陽炎輝夜 ~真夏のかぐや姫~

月親

07.雨を背に立つ『彼女』

 美月が居着いてさらに数日が経った。探す気があるのか無いのか、まだ未練は思い出せない模様。


「泉さん、何してるんですか? ゴミ散らかして」
「散らかしてるんじゃない、片付けてるんだ俺は」


 そう反論しつつも、実際には散らかしているようにしか見えないのが悲しい。
 今日こそ例の何でも箱をどうにかしようと、一念発起。中身をすべて床に空け、必要不必要を分けていたはいいが、


「これはゴミ……これもゴミ」


 出てくる出てくるゴミの数々。最も多いのが期限切れのスタンプカード、その次に使用済みテレホンカード(本気でいつの時代のだコレ)。その他は菓子箱の包装紙に、どの服だかわからない予備のボタン。


「こんなの取って置いた記憶ないんだけど。木の実を埋めて忘れてるリス状態だな」


 開始五分で既にうんざりだ……もう一回詰め込んでしまえという悪魔の囁きが聞こえる。


「そういえば、あの犬さん。里親さんが見つかって良かったですね」
「ああ。実家に連れ帰った際に、父さんの青春に百ページぐらい付き合わされた甲斐があったというものだ。母さんと付き合い始めた頃に飼っていた犬にそっくりだとか言い出して、そこから話が花咲いて咲き乱れ、犬の話題から外れて惚気話に突入ときた。俺は、これは駄目だと葵ちゃんの問題集を作成するという名目で、命からがら部屋に逃げ込んだのだ」
「それはそれは親孝行してきましたね」


 俺の作業する手を追って、美月が視線を行ったり来たりさせる。


「見ていて面白いか?」
「いつヤバイ本が出てくるかワクワクです」
「こんな取り出しにくいとこに置いてあるかよ」
「自信満々に活用してることをばらしちゃってるところが、泉さんですよね」
「ああっ、しまった!」
「それはそうと泉さん」
「何かな美月さん」
「洗濯物が濡れてます」
「それを先に言えよ!」


 ベランダにダッシュし、雨の魔手から洗濯物を避難させる。不幸中の幸い、風向きがよかったのか甚大な被害には至ってなかった。
 今着てる寝間着も俺の迅速な行動により自然乾燥でいけるレベルに収まっている。俺はレスキュー活動を終え、適当に髪の雫を払ってから室内に戻った。


「自分が濡れないので、「あー雨だー」くらいにしか思いませんでした」
「んな風にホケホケしてるから浮遊霊なんかに――」


 相変わらずのマイペースぶりに呆れて美月を見やった俺は、思わず途中で言葉を呑んだ。
 重なる。
 雨の降る窓を背に立つ美月のその姿と。
 雨の降る出窓の上で、君《ヽ》はその日もいつものように俺を見上げていた。
 遠くへ行ってしまう直前まで、そんな気配なんてさせないで、でもその次の瞬間には――


「泉さん?」


 思わず手を伸ばす。
 そして俺は、


「ミヅキ……」


 彼女じゃない『彼女』の名を呼んだ。



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