組織から孤島に逃げ落ちた元悪役令嬢は花屋を開きモフモフ動物達とスローライフを送っていたら世界トップレベルの魔石商になってしまった件⁉

菅原 みやび

頑張っている貴方に天使のプレゼントを

 翌日の朝、花屋エターナルの開店と同時に一人の女性が私の店を訪れる。

「おはようございます!」
「あら、いらっしゃい!」

 ドアを開くと、元気な声と共に黒の修道服を身に纏った若い女性が立っていた。

 黒いフードから覗く赤毛、修道服の上からも分かる華奢な体つき、それに少し丸みを帯びた愛らしい顔立ち、二重にぱっちりとした大きな目。

 澄んだエメラルドグリーンの瞳がこちらを見つめている。

 うん間違いない、シスターリンだ。

「昼から持っていこうと思っていたんだけど……」
「す、すいません! 待ちきれずにきちゃいました! あ、これお礼の差し入れです!」

「あ、どうも……」

(何かしら?) 

 私はシスターからバケットを手渡され、その中を確認する。

「あ、サンドイッチだ、嬉しい! 丁度お昼をどうしようかなと迷ってたのよね!」

 よく見るとバケット内の片隅には、カットされたリンゴなども丁寧に添えられている。

 ウサギ型に丁寧にカットされたそれはシスターリンの細やかな性格がにじみ出ている。

(ここら辺の気遣いが子供達に大人気なんだろうな……) 

「どうぞ中に入って」
「あ、ありがとうございます。すいません急に押しかけて……やはり仕事の邪魔になりますか?」

「え? ああ、まあ気にしないで……」

 正直私の店に花目的で朝一で来店される方はほとんどいない。

「プレゼントを2階に取りに行ってくるので、中の花を見て待ってらしてね」
「わあ、ありがとうございます!」

 エメラルドグリーンの瞳を輝かせ、自身の手を組み合わせ嬉しそうに笑うシスターリン。

 ということで、私はシスターリンを中で待機させ、急いで2階の加工部屋にプレゼントを取りに行く。

(というか、ここ僻地の中の僻地だしね……) 

 そう、滅多に人が訪れ事が無いブルジョワご愛用の特殊観光地ブリガン。

 その孤島の中にある僻地……それが私の住処……。

 私は遠くに見える客船が本島に戻って行くのを確認しながら、しみじみとその事を実感するのだ。

(それにしばらくは花屋の営業をしなくても十分食べていけそうなんだよね……)

 この前頂いたイッカ国前払いの報酬の一級品の宝石をアクセサリー加工して売るだけで、当分は何もしなくてよさそうな感じである。

(更に今度ブラッド青年からは別報酬がたんまり頂けるだろうし) 

 正直どんな魅力的な宝石類を頂けるか楽しみにしているところである。

(願わくば見た事も無い魅力的な宝石を見て見たいもの……)

 そしてそれらを加工して完成させるとき、私は生を実感できるのだ。

(だからか今回ほぼ無報酬のシスターリンの貴金属の加工も本気で取り組んでしまったのよね) 

 私は階段を上り下りしながら、そんな事を考えるのだ。

「うーん……これかなあ……。こっちも悪くない……」

 一階の花屋に戻ると、真剣な顔をして悩み花を見ているシスターリンの姿が見えた。

 独り言がだだ漏れである。

「……リンさん?」
「う、うわわっ⁈ あ、すいません。フラワーアレンジメントに使う花を選んでいて迷っていたんですよね……」

「あ、ああ……」

 数日前にマーガレットが来ていてその話を聞いていたので、すぐに理解出来た私。

「マーガレットから聞いたけど教会で沢山使うらしいですね」
「そう! そうなんですよ! 子供は宝! 今のうちに色んな教育をしとかないと育たないからですね!」

 シスターリンは目を輝かせ、自身を納得させるように深く頷いている。

(……まあ、ここいらがシスターリンの根っからのお母さんが滲み出ているわけで……)

 そんな頑張っているお母さんにはちゃんとプレゼントを上げないとね。

「シスター……」
「はい……?」

 私はそっとシスターリンの首にプレゼントであるネックレスをかける。

「ああっ! これ……」
「ふふ、貴方にピッタリでしょ?」

 それは純銀で出来たロザリオの装飾ペンダント。

 その中央にはブリガン産の真紅の魔石ブリガンレインが魅力的な輝きを放っている。

 大粒のそれは3カラットといったところかな?

 長円状にカットされたそれは、当然一流の加工師である小次狼さんの腕によるものである。

「い、いいんですか? こっ、これ絶対お高い奴じゃ?」
「いいからいいから……」

(まあ、私の小さな友達マーガレットもお世話にってるしね……) 

「しゅ、しゅごいい! この6枚羽の天使? の装飾、腕と頭が無いのが気になりますが……」
「ああ、それはワザとつけてないのよね、ほら、色々想像出来た方が楽しいでしょ?」

 感動し過ぎて口調が可笑しい事になっているシスターリンに苦笑しながら、私は人差し指をたてウィンクして見せる。

「あ、なるほど確かに! う、うーん、でも頭はあった方が良かったんじゃ?」
「ふふ、実はその天使は身に着けている人自身を差しているのよね……」

 シスターリンは少し考え、納得したように深く頷く。

「……ふ、深いいですね……。流石毎日研鑽している方のアイディアは違います。私も見習わないと」
「ふふ、中々嬉しい事言ってくれるわね」

 シスターリンが言ってくれたように、花屋をやっている一つの理由が毎日のコーディネイトの試行錯誤のインプットとアウトプットだったりするんだよね。

 接客し、お客様に合うものを提供するが私の仕事。

 それは花屋も魔石商も変わらないのだから……。

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