キジナキの巫女
7話
「はッ、ああ──ッッッ!!!」
正輝の体に、怒涛の拳撃が襲い掛かる。
体をジンジンと刺激する痛みを感じながら、正輝は腕を振り抜いた。
沙耶香には掠りもしていない、雑な攻撃。
だが──直後に吹き荒れた暴風が、沙耶香の体を吹き飛ばした。
華奢な体は為す術なく吹き飛ばされ──屋上のフェンスに叩き付けられる。
「ふッ、ぐぁ……?!」
崩れ落ちる沙耶香が、素早く立ち上がった。
──目の前に、正輝が立っている。
「──ッ! ッああッッ!!」
下顎を打ち上げる。そのまま正輝の喉仏に、沙耶香の拳が突き刺さる。
裂帛の雄叫びと共に、沙耶香が正輝の鳩尾に拳撃を叩き込んだ。
「はッ──あぁ……! ふッ、はぁッ……!」
誰がどう考えても、重傷となるような連撃。ともすれば、意識を無くす者もいるような攻撃。
だが──正輝はのっそりと体勢を戻すと、能面のように冷えた表情で問い掛けた。
「……なんだ、もう終わりか?」
「抜かせ──ッッ!!」
金的を蹴り上げる。眉間を拳撃が貫く。鳩尾に渾身の右ストレートが突き刺さる。
普通の人間ならば、耐えられるはずもない──なのに。
「……なんだ、終わりか?」
平然としている正輝に、沙耶香はさらに拳を振るう。
しかし──
「……もう終わりか?」
額に青筋を浮かべ、喉が裂けるほどの雄叫びを上げて拳を振り抜いた。
けれども──
「──終わりか?」
──なんだ、コイツは。なんなんだ、この男はッ、一体なんなんだ、竹上 正輝という男は?!
何故──こうも平然としていられるんだッ?!
「くッ──あああッッ!!」
「──もういいだろ」
──パシッと、沙耶香の拳が受け止められる。
「お前じゃ、俺に勝てない。つーか、俺をまともに痛がらせる事もできない。もういいだろ、まだ暴れ足りないのか?」
「このッ──放せッッ!!」
──グルンッ! と、吠える沙耶香が勢いよく体を反転させる。
たったそれだけの動作で──正輝の体が浮いた。
一本背負い──投げられる正輝の体が向かうのは、屋上のフェイスの先。
即ち──屋上から放り出される。
「……はぁ──」
正輝がため息を吐き、足を蹴り上げるように振り抜いた。
瞬間──凄まじい暴風が吹き荒れる。
正輝を投げようとしていた沙耶香も、吹き荒れる暴風には抗えず──風に吹かれるまま、床を転がった。
──スタッと、暴風の影響で戻ってきた正輝が、何事も無かったかのように着地する。
「……まだやるのか? もういいだろ? お前じゃ俺に勝てない。そもそもの話、俺とお前は同じ土俵に立ってない。その時点で、このしょうもない戦いは、喧嘩にすらなってない。わかるか?」
正輝が拳を握る。沙耶香の体に緊張が走った。
殴られる──あのとてつもない膂力によって。
素早く立ち上がり、沙耶香は迎撃するために両拳を握った。
「喧嘩ですらない揉め事に、俺は全力を出すつもりなんてない。お前にどんな理由があるのか、なんで俺を『雉鳴』から立ち去らせたいのか……何も知らねぇけど、知るのも面倒くせぇ」
──ダンッと、正輝が地面を踏み込んだ。
そのまま力を込めていた拳を上空へと打ち上げ──轟音、衝撃。
吹き荒れる拳撃の風圧が美琴と沙耶香の体を吹き飛ばし──次に目を開いた瞬間、目の前の光景に唖然とした。
──空が、青い。先ほどまでは白い雲があったのに、雲が無くなっている。まるで、とてつもない風に吹き飛ばされたかのように。
「──化物の俺と人間のお前が、わかり合えるとは思ってない。だから、お前が俺の事を理解してくれるとも思わない。俺がお前の気持ちをわかってやれるとも思えない」
正輝が振り抜いた拳を下ろし、どこか寂しそうな表情で沙耶香に歩み寄る。
「でも、どうでもいいじゃねぇか。俺には化物みたいな力がある。俺はキジに触れて祓う事ができる。それがお前らの助けになる──それに、俺は衛守にも雉鳴にも危害を加えるつもりはない。なら、別に俺とお前がわかり合う必要なんてねぇだろ。キジを祓うっていう、俺たちの目的は同じだし」
「……………」
「もう俺に絡むな。もう化物に声かけんな。化物の俺が、普通の人間のお前らと仲良くできるなんて──俺も、到底思ってねぇから」
