呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!
CEO……?!4
清掃員となって半月、すっかり早寝早起きの習慣がついて、寝ようとしたとき、コツンと窓が鳴った。
カーテンを開けると、天馬がいた。
ジャージにのんびり穏やかな顔で笑っている。
萌が天馬を訪ねない日が続くと、こうやって天馬のほうがやってくる。いつもなら、萌は笑顔で駆け寄って窓を開けていたが、今日は気が向かなかった。
窓を開けても、入れるつもりはないというように窓の前に立つが、上目遣いに笑顔を向けられて、つい入れてしまった。
「何の用?」
萌から低い声が出た。
萌があからさまに機嫌が悪いのを見て取ったのか、天馬は探るような声を出していた。
「結果、出た? この前のオーディション。結果をなかなか言いに来てくれないから」
目の前にいるのは萌の手下分の天馬だ。声音だって穏やかで優しい。怖い顔の冷たい声のCEOとは別人にしか見えない。
「言う必要ある?」
「うん、ある。俺は萌が声優になるのを応援してるから」
「天馬くんは、私の手下分だもんね」
「うん、手下分だし、婚約者だ」
「婚約なんかしてない!」
「萌………?」
天馬は戸惑ったような声を出した。いつも素直に天馬に甘えてくる、天馬にはそうとしか感じなかった萌が、天馬に剣呑な目を向けている。
天馬としては、つい先日、やっと異性として意識し始めてくれたところで、これから進展させるつもりであっただけに、冷や水をかけられたような心地だった。
天馬のそんな表情は、そっぽを向いた萌からは見えない。
「私、考える、って言っただけ」
「そうだけど、萌からキスしてくれた」
キス、の言葉に、秘書が思い浮かぶ。
秘書に勝手にキスされてた。秘書は萌が太刀打ちできないような大人の女性だった。CEOに釣り合うような女性だ。
そんな美人秘書にキスされてた。
手下分だと思っていたのに、手下分のほうがたくさん手下分を抱えてた。そして、手下分たちをあごで使ってた。
「天馬くん、会社のCEOなの?」
天馬はビクッとした。バレちゃったか、というような表情だった。
やっぱりCEOと天馬くんは同一人物なんだ。
「どうしてフリーターのふりしてたの?」
言い訳がましい声が聞こえてきた。
「ふり、はしてない。萌が勝手に思い込んでいただけだ」
「でも、否定しなかった。私が誤解してるのわかってたくせに、訂正しなかった」
天馬のことを萌が定職に就かない者同士、仲間のように思っていたことを天馬は知っていたはずだ。そういう話を何度もしてきたのだから。
「萌にそういうことをちらつかせたくはなかった。それを目当てに近づいてくる人が多いから」
「CEOってことに? お金に?」
「どっちもだ。俺に近づいてくるのはそういう人たちばっかりだ」
「私を立場やお金で釣るのは癪だった?」
「萌はそんなものでは釣れないでしょ。ただ、萌の前ではありのままの俺でいたかった」
「ありのまま、って、CEOだって、天馬くんのありのままの姿でしょ」
天馬は顔を陰らせた。
「俺は萌の前で見せているように優しいだけじゃない。そういうのを知られたくはなかった」
「そんなの、ありのままじゃないじゃん」
もう知ってるよ。CEOの天馬くんを。
怖い顔の冷たい声の天馬くんを知ってるよ。優しい顔じゃない天馬くんも知ってるよ。
でもそっちだって、天馬くんでしょ。
天馬くんは、私には全部を見せてはくれてなかったんだね。
ふと、天馬は話題を変えてきた。笑みを浮かべて萌に訊いてくる。
「どうだったの? オーディションは」
「合格した」
とある企業の会社案内ビデオのナレーションに、萌は合格していた。
希望したオーディションに合格したのは、初めてのことだった。
「おめでとう!」
天馬の嬉しそうな声に、萌の怒りは急激に静まる。天馬を追及して、吐き出したせいもある。
そして、何より、オーディション合格は嬉しかった。
やっともぎ取った合格だ。
やっぱり私は声が良いんだ。やっとそれを認められて、嬉しかった。
「へへっ」
萌が笑うと、天馬はさらに嬉しそうな顔をした。やっぱり天馬くんは手下分だ。私のことを自分のことのように喜んでくれる。
「天馬くんのアドバイスのおかげ」
「何が?」
「私、リスペクトが足らなかったんだなって思ったの。反省して、ちゃんとナレーションのこと頑張ろうって思ったの」
「そんなこと言ったっけ」
「うん、似たようなことは言った」
「じゃあ、お礼をしてもらおうかな」
天馬はそう言って目を閉じた。
え、これってキス待ち顔?
