受験生は視線そらさない

清水レモン

日曜日の午前10時44分

彼女が僕を凝視している。
僕は息をのみ、呼吸を数秒間ほど静止させた。

「わ」

彼女が言いかけて止まる。

「大丈夫?」と僕は訊く。

『うん』と唇を閉じたままで彼女が大きくうなづいた。

「そっか」

「の」

『の?』---なんだろう、なにか言いたげに見える。
僕は彼女のスカートの中から手をするっと抜いて、姿勢を正した。
『こうして見おろすと、身長差があるんだな』と思う。
彼女の頭のてっぺんが見えている。

「ん!」と、なにか強い意志を感じさせる目で僕を見あげてくる。

そうするつもりなんて、まったくなかったのだけれど、僕の手は彼女の脚から腰へ、そのまま自然に背中へと流れていって、いったん巻きあがってしまったスカートがはらりと元に戻るときには、

「うわっ。なんか、ちかっ!」と意識してしまった。

僕たちは目と目を強く向き合わせていたからだろう、ちょっとしたお互いの変化も認識できるようになっていた気がする。
あきらかに、僕は赤面していたに違いない。
こんなに冷静なのに。
体は心とは別のスピードで反応する。
みるみるうちに顔色が変化したのを、まのあたりにしたんじゃないかな。彼女の表情も変化した。



僕は、ここにきて自分の心臓の跳ね返りを感じた。なんだこれ。

「えと」
彼女が目をそらした。
僕は少し安心して、さっと身をひくように一歩ほど後退する。
頭のてっぺんは見えなくなり、サラサラ感のある前髪が揺れているのがわかった。
僕は自分の頭に手をやり、短い髪を不必要になでる。
すると自分でも思いつかなかった言葉が自然と口から発せられていく、

「授業終わったら時間くれる? ちょっとさ」
と早口に。

「が」

「おれはテレビ見ないし芸能人よく知らないし君が欲しい答をできないかもだけど、おれも君に聞きたいこととかあるんだよね。つきあってよ、午後」

『うん』と大きな目で彼女は頭を小刻みに揺らした、黙ったままで。

返事の意味はわからなかったけど、僕は会話の終わりを実感できたので、

「じゃ」

と右手を少しだけ、胸のあたりまであげた。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品