呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

CEO……?!

 朝六時前、警備室から鍵を借りて、オフィスフロアに入る。
 先輩は手前から、萌は奥から順に、ゴミ箱からごみを集めていく。
 CEO室を開けて、デスク脇のゴミ箱に向かおうとして、ハッとする。
 ソファに何かがいる?!
 視線を向けるとCEOらしき人がソファに横になっていた。
 先々週、清掃に入った初日に遭遇して以来だ。
 そのあと、出社してたんだな、ということがわかる程度にゴミがあったりなかったり。
 会社に来たり来なかったり、ITベンチャーのCEOの生態はそうしたものなのだろう。
 萌はデスクからソファを眺め見た。
 美人秘書にも女優にも狙われているだけあって、さすが寝姿もイケメン。スポーツをやっているのか天馬のようにがっちり体型だ。
 CEO(仮)は、お腹の上にパソコンを乗せたままだった。
 パソコン、どかせたほうが良いのかな。データ壊れたら大変だし。
 まあ、クラウド保存してそうだし大丈夫か。
 迷ったものの、パソコンをテーブルに置くことにして、ソファに近寄る。
 そこで、景色がぐらりと揺れた。萌は腰を抜かしかけた。
 眠っているのは、CEOでもCEO(仮)でもなかった。
 えっ……?
 えっ……?
 えっ……?
 なんで天馬くん?
 眠っているのは天馬だ。
 えええっ?
 どうして天馬くんが? 
 天馬くんだよね?
 立ち位置を変えて何度も見た。
 まっすぐに伸びた形の良い眉といい、濃いまつげといい、引き締まった唇といい、どこから見ても天馬に見える。
 あ、私、この唇にキスしたんだ……。
 じゃなくて!
 やばい、早く起こして、ずらからせないと。何で天馬くんがここで寝てるのかわからないけど、とにかく、ずらからせないと。
 いやだよ、天馬くんが捕まったりしたら。

「天馬くん、ちょっと、起きなよ、天馬くん」

 萌は小声で呼びかけた。
 揺すってみたものの、天馬はなかなか起きようとしない。
 そのとき、コツコツというヒールの音がドアの向こうから近づいてきた。
 あれは美人秘書の足音!
 早朝から出勤してきたんだわ。
 はわわ、どうしよう、どうすれば。
 とりあえず、乾いた雑巾を天馬の顔にかけて、デスクの陰に逃げ込んだ。
 デスクの陰でひたすら祈る。
 寝ているのが天馬くんだとバレませんように。
 秘書が入ってきた。
 ひぃぃ!

「あら、CEO、寝てるのね」

 秘書はソファに近づいていく。
 お願い、雑巾をはがさないで。
 それただの天馬くんだから。

「うふふ、よく寝てる」

 聞こえてきた秘書の声は、艶めいていた。
 秘書がCEOを狙っているという噂は本当のようね。って、そんなこと考えている場合じゃないわよ!
 どうする? 今すぐ出て行って、天馬くんを叩き起こして一緒に逃げる?
 それとも知らんぷりする?
 うん、見捨てよう。何も知らない清掃員に徹しよう。
 ごめんね、天馬くん。捕まったら、面会に行くし、差し入れもするから。大好物の甘い卵焼きを作って持っていくから。
 デスクの陰からは、秘書がソファにひざまずいているのは見えるが、ソファの天馬は見えない。

「うふふ、もう少し、寝かせてあげるわね」

 うん、寝かせて! 頼むから!

「あら、何で雑巾が……?」

 ああ、やばい、バレちゃう……。
 息を詰めること3秒。秘書の声が聞こえてきた。

「うふふ、可愛い寝顔」

 え、寝顔?
 あ、だめだ、こりゃ、非常ボタンを押されちゃう。
 そんな萌に、チュ、というリップ音が聞こえてきた。
 え、何、今の?
 首を捻る萌の耳に、秘書のヒールが遠ざかる音が聞こえてきた。
 デスクの陰から出ると、相変わらず、天馬が眠っていた。
 雑巾は顔から外されている。
 え? 
 え?
 どういうこと?
 秘書は天馬くんとCEOを見間違えたの? 
 あのリップ音は何?
 寝ている隙にキスしちゃったの?
 萌は激しく混乱しすぎて、思考が停止した。
 思考停止したまま、掃除機をかけて、モップをかけて、トイレ掃除をして、給湯室を掃除して。
 フロアに戻れば、視界の隅に、「CEO、おはようございます!」と言われて「おはよう」と返事している天馬に似た何か、がいる、ような気がする。

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