呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

CEO……?!3

 翌朝、派遣元の事務所の更衣室で、鏡を見た。
 鏡には、作業帽を目深にかぶったマスク姿の清掃員がいる。
 これじゃ、私ってわからないよね。
 何せ、私は中肉中背の特徴のないモブっ子だし、声さえ出さなければ大丈夫だ。
 何が大丈夫なのかはわからないが、とにかく、天馬っぽい人に気づかれたくはない。
 もし天馬っぽい人が天馬くんだったら、困る。
 もう手下分扱いできないじゃん。少なくとも萌の方では知らんぷりを続けたい。
 先輩に訊いてみた。

「ここのCEOって、桐生天馬っていうんですか?」
「そんな名前だったわねえ。でも、山田ちゃん、興味持っても無駄だよ、派遣先の社員さんとうちらでは住む世界が違うんだからさ。CEOさんともなれば雲の上の人だよ」

 住む世界が違う。雲の上の人。
 先輩の言葉に軽く傷つく。
 確かに、社員と清掃員とでは、同じ空間にいても、住む世界は違う。
 現に今だって、萌がCEO室で掃除機をかけているにもかかわらず、秘書はCEOが椅子の背にかけっぱなしのジャケットを手に取り、ハンガーにかけて、ついでにポケットの中を覗いたりしている。
 同じ世界の住人の前なら、そんなことをしないはずだ。
 この秘書、大丈夫かな。仕事はできそうだけど、勝手にキスしたり、ポケット覗いたりして。
 まあ、それだけCEOと距離が近いということなんだろうけど。
 天馬くん、言葉を交わす女性なんて私かコンビニ店員くらいしかいなかったはずなのに。本当は美人秘書とかをそばに侍らせてるCEOだったの?

 CEOは、昨日もここに泊まり込んだようだった。同じく泊まり込んだらしき社員らも血相を変えてパソコンに向かっている。
 何か、トラブルが起きたようだ。
 CEOは、パソコンを抱えたまま、フロアで社員に何か指示を出している。
 かなり天馬っぽいが、萌の知っている天馬とは別人だった。
 のんびり穏やかに笑っている天馬ではなく、CEOの風格に満ちて、怖い顔に冷たい声を出して、社員に指示している。
 こんなの天馬くんじゃない。こんな天馬くんはいやだ。
 萌は信じがたい思いで、視界の隅にCEOを捉えていた。
 トラブルは翌日には片付いたらしく、それからは、オフィスでCEOを見かけることもなくなった。
 ゴミ箱には出社しているらしき痕跡はあるが、始業前の3時間清掃をしているだけ清掃員とCEOが出会うことはなくなった。

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