呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!
手下分にプロポーズされました3
いつまでも単発バイトだからママもうるさく言うのかな。
声優仲間に相談した萌は、派遣を紹介してもらった。
――ここならさ、朝早いけど、時給もいいよ。午前中で終わるから、他の予定に差し支えることないしね。
派遣元は、大手のビルメンテナンス企業で、仕事内容はオフィスのフロア清掃だった。
そりゃ、事務とか軽作業とか、楽そうな仕事とは思わなかったけどさ。
オフィスの始業時間までに清掃を終わらせるために、朝6時から作業開始する。
新宿のオフィスビルに入居する企業に、週5で先輩と二人で入ることになった。先輩は子どもに手がかからなくなってから清掃員をやり始めたそうで、もう二十年のベテランだ。
「ここは半年前から、うちを使い始めたところだけど、社員さんはすごく感じが良いのよ。だから、最初にここに当たった山田ちゃんはラッキーよ」
「社員さんと接する機会なんかあるんですか」
「ほとんどないけどね、でも、何となく感じが良いのよ」
先輩は、オフィスの鍵を警備員から受け取り、フロアの鍵を開ける。
「山田ちゃん、言っとくけど、机にも棚にも触っちゃだめだからね、防犯カメラは24時間回ってるから」
「はあい」
萌は返事して、先輩の後に続いてフロアに入って声を上げた。
「わあ、おしゃれなオフィスですね」
オフィスと言えば、職員室のようにスチールの机が並んでいる味気ないものだろうと思っていたが、そこはオフィスというよりも、カフェのようだった。
壁は木目柄で、窓にはロールブラインドがあり、ところどころに観葉植物が置いてある。
机にパソコンが並んでいなければ、オフィスとは思えない。
「何をやってる会社なんですか、ここ」
「ITベンチャーらしいわよ」
やっぱりそうか!
ITベンチャーと聞いて納得する。具体的に何をやっているのかさっぱり想像できなかったが、ITもベンチャーもこの空間に非常にしっくりくる。
ゴミ箱からごみを集めて、床に掃除機をかけて、モップをかける。トイレに給湯室を清掃する。
フロアが広いために二人でやっても時間がかかる。
8時になるとちらほらと社員がやってきた。
萌が黙々と作業をしていると向こうから声をかけてきた。
「おはようございます!」
「あ、おは、おはようございます」
もちろん清掃員の萌は何の興味も抱かれることもなく、社員はデスクに向かう。
それでも、無視されるだろうと思っていた萌は、あいさつされたことが意外だった。
なるほど、こういうところが「感じ良い」ってことかな。
おそらく上に立つ人が「感じ良い」人なんだろうな。
やっぱり、CEO、って呼ぶんだろうか。
そう思いながらモップをかけていると、早速、萌の耳に女子社員らの話が聞こえてきた。
「秘書の前川さん、親睦会、来るかな」
「CEO次第でしょ」
「やっぱり、前川さん、CEO狙ってるよね」
CEOだって。
すごくITベンチャーっぽい。
萌は手だけは懸命に動かしながら、聞き耳を立てる。
「宮浦麗も、うちのCEOを狙ってるみたいだったよ」
「ⅭⅯ撮影のとき、やたらすりよってたよね」
「CEO、そこらの俳優よりずっとイケメンだしね」
宮浦麗?
もしかして、女優の?
さすがCEOだな。
私も「うちのCEO」とか言ってみたいな。
CEOと女優との噂話してみたいな。
萌は聞き耳を立てながら、うずうずする。
じゃあ、定職に就く?
ううん、それはいやだ。
私は「台詞」として言いたいんだよね。
やはり萌の声優への夢にブレはない。
広いフロアに、大小の会議室の清掃を終えて、奥の部屋に向かう。
シンプルな机に棚にソファが並んだだけのその部屋が、CEO室だと気がついたのは、いかにもCEO風の男性が入ってきたからだった。
CEOは、いかにも秘書風の女性と、いかにも右腕風の男性とを従えている。
掃除機をかけながらぺこりと挨拶をすると、会釈を返してくれた。
さすがCEO、人として、別格感があるわ。
はっきり見たわけではなく輪郭しか捉えてないが、輪郭からして一般人とは違う。
堂々たる体躯に、威風をまとっている。
掃除機を止めて、モップをかけていると、女性秘書の声が聞こえてきた。
「CEO、新しいアプリのことで、ヴァイス氏から電話が入っています」
「スピーカーに切り替えて」
その声に、萌はハッとする。
ん? この声、どこかで…………?
