呪いを解くには、セ×クスするしかありません?!

文野

手下分にプロポーズされました

 私は何の取り柄もない、ごくごく平均的な人間だ。同年齢の平均身長・平均体重に、一ミリも一キロも違わないし、顔だってすぐに忘れ去られるモブ顔。高校までの成績は、国語から体育まで、オール3。
 家も、東京郊外の一戸建てで、共働きの両親に一人っ子のありきたりな家族。
 名前だって、山田萌やまだもえ、という、名字でも名前でも多数派。
 だから、平凡に生きる。
 萌は、そう思っていた、ただし、高2までは。
 高2で、放送委員になった。
 校内放送で気取った声を出してみた。

 ――え、この声良い!
 ――頭にするって入ってくる声だわ。

 萌の声は高校生たちの心をくすぐった。
 先生までが、萌の声を褒め称えた。
 え、私、声の才能あるの?
 萌の人生が平凡から逸脱した瞬間だった。

 調子に乗った萌は、声優になることに決めて、高校卒業後、専門学校に通った。オーディションを受けた。
 そこで挫折を知った。
 オーディションに落ちまくった。一度もまともな役に合格したことがない。交通費をくれるだけの名前のない役しか、やってない。
 はた目には単発バイトをやっているだけの、ただのフリーターだ。
 このまま私、声優の卵、から、声優になりたかった人、になっちゃうのかなあ。
 そんな22歳の夏。
 
「天馬くん、聞いてよ」

 萌はオーディションに落ちるたびに、隣家に住む、幼なじみのベランダに飛び移る。
 桐生天馬きりゅうてんま、27歳。こっちもフリーターだ。スーツを着ているのなど見たことがないし、留守がちかと思えば、昼間っから家にいることもある。
 外見だけは良いからモデルでもやればいいのに、と、たまにオーディションを知らせてやるが、受けていないのか落ちるのか、結果は言ってこない。
 パソコンに向かっていた天馬は、萌がベランダにやってきたことに気づくと、すぐに立ち上がり窓を開けた。

「オーディション、また落ちた」
「ちょっと、待ってて、用事済ませるから」

 用事と言ってもどうせゲームか何かなのだろうが、萌がベッドに座って待っていると、すぐに隣に座ってきた。萌も高校のジャージだが、天馬もジャージだ。天馬はさすがに高校のジャージではないが、セレブが着るような高級ジャージでもなく、ホームセンターで買ってきたようなジャージだ。
 もっとも、天馬はジャージ姿でも格好良かった。

「で、今度は何の役だったの?」
「ナレだったんだ。だから、自信があったのに」

 演技力を必要としないナレーションのほうが、萌は得意だった。感情を込めたり、ときに大声や早口で喋らなければならない台詞とは違って、ナレーションはゆっくりとわかりやすく喋ればいい。
 もちろん、第一志望はアニメや映画のアフレコで、ナレーションはいわばつなぎ・・・だ。
 けれども、今は少しでも声に関わる仕事をしたい。それで、ナレーションにも手を伸ばし始めた。

「ただ、ゆっくりわかりやすく喋ればいいだけなのに、落ちちゃったんだよ。私、才能ないのかな」
「萌の声は良いと思う」
「本当?」

 天馬は萌をいつも慰めてくれる。しかも、慰めるだけではない。いつもヒントをくれる。

「萌が落ちた原因は、ナレーションをただわかりやすく喋ればいいだけ、って思ってるからじゃないかな」

 萌は顔を上げた。

「あっ」

 天馬の指摘は鋭かった。
 私、ナレーションの仕事をリスペクトしていなかった………。

「もう、天満くんのくせに、良いこと言うじゃん!」
 
 萌は天馬の背中をバンバンと叩いた。天馬は痛がることなく受け止めている。
 萌はベッドから立ち上がった。
 もっとしっかり、ナレーションのことを勉強しなくちゃ!

「ありがとね、私、これからも頑張る!」
「うん、頑張れ」

 こんな感じで、いつも萌は天馬に支えてもらっていた。
 天馬は萌の幼なじみであり、こどおじ&こどおば仲間であり、更に言えば、萌の手下分だった。
 そのはずだった。


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