陽炎輝夜 ~真夏のかぐや姫~

月親

15.巡る月

 衝撃の夜から三年後――


「まさか同じ女に、二度同じ指輪を贈ることになろうとは……」


 俺は葵ちゃんの左薬指に嵌めたばかりの指輪に向かって、盛大なため息をついた。
 そんな俺の様子に、髪を伸ばして最近めっきり某幽霊に雰囲気が似てきた葵ちゃんが「貴重な体験だね」と無邪気に笑う。


「その割に前回と同じ公園のベンチを渡し場所に選んでいるのが、泉のロマンチストなところだね」
「そういうのは気付いても言わない。にしても本当にその指輪でいいのか? MIDUKIって彫ってある上に、二十年前の代物だぞ」
「うん、これがいいの」
「……ま、結婚指輪は別の買うからいいか」


 指輪から視線を外し、雲のない綺麗な夜空を見上げる。


「大学は地元のところに行くの。だから来年は家に戻るよ。嬉しい?」
「……まあ、それなりに」
「泉が素っ気ない」
「だって、なあ……」


 再び葵ちゃんに向き直り、まじまじとその顔を見る。


「美月だろ?」
「うん、美月」
「アレなんだろ?」
「アレとか言うしー」


 葵ちゃんが笑い、左肩で束ねられた髪がピコピコと跳ねる。


「十五年もよく猫被ってたな、お前」
「んー……猫被るというか、ただ私が美月だった時に会った葵さんの真似をしてただけだから」
「何でまたそんなことを」
「泉が言ってたんだよ、葵ちゃんが理想だって」
「葵ちゃんの前々世が葵ちゃんの真似をしていたとか、ややこしいんだよ」
「鳥のミヅキの時も、ちゃんとミヅキの真似して飛ばないでいたよ!」
「ええい、余計にややこしくしなくていい」
「泉」


 俺が制止に出した手を、葵ちゃんに両手で包まれる。


「泉、幸せにしてあげる」


 そして葵ちゃんは俺の手を自分の胸に当て、微笑んだ。


「知ってる……俺もお前を幸せにするよ」
「わあ。それは初耳」
「おい」
「嘘は言ってないよ、知ってただけで」
「はいはい」


 らしくない自分の発言に、照れ隠しで空に目を戻す。
 そこには、少しだけ欠けた満月が浮かんでいた。


「泉、水葵っていう水の中で育つ花があるの。知ってた?」


 けれどもう不安はない。


「……お前も存外ロマンチストな」


 欠けていっても、また満ちる。
 そう思わせてくれる美しい月が、俺の傍で笑っているから――




 -END-



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