爪先からはじまる熱と恋 R15版

只深

リスクヘッジ





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蒼side

「エビ怖い」
 思わず呟くと助手席に座った昴が思い出し笑いでニヤけてる。

「土間さんが笑いすぎて泣いてたな。蒼があそこまで怖がったのは強盗以来だ。まさかエビと強盗が同列とは」

「だって、足がわしゃわしゃして…ビチビチ跳ねて…うぅ、怖い」
「その割には平気で食べてたじゃないか」

「焼けば動かないからねっ!!」

 

 はぁ。生きてる海老はもうダメ。トラウマ。
大笑いしてた土間さんを駅に送り届けて、都内に戻ってきた。
 この後、警察庁に行くことになってるけれど、気が重い。

「本当に行くの?」
「あぁ。正式な書類の調印もやり直しだからな。発案者の蒼がいないと。」
「うーん」


 警察に行くのは別にいいんだけど。
 両親にも会えると言われて、怯んでしまっている。
信号待ちで止まり、青になるのを待つ。
 シフトノブにおいた手に、昴が手のひらを重ねてくる。



「嫌ならいいんだ。いつでも会える」
「嫌というわけじゃなくて、怖いの。
 千尋が言ったように優しさでそうしてくれていたのなら嬉しいけど、そうじゃなかったらと思うとね…」

 

 最後に記憶しているのは私の事をじっと見てきた無表情な目。
 少しずつ思い出してきた記憶の中でもいつもその目だった。
昴や、慧、千尋の優しい瞳に慣れて好きという気持ちを理解した今…それを正しく理解してしまいそうで。


「気が向いたらでもいいさ。俺はさっさと帰って蒼とくっつきたいからな」
「む、むぅ」

 慧や千尋は会ってからの時間が短いけれど、昴とは前の仕事でも散々顔を合わせていた。
 あの微笑みにそう言う意味が含まれていたことを今更ながらに思い出して、お互い結構前から好きだったんだと思うと気恥ずかしい。



「順位で言えば俺が最下位だろう?スタートが早いのにゴールが最後とは情けない男だ」
「そ、そんな順位とかはないでしょ」

 青信号で発進すると暖かい手が離れていく。
 私は相当おかしい女の子な気がする。三人とも本当に好きなのはどう言う事なんだろう。
 触れれば安心するし、抱き締められるたびにドキドキするし、キスしたいし、その先だってしたい。自分でもどうなっているのかわからない。


「私ってなんなんだろうね。三人も好きになっちゃうなんて。」

「蒼は蒼だろ。他の人と比べる必要なんかない。苦労してきた分恋人が多くたっていい。最近じゃそう言う恋愛もメジャーになっているだろ?」

「ポリアモリーだっけ」

「そうだ。俺たちは一人だが、蒼の甲斐性があるから複数になっただけだ。相手が了承しさえすればいい。俺は嫉妬をする事に味を占めつつある」
「えぇ…」

 寂しい思いをさせたくはないけど、どうやったらみんなを満足させてあげられるんだろう。嫉妬が癖になるのはいい事なのかなぁ。

「嫉妬や寂しさもスパイスだ。二人に嫉妬を抱きながら蒼を独占できる日が来るのを待つのが快感になっている」
「そうまで言われるとどうしたらいいのかわかんないよ…」


 

 昴の顔を横目で見る。
 三人ともそれぞれタイプの違うイケメン。身近にいなかったよこんな人。
 私みたいな平凡な人が独占して良いような人じゃないんだけどなぁ。
本当にかっこいい…。三人とも見た目だけじゃなくて、心も深くてかっこいいとかどうしたらいいの?!



「ん?見惚れたか?」
「うん。イケメンすぎる」
「そ、そうか」

 素直に返すと昴が照れてる。
 私もこれは癖になりそう。



 警察庁の駐車場に着くと、門の入り口でパーティーに来ていた人が勢揃い。昴の連絡役だった楠さんは居ないけど。
 彼がどうなったかは聞きたくない。怖い。

「お疲れ様です!C区画へ駐車お願いします!」
「ありがとう。蒼、そこの入り口横だ。重鎮扱いだな」
「はーい」

 千尋の連絡役の千木良さんがニコニコしながら駐車位置まで走って案内してくれる。千尋が言うように、良い人そう。

 車を降りると相良さんが腕を組んでくる。
今日はおばあちゃんの格好してないんだ。
 長い黒髪がふわふわ揺れてる。この人本当に美人さんだなぁ。身の回りが見目麗しい人たちばかりで私は困る。普通な見た目が私しかいない。

 