正輝は沙耶香の横を通り過ぎ、屋上の扉に手をかける。
「もう化物に構わないでくれ。その方がお互いのためだから」
言いながら、正輝が屋上から立ち去った。
──ペタンと、沙耶香がその場に座り込む。
「さ、沙耶香。どこか怪我をしたの?」
「いえ……竹上さんは、手心を加えてくれましたから。本気で竹上さんを殺そうとしていた私に、手心を……」
「……昨日言ったでしょう。竹上君は、スゴい力を持っているって」
「凄い力という言葉が、まさかそのまま、とてつもない筋力を持っているとは思いませんでした」
苦笑を漏らす沙耶香。どうにか美琴の手を取って立ち上がる。
その反対側の手を使い、美琴はとある人物へ電話を掛けていた。
『──もしもし?』
「あ、父さん。ごめん、お願いがあるんだけど」
『いいよ、どうしたんだい?』
「竹上君について、詳しく教えてくれないかしら。竹上君の尋常ならざる筋力と、キジを祓える能力について」
『……? それは、美琴に説明したはずだけど?』
「私じゃなくて、沙耶香に教えてあげて欲しいのよ」
『うーん……なら、正輝君がいない時に話そうか。二人とも、今から家に帰ってくる事はできそうかい?』
──────────────────────
「──ただいま」
「お邪魔します」
「来たね、二人とも。それじゃあ、話をしようか」
──昼過ぎ。学生たちはまだ授業を受けているであろう時間帯。
美琴は家に帰って来ていた。沙耶香を引き連れて。
担任教師には、体調不良で早退すると伝えている。
「さて……どこから話したものか……」
「勿体ぶらないでください、旦那様」
「あはは。それじゃあ、質問から始めようか──衛守さん、キミは『退魔の四祓』を知っているかな?」
「当然です。刀、短剣、弓、盾──四つの武具が、キジを祓う力がある……ですよね?」
「うん。それじゃあ、『退魔の四祓』が今どこにあるのか……キミは知っているかな?」
善人と質問に、だが沙耶香はすぐに返事を返した。
「刀は私、短剣はお嬢様。弓はキジに持ち去られ、盾については行方不明……です」
「うんうん。行方不明になった盾が、正輝君の体に宿っているという話は聞いたのかな?」
「──え?」
ポカンと口を開けてしまう沙耶香。無理もない──というか、意味がわからないのだ。
「今から遠い昔──というわけではないけど、数百年前……とある男が、一人の女に恋をした。その男は村一番の働き者で、その女と結婚した」
「……………」
「だが、男を災難が襲う。キジを祓うという使命だ。『退魔の四祓』に選ばれた以上避けては通らない宿命を背負い、戦いばかりの日々に疲れ果て、生きる事を諦めた男は──『祓いの儀』から逃げるため、『退魔の四祓』の盾を、自分の体に取り込んだ」
──何を言っているのだろうか、この人は。思わず、沙耶香はそんな事を思った。
「熱で『退魔の四祓』の盾を溶かし、体内に取り込んだ男。当然、男の口、食道、内臓は滅茶苦茶に焼き尽くされ……男がこの世を去る寸前、男は女と性行為をした。生物は死を感じると子孫を残そうとする本能を持っているらしいからね。おそらく、男も同じだったんだろう。その後、死亡した男の体から、盾と思われる金属が見つかる事はなかった。どれだけ念入りに死体を解剖しても、最後の最後まで見つからなかったんだ」
「それって──」
「男と女が交わした、人生最後の性行為──そして、女の体内に宿った胎児が、盾の力を吸収した。その子どもも、その次の子どもも──そうして『退魔の四祓』の盾は、子から子へと受け継がれた。正直、自分で言っててあまりに非現実的な話だけど……この可能性しかないと思っている」
「そうして産まれたのが……竹上君、って事ですか……?」
沙耶香の問い掛けに、善人はコクリと頷いた。
「彼は、自分の力について詳しくは知らない。何故かわかるかい?」
「……『雉鳴』に住む者以外、『雉鳴』の怨念を知る必要がないから……」
「その通り。そして『退魔の四祓』をその身に宿す者は、例外なく特殊な力を持って産まれる。キジを祓う力や、尋常ならざる気配察知能力──そして、途方もない膂力を持って」
──つまり、何か?
