爪先からはじまる熱と恋 R15版

只深

真っ黒な宝物



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蒼side

 階段の途中で千尋に抱えられてエレベーターに乗り、現在ビルの下でFDの到着待ち。
エレベーターの存在を忘れてました。はい。

 駐車場のおじさんがニコニコしてる。
 昴と慧はお風呂に入ってスーツを着替えてくるって。このビルにシャワー室があるとは知らなかった…。



「あぁーまだかなまだかな」
「もうそろそろ来る時間だな。しかし、男三人が乗れるかな」 

「あっ…あー。怪しいかも。助手席一人と車分けて2台にしたほうがいいかもね」
「そうなると戦争だな」

「あはは…」



 また喧嘩にならないといいけど。
 腰を抱かれて、千尋が優しい目で見つめてくる。

「体、大丈夫か?昨日の蒼かわいかったな。今日もかわいいけど」

 ちょっ!だめ!こんなとこでそんな話しないで!おじさんが赤くなってるでしょ!
千尋のキャラでそんな事言わないはずなのに!


「だ、大丈夫だから!」
「朝から何回もしてごめんな」

「わあぁ!!やめて!恥ずかしいから!」
「なんで?俺は聞かれてもいい」

「だ、ダメっ!私はダメなの!」
「そうか…わかった」

 腰を離してくれない千尋。おじさんの生暖かい眼差しが刺さる。
 そんな目で見ないで....。



「あっ!!!」

 FDが見えた!!!だんだん近寄ってくる。
 あぁーーー!土間さんが乗ってきてくれたの!?嬉しい!嬉しい!

 バックで駐車場に入ってきて、土間さんが降りてくる。ターボタイマーがついてるからロータリーサウンドが駐車場に響いてる。
 千尋がやっと離してくれて、土間さんに飛びつく。


「土間さん!!!!」
「おおっ!蒼?!落ち着け、うおっ」

 ぎゅうぎゅうに抱きしめて、ほおをすり寄せる。土間さんも大好き。



「土間さん!FD頂いて、ほんとにいいんですか!?」
「あっはっはっ!そんなに喜んでくれるなら俺も譲る甲斐があるってもんだ。そんでな、セッティングの確認で試走して欲しいんだが」

「行きましょう!すぐにでも!!!」



 ちらっと見ただけでもホイールとマフラーが変わってる。タイヤもピカピカの新品!!!そしてタイヤはミシュラン!!

「待て待て待て。二人がまだ来てないだろ。土間さん、お久しぶりです」

 千尋が私の脇を持ち上げて、背後から抱き締めてくる。
 背中に暖かい筋肉の動きを感じて、昨日の情景が頭に浮かんでくる。
 千尋の切ない顔と、震える吐息、汗…。



「久しぶりだな。って…蒼お前なんつー顔してんだ。はっ!お前ら…」
「はい、そうなりました」

 後ろに顔があるからわからないけどニコニコしてる気がする。
 駐車場のおじさんは顔を赤らめて両手で口を押さえてる。乙女なの?


「へー、お前さんが人を好きになるもんなのかね…俺は驚いてるよ。てっきり昴とくっつくかと思ってたが」
「あー、まぁこれからそうなりますね」

「あん?どう言う事だ」
「ちなみに慧とも殆どくっついてます」

「は???な、なんだそりゃ?どう言う…」
「あわわわ…」

 あ、昴と慧が駐車場に降りてきた。助かった!!



「あれ?土間さんもうついてたのか。」
「お疲れ様でーす」

「おう…」

「千尋。離せ。今日は俺の日だ」
「チッ。いいだろ居なかったんだから」
「あーあー。俺はまだ我慢ですよ」

 土間さんがポカーンとしたまま固まってる。



「大体何回したんだ!時間延長までして…」
「何回?数えたのは二桁までだな」
「は?!そんなの蒼が可哀想でしょ!何してんの!」




 三人がワァワァ言い出して、土間さんが肩を叩いてくる。
 無の境地ですね。この顔は。凄くわかる。

「この件は、後で聞かせてくれ 。」
「は、はい」


 土間さんがため息をつき、改造を加えた部分の説明をして貰うために二人して車にしゃがみ込む。足腰はヘロヘロだけどそんなこと言ってられない!



「お前が言ってたアニメな、面白いから全部見た。ありゃいいな。監修してる奴が知り合いだ。名前が似てるってんで、レーサー時代に仲良くなったんだよ」
「えっ!?そうなんですか!?」

 伝説のあの人が知り合い!さすが土間さん!



