受験生は視線そらさない

清水レモン

日曜日の朝

いつも教室はガラガラだ。
授業開始の、およそ10分前。
『だから、ひとが少ないにもほどがあるだろって』
はしっこ、まんなか、すみっこのほう、とにかくどこでも座れる。
机なんて選び放題、どこにしようと広々と使えてしまう。
がらんどう。
僕は人間が苦手だ。とにかく苦手で、しつこく質問されるのが嫌だった。
興味をもたれるのは別に構わない。
さっきのわからないところ、先生が言ってたけど聞き逃しちゃったとか。
そういうのなら問題ない。
どこに住んでるの。学校は。いちおう確認だけど同学年だよね。
それくらいなら、まあいい。
やっかいだな、と思うのは。

「ゆうべ、なに見た?」

「好みのタイプって、どんな子なの」

それを聞いてどうする。
家にテレビはあるけれど親が観てるだけ。
好みのタイプって要するに異性でしょ、僕が好きな子がどういう女の子かなんて。

『いや、絶対そんなの知りたいわけじゃないだろ。
 なにか裏があるよな。絶対そんなの口実にすぎないはず。
 けど・・・なんの口実。
 そもそも目的は』

ときどき遠くからクスクスクスっと笑い声のような気配がある。
ふと視線を向ければ、あんなに遠くに女の子がふたりいる。

『いつのまに教室に』

この教室の扉は重くて、開けるにも閉めるにも大きな音がする。
あと、ガチャリって。錠前の金属音。耳つんざくように響くから。

『誰かが開けたなら気づくはず、なんだけどな』

僕は視線を戻す。
ひゃはははははっ。とおしゃべりが始まった、そんな気配が伝わってくる。
声は振動だ、どんなに小さくとも確実に届いてくる。
こんなに誰もいない空間では、振動をさえぎるものがない。
僕はふたたびチラリと彼女たちのほうを見る。

『こっちを見てる』

いや、たまたまだ。
たまたま僕が視線を向けたから、こっちの気配を察して目を向けただけかもしれない。
集中しよう、まもなく授業だ。

チャイムは鳴らない。
時間になったら先生が来る、唐突に授業が始まる。
それだけだ。

日曜日の朝、僕は予備校の授業に出席していた。

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