自分は正輝の事を『雉鳴』には関係のない人物だと思っていたが、その実『雉鳴』と因縁がメチャクチャにある人物だと?
「正輝君は、とても良い子だ。自分の力も碌に理解していないのに、昨日みたいに力を貸してくれる──幼少期の正輝君は大変だったろうね。文字通り、化物みたいな力を持っていた正輝君は、友達なんて作るに作れなかっただろうに」
善人の言葉を聞き、沙耶香は──黙って顔を俯かせた。
「沙耶香──」
「わた、しは……私、は……なんて、事を……」
「落ち着きなさい、沙耶香」
「……はい、お嬢様」
胸に手を当て、大きく深呼吸を繰り返す沙耶香。
スッと目を開き、沙耶香は善人に視線を向けた。
「私、竹上さんの事を知りませんでした。知ろうとも、していませんでした。『雉鳴』の怨恨を知らぬ者が、その力でキジを祓うなんて──そんな話、信じようともしませんでした」
「うん」
「ですから、ちゃんと竹上さんと話してみます。彼がどういう思いでキジを祓っているのか、なんで『雉鳴』に来たのか──自分の力について、どう思っているのか。ちゃんと、しっかり、正面から向き合って話します」
沙耶香の言葉を聞き、善人はにっこりと笑った。
「そうするといいよ。キミも彼も、みんなまだ高校生なんだ。ちゃんと話し合えば、お互いの事をちゃんとわかり合えるから」
「はい」
正輝の体に、怒涛の拳撃が襲い掛かる。
体をジンジンと刺激する痛みを感じながら、正輝は腕を振り抜いた。
沙耶香には掠りもしていない、雑な攻撃。
だが──直後に吹き荒れた暴風が、沙耶香の体を吹き飛ばした。
華奢な体は為す術なく吹き飛ばされ──屋上のフェンスに叩き付けられる。
「ふッ、ぐぁ……?!」
崩れ落ちる沙耶香が、素早く立ち上がった。
──目の前に、正輝が立っている。
「──ッ! ッああッッ!!」
下顎を打ち上げる。そのまま正輝の喉仏に、沙耶香の拳が突き刺さる。
裂帛の雄叫びと共に、沙耶香が正輝の鳩尾に拳撃を叩き込んだ。
「はッ──あぁ……! ふッ、はぁッ……!」
誰がどう考えても、重傷となるような連撃。ともすれば、意識を無くす者もいるような攻撃。
だが──正輝はのっそりと体勢を戻すと、能面のように冷えた表情で問い掛けた。
「……なんだ、もう終わりか?」
「抜かせ──ッッ!!」
金的を蹴り上げる。眉間を拳撃が貫く。鳩尾に渾身の右ストレートが突き刺さる。
普通の人間ならば、耐えられるはずもない──なのに。
「……なんだ、終わりか?」
平然としている正輝に、沙耶香はさらに拳を振るう。
しかし──
「……もう終わりか?」
額に青筋を浮かべ、喉が裂けるほどの雄叫びを上げて拳を振り抜いた。
けれども──
「──終わりか?」
──なんだ、コイツは。なんなんだ、この男はッ、一体なんなんだ、竹上 正輝という男は?!
何故──こうも平然としていられるんだッ?!
