致し方ないので、上司お持ち帰りしました

柚月しずく

20 胸が高鳴る理由



 この日は、中学生のころから親友のめぐみとランチに来ていた。
 めぐみは祖母の予言のことも知っているし、予言された後男運が悪くて騙されたことも知っている。真白さんの許可を得て、めぐみにだけは今の現状を説明していた。


「で、で。どうなの? 童貞上司との同居生活は?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべて意気揚々と聞いてくる。真白さんが童貞だということも説明済みだ。

「それが……。はあ、」
「どうしたの。大きなため息はいて」

 ため息だってつきたくなってしまう。だって、真白さんが私のことを女性としてみていないのが、ひしひしと伝わってくるんだもん。

 好きだと自覚した今。真白さんが女性嫌いという事実が、重くのしかかっていた。
 

「実は……お風呂上がりにわざとバスタオルのままリビングに行ったんだ。湯上りの肌をみて、少しは意識してくれるかなって。定番だけど、魂胆があったわけよ」
「ほうほう」
「そしたらどんな反応したと思う? 『服持って行くの忘れた? 何必要? クローゼットから持ってこようか?』って淡々と言われたんだよ」
「涼香の裸を見ても、反応なかったと」
「こっちを見ないように気を遣ってくれてたような気もするけど……もっと顔を真っ赤にさせて中坊のような反応だと思ったからさ」
「中坊って」

 職場の同僚にも言えない相談を嘆いた。
 髪を乾かしてくれる時も。シャンプーの匂いが香って、普通の男ならムラッとするところだと思う。
 なのに、真白さんは平然と作業をこなすかのようにしている。

 分かっていたことなのに女と見られていないことが、こんなに悲しいなんて。


「どうしたらいいと思う?」
「どうしたらって、童貞上司は女性が苦手なんでしょ? 勝算低くない?」
「それは重々承知だったんだけどさ。髪の毛乾かしてくれたり。料理作ってくれたり。お弁当もかわいいの作ってくれるんだよ? 好きにならないようにしてても沼るよー」
「そんなことしてくれんの? 童貞って」
「もう! 童貞だからじゃないよー。真白さんが優しいんだよ」
「なんかさ。今まで涼香が付き合ってきた男って、最低な奴ばかりだったじゃん?」
「うん、」
「童貞上司が料理上手とか優しいことはもちろんだけど。涼香が恋しているのが伝わってきて嬉しいよ」
「そ、そう? 自分じゃ分からないな」
「だって、元カレとなにかあっても、こんな風に相談することなんてなかったじゃん。それに、童貞上司と同居前より、肌つやが良くなってる気がする」
「え、そう?」
 
 肌つやが良い理由は、思い当たる節が多かった。朝晩と栄養たっぷりご飯を食べて。きれいなお風呂で毎日入浴。心身ともに満たされて、深い眠りにつく。一人暮らしをしていた時の生活より、遥かに良い暮らしをしていた。
 
 久しぶりに親友と過ごした時間は有意義なものだった。心にたまっていたモヤモヤが消えたような気がする。



 ♢

 帰宅してリビングに入ると、思いがけないものが視界に入る。

「え、は、はだか?」

 バスタオルを下半身に巻いて大事なところは隠されていたが、上半身は解放されていた。
 どくん。心臓が跳ねて、うるさく鼓動する。
 意外にも筋肉質は身体に、どうしたって反応してしまう。


「ご、ごめん! ランニングして汗かいたからシャワー浴びたんだ! き、着替えてくる!」

 顔を背けた私に言い残して、足早に自室に消えていった。
 目に焼き付いた真白さんの肉体美が離れてはくれない。脳裏に浮かんだまま、私の心臓も高鳴り続けてた。

 私はこんなに、ドキドキするのに。
 真白さんは、私の肌を見ても、平然としていたなんて。

 改めて、恋愛対象に見られていないことに、胸が苦しかった。

 


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