呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

手下分にプロポーズされました5

 スティックはどこから取り出したのかわからなかった。
 急に現れたように見えた。
 目を丸める萌に、おばあさんは笑った。

「魔女だと言っただろ? 声優になりたいんだな?」

 おばあさんはスティックを振ろうとした。
 咄嗟に萌はその手を掴んだ。

「ちょっと待ってください。あなた、本当に魔女なんですか?」
「ああ、魔女のキキだ。若いときは赤いリボンを頭に巻いていた。今は茶色だが」

 あのキキ?
 宅急便屋さんは、結局うまくいかなかったの?
 見ればおばあさんの頭には茶色のリボンが結んであった。
 あら、おしゃれ。
 あらためて眺めてみれば、おばあさんは爪もきれいにしているし、髪もこぎれいにしている。
 おしゃれ好きな魔女なんだわ。

「年とか気にしないでいいのに。好きな色のリボンをしましょうよ。そうだ、私、今、赤いリボンを持ってます」

 数日前に買ったままバッグに入れっぱなしのものだ。
 おばあさんに見せると、おばあさんは頬を染めた。

「いやあ、似合わんよ。こんな派手な色のリボンは」
「まあ、そうおっしゃらず」

 萌はリボンをおばあさんの頭に巻いてみた。おばあさんは、やはり、どこからともなくて鏡を取り出して眺めた。

「やっぱり似合っとらん」

 おばあさんは、萌をチラッチラッと眺めてくる。誉め言葉を催促してるのかしら。

「似合ってますって、めっちゃ似合ってます。まるで、キキさんのために存在するリボンにしか見えません」
「そうお?」
「めっちゃ可愛いです。百歳は若く見えます」
「どこで売ってるの? このリボン」
「よかったら、さしあげます」
「ほんとお?」

 おばあさんはとても嬉しそうだ。
 嬉しそうな人を見ると、萌も嬉しくなってくる。
 何で路地裏に座り込んでガールズトークをしているのかよくわからないものの、萌はその状況を楽しんでいた。
 長々と話し込むうちに、ミカンの皮で風呂がぽかぽかだの、大根は喉にいいだのを教えてもらう。
 そのうち、オーディションの時間が迫っていることに気づいて、萌は腰を上げた。キキが言った。

「じゃあ、そろそろ、萌ちゃんの願いを叶えてしんぜよう」

 手鏡がスティックになる。手品か何かわからないが、このおばあさんがただ者ではないということを萌は感じ始めていた。

「ちょっと、魔法は待った! キキさんが、応援してる、って言ってくれたらそれでいいです。私、自分の声で、自分の力で声優になりたいんです。だから、さっきの取り消してください」
「お、そうか。応援だけでいいのか?」
「はい、応援って、すごく元気になれるんです」

 天馬はいつも萌を応援してくれる。思えばそれで、夢を諦めないでいられることができているのかもしれない。魔法で叶えてもらったって嬉しくはない。
 キキは、背筋を伸ばした。

「では、萌ちゃんが声優になるのを応援するぞ」
「ありがとう!」
「では、他に願いを叶えて欲しいことはないのか? ブランドバッグが欲しいとか」
「うーん。特にないかな」

 確かにブランドバッグは欲しい。でも、弁当の見返りには大きすぎる。

「じゃあ、何か困ったときに、このキキを呼べば、いつでも駆けつけるから」

 キキはそう言って温かく微笑んだ。お腹も大きくなって満ち足りているのだろう。
 ふと目を離した隙に、キキの姿はなくなっていた。

「萌ちゃんとのおしゃべり、楽しかったぞ」

 そんな声が聞こえてきたような気がした。
 母親のようにガミガミと萌を否定するわけではない年長者との出会いは萌にとっても悪いものではなかった。


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