亡命した貴族令嬢は隣国で神のような愛に包まれ、名家奪還の大逆転を遂げます!

鼻血の親分

Episode4

「フロリアン、そこの書類を読んで適当にサインしてくれないか?」

お屋敷の中にある執事室で、テーブルに山済みされた書類をリュメル様は顎をしゃくって示されました。私は鬼の形相で睨むへクセを気にしながらも一応目を通します。でも、それが外交関係の書類であることは見なくても分かります。

「君は父の仕事を手伝っていたそうだな」
「はい。病弱な父の代わりに代筆などさせて頂きました」
「ふん」
へクセの人を小馬鹿にしたような鼻を鳴らす声が聞こえます。私がここに居ること自体、気に入らないのでしょう。そんなへクセの態度を見て見ぬフリしてリュメル様はお話を続けられました。

「僕は外交などコレっぽっちも興味がない。ベリューム家を継いだからやらされてる訳だ」

……それは、私のせいなのでしょうか?

「君なら大体のことは理解出来るだろう?」
「ですがリュメル様、これはセンシティブ且つお国の重要なる決定を承認する書類も含まれています。私の一存では決めかねます」
「いや、君は長年外交の主宰であった父をサポートしてきた。それに隣国に留学した際は貴族院で首席だったそうではないか」
よくご存知ですね。調べたのですか?それとも?
「宮殿では評判のようだ」
「ふん」と、また鼻音が聞こえる。
「ま、頼んだよ。外にも出れず掃除ばかりじゃ、君も気分が晴れまい」

そうお考えでしたら、私の処遇を改善して頂きたいものです。でも、それもへクセが決めることなので無理でしょうね。
私は気が進まなかったけど少しでもリュメル様のお役に立てればと思い……いえ、正直に申せばへクセの悔しがる顔が見たくて、このお仕事をお引き受け致しました。私、この劣悪な環境のせいで性格が少々悪くなった気がします。

「フロリアン!話が終わったなら、その書類持ってさっさと屋根裏へ行け!」
「……かしこまりました」
ここではお仕事させてくれないのですね。まあ、いいでしょう。それにしてもへクセはいつもより乱暴な物言いです。まるで、お下品なモッペルのようで……

私はリュメル様に愛されていない。でもへクセは私を警戒しているのではないかと時々思ってしまいます。決して自惚れてなんていません。私は女性として、いささか魅力に欠ける平凡な素材でございますので。ただ彼女の連れてきた使用人は全て、ご年配で『ふくよか』な体型のご婦人方。つまり、このお屋敷で若い女性は唯一、私だけなのです。

ヘクセは私とリュメル様がお屋敷の中で顔を合わせないよう、お掃除の場所など限定していますが、このお仕事を通じて少しは接触する機会が増えるかも知れません。それに過敏になるへクセが見ものですが、それは危険が伴ないます。どんな意地悪が待ってるか分かりませんから。

でも、もっと正直に申せばへクセのことよりも少しばかりか私の価値がお屋敷の中で上がった気がするので、それがささやかな喜びだと感じております。




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