没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平

第32話 メンタルヘルス~セバスチャンの不調

 南部貴族の面々から歓迎を受け、俺は有意義な時間を過ごした。
 イーノス兄弟にちょっとからまれたが、あのくらいは許容範囲だ。

 宴はお開きになり、俺はフォー辺境伯に用意してもらった部屋に戻った。

 妹のマリーは既に寝ていて、ネコネコ騎士のみーちゃんが子守兼護衛をしてくれている。
 エルフのシューさんは、ダークエルフのエクレールの見張りだ。

 執事のセバスチャンが、俺の着替えを手伝いながら話をする。

「南部は、なかなか難しゅうございますね」

「ん? どうしたのだ?」

「先ほどノエル様がなさった道路のお話です。なぜ、あんな当たり前の話が通じないのかと……」

 王都では石畳が敷き詰められた道が当たり前。
 王都の外でも主要街道は、土魔法の石化で舗装がされている。
 南部のように激しくデコボコした道やぬかるんだ道など、お目にかからないのだ。

 俺たち王都で生活していた人間にしてみれば、道路が悪ければ経済発展しないのは当たり前のことだが、南部貴族にはなかなか理解してもらえない。

 執事のセバスチャンは、俺の後ろで聞いていてもどかしい思いだったと言う。

「仕方ないよ。道普請は、ドライフルーツみたいにすぐ利益が出る話じゃない。反対意見が出るのは当然だよ」

 道路整備はインフラ整備だ。
 新商品のように売れればすぐ利益が出るものではない。
 インフラに投資した費用を回収するまでは、かなり時間がかかる。
 だが、インフラ投資をしなければ、領地の発展もない。

 フォー辺境伯は理解してくれたようだが、他の南部貴族が理解しているかどうか……。

『お金があまりかからないならやろうか』
『まあ、道が整備されていた方が商人たちの動きがよくなるだろう』
 ――という感じの理解じゃないかな……。

 俺は南部貴族が考えているであろうことを説明した。
 すると、執事のセバスチャンが、珍しくため息交じりの返事をする。

「なるほど。ノエル様はご立派でございます」

 疲れているのかな?
 俺はセバスチャンのことが心配になった。

「セバスチャン。疲れているのか?」

「そうでございますね。長旅の疲れもございます」

 部屋が暗いせいだろうか?
 執事のセバスチャンが年寄り臭く見える。

「セバスチャンはいくつになったのだ?」

「五十歳でございます」

 五十歳か……。
 前世日本なら、まだバリバリ働いている年齢だが、この世界の人族だとそろそろ引退して若手に道を譲る年齢だ。

 俺は執事のセバスチャンを労る。

「長旅は疲れただろう。御者を務めてくれてありがとう。助かったよ」

「もったいないお言葉でございます……。ノエル様……私はこの南部でお役に立つでしょうか?」

「何を言う! セバスチャンがいなかったら、俺も妹のマリーも困るぞ!」

「そうでしょうか……」

 一体どうしたのか?
 こんな自信のないことを言うセバスチャンは、初めて見た。

「本当にどうした? 何があった?」

「はい……。フォー辺境伯様の使用人たちと少し話をしたのですが、この南部では使用人たちもある程度の戦闘能力があるそうです」

「南部は魔物が多いからな。土地柄、お国柄ってヤツだ」

「私は戦う自信がございません」

「それは――」

 俺は執事のセバスチャンを見て言葉を失う。
 下を向き、目の感じが、ちょっと変なのだ。

 これはまずいな……。
 適応障害とか、鬱とかの一歩手前じゃないか?
 前世日本で言うメンタルヘルス案件だ。

 俺やマリーは南部流を受け入れ、むしろ面白がってさえいる。
 だが、年輩のセバスチャンは、王都とは違う習慣や考えの南部に戸惑っているのではないだろうか?

 そして、マリーはドライフルーツ作りという自分の仕事、役割を見つけた。
 俺は領地経営や南部の改革の提案をしてる。
 みーちゃんは護衛、シューさんは護衛と魔導具や魔法薬作り。

 みんな自分の役割を持っている。
 環境が変わりセバスチャンは、自分の役割、居場所が見つからないのかもしれない。

 俺は前世日本の会社員時代に受けたメンタルヘルス研修を思い出していた。
 がんばれとか、しっかりしろとか、追い詰めたらダメなんだよな……。
 後は、ちゃんと寝て休む……。

 対応を間違えると大変なことになる。
 だが、何もしなければ、セバスチャンの具合はもっと悪くなる。

 俺は考えをまとめ、落ち着いた声で話すように努めた。

「セバスチャン。戦闘のことは大丈夫だ。護衛のみーちゃんやシューさんがいる。領地の経営が軌道に乗ったら、他にも護衛を雇うよ」

「でございますか……」

「セバスチャンが、どうしても戦闘が気になるならクロスボウを作るよ。クロスボウなら力がなくても撃てるし、遠距離から攻撃が出来るからね」

 まず、慣れない戦闘はやらなくても良いと提示して、セバスチャンの気が楽になるようにした。
 そしてクロスボウで遠距離攻撃という役割を選択肢として示し、自分が不要な人間だと追い詰めないようにした。

 どうかな? と心配していたが、セバスチャンの反応は悪くない。
 顔を上げてアゴに手をあてて考えている。

「クロスボウ……そうですね。遠くからなら私でも出来るかもしれません」

 良かった。
 少し声が落ち着いている。

 次に休ませる。
 肉体的な疲労、ストレスも軽減させなければならない。

「それと、明日、あさっては休暇にしよう。俺も休むから、セバスチャンもゆっくり休んでくれ」

「しかし、ノエル様とマリー様のお世話を……」

「大丈夫。フォー辺境伯のメイドさんたちに頼むよ。ここまで長旅だった。領地に行けば、また忙しいだろう。だから、今のうちにお互い休んでおこう」

「左様でございますね。それではお言葉に甘えて」

「ああ、お休み」

「お休みなさいませ」

 執事のセバスチャンが部屋のドアを閉めた。
 足音が遠ざかっていく。

「ふう……」

 俺は深く息を吐いた。
 セバスチャンは忠臣だ。
 家族よりも、俺とマリーを選んだ。
 俺もセバスチャンを大事にしなくては……。

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