一途な淫魔の執着愛

森本イチカ

ーー3ー3

 トサっと優しく降ろされた場所は一度だけ一緒に寝たことがある洸夜のベッドの上。優しい月明かりがカーテンの隙間から入り込み二人を照らした。  


 優しく服を全て脱がされ、日和に跨りながら洸夜も自分の着ていた服を全て脱いだ。薄暗い部屋だがすぐに目が慣れ、洸夜の無駄な肉のない引き締まった肉体美がよく見える。


 バチリと目が合った。愛おしそうに見つめる瞳の奥をよく見るとまだメラメラと欲情が滾っている。 


「あ、あの……んっ……」


 聞こうとする前に唇を塞がれた。


「まだ、全然日和が足りない」


 また唇が塞がれる。


「日和、好きだよ」


 肩に顔を埋め鎖骨に吸い付かれる。


「自分より他人のことばかり優先しちまう優しい日和が好き」


 反対側の鎖骨にも。


「一生懸命夢を叶えて仕事を頑張ってる日和が好き」


 鎖骨からツツーッと舌が首筋を這う。


「あぁ、素直じゃないところも可愛いな。自分の手で暴いていきたくなる」


「やっ……」


 片方の乳房をグッと掴まれた。ぐにゃりと洸夜の手の形に合わせて形が変わる。


「俺には一生日和しかいらない」


 ――ゾクリとした。


 真っ直ぐに熱の篭ったブラウンの瞳に吸い込まれそうになる。吸い込まれても良い。身体も心も全てが泣き叫ぶように洸夜を求めている。


「……私も好き」


 素直に自分の気持を溢れ出す気持と共に言葉に出すと虚を衝かれたように目を瞬かせて洸夜はたらりと額に掛かっていた前髪を掻き上げ、深い溜め息をついた。


「聞こえなかったからもう一回」


「え……んんっ……」


 優しく唇が重なった。ちゅっと音を立てて離れていく。


「だ、だから、私も好き……だって言ってるの」


「もう一回」


 嬉しいのか、洸夜の瞳はうるうると涙ぐんでいる。そんなに嬉しかったのかな? でもそうだ、自分だって洸夜に好きと言われると心臓がドクドク嬉しさを鼓動の速さで表現する。名前を呼ばれるとトクンと大きく心臓が波打つ。


 もしかして……そう思いそっと洸夜の左胸、ちょうど心臓のある位置に手を伸ばし触れるとバクバクと勢の良い振動が手のひらに伝わってきた。あぁ、同じようにドキドキしてこうして心臓を盛大に鳴らしているんだ。同じだ。人間だろうが、淫魔だろうが同じようにこうして心を動かしている。


「好き。……洸夜が好きよ」


 恥かしいけれどしっかりと洸夜の瞳を見つめ返す。多分今ものすごく顔が真っ赤かもしれない、恥ずかしさで変な顔をしているかもしれない。でもいつも洸夜が真っ直ぐに感情をむき出しにして見つめてくれるから、日和もしっかりと洸夜を見つめた。好き、という気持ちを込めて。


「……まじで、それは反則だろ」


 真っ赤に染まり。困ったような顔をした洸夜は隠すように自分の顔を片手で覆った。


「日和のせいだからな?」


……私のせい? 


 その瞬間フワッと甘い香りが鼻を勢いよく抜けた。溶かした砂糖のような、そんな匂い。


「あーあ、でちったじゃん。今まで隠してたのに」


「へ? はぁぁぁぁ!?」


 匂いとともにブワッと現れた大きな黒い羽。見間違いでなければ洸夜の背中から出ているように見える。えーっと、これは現実? それとも夢にまた洸夜が現れたの? 頬をつねってみるが痛い。ヒリヒリした。


「あ、あんたソレッ……」


 大きな黒い羽を指差す。指の先の少しだけ羽先が触れた。くすぐったい。


「羽をしまっておくのが我慢出来ないくらい俺を高ぶらせたんだから……日和のこと抱き潰しちまうかもなぁ」  


 洸夜はクスリと満足気に口角を上げた。


「なななな、何言ってるのよ! ソレを、羽をしまいなさい!」


 淫魔だということは理解したつもりだったがまさかこんなにも漆黒という言葉がぴったりな羽が出てくるなんて、正直驚きを隠せない。


「やっぱり怖いか? 淫魔な俺の事……」


 あんなに満足げな顔をしていたのに急に自身がなくなったようにしょぼんと肩を落とした。不安なのだろうか、羽がでたことによって日和が離れていってしまうとでも考えてしまったのだろうか。何を洸夜が思ったのかは分からないが羽があろうが、無かろうが、洸夜に変わりない。ただ少し驚いただけだ。


 日和は起き上がり、両手を広げて洸夜を抱きしめた。ふわふわな羽が柔らかくて気持ちいい。トントントンと子供をあやすように背中を優しく叩いた。 


「ひ、より……?」


 不思議、そう思っている揺れた声が耳元に落ちてきた。


「少し驚いただけ。普段社長として仕事を頑張ってる洸夜も、夢に出てくるエッチな洸夜も、こんなに綺麗な羽のついている洸夜も、どんな姿であれ、あんたはあんたなんだから、怖くない。好きな気持は変わらないわよ」


 恥ずかしいけれどサラサラと砂糖がこぼれるよう、流れて、自然に言葉が出てくる。ずっと身体の中に溜め込んでいたものがすぅっと溶けていくような、そんな感じ。


「日和、もう一回名前で呼んで」


 頬を撫でられ優しく包み込まれる。温かい、日和の大好きな洸夜の手。


「こ、うや」


「もう一回」


「洸夜……んっ……」


 洸夜は官能の篭った瞳で微笑み、優しくキスをした。


「たまんねぇな、日和の蕩けた顔。もっと見せて」


「あ……んっ……」


 歯列をなぞる舌先、ざらりと舌を舐められそのまま奥まで吸いつくされる。


 腕を洸夜の背中に回すとふわりと羽に手が触れた。こんなに闇に溶け込んでいそうなほど真っ黒なのに触ると柔らかくて気持ちがいい。抱きしめても痛くないのだろうか、おそるおそる抱きしめる。


「もっとしっかり抱きついて。何も痛くないから、もっと俺にくっついて」


 エスパーかと思った。おそるおそる抱きしめたことに気づいたようで「もっと」と催促してくる。

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