呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

好き、の自覚2

 天馬とのことは気になるものの、萌にも少しずつナレーションの仕事が舞い込んで、それなりに日々は充実していた。
 地元の同級生から連絡があった。

『山田さん、ナレーション聞いたよ。良い声だった』

 そんなメッセージをくれたのは、中学のときに少しだけ付き合っていたことがある高遠だった。
 高遠に告白されてOKを出したが、そのうち高遠のほうがサッカー部で忙しくなって自然消滅した。
 一緒に出掛けたこともなく、手をつないだことさえなかったから、付き合っていたとは言えないのかもしれない。
 高遠はいつもクラスの中心人物で、交友範囲も広かった。
 どうして、モブな萌に告白してきたのかは謎のまま終わったが、蓼食う虫も好き好きということなのだろう。
 高遠はひょんな申し出をしてきた。

『俺、動画作ってんだけど、ゲストで出てみない?』

 高遠が数十万規模のフォロワーを持つ動画製作者であることは、萌も知っていた。
 同世代にはかなり知られている。

『え、いいの? 私、フォロワー三桁の雑魚だけど』

 高遠のお誘いは嬉しい限りだが、萌はSNSでも動画でも、鳴かず飛ばずだ。
 もともと製作や発信には興味がないせいもある。
 自分の声を知ってもらうには発信しなければいけないとも思っていたが、何となく気後れしていた。
 そのこともあって、乗ってみることにした。

 待ち合わせ場所の駅前のカフェに現れた高遠は、動画で見るよりも爽やかなイケメンぶりを発揮していた。
 髪は金髪だが、チャラくもなく落ち着いた印象を受ける。

「山田さん、きれいになったね」

 会うなりそう言われてドキッとする。モブだけにブスでも美人でもなく、だからこそ髪をふるゆわにカールに整えて、メイクもすれば、それなりに見えることはわかっている。
 でも、面と向かって言われるのはやはり嬉しい。

「高遠くんこそ、相変わらず、かっこいいね」
「まさか、山田さんが声優になってるって思わなかった。大人しい感じだったから」
「今でも大人しいよ。気は強いけどね」
「それなら、昔のままだね」

 おどけた口調で互いに近況報告をしたのち、高遠は表情を引き締めた。

「早速、話のテーマだけどさ」

 高遠は、ノリだけで動画を作っているわけではないらしい。
 タブレットを取り出して、真剣な顔を萌に向けてきた。
 どんなテーマで話すのか、具体的に検討する。どの話なら面白いトークができるか、高遠の案をもとに、いくつかのテーマを決める。
 萌が声優志望であるだけに、アニメや映画の話題を中心に話すことになった。

「俺、撮影中、鬼瓦萌華さんのことを萌ちゃんって呼ぶから、俺のことはタカトーって呼んで」

 鬼瓦萌華は萌の芸名である。山田萌だと、検索しても埋もれてしまうことを危惧してのことだ。珍しい名前になりたかったというのもある。
 大体の打ち合わせが済めば、高遠は言った。
 
「二時間ほどの撮れ高があったらいいけど、萌ちゃんの予定はどう? 俺は今からでもいいけど」

 高遠は慣らすためか、既に「萌ちゃん」呼びになっている。
 時刻は20時。地元だし同級生だし、心配無用だ。
 スタジオとなっている自宅に向かうことになった。
 高遠の家は、父親が地元のスーパーを経営していて、お屋敷と言えるほどに広い。数多い部屋の一室を、スタジオにしているのだそうだ。
 カフェを出て通りを歩いているところで、向かいから来た自動車が目の前で止まった。
 見覚えのある形の自動車だな、と思って眺めていると、運転席のウィンドウが下がって、顔を出したのは天馬だった。
 天馬くん………!

