー子の言う通りだった。とりあえず、家具の配置なども元に戻した。
『世の中は、資本主義よ。うっかりしていると、お金を使うようにできている。それを避ける為には、自分を知って必要じゃないものは買わない事よ』
ピー子はそう言い、鳥カゴの方へ戻って行ってしまった。
全くその通りでぐうの音も出ない。
その後、蒼子はノートを開いて向き合う。
・自分は商業ベースに乗せられやすいところがある
・それを避ける為には?
やはりピー子の言う通り、自分のことをよく知るのが先決のようだ。
お店で「可愛い」と思っても、実際の自分はさほど可愛いものが好きでも何でもない事を認める。
お店のディスプレイも、売る為に見せているものだ。実際の生活の便利さとは、違うかもしれない。
理想を持つのは、悪い事ではないが、お店のそれを理想化するのは、違う気がした。これは、自分の理想ではなく、他人の理想だと気づく。
「そうか。やっぱり自分を知る事が大事だ」
ノートに本当は自分が何が好きか、何を理想としていくか書いていく。ニートに書く文字は最初は纏まりがなかったが、だんだんと思考がハッキリとしてくる。
・シンプルで便利なものが好き
・可愛さよち使いやすいものを優先する
・優先順位は機能>値段>見た目
・お店に行ったら感情的な「可愛い」は一旦おいて無視する
ノートに向き合って、だんだんと頭の中もスッキリとしてきた。
・大きな理想はとりあえず捨てる
・出来る事を一つずつ
・確実に
今はまだ理想の部屋はわからない。まだ自分の事も完全に知ったわけでもない。
入社した時、上司の指示をいちいちメモをとっていた自分も思いだす。あのぐらい慎重に一歩ずつ進んでも悪くない。すぐに欲しい結果は得られるものでもない。
ふと、部屋を見渡す。ゴミが無くなっただけで、だいぶスッキリしてきた。まだ服や本などもごちゃごちゃしているが、当初と比べれば、だいぶ進んだ?
・ゴミは捨てられた
・前よりは進んでる
そう書き、赤ペンで大きく花丸を描く。昔だったら、理想通りにいかない自分を責めていただろう。
でも今は、そうでもない。少しでも進んだ自分を認めてあげても、良いんじゃなかろうか。
今の段階で花丸を描くのは、少し恥ずかしくもなったが、それでも悪くは無いはずだ。
「蒼子、いるー? お土産でたい焼き買ってきたわよ」
母の声がし、急いで下のリビングへ向かう。
今は理想通りにいかない。そもそも理想が何かもよくわからないが、少し一休みしよう。今日は休日だし、休憩しても悪くないはずだ。
母と一緒にお土産のたい焼きを食べながら、蒼子は笑顔をみせる。
こんな風に一休みするのが、楽しい。ささやかな時間だが、今は一番必要な気がした。
『そうよ。休む時だって必要なんだからね』
ピー子の言う通りだ。
蒼子は笑顔でたい焼きを頬張った。
「すごい綺麗な部屋にしたい!」
『それはいいけど、大丈夫? そんなにやる気だして』
「だって片付けていたら、自信も出てきた。頑張ろう!」
『ちょっと、蒼子』
ピー子はこんな蒼子に色々と忠告していたようだが、耳に入ってこなかった。一刻も早く綺麗でし素敵な部屋にしたい。
フリマアプリの商品を発送した帰り、家の近くのショッピングモールへも行く。
特にインテリア雑貨の店を見ていると、理想が膨らんでくる。こんな店のディスプレイのようにシンプルで可愛い部屋にしたい。
蒼子は店にあるチェスト、観葉植物、レース付きのカーテン、可愛いスリッパやマットに心が奪われていた。
もっともチェスとトなどは値段を見て買うのは諦めたが、モコモコした可愛いスリッパは欲望に勝てず購入してしまった。このスリッパを買ったら後ろ髪を引かれ、結局花柄の可愛いマットも買ってしまった。
こうして家に帰ると、机やベッドの配置なども変え、バタバタと忙しく動き回ったが。
思った以上に理想通りの雰囲気にならない。頭の中には、お店のディスプレイのような可愛くてシンプルな部屋を描いているのに、何か違う。
まだ捨てられていないゴミもあるのだろうか。クローゼットを開け、ベッド下の衣料ケースなども開けたが、これ以上捨てるものも思いつかない。
「あ、なにこれ」
衣料ケースの下から、ノートが出てきた。今つけているノートではなく、会社に入ったばかりの時にとっていたメモ帳のようだ。
いちいち上司の指示もメモをとっていて、驚きだった。今だったらこんな丁寧に上司の指示はメモに取らない。