「蒼、待っていたぞ」
 相良さん…おっぱいが当たってます。

「あ、あの。距離近くないですか」
「敬語はやめてくれ。蒼とは対等でいたい。」
 
 後ろで三人が微妙な顔してる。

 警視総監の田宮さんがペコリと頭を下げてくる。周りの人が騒ついてる。
 警察では一番偉い人だもんね。あ、2番目だっけ?微妙にわからない…。警視庁の上が警察庁だとは聞いてるけど…。



「お待ちしておりました。ご案内します」

 大きなビルの入り口に向かってみんなで歩いていく。
 警察庁って大きいんだなぁ…。
 思わずため息をついて、歩を進めた。

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 案内された長官室の、重厚な革張ソファーに腰掛ける。…これは流石に知らないソファーだ…どこのだろう?
 すぐに立てるよう浅く腰掛けようとしたのに相良さんが離してくれない…。リスクヘッジが出来なくて困るんですけど。

「あのぉ」
「ん?どうしたのかな?」
「いつまでくっついてるんでしょうか」
「敬語がなくなるまでかな」
「うー。やりづらい」

 デスクに座っている長官と書類を持ってきてくれる千木良さんは苦笑いしてる。

「相良、お気に入りなのはわかるが離してやれ。組織のお偉いさんが怖い顔になってるぞ」
「…チェッ。長官煩っ」


 二の腕をサワサワと撫でて、相良さんが離れていく。
 向かい側に座っていた三人が私を取り囲んで座り直す。

「…逆ハーレムですね」
「千木良、うるさい」

 千尋がしっしっ、と手で払うと微笑みながら千木良さんが離れていく。
 デスクからやってきた田宮さんが向かいに座った。明るいところで見るとなかなか貫禄のあるお顔。
 顎髭がイケオジ感を出してる。相変わらず胡散臭いけど。

「書類のチェックをお願いします。スケジュールも一応出してあるが目安だと思って下さい」



 今ってホチキス使わないんだね。穴が空いて紙が折りたたまれてまとまってる。
 ローテーブルに置かれた書類を手に取り、一枚一枚めくっていく。
 うん、話したとおり。二人は警視正で決まり。楠さんは逮捕されたのね…。
 …はっ!?これは??

「あの、私が特別顧問って何故ですか?昴がボスですよね?」
「発案者は蒼さんだろう?作戦に関しても今後に関してもあなたの意見が欲しい。警察官にするわけにはいかないので、その様にさせて頂きたいのです」
「えぇ…?」
 
 ニコニコしてる田宮さんの横で相良さんが得意げな顔をしてる。
 提案したのは相良さん?もぉぉ…。



「良いじゃないか。俺たちはある意味手玉に取られてるわけだし。実質上トップでいいだろう」
「賛成」
「俺も賛成」
「賛成しないで…」

 書類を全員でチェックして、昴が大きな判子を押していく。
 会社契約だから社判なのかな。高そうな判子だ。


 
「よし、これでOKです。
 今後ともよろしくお願いいたします!」

 おぉ!警察の方たちがビシッと敬礼してくださってる。

 ふ、と微笑んだ昴と千尋が立ち上がって敬礼を返す。
 うわぁ、かっこいい!初めて見た…!
 なんか、凄くいい。二人の居場所も、慧の今後もこれで安泰だ。

 私が、いなくなっても…。




 突然手を握られて、驚いて振り向く。
 眉を下げた慧と、相良さんもその後ろで顰め面になってる。
 
「えっ?な、なに?どしたの?」

「蒼も、一緒だからね。ちゃんと分かってる?」
「…え、えと、うん?」

「長官、さっさと延命の話をしてください」

 相良さんが不機嫌になって吐き捨てる。
 本当にどうしたの?



「そうだな。早いほうがいいだろう。
 蒼さんを連れ出した元ファクトリー研究員の2人が協力して、作り出した試薬をテストしているところだ。
 若返ると言うわけではないが…説明が難しくてな。出来れば、直接話を聞いてもらいたい。どうでしょうか」

「試薬、ですか」
「そうですよ。定期的に飲むことになるが、体内の劣化を止めるそうです」

 体内の劣化…時を止めるとなると、一つだけ懸念がある。それは、直接聞かなくてはいけないかな。



「会わせてください。できれば、私一人で」
「なぜだい?」

 相良さんは不機嫌なままだ。
 千尋が注射された時に試薬ですぐに判断していたから、おそらく薬学知識もあるはず。
 なんとなく、勘づいてる。女性だし。

「そう、したいんです」
「蒼…一緒に行くって、言っただろ?」

 千尋が肩に手を置いてくる。
 でも、ダメ。薬の話は出来ない。

「家族?の話がしたいから、それが終わってからじゃだめかな」
「「……」」

 昴も慧も微妙な顔をしてる。
 勘がいい人達だから、ちょっと苦しい。
 私も嘘が下手だし。


 
「女同士の話もあるんだよ。な、蒼。私が付き添うよ」
「相良さん…はい。お願いします」

 私達は微妙な顔をしたみんなを残して、仮の研究室に向かうことにした。

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 慧side

「蒼の顔、見た?」
「まるで死地の果てに行き着いた様な顔をしていたな」
「あぁ」

 蒼と相良さんが二人で向かった研究所を眺めて帰りを待ってるんだけど。そわそわして落ち着かない。

 小さな小屋の前に段ボールが山積みになっている。
 研究、一生懸命してるんだ。
 親御さんと言っていいのかわからないけど、連れ出してくれた二人の気持ちは推し量れる。