「くッ──あああッッ!!」
「──もういいだろ」
──パシッと、沙耶香の拳が受け止められる。
「お前じゃ、俺に勝てない。つーか、俺をまともに痛がらせる事もできない。もういいだろ、まだ暴れ足りないのか?」
「このッ──放せッッ!!」
──グルンッ! と、吠える沙耶香が勢いよく体を反転させる。
たったそれだけの動作で──正輝の体が浮いた。
一本背負い──投げられる正輝の体が向かうのは、屋上のフェイスの先。
即ち──屋上から放り出される。
「……はぁ──」
正輝がため息を吐き、足を蹴り上げるように振り抜いた。
瞬間──凄まじい暴風が吹き荒れる。
正輝を投げようとしていた沙耶香も、吹き荒れる暴風には抗えず──風に吹かれるまま、床を転がった。
──スタッと、暴風の影響で戻ってきた正輝が、何事も無かったかのように着地する。
「……まだやるのか? もういいだろ? お前じゃ俺に勝てない。そもそもの話、俺とお前は同じ土俵に立ってない。その時点で、このしょうもない戦いは、喧嘩にすらなってない。わかるか?」
正輝が拳を握る。沙耶香の体に緊張が走った。
殴られる──あのとてつもない膂力によって。
素早く立ち上がり、沙耶香は迎撃するために両拳を握った。
「喧嘩ですらない揉め事に、俺は全力を出すつもりなんてない。お前にどんな理由があるのか、なんで俺を『雉鳴』から立ち去らせたいのか……何も知らねぇけど、知るのも面倒くせぇ」
──ダンッと、正輝が地面を踏み込んだ。
そのまま力を込めていた拳を上空へと打ち上げ──轟音、衝撃。
吹き荒れる拳撃の風圧が美琴と沙耶香の体を吹き飛ばし──次に目を開いた瞬間、目の前の光景に唖然とした。
──空が、青い。先ほどまでは白い雲があったのに、雲が無くなっている。まるで、とてつもない風に吹き飛ばされたかのように。
「──化物の俺と人間のお前が、わかり合えるとは思ってない。だから、お前が俺の事を理解してくれるとも思わない。俺がお前の気持ちをわかってやれるとも思えない」
正輝が振り抜いた拳を下ろし、どこか寂しそうな表情で沙耶香に歩み寄る。
「でも、どうでもいいじゃねぇか。俺には化物みたいな力がある。俺はキジに触れて祓う事ができる。それがお前らの助けになる──それに、俺は衛守にも雉鳴にも危害を加えるつもりはない。なら、別に俺とお前がわかり合う必要なんてねぇだろ。キジを祓うっていう、俺たちの目的は同じだし」
「……………」
「もう俺に絡むな。もう化物に声かけんな。化物の俺が、普通の人間のお前らと仲良くできるなんて──俺も、到底思ってねぇから」
正輝は沙耶香の横を通り過ぎ、屋上の扉に手をかける。
「もう化物に構わないでくれ。その方がお互いのためだから」
言いながら、正輝が屋上から立ち去った。
──ペタンと、沙耶香がその場に座り込む。
「さ、沙耶香。どこか怪我をしたの?」
「いえ……竹上さんは、手心を加えてくれましたから。本気で竹上さんを殺そうとしていた私に、手心を……」
「……昨日言ったでしょう。竹上君は、スゴい力を持っているって」
「凄い力という言葉が、まさかそのまま、とてつもない筋力を持っているとは思いませんでした」
苦笑を漏らす沙耶香。どうにか美琴の手を取って立ち上がる。
その反対側の手を使い、美琴はとある人物へ電話を掛けていた。
『──もしもし?』
「あ、父さん。ごめん、お願いがあるんだけど」
『いいよ、どうしたんだい?』
「竹上君について、詳しく教えてくれないかしら。竹上君の尋常ならざる筋力と、キジを祓える能力について」
『……? それは、美琴に説明したはずだけど?』
「私じゃなくて、沙耶香に教えてあげて欲しいのよ」
『うーん……なら、正輝君がいない時に話そうか。二人とも、今から家に帰ってくる事はできそうかい?』
──────────────────────
「──ただいま」
「お邪魔します」
「来たね、二人とも。それじゃあ、話をしようか」
──昼過ぎ。学生たちはまだ授業を受けているであろう時間帯。
美琴は家に帰って来ていた。沙耶香を引き連れて。
