空を飛べない私は嫌いですか?

みとしろ

空を飛べない私は嫌いですか?


「企画課の和倉先輩、今度寿退社するみたいだよ。」
「東条本部長でしょ。社長のご子息で、仕事もバリバリ出来るとかマジで羨ましすぎるー。」
「つか、営業課の前の彼氏さ、姫野さんに取られて良かったんじゃない。」
「ウケる。でもそれは言えてる。あんな人と結婚しても幸せになれないでしょ。」
「だよねえ。言い寄られてホイホイ浮気するような奴ごめんだわ。」
「しかも姫野さん色々やらかしたのバレて郊外の工場に異動でしょ。」
「うわー。でも自業自得って言葉がピッタリ。課長も企画課から異動だし、膿が出切って良かったんじゃない?」
「あははは。言えてるー。」

相変わらず、女子トイレは情報源だ。感心する。会社のどの課よりも有能な社員が揃っている。




「緑子。行くよ。」
「晃さん、待って。」
「ごんべえに会うのはあれ以来初めてだよね。」
「うん。楽しみ。」
これから東条晃の家へ向かう。心臓がドキドキ飛び出してしまいそうだ。車を降りて歩いていると突風がバッと吹き付けた。目の前を歩く女の子の風船がブワッと飛ばされた。
「うわーーーーーん。」
大きな声で泣き始めてしまった。風船は高く高く昇っていった。
「また、買いにいこう。」
母親がそう宥めると女の子は
「うん」
と何とか機嫌を直していた。

「あーあ。私がまだ空を飛べたらあの風船取りに行けたのに。」
そう東条に向かって冗談ぽく言うと
「そうだね。残念。」
と意地悪な顔で返事をした。
「空を飛べない私は嫌いですか?」
私も負けずに意地悪っぽく聞いた。
「空を飛べる位の理由で緑子を好きになったり嫌いになったりするわけないよ。」
そう言うと手をギュっと握って来た。
「大好き。」
そう答えると私もぎゅうううっと手を握り返した。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品