呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

CEO……?!8

 え?
 今度はソファで寝ているのではない、床に不自然な格好で倒れている。自発的に寝たとかそういうのではなく、倒れた、としか考えられない格好だった。
 天馬くん………?。
 天馬くん……っ!
 駆け寄って助け起こして、頭を胸に抱く。ひどく体が熱かった。

「天馬くん! 天馬くん!」

 天馬の脈が恐ろしいほどに速く、息が浅い。
 意識はない。
 熱中症?

「先輩、先輩っ、きゅ、救急車をお願いします」

 萌は叫ぶような声で言った。先輩の足音が近づいては「きゃ、大変」と声が上がり、またドタドタと遠ざかっていく。

「天馬くん、しっかりして! 天馬くん」

 息が浅い。しっかり息をして、お願い。
 このまま息が止まったらどうなるの?
 萌は恐怖に陥った。天馬くんが死んでしまったらどうしよう。絶対いや。いやだよ。
 萌は自分の首に巻き付けていた冷却材を、天馬の首に巻いた。
 水、水を飲まさなきゃ。
 水筒を取り出し飲ませようとしたが、天馬が自力で飲むことは難しかった。
 萌は自分の口に水を含んで、口移しで天馬に飲ませた。
 しかし、口移しでもダメなようで、天馬の口からは飲ませた水が零れ落ちる。

「ああ、でんばぐん、じっかりじて、おねがい」

 自分がひどい声を出しているのがわかった。人間、取り乱すと声もうまく出せないのだ。
 このまま死んじゃうの? 
 いや、誰か助けて。天馬くんを助けて。
 神さま、お願い。
 悪魔でもいい、天馬くんを助けて。
 悪魔……、魔女……。
 魔女……?
 キキ……!

「ギギ、おでがい、だずげで……」

 そう言いながらも、無我夢中で、何度も水を飲ませた。
 少しでも水分が天馬くんの体に入って!
 そのうち、水筒が空になってしまった。
 冷蔵庫に冷たい飲み物があるはず。
 膝に抱いた天馬の頭を床に下ろそうとして、目の前に人がいるのに気付いて声を上げた。

「だれっ?」
「萌ちゃん、呼んだかい」
「ギギィ………」

 萌はすがるような声を出した。
 どうしてキキがそこにいるのか、キキが何者であるのかなど、どうでもよかった。
 キキに向かって叫んだ。

「おねがい、ギギ。でんばぐんをだずげて、この人をだずげで!」
「ああ、このままだと死んでしまうね」
「だずげで」
「助けてもいいけど、命の『支払い』は結構かかる。お弁当とリボンだけじゃ足らないねえ」
「だずげで、おでがい」
「何か他のもので支払ってくれるなら、やってあげてもいいが」
「じばらう」
「わかった、助けよう。だから、萌ちゃん、ちょっとは落ち着きなさい」

 萌はキキの言葉に何度か深呼吸をした。
 萌が落ち着きを取り戻せば、キキはニヤッと笑う。

「わしにちゃんと支払えるかい?」
「支払う、支払うわ。お金をたくさん支払う。天馬くん、お金持ちだから」
「でも、わしが叶えるのは萌ちゃんの願いだから、萌ちゃんが支払わなければ引き受けんよ」
「私が支払える? そんなの、5万もない」
「お金じゃなくてもいいんだよ。萌ちゃんの特技は、何だい?」
「モブ化」
「うーん。それは欲しくないのう」
「寝たら元気になること」
「うーん。それはわしも同じだからのう」
「声」
「おお、そうだ、萌ちゃんの声は良い。声をもらうとしよう。でも、声優になりたいっている夢は諦めることになるが」
「いい、そんなの要らない。天馬くんを助けて」
「本当に諦めるのか」

 萌はぽたぽたと涙を流していた。

「いいよ、声なんかどうだっていい。天馬くんが死なないなら、声なんか要らない」
「ほう、純愛じゃのう」

 キキは嬉しそうに笑った。
 その手にはいつの間にかスティックが握られている。
 一振りすれば、膝に抱いた天馬が身じろいだ。

「てんまくん………!」

 そこへヒールの音が聞こえてきた。秘書が来たのだ。先輩がその後ろにいる。

「出社したら、CEOが倒れていると聞いたのですが。救急車は?」
「呼びました」

 先輩が答える。
 秘書は意識のない天馬を見るなり、血相を変えて駆け寄って、萌を押しやった。
 そして自分の膝に天馬を抱え込んだ。

「CEO! しっかりしてください。天馬さん、天馬さんっ……!」
 
 間もなくして、救急隊が到着した。
 天馬はストレッチャーに乗せられるかたわらで、秘書が救急隊の質問にテキパキと答えている。
 あまり好ましい印象を抱いていなかった秘書だが、このときばかりは頼りがいがあった。

「ん………」

 ストレッチャー上の天馬の腕が上がるのが見えた。

「天馬さん!」
「ん………、まえ、かわさん………?」

 天馬は意識を取り戻したようだ。
 そのうち、救急隊の質問にしっかりした声で答える天馬の声が聞こえてきた。
 秘書が天馬に寄り沿うようにして、そのまま救命士に囲まれて、部屋を出て行った。間もなくして、救急車の走り去る音が窓の向こうから聞こえてきた。
 萌は床にへなへなと崩れ込んだ。
 先輩と萌だけが残されたフロアで、床に座り込んだ萌に、先輩が声をかけてきた。

「CEOさん、大したこと無さそうでよかったね」

 萌の顔から涙が出てきた。安堵の涙だ。

「よがっだ……。大丈夫そうで、良かった……」
「あんた、良い子だねえ。そこまで心配できるなんて」

 先輩は萌の肩を撫でてきた。
 ハッ、声。
 私、声が出てる。
 キキはどこ?
 探すも姿はない。
 まさか、今のは白昼夢だったの?

「先輩、おばあさん、見ましたか」
「どこで?」
「ここで。あ、いや、なんでもないです」

 キキのことをうまく説明できる自信はなく、ごまかした。

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