一途な淫魔の執着愛

森本イチカ

ーー2

 午前五時、ピピピ、ピピピとアラームが鳴る。パティシエの朝はまあまあ早い。


「ん……起きないと」 


 珍しいこともあるもので、なにも夢を見ずに起きたのはいつぶりだろう。分からないほどはるか昔だ。


「あいつ、どうしたんだろう」


 夢に出なくてよかった、と思いつつも何故か気になってしまう。あんなに毎日出てきていたのに今日は出なかったんだろう。もしかして昨日あんな会社の薄暗い部屋で抱かれて、バカと罵倒して逃げるように帰ってきてしまったから怒っているのだろうかと疑問が頭に浮かぶ。


 まぁ、あいつが怒ってても私は関係ないし……あ、あんなあところでセックスするなんて怒るにきまってるわよ!


 布団からでるとショーツは濡れていないのに、ブルリと身体が寒いと感じた。いつもは熱いほど身体が火照っているのに夢を見なかった今日は空気が肌寒く感じる。エアコンをつけなかなか温まらない部屋で身支度を始めた。


 朝六時半には店に出勤し、開店の準備する。そのために日和は毎朝五時に起きてしっかりと朝ごはんを食べて出勤するのだ。まだ薄暗い朝の道、いつもウォーキングしているご老人とすれ違うくらいで殆ど人すれ違うことはない。


「おはよーございます」


「お〜おはようさん」


 店の店長である健は日和よりも早く出勤し時間のかかるタルト生地の準備などをしてくれている。


「んじゃあ日和はいつもどおりスポンジよろしく〜」


「了解です」


 卵とグラニュー糖を混ぜ合わせ泡立て器でしっかりと泡立て、小麦粉をふるいにかけ生地をしっかりとま混ぜる。この加減で生地がちゃんと膨らむかがきまるようなものだ。溶かしバターを加えさらに混ぜ合わせて型に流し込む。業務用の予熱したオーブンで焼いて、焼き上がったら冷ましてスポンジの完成だ。


 朝焼いたスポンジは一日しっかりと寝かせて次の日にデコレーションして店頭に並べる。今日は昨日焼いて一日寝かせたスポンジを綺麗に着飾らせショートケーキへと変貌させるのだ。


「おはようございまあす」


 綾乃も出勤してきてもう九時ということが分かる。あと一時間後には開店だ。


「今日も綺麗なショートケーキッ!」


「でしょう、ザッハトルテも冷蔵庫で今冷やしてる」


「ああ、例のイケメン社長が気に入ってるもんね。日和の作ったザッハトルテ」


 ニヤニヤと笑いながら綾乃は肘で日和をつついた。


「なっ……」


「昨日はあの後どうだったのよ〜んん? 白状なさいっ!」


 薄暗い部屋でヘトヘトになるまで抱かれてました! なんて言えるかーっ!!!


「べ、別に何もないよ。ほら、準備準備!」


「ふふ、誤魔化すの下手すぎ〜本当社長さんは日和にベタ惚れって事ね〜」


 日和の反応を楽しんだ綾乃はスタッフルームへ着替えに行き、日和は出来上がったケーキを順にケースへ並べていった。もちろんザッハトルテも一緒に。


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