一途な淫魔の執着愛

森本イチカ

ーー4ー2

 一階はロビー、二階はパーティー会場、三階は会員達との相談個室、四、五、六階は社員用オフィス、七階は社長室になっているそうだ。エレベーターのボタンの所にご丁寧に書かれていたから多分合っている。


 最上階の七階でエレベーターが止まり「どうぞ」と西野がドアを止めてくれていた。


 ありがとうございますと素早くエレベーターを降りると目の前の扉に社長室と書かれたプレートがドアにさがっている。


 ここが社長室なのかな?


「田邉様、こちらです」


 西野がドアを開けた。


「社長、田邉様をお連れいたしました」


「あぁ、悪かったな。もう西野は下がっていいぞ」


 顔は見えないが社長と呼ばれる人の声は低くて芯の太い、よく響く声だった。


「では田邉様、どうぞお入りください」


「は、はあ。お邪魔します……」


 なんだかよく分からない状況に困惑しつつも、言われた通りに日和は社長室に入った。


 社長室はロビーのラグジュアリーな雰囲気とはまた違うモダンな感じの部屋。


 南側の壁は一面がガラスで見晴らしがよく、そのガラス壁の前には社長のだと思われるデスク。そこに座っているスーツの男性は社長と呼ばれていた人だろうか? 真田洸夜(さなだ こうや)と書かれたネームプレートがデスクの上に置いてある。洸夜は日和に気づいていないのか一切こちらを向かない。


 緊張しながらも日和は物珍しさに周りを見渡した。インテリアなどは一切なくただただ広い部屋にデスクとブラックの対面ソファー、間にはガラスのローテーブル。凄くシンプルな部屋だった。グレイの絨毯が一面に敷き詰められており、フカフカすぎて土足で歩いても良いものかと悩んだが靴を脱ぐような場所もないのでそのまま歩き進める。


「あ、あの〜」


デスクの椅子に座って南側の外を見ていた男が「あぁ、ようやく会えたな」と言いながらクルリと椅子を回転させ日和の方を向いた。


 うっわ……めっちゃイケメン……って、ようやく会えたって言った?


 日和は首を傾げた。


 いや、こんなイケメンと会ったことがあるなら忘れるはずない。太陽の光に当てられて輝いているブラウンのきれいな髪。しゅっとした輪郭にはそれぞれのパーツがバランスよく配置されていて切れ長な二重の瞳、その瞳はきれいな髪と同じブラウン色で、なんだか吸い込まれそうなほど強い目力。筋の通った高い鼻に唇は薄くて血色の良い綺麗な色をしている。一言で言えば芸術品のような顔立ちだ。


「なにをジロジロ見ているんだ」


 洸夜は長い脚を組み替え両手を膝の上に起き日和をジィっと見つめ返してくる。


「いえっ、ジロジロ見ていたつもりは無かったんですけど……」


 あまりにもイケメンだったから……とは言えずに言葉を飲み込んだ。


「ん、まぁいい。そこに座れ」


 日和は言われた通りにソファーに腰掛ける。するとドサッとソファーが凹んだ。


「へ……?」


 断りもなく、なぜか洸夜が隣に座っている。


「あの、なんでしょうか……?」


「何って……あぁ、日和は本当甘くて良い匂いだ」


 驚きで身体が硬くなっている日和に洸夜は躊躇なく、吸い付くように頭を肩に乗せスゥッと鼻から息を吸う。


「ひぇっ!? な、なんですかっ!!!」


 息が首にふわりと当たり背筋がゾクリと震える。洸夜の胸を両手でグッと押し身体から引き離した。


「……何って、お前から俺に会いにきてくれたんだ。嬉しくて好きな奴に触れたいと思うのは当然だろ?」


 ぐるりと肩に手を回され身体を引き寄せられる。何を言っているのかさっぱり分からない。もしかして人違いでもしているのだろうか? なんて現実逃避の言葉が頭に浮かんでくる。


「あ、会いに来たと言うか私はここの結婚相談所に登録しにきただけでっ。離してください! 完全に人違いです! 私と貴方は初対面ですよ!」


 日和は顔を真っ赤にさせ、グイッと身体をひねらせた。洸夜から逃げ出そうとするも力が強くて抜け出せない。


「離れんなって。お前、俺が誰か分からないのか?」


「なっ……!」


 耳元で囁くように声を流し込まれ身体が熱くなってきた。


 あれ……? この声……。


 どこかで聞いた事のあるような、無いような……ハッキリと思い出せない。


「……どこかでお会いしましたっけ?」


 日和は怪しむように洸夜を睨みつけた。


「ったく、こんなに近くにいるのに思い出せないとか仕方ねぇな」


 洸夜は気怠そうに左手で日和の顎をクイッと持ち上げた。


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