担任教師には、体調不良で早退すると伝えている。
「さて……どこから話したものか……」
「勿体ぶらないでください、旦那様」
「あはは。それじゃあ、質問から始めようか──衛守さん、キミは『退魔の四祓』を知っているかな?」
「当然です。刀、短剣、弓、盾──四つの武具が、キジを祓う力がある……ですよね?」
「うん。それじゃあ、『退魔の四祓』が今どこにあるのか……キミは知っているかな?」
善人と質問に、だが沙耶香はすぐに返事を返した。
「刀は私、短剣はお嬢様。弓はキジに持ち去られ、盾については行方不明……です」
「うんうん。行方不明になった盾が、正輝君の体に宿っているという話は聞いたのかな?」
「──え?」
ポカンと口を開けてしまう沙耶香。無理もない──というか、意味がわからないのだ。
「今から遠い昔──というわけではないけど、数百年前……とある男が、一人の女に恋をした。その男は村一番の働き者で、その女と結婚した」
「……………」
「だが、男を災難が襲う。キジを祓うという使命だ。『退魔の四祓』に選ばれた以上避けては通らない宿命を背負い、戦いばかりの日々に疲れ果て、生きる事を諦めた男は──『祓いの儀』から逃げるため、『退魔の四祓』の盾を、自分の体に取り込んだ」
──何を言っているのだろうか、この人は。思わず、沙耶香はそんな事を思った。
「熱で『退魔の四祓』の盾を溶かし、体内に取り込んだ男。当然、男の口、食道、内臓は滅茶苦茶に焼き尽くされ……男がこの世を去る寸前、男は女と性行為をした。生物は死を感じると子孫を残そうとする本能を持っているらしいからね。おそらく、男も同じだったんだろう。その後、死亡した男の体から、盾と思われる金属が見つかる事はなかった。どれだけ念入りに死体を解剖しても、最後の最後まで見つからなかったんだ」
「それって──」
「男と女が交わした、人生最後の性行為──そして、女の体内に宿った胎児が、盾の力を吸収した。その子どもも、その次の子どもも──そうして『退魔の四祓』の盾は、子から子へと受け継がれた。正直、自分で言っててあまりに非現実的な話だけど……この可能性しかないと思っている」
「そうして産まれたのが……竹上君、って事ですか……?」
沙耶香の問い掛けに、善人はコクリと頷いた。
「彼は、自分の力について詳しくは知らない。何故かわかるかい?」
「……『雉鳴』に住む者以外、『雉鳴』の怨念を知る必要がないから……」
「その通り。そして『退魔の四祓』をその身に宿す者は、例外なく特殊な力を持って産まれる。キジを祓う力や、尋常ならざる気配察知能力──そして、途方もない膂力を持って」
──つまり、何か?
自分は正輝の事を『雉鳴』には関係のない人物だと思っていたが、その実『雉鳴』と因縁がメチャクチャにある人物だと?
「正輝君は、とても良い子だ。自分の力も碌に理解していないのに、昨日みたいに力を貸してくれる──幼少期の正輝君は大変だったろうね。文字通り、化物みたいな力を持っていた正輝君は、友達なんて作るに作れなかっただろうに」
善人の言葉を聞き、沙耶香は──黙って顔を俯かせた。
「沙耶香──」
「わた、しは……私、は……なんて、事を……」
「落ち着きなさい、沙耶香」
「……はい、お嬢様」
胸に手を当て、大きく深呼吸を繰り返す沙耶香。
スッと目を開き、沙耶香は善人に視線を向けた。
「私、竹上さんの事を知りませんでした。知ろうとも、していませんでした。『雉鳴』の怨恨を知らぬ者が、その力でキジを祓うなんて──そんな話、信じようともしませんでした」
「うん」
「ですから、ちゃんと竹上さんと話してみます。彼がどういう思いでキジを祓っているのか、なんで『雉鳴』に来たのか──自分の力について、どう思っているのか。ちゃんと、しっかり、正面から向き合って話します」
沙耶香の言葉を聞き、善人はにっこりと笑った。
「そうするといいよ。キミも彼も、みんなまだ高校生なんだ。ちゃんと話し合えば、お互いの事をちゃんとわかり合えるから」
「はい」

コメント
コメントを書く