「おう。そいつに詳しく聞いてきて殆ど同じにしてやったぞ。流石にあの色はやめた方がいいだろうが」

「そうですね。コンペティションイエローマイカは派手ですし」
「くっくっ。色の名前まで知ってんの面白えな。終盤の頃にやってた雨宮のフルエアロつけてる。基本的にワークスチューニングカーだ」

「ほうほう」

「ワイドボディ化してるから車幅に気をつけろ。空力性能やべーぞ」
「ロータリーチューニングの神様、雨宮さんですもんね」

「そうだな。ロールゲージはそのままだがホイールはワタナベのtypeC、GTウィング、カーボンボンネット、リトラクタブルから固定式ライトに変えてる」
「おおぉ…カラーも変えましたか?」

「同じ黒なのによくわかったな?お前の推しの嫁のFDカラーだ」
「ブリリアントブラック!?」

「そうだ。エンジンルームにもタワーバー入れたし、マフラーもブレーキも変えてるからな。フィーリングがグッとレースカー寄りだ。
 乗りながら調整してやるから。下回りも見るか?」

「はいっ!」



「お嬢さん、これをお使いなされ」

 駐車場のおじさんがクリーパーを持ってきてくれる。わざわざちゃんと拭いてくれてるし!

「おじさんありがとう!」
「はっは、どういたしまして」

 土間さんがジャッキアップしてくれて、二人で車の下に潜る。



「あっ!!ちょっ!もぉ!蒼!」
 ん?慧の声?

「大事なところが見えてる!」
「あらら、ありがとう。土間さん、錆一つありませんね!」
「当たりめーだ、ここからここまでが……」



 慧がジャケットを膝の上に乗せたみたいだけど、私は土間さんの話に夢中。
 ここまで綺麗にされてるなんて。ちゃんと受け継がないと。



「車の下に潜る女の子初めてみたんだが」
「千尋、蒼は最初から潜ってた」
「そんなことあるの?と言うか下を見て何がわかるんだろう?」
「「わからん」」



 三人がなんか喋ってる。
 しゃーっとクリーパーを転がして、外に出る。

「はーなるほど。防錆も必要ですね」
「まぁな。整備なら俺がきてやるから」

「えっ!ほんとですか!?」
「おう。運転も見てやる。」 

「きゃああ!土間さん!!!大好き!!」

慧のジャケットを抱えたまま土間さんに抱きつく。


「お、おう。蒼、こいつらの目が怖いんだが」
「わーわー!嬉しい!土間さん沢山遊びに来てください!」
「そ、そうしてやるが、なあ、怖いんだって」


 むん?!
 三人に振り向くと、三人とも怖い顔してる。

「いつまでくっついてんの」



 慧が土間さんからベリっと引き剥がして、ジャケットで包んで腕を締め付けてくる。

「蒼は浮気するの?」
「えっ!?ち、違うよ。土間さんは特別なの!車オタ仲間の絆なの!」
「…俺も車の勉強しようかな」
「教えるねっ!!!」
「…うん」
「「俺も教えてくれ」」
「はいっ!!!」
複雑そうな三人にニコニコしてる私を見て、土間さんがぽりぽり頭をかいてる。

 

「と、とりあえず試走だ。お前ら出かける予定でもあったのか?」
「FDで行く予定だったんです!土間さんも行きましょう!」 

 土間さんは私の横にいる慧、すぐそばにいる昴と千尋を順番に見て嫌そうな顔になった。

「…行きたくねぇーーーー」
「何でですか!みんなは昴の車でついてくればいいよね?ね?」

「仕方ない」
「はぁ…」
「車出すか…」

 三人がしょんぼりしながら駐車場のエレベーターに消えていく。




「可哀想になってくるな」
「そうですか?」
「お前…はぁ。エンジンかけておけ」
「はあい!」



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 首都高を経由して、有明JCTで首都高湾岸線に乗り換え、川崎浮島JCT、浮島ICを抜けて、アクアラインへ。
 海ほたるまではずっとトンネルの中だ。
 エンジン音がわかりやすい。
 セカンダリータービンまでギュンギュン回ってる。