「萌、乗ってく?」

 萌は思わず駆け寄った。
 会いたかった、やっと会えた。
 天馬を目の前にしてみれば、そんな思いがあふれる。
 満面の笑顔になってしまう萌を、天馬は眩しそうな顔で見返して、いつもの穏やかな優しい顔を向けてくる。
 良かった、怒ってたわけじゃないんだ。
 じゃあ、これからもいつも通りに仲良くしてくれる?
 私、ひどいこと言った。言いすぎてごめんね。無視したりしてごめんね。
 萌は言いたいことはたくさんある。しかし、何故か声が出なかった。

「萌ちゃん、知ってる人?」

 高遠の声に萌は振り返ってうなづいた。
 うん、幼なじみ。大好きな幼なじみ。
 天馬くんに高遠くんの家まで連れてってもらおう。
 そう言おうとするも、どういうわけか声が出なかった。
 いつも足代わりにしてきた癖で、萌は助手席のドアを当然のように開けて乗り込んだ。
 天馬はそこで、高遠に気がついたのか、目を向けた。

「萌の連れ? きみも送ってあげるから乗って」

 高遠はしぶしぶといった感じで後部座席に乗り込んだ。
 高遠が自宅の場所を告げると、天馬も気がついたようだった。

「じゃあ、きみは〇〇スーパーの息子さんなんだ」

 高遠は憮然とした顔で答えた。

「俺、それを言われるのあんまり好きじゃないんで」

 あれ、高遠くん、機嫌悪くなってる?
 車内の空気が重くなる。
 ここは萌が喋って二人の間を取り持つべきなのだろうが、何故か萌は声が出なかった。
 ど、どうしよう。何か言わなきゃ。
 萌は焦るも喉が詰まったようになって声が出ない。
 どうして声が出ないの?
 天馬は高遠の不機嫌など意にも介さず、高遠に問いかけた。

「萌の同級生なのかな? 萌が世話になってるね」

 天馬はバックミラーで、高遠と目線を合わせたようだった。

「あれ、きみ、ひょっとして、動画やってる?」
「やってます。タカトーです」
「そうだ、タカトーくんだ。よく見てるよ。面白いよね」

 高遠の態度が和らぐ。

「桐生さんも見てくれてるなんて嬉しいっす」
「えっと、タカトーくん、どこかで会ったっけ」
「ないですけど、桐生天馬さんですよね。スカイホース社の」
「俺も有名人なのかな」
「地元では昔から有名です。目立ってましたから」

 ことさら、高遠は「地元」を強調したように聞こえた。

「いくら目立ってても、全国区のタカトーくんには及ばないよね」
「いえいえ、桐生さんだって、ワイドショーで騒がれてるじゃないですか、チラッとでもすごいですよ。オワコンとはいえ、テレビですもん」
「いやいや、ネットとはいえ全国区のタカトーくんに言われると、恥ずかしいよ」
「いえいえ、桐生さんのほうがすごいですって」
「いやいや、タカトーくんのほうがすごいよ」
「あははは」
「あははは」

 まもなく、高遠の家に着いた。
 助手席から降りようとシートベルトを外したところで、天馬が声をあげた。

「どうして、萌も降りるの?」

 これから高遠くんの家で撮影があるのを天馬くんに言わなきゃ。
 しかし、声が出なかった。
 なんでまた声が出ないの?
 戸惑っていると、先に下りた高遠が助手席のドアを開けてきた。

「萌ちゃんは俺との約束があるんで」
「もう遅い。今日は帰ろう」

 天馬は萌が外したシートベルトをガチャリと締め直した。

「まだ八時です」

 高遠が助手席に手を突っ込んで、シートベルトを外す。

「ご両親にも迷惑だ」

 天馬がまた締め直す。

「親は海外旅行でいません」

 高遠がまた外す。

「それならなおさらダメだ」

 天馬がまたまた締め直す。
 高遠は呆れた声を出した。

「いい加減にしてください。あなたは萌ちゃんの何なんですか」
「俺は……」

 天馬は言葉を詰まらせた。
 プロポーズをした相手?
 幼なじみと宮浦麗に二股をかけている最低野郎?

「俺は萌ちゃんと付き合ってますから。さあ、行こ。萌ちゃん」

 高遠の声に、天馬はそのまま固まった。衝撃を受けたような顔をしていた。
 萌は高遠に腕を引かれて自動車を降りた。
 振り返ろうとする萌を高遠が引っ張って、玄関に招き入れた。

「あれくらい言わないと、あの人、解放してくれないよ」

 高遠は萌に小声で言って、笑いかけた。

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