蒼子のおそうじ日記

地野千塩

第3話 隠す事を捨てる

 今日はクローゼットの掃除に着手していた。部屋のゴミは大方捨てられたが、クローゼットの方は、放置していたのだった。

「ええ、何これ……」

 クローゼットの中は、まるで魔境だった。想像以上に不要なものも多い。サイズの合わないコートやジーンズ、色が合わない帽子やスカート。それに汚くくすんだ下着類。

 たぶん、何年もここに入れて放置していたのだ。このクローゼットの中にとりあえず隠しておけば、表面上は部屋は綺麗。都合の悪い不用品はとりあえずクローゼットの中に隠し、誤魔化していた現実。それを直視する度に泣きたくなってしまう。

 それでも、もう自分を責めないと決めた。悲劇のヒロインも辞めると決めたのだ。どんなに見たくない現実があっても、自分を責めず、涙を堪えて淡々と不用品をゴミ袋に入れていく。

 一昨年、衝動買いしたブランドのバッグも出てきた。買って満足し、そのまま放置していたのだった。

 他にも通販で衝動買いしたブランケット、部屋着なども出てきた。結局これらもクローゼットに押し込み、見てみぬフリをしながら、買ってものを大切にしていなかった。

 結局、買い物もストレス解消の一環にしていたが、何も心を埋めていなかったようだ。このお金は貯金にしたり、旅行などの体験に回した方が良かったかもしれないと後悔もする。

 蒼子は思ったよりもストレスに弱いので自分の気づく。それを買い物で解消しようとしていた過去も発見し、隠していたものの中からも気づけなかって自分を知る。

『蒼子、どう? 掃除は順調?』

 そこにピー子が飛んできて、蒼子の肩に止まる。ピー子はよく見ると、顎やお腹の毛がモフモフしている。今までは鳥などはあんまり可愛く見えなかったが、今は素直に可愛いと感じる。少し前よりは、心の余裕も生まれていた。

 不思議な事に自分の部屋を掃除しているうちに、心も把握できているようだ。もちろん、全てではないが、前よりは自分の事がわかったような気もする。

『部屋は心の写し鏡だからね。心が乱れている人は、部屋もだいたい汚い』
「やっぱりそうなんなんだ」
『心なんて目に見えないけど、隠せないって事よ。いくらクローゼットに見たくないものを押し込んでもね』

 耳が痛い。しかし、ピー子が言っている事も本当なので、否定などもできない。

 さらにクローゼットの奥に進み、大学生頃に着ていたシャツ、セータージーンズなども出てきた。

 あの頃に着ていた服を見ながら思う。あの頃は若かったこともあり、仕事を頑張ろうとか、彼氏を作ろうとか一生懸命だった。

 もうこのサイズの服を着るのは無理で、ゴミ袋へ入れていく。

 一体、いつからそんな希望も失って言ったのだろう。このクローゼットには、希望とか夢子も隠してしまったようだ。

 他にも安いからと言って買ったワンピースやブーツも出てきて頭が痛い。結局、一回も着ないで捨てた服や靴もある。

・よく考えて買い物する

 とりあえずノートに気づいた事も書いてみたが、これは難易度が高そうだ。

『まずは自分が似合う服を研究してみたら?』
「そうだね。ちょっと考えてみるよ」

 ピー子のアドバイスもだんだん素直に受け入れられるようになってきた。

 クローゼットの中は、心の隠されたものもいっぱい直視して辛くもなってきたが、課題も見つかった。全部が悪い事ばかりでは無いかもしれない。

『もう隠すのは、やめりのよ。結局、こうやって掃除するハメになるんだから』

 クローゼットの不用品をゴミ袋に詰めたら、最後にピー子に念を押された。

 その通りだ。

 一時的に隠した希望になっても、結局後でこんな風に掃除するハメになる。

 先延ばしして見て見ぬフリをしていたが隠しても結局はもっと面倒くさい事になったようだ。

『さあ、蒼子。ゴミは捨てたわね? 次やる事は何? 隠して先延ばししても無駄よ。さっさとやっちゃいましょう!』

 さらにピー子に念を押される。可愛い声を聞きながら、ノートにメモを取る。

・ブランド物は売りに行く
・未使用で綺麗なものはフリマアプリで処分。

『さあ、さっさとやる!』

 ピー子にケツを叩かれ、フリマアプリに出品を続けた。値下げ交渉や取り置きなど、アプリ内の無言ルールを気をつけつつ、意外と売れて行き、梱包するとコンビニへ持って行った。

 そのついでにブランドものも近所の専門店へ持っていき、買い取って貰った。ブランドものはフリマアプリよりこちらの方が良い値段がつき、ちょっとした小遣いにもなった。

 さっそく家の近所のファミレスへ行き、パスタのランチとパフェを注文した。

 甘いフルーツパフェを食べつつ、ノートを開く。

・先延ばししないで早くタスクを終わらせた!
・気分はスッキリ!

 赤ペンで大きな花丸も描く。こうして食べたフルーツパフェは、想像以上に美味しく、頬が溶けそうだった。

 こんな風にささやかなご褒美があれば、頑張れるかもしれない。

・もう隠す事は捨てる
・先延ばしも辞める
・(たとえ出来なくても自分を責めない)
・(どうせ自分はストレスに弱い部分がある。まずそれを認める)。

 こう書いた後、気分は晴れてきた。

 次は自分に似合う服の研究だ。これがわかれば、無駄な衝動買いも減らせそうだ。

・私に似合う服って何?

 蒼子は笑顔でノートに向き合っていた。

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