初々しいノートを見つけ、なんだか今やっている事が馬鹿らしくなる。当時は一歩一歩丁寧に仕事をし、前に進めていた。
今は逆だ。理想だけ大きくなり、バタバタと落ち着きなく動き回っているだけだった。
さっき買った可愛いマットやスリッパも急に何か違う気がしてきた。
店では可愛いものも自分の部屋に合うとは限らない。今は自分に似合う服も研究中だったが、可愛いと思う服が必ずしも、ピッタリと合うわけでも無い事も思い出す。
蒼子はピンクやイエローなどの服が可愛いと思うが、実際鏡を見ながら似合うのはブルーや紺色のスッキリしたシンプルな服。
好きな服と似合う服は全く違う。
これと同じようにこの部屋に合うものと似合わないものもあるかもしれない。
『ようやく気づいたわね、蒼子!』
そこにピー子がパタパタと飛んでやってきた。
『そうよ。売り物は可愛いわ。でも、実際の家でしっくるくるものの方がいいわよ』
「そうだよなぁ……」
可愛いスリッパやマットを見ながら、新ためて思う。壁紙が白く、灯りも白っぽいこの部屋は、やっぱり可愛いものは似合わないと気づく。
それに、そこまで可愛いものが好きかと問われたら、そうでもない。完全にお店のムードに流された結果だった。
「わー、私って商業のカモになっているというか、理想高すぎた?」
『ここで自分を責めたらダメよ!』
「うっ……」
『自分の欠点が一つわかって良かったじゃない?』
「そうかも……」
それはピー子の言う通りだった。とりあえず、家具の配置なども元に戻した。
『世の中は、資本主義よ。うっかりしていると、お金を使うようにできている。それを避ける為には、自分を知って必要じゃないものは買わない事よ』
ピー子はそう言い、鳥カゴの方へ戻って行ってしまった。
全くその通りでぐうの音も出ない。
その後、蒼子はノートを開いて向き合う。
・自分は商業ベースに乗せられやすいところがある
・それを避ける為には?
やはりピー子の言う通り、自分のことをよく知るのが先決のようだ。
お店で「可愛い」と思っても、実際の自分はさほど可愛いものが好きでも何でもない事を認める。
お店のディスプレイも、売る為に見せているものだ。実際の生活の便利さとは、違うかもしれない。
理想を持つのは、悪い事ではないが、お店のそれを理想化するのは、違う気がした。これは、自分の理想ではなく、他人の理想だと気づく。
「そうか。やっぱり自分を知る事が大事だ」
ノートに本当は自分が何が好きか、何を理想としていくか書いていく。ニートに書く文字は最初は纏まりがなかったが、だんだんと思考がハッキリとしてくる。
・シンプルで便利なものが好き
・可愛さよち使いやすいものを優先する
・優先順位は機能>値段>見た目
・お店に行ったら感情的な「可愛い」は一旦おいて無視する
ノートに向き合って、だんだんと頭の中もスッキリとしてきた。
・大きな理想はとりあえず捨てる
・出来る事を一つずつ
・確実に
今はまだ理想の部屋はわからない。まだ自分の事も完全に知ったわけでもない。
入社した時、上司の指示をいちいちメモをとっていた自分も思いだす。あのぐらい慎重に一歩ずつ進んでも悪くない。すぐに欲しい結果は得られるものでもない。
ふと、部屋を見渡す。ゴミが無くなっただけで、だいぶスッキリしてきた。まだ服や本などもごちゃごちゃしているが、当初と比べれば、だいぶ進んだ?
・ゴミは捨てられた
・前よりは進んでる
そう書き、赤ペンで大きく花丸を描く。昔だったら、理想通りにいかない自分を責めていただろう。
でも今は、そうでもない。少しでも進んだ自分を認めてあげても、良いんじゃなかろうか。
今の段階で花丸を描くのは、少し恥ずかしくもなったが、それでも悪くは無いはずだ。
「蒼子、いるー? お土産でたい焼き買ってきたわよ」
母の声がし、急いで下のリビングへ向かう。
今は理想通りにいかない。そもそも理想が何かもよくわからないが、少し一休みしよう。今日は休日だし、休憩しても悪くないはずだ。
母と一緒にお土産のたい焼きを食べながら、蒼子は笑顔をみせる。
こんな風に一休みするのが、楽しい。ささやかな時間だが、今は一番必要な気がした。
『そうよ。休む時だって必要なんだからね』
ピー子の言う通りだ。
蒼子は笑顔でたい焼きを頬張った。
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