呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

好き、の自覚4

 天馬の自動車に乗れば、天馬はずっと、無言だった。
 沈黙が苦になる間柄ではない。しかし、助手席に座っている萌は、天馬の様子をうかがっていた。
 天馬くん、話って何?
 訊けば済むのに、何故か声が出ない。
 雨が降ったのか路面は濡れている。ライトが路面を照らして、ちらちらと光る。
 萌は喋ろうとしても何も言えなかった。
 喋りたいことはたくさんあった。舞い込んだ仕事のこと。充実している日々のこと。
何より、暴言を謝りたい。ひどいことを言って、本当にごめんね。そのあとも無視してごめんね。
 仲直りしてくれる?
 なのに、真っ先に浮かんできたのは宮浦麗のことだった。
 天馬くん、本当にあの人と付き合ってるの?
 私へのプロポーズはなかったことになったの?
 
 すぐに家の前に着く。しかし、天馬はガレージに入れずに路上に停車した。
 天馬はエンジンを止めると、やっと口を開いた。

「俺は振られたってこと?」

 違う。私は振ってない。高遠くんとのことなら、誤解だよ。
 萌は声を出そうとするも一言も発せなかった。
 どうして? どうして声が出ないの?
 口を開かない萌に天馬は言った。

「もしかして、絶交はまだ続いてる?」

 絶交なんて本気じゃない。私、謝りたい。ずっと後悔してた。天馬くんと仲直りしたいよ。
 天馬はしばらく黙っていたが、やがて言った。

「毎日、萌の声を聞きたいって言った俺に、もうその声を聞かせるつもりはないんだね」

 天馬の声はとても寂しそうで、萌は胸を突かれた。
 違う、そうじゃない。違うのに。
 私、ずっと天馬くんと仲良くしたいよ。
 どうして声が出ないの?
 沈黙は肯定ととらえられ、天馬は深いため息をついた。苦しげに言った。

「そこまで嫌われちゃったか、俺」

 違う、違うのに。
 嫌ってなんかいない。
 天馬くんが好きだよ。仲直りしたいよ。
 どうして、私何も言えないの?
 あれほど近いと思っていた天馬との距離を感じてならない。

「そっか、俺、ダメだったか」

 ダメって。そんなことない。天馬くんにはダメなところなんかないのに。

「行って。俺、萌が玄関に入るまで見てるから」

 萌は動けないでいた。
 いやだ、私、天馬くんと離れたくない。距離を置かれたくない。
 会いたいときに会いたい。仲良くしたい。
 しかし、一言も声が出ない。
 天馬はもう一度言った。

「行って、頼む」

 強い語調だった。萌は助手席から降りるしかなかった。
 玄関に入る前に、振り返った。天馬がこちらを見ているのはわかったが、暗くて表情は見えなかった。
 玄関の中に入ると、萌はうずくまった。

「絶交、なんて言うんじゃなかった………」

 か細い声が出た。
 どうして、今になって声が出るんだろう。
 それから、天馬の部屋の電気が点くことはなくなった。


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