「蒼は…もしかして延命したくないのかな」
「そんな事はないはずだ。土間さんもそう言ってたし」
「なんだろうな、この不安は」

 ボスと千尋が敬礼した時の、儚い笑顔が気になってる。
 どうして、あんな顔をしたんだろう。



「俺たちができることは、蒼をこの世に引き留めることだ。何が起きてもそれは変わらない」
「そうだな」
「そうだね」

 カラカラ、と研究所のドアが開いて、相良さんと手を繋いだ蒼が出てきた。
あぁ、よかった。いい笑顔になってる。

 ほっとしてこちらにくるのを待つ。



 相良さんは相当蒼のことを気に入ってる感じだなぁ。俺に忠告してきた時とは印象が変わった。
 今は孫を猫可愛がりしてるおばあちゃん…いや本当は若いみたいだけど。可愛がり方がおばあちゃんみたいなんだ。

「ただいま!お薬は出来次第届けてくれるって!」
「そうか。本当に良かったな…」

 ボスが相良さんから蒼を引き取って、抱きしめる。
 ボスの胸に顔を埋めた蒼は幸せそうだ。
 俺も早く抱っこしたいな。



「そろそろ昼の時間だ。海老だけじゃ足りないだろ」
 ボスの横から千尋が頭を撫でる。
 お、じゃあ反対の手をもらおう。

「ラーメン食べる?」
「慧といるとラーメンばかりだな」



 蒼がふわふわと微笑む。

「ううん。今日は昴の番でしょ?昴のお家でご飯食べたい!お蕎麦がいいな」
「鬼おろしか?」
「うん!」

 蒼の笑顔を受けて、釣られてみんなで微笑む。


「相良さん、またね」
「あぁ。メッセージ待ってるぞ。絶対してくれ。しないと鬼電するからな」
「は、はぁい」

 手を振りながら相良さんが去っていく。



「ずいぶん仲良しだね?」
「相良さんいい人。大好き」

 むむ、また蒼の大好きが増えたか。
 でも、こうやって輪が広がっていくのは安心する。
 蒼を引き止められる術が増える気がして。
…センチメンタルすぎるかな。



「ここで助手席じゃんけんだ」
 千尋が腕まくりしてる。

「順番的に俺じゃないの?」
 俺接触少ないんですけど。

「公平に行こう」
 ボスもやはり参加するんだね。


 大の男三人が顔を突き合わせて、ジャンケンとか…笑えてくる。
 よし、心理戦だ。絶対勝つ!

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「蒼、そこ右ね」
「はぁーい」

 心理戦に無事勝利した俺は、お買い物に行った二人より先にボスの家に向かっている。
 蒼の相棒になったFD。路面のボコボコを結構拾うんだな。アクセルやブレーキの踏み具合が助手席でも伝わってくる。
 また蒼の運転する車に乗れるなんて、嬉しい。
 あの時と比べても腕が上がったのがわかる。本当に上手になった。

 

「えぇと、駐車場契約したって言ってたよね?」
「そうそう。ちゃんと覚えてね。ボスのマンションのとこも、俺のとこも千尋のところにも用意してるから」
「えぇ…もったいないよ。一個にして。無駄遣いしちゃダメだよ」


 蒼はこう言うところもいいな。
 俺たちが際限なく使うお金を心配して、本人はいつまでたっても慎ましやかだ。
欲しいものを聞いても、ないとしか返ってこない。
  


 駐車場に車を停めて、蒼と手を繋いでエレベーターに乗る。
 カードキーを蒼が差し込んで、エレベーターが上がっていく。
到着時は危ないのでドアの前に立つ。

後ろで蒼が微笑むのがドアガラスに映る。
その蒼がガラス越しにじっと俺を見つめてる。
どうしたんだろう?


「慧…赤ちゃん、欲しいって言ったらどうする?」

 蒼の呟きにびっくりして振り返る。



 ポーン、とエレベーターが到着の音を鳴らす。


「あ、蒼?」
「考えておいて。いこっ。」



 蒼に手を引っ張られて、胸の中に広がる不安と妙な気持ちに眉を顰めた。
 

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