「当たりは悪くねぇな。バランスも蒼の運転にぴったりだ」
「アクセルもブレーキも、とてもいいですね。地面に張り付くようです。
 空気抵抗が感じられないですよっ」

「ふっ、そんなにぶっ飛ばすなよ。捕まるぞ」
「うふふ。はぁい」



 鼻歌を歌いながらアクセルを踏む。スイスイと車を追い抜きながら加速Gを感じてワクワクしてくる。
 
「お前、あいつら三人と付き合うつもりか」
「あっ、は、ハイ…すいません」

「別に怒ってるわけじゃねぇ。俺は今度からお前の組織に入るからな。はっきりさせときてぇんだ」


 
「えっ!?土間さんが?」

「警察と手を組んだだろ。昴とそこから正式な打診が来て、承諾した」
「あら…警察もちゃんと動いてくれてたんですね。でも、レーシングチームの監督は?」

「俺ももういい年だ。引退して修理屋でもやるつもりでいたんだ。体の限界ってヤツだ」
「…そう、でしたか…」




 衝撃が体を包み込む。
 スローダウンして、左車線により、巡行に変える。
 後ろにピッタリくっついてくるのは昴が運転するBRZ。
 みんな顔を揃えてこっちをみてる。
 ちゃんと前見て運転してね…。



「しかし、三人とも特定の女と付き合う奴じゃなかったはずだがな。どんな魔法を使ったんだ?」
「正直…わかりません。いつのまにかそう、なってました。
 でも、私はとっても優しくしてもらいましたし、三人は特に中身が凄くカッコいいでしょう?あの心に惚れない方が変ですよ」

 土間さんがため息を落とす。




「お前、カタギにゃもどらねぇんだな?出来ねぇんなら俺が助けてやるぞ」

 土間さんの言葉が胸に沁みてくる。
 心配、してくれてる。



「土間さん、私はもともとカタギではありませんでした。ファクトリー生まれなんです」
「知ってる」
「あれっ?そうなんですか?」

「聞いたんだよ、全部な。俺はチーム辞める前にお前をレーサーに立てて新しくチームを作るつもりで、昴に本気の打診をしてな。すげーしつこく食い下がったらようやく教えてくれたんだ」
「土間さん…」


「クソ喰らえな話だ。
 警察と協力すりゃ延命できる可能性があると聞いて受けたんだ。俺も役に立ってやる。
 だから、だから……」

 土間さんがキャップを深く被り直す。
 頬にすっと、涙が伝う。
 土間さんの暖かい気持ちに、私も涙が出てくる。



「そう、なると良いなって思います。
 じゃないとみんなが寂しくなっちゃいますからね」
「っ…そうだ。俺はまだ諦めてねぇ。高給取りになるなら都合がいい。F4あたりでお前と一緒に古参を蹴散らしてやるんだ」

「ふふ。楽しみです。F4だと年間予算が一千万超えちゃいますねぇ」
「あいつらをスポンサーにつけりゃ楽チンだろ」
「あっはは。確かに」

 組織の看板背負って走るのはどうなんだろう。もしくは警察?ちょっと面白い。



 海ほたるを抜けて、トンネルの暗闇から一面の海に包まれた道路になる。
 青く、黒く広がる海原の先…地球の丸さが地平線を形作る。
 大きな海に、星に抱かれた小さな自分達。私の生き死になんて本当に些末な事なのに。

 昴も、慧も、千尋も、土間さんも。
 命のゴールが近い私を大切にしてくれて、愛してくれる。


 私は、命が燃え尽きたっていい。
 この人たちのために私は生きる。
 延命がどんなものかはわからないけど、そんな簡単にできるものじゃないって事くらい分かってる。

 私のゴールはもう、決まった。
 三人を助けて、生まれ育ったファクトリーを潰して、赤ちゃんを産みたい。
生きた証を愛する人たちに残したい。




 ふと思い出す、自分の日常だった日々。
 ほんのわずかな日数で私の人生はガラッと変わってしまった。
 こんなドラマチックな事、あるんだろうか。

「蒼は今、楽しいか?幸せか?」
「はい、とても。今まで生きてきた中で一番幸せで楽しいです。生きてるって感じています。」

「そうか。それなら…良いな。」

 横目で土間さんを見ると、ニカっと笑われる。
 土間さんの笑顔大好きですよ。
 優しくて、力強くて。お父さんみたい。




「木更津まで行ってエビでも食って帰るか」
「エビ!良いですね。焼いて食べるんですか?お刺身ですか?」
「生きてるエビが食えるぞ」

「おぉ…す、すごいです」
「ふっ。うまいもん食わしてやる」
「きゃー!楽しみです!」

 FDの中に温かい笑いが広がった。
 

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