萌のベッドに座った天馬は、ジャージにボサボサの頭で、それでキス待ち顔をしているのだから、いくらイケメンでも間抜けに見える。
まあCEOでも何でもいっか。
私の前では手下分の天馬くんなら。
萌は天馬の頬に、チュ、とキスをした。
目を開けた天馬は、物足りなさそうな顔をしていたが、「今日のところはこれでいいや」と、部屋に戻っていった。
カーテンを開けると、天馬がいた。
ジャージにのんびり穏やかな顔で笑っている。
萌が天馬を訪ねない日が続くと、こうやって天馬のほうがやってくる。いつもなら、萌は笑顔で駆け寄って窓を開けていたが、今日は気が向かなかった。
窓を開けても、入れるつもりはないというように窓の前に立つが、上目遣いに笑顔を向けられて、つい入れてしまった。
「何の用?」
萌から低い声が出た。
萌があからさまに機嫌が悪いのを見て取ったのか、天馬は探るような声を出していた。
「結果、出た? この前のオーディション。結果をなかなか言いに来てくれないから」
目の前にいるのは萌の手下分の天馬だ。声音だって穏やかで優しい。怖い顔の冷たい声のCEOとは別人にしか見えない。
「言う必要ある?」
「うん、ある。俺は萌が声優になるのを応援してるから」
「天馬くんは、私の手下分だもんね」
「うん、手下分だし、婚約者だ」
「婚約なんかしてない!」
「萌………?」
天馬は戸惑ったような声を出した。いつも素直に天馬に甘えてくる、天馬にはそうとしか感じなかった萌が、天馬に剣呑な目を向けている。
天馬としては、つい先日、やっと異性として意識し始めてくれたところで、これから進展させるつもりであっただけに、冷や水をかけられたような心地だった。
天馬のそんな表情は、そっぽを向いた萌からは見えない。
「私、考える、って言っただけ」
「そうだけど、萌からキスしてくれた」
キス、の言葉に、秘書が思い浮かぶ。
秘書に勝手にキスされてた。秘書は萌が太刀打ちできないような大人の女性だった。CEOに釣り合うような女性だ。
そんな美人秘書にキスされてた。
手下分だと思っていたのに、手下分のほうがたくさん手下分を抱えてた。そして、手下分たちをあごで使ってた。
「天馬くん、会社のCEOなの?」
天馬はビクッとした。バレちゃったか、というような表情だった。
やっぱりCEOと天馬くんは同一人物なんだ。
「どうしてフリーターのふりしてたの?」
言い訳がましい声が聞こえてきた。
「ふり、はしてない。萌が勝手に思い込んでいただけだ」
「でも、否定しなかった。私が誤解してるのわかってたくせに、訂正しなかった」
天馬のことを萌が定職に就かない者同士、仲間のように思っていたことを天馬は知っていたはずだ。そういう話を何度もしてきたのだから。
「萌にそういうことをちらつかせたくはなかった。それを目当てに近づいてくる人が多いから」
「CEOってことに? お金に?」
「どっちもだ。俺に近づいてくるのはそういう人たちばっかりだ」
「私を立場やお金で釣るのは癪だった?」
「萌はそんなものでは釣れないでしょ。ただ、萌の前ではありのままの俺でいたかった」
「ありのまま、って、CEOだって、天馬くんのありのままの姿でしょ」
天馬は顔を陰らせた。
「俺は萌の前で見せているように優しいだけじゃない。そういうのを知られたくはなかった」
「そんなの、ありのままじゃないじゃん」
もう知ってるよ。CEOの天馬くんを。
怖い顔の冷たい声の天馬くんを知ってるよ。優しい顔じゃない天馬くんも知ってるよ。
でもそっちだって、天馬くんでしょ。
天馬くんは、私には全部を見せてはくれてなかったんだね。
ふと、天馬は話題を変えてきた。笑みを浮かべて萌に訊いてくる。
「どうだったの? オーディションは」
「合格した」
とある企業の会社案内ビデオのナレーションに、萌は合格していた。
希望したオーディションに合格したのは、初めてのことだった。
「おめでとう!」
天馬の嬉しそうな声に、萌の怒りは急激に静まる。天馬を追及して、吐き出したせいもある。
そして、何より、オーディション合格は嬉しかった。
やっともぎ取った合格だ。
やっぱり私は声が良いんだ。やっとそれを認められて、嬉しかった。
「へへっ」
萌が笑うと、天馬はさらに嬉しそうな顔をした。やっぱり天馬くんは手下分だ。私のことを自分のことのように喜んでくれる。
「天馬くんのアドバイスのおかげ」
「何が?」
「私、リスペクトが足らなかったんだなって思ったの。反省して、ちゃんとナレーションのこと頑張ろうって思ったの」
「そんなこと言ったっけ」
「うん、似たようなことは言った」
「じゃあ、お礼をしてもらおうかな」
天馬はそう言って目を閉じた。
え、これってキス待ち顔?
萌のベッドに座った天馬は、ジャージにボサボサの頭で、それでキス待ち顔をしているのだから、いくらイケメンでも間抜けに見える。
まあCEOでも何でもいっか。
私の前では手下分の天馬くんなら。
萌は天馬の頬に、チュ、とキスをした。
目を開けた天馬は、物足りなさそうな顔をしていたが、「今日のところはこれでいいや」と、部屋に戻っていった。
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