CEOはすらすらと英語で話し始めた。さすがCEOだけあって、発音も抜群だ。
聞いたことがある声だと思ったが、英語になるとつかみどころがなくなった。
気のせい、気のせい。
掃除を終えて、会釈をしてCEO室を出た。
掃除道具を片付けていると、先輩が言ってきた。
「CEO、見た?」
「あ、何となく」
「イケメンでしょ」
「オーラがすごかったです。やっぱり、CEOになるような人は違いますね」
イケメンといえば、萌の知る限り、天馬が一番のイケメンだが、天馬にはオーラは感じない。
でも、オーラを感じるような人より、ちょっと頼りないけど優しい天馬くんのほうが良いわ。一緒にいて落ち着く。
そこで、萌は昨日のキスを思い出して、頬に熱が集まってくる。
やっぱり私、天馬くんのことが好きなのかな。
でも夢は諦めたくない。今はこっちに専念しなきゃ。
声優仲間に相談した萌は、派遣を紹介してもらった。
――ここならさ、朝早いけど、時給もいいよ。午前中で終わるから、他の予定に差し支えることないしね。
派遣元は、大手のビルメンテナンス企業で、仕事内容はオフィスのフロア清掃だった。
そりゃ、事務とか軽作業とか、楽そうな仕事とは思わなかったけどさ。
オフィスの始業時間までに清掃を終わらせるために、朝6時から作業開始する。
新宿のオフィスビルに入居する企業に、週5で先輩と二人で入ることになった。先輩は子どもに手がかからなくなってから清掃員をやり始めたそうで、もう二十年のベテランだ。
「ここは半年前から、うちを使い始めたところだけど、社員さんはすごく感じが良いのよ。だから、最初にここに当たった山田ちゃんはラッキーよ」
「社員さんと接する機会なんかあるんですか」
「ほとんどないけどね、でも、何となく感じが良いのよ」
先輩は、オフィスの鍵を警備員から受け取り、フロアの鍵を開ける。
「山田ちゃん、言っとくけど、机にも棚にも触っちゃだめだからね、防犯カメラは24時間回ってるから」
「はあい」
萌は返事して、先輩の後に続いてフロアに入って声を上げた。
「わあ、おしゃれなオフィスですね」
オフィスと言えば、職員室のようにスチールの机が並んでいる味気ないものだろうと思っていたが、そこはオフィスというよりも、カフェのようだった。
壁は木目柄で、窓にはロールブラインドがあり、ところどころに観葉植物が置いてある。
机にパソコンが並んでいなければ、オフィスとは思えない。
「何をやってる会社なんですか、ここ」
「ITベンチャーらしいわよ」
やっぱりそうか!
ITベンチャーと聞いて納得する。具体的に何をやっているのかさっぱり想像できなかったが、ITもベンチャーもこの空間に非常にしっくりくる。
ゴミ箱からごみを集めて、床に掃除機をかけて、モップをかける。トイレに給湯室を清掃する。
フロアが広いために二人でやっても時間がかかる。
8時になるとちらほらと社員がやってきた。
萌が黙々と作業をしていると向こうから声をかけてきた。
「おはようございます!」
「あ、おは、おはようございます」
もちろん清掃員の萌は何の興味も抱かれることもなく、社員はデスクに向かう。
それでも、無視されるだろうと思っていた萌は、あいさつされたことが意外だった。
なるほど、こういうところが「感じ良い」ってことかな。
おそらく上に立つ人が「感じ良い」人なんだろうな。
やっぱり、CEO、って呼ぶんだろうか。
そう思いながらモップをかけていると、早速、萌の耳に女子社員らの話が聞こえてきた。
「秘書の前川さん、親睦会、来るかな」
「CEO次第でしょ」
「やっぱり、前川さん、CEO狙ってるよね」
CEOだって。
すごくITベンチャーっぽい。
萌は手だけは懸命に動かしながら、聞き耳を立てる。
「宮浦麗も、うちのCEOを狙ってるみたいだったよ」
「ⅭⅯ撮影のとき、やたらすりよってたよね」
「CEO、そこらの俳優よりずっとイケメンだしね」
宮浦麗?
もしかして、女優の?
さすがCEOだな。
私も「うちのCEO」とか言ってみたいな。
CEOと女優との噂話してみたいな。
萌は聞き耳を立てながら、うずうずする。
じゃあ、定職に就く?
ううん、それはいやだ。
私は「台詞」として言いたいんだよね。
やはり萌の声優への夢にブレはない。
広いフロアに、大小の会議室の清掃を終えて、奥の部屋に向かう。
シンプルな机に棚にソファが並んだだけのその部屋が、CEO室だと気がついたのは、いかにもCEO風の男性が入ってきたからだった。
CEOは、いかにも秘書風の女性と、いかにも右腕風の男性とを従えている。
掃除機をかけながらぺこりと挨拶をすると、会釈を返してくれた。
さすがCEO、人として、別格感があるわ。
はっきり見たわけではなく輪郭しか捉えてないが、輪郭からして一般人とは違う。
堂々たる体躯に、威風をまとっている。
掃除機を止めて、モップをかけていると、女性秘書の声が聞こえてきた。
「CEO、新しいアプリのことで、ヴァイス氏から電話が入っています」
「スピーカーに切り替えて」
その声に、萌はハッとする。
ん? この声、どこかで…………?
CEOはすらすらと英語で話し始めた。さすがCEOだけあって、発音も抜群だ。
聞いたことがある声だと思ったが、英語になるとつかみどころがなくなった。
気のせい、気のせい。
掃除を終えて、会釈をしてCEO室を出た。
掃除道具を片付けていると、先輩が言ってきた。
「CEO、見た?」
「あ、何となく」
「イケメンでしょ」
「オーラがすごかったです。やっぱり、CEOになるような人は違いますね」
イケメンといえば、萌の知る限り、天馬が一番のイケメンだが、天馬にはオーラは感じない。
でも、オーラを感じるような人より、ちょっと頼りないけど優しい天馬くんのほうが良いわ。一緒にいて落ち着く。
そこで、萌は昨日のキスを思い出して、頬に熱が集まってくる。
やっぱり私、天馬くんのことが好きなのかな。
でも夢は諦めたくない。今はこっちに専念しなきゃ。
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