空を飛べない私は嫌いですか?

みとしろ

悪魔への報酬


夢見心地で家に帰るとシーナが居た。
「お疲れ様。シーナありがとう。」
シーナは何も言わずに俯いてる。
「シーナ?お土産にケーキ買って来たよ。一緒に食べよ。」
もう一度声をかけるとシーナはガバッと顔を上げた。
「何?どうしたの…」
私は息を呑んだ。そこにいたのはいつものシーナではなかった。
「はあ…はあ…みど…りこ、三回目の魔法を使って契約は成立した。もう、ほぼ悪魔になってきている。報酬を頂くとする。」
その姿にケーキを床に落としてしまった。
「シーナ!もうシーナじゃないの!?」
「そうだ。お前が昨日帰って来なかったからだ。もう少し早く帰れってくればシーナに会えただろうに。」
「そんな…。」
「報酬は、お前の好きな人を頂く。お前の大事な人を頂くんだよ!ある朝起きた時に世界が変わってるからな。」
その悪魔はそう叫んで消えてしまった。私は茫然とその場に立ち尽くした。
「シーナ…。」
落としたケーキを見ながらそう呟くと涙がとめどなく溢れて来た。


「和倉さん!どのネットニュースもうちのレセプションパーティーの記事で持ち切りです」
西郷が嬉しそうに話している。
「そうですね。こんなに注目されるなんて思いませんでした。」
「シーナさんは元気ですか?また会いたいっすね。」
その言葉に涙が溢れそうになる。
「そうですね。今、実家に帰ってるので居ないんですけど。」
何てごまかしながらその場を離れた。
「緑子。」
後ろから東条の声が聞こえて来た。今日もいつも通りだ。シーナが消えてから3日経つが特に何も起こらない。この幸せはいつどのように壊れるのだろう。私はまた一人ぼっちになるのかな。
「今日の夜空いてる?食事でもどう?」
「ええ!もちろん!」
考えても仕方ないので今を精一杯生きる事にしよう。

「お待たせ。緑子。行こうか。」
「はい。」
会社ではクールな東条がプライベートでは優しい。私だけが知ってる東条。誰にも渡したくない。
「今日はさ、緑子に話があるんだ。」
「え?」
不安で胸が張り裂けそうになる。もしかして別れてくれとかいわれるのではないだろうか。心なしか東条も表情が硬い。
「緑子。僕と結婚してください。」
そう言うとスッと小さな箱を出してきた。
「え?そんな。私と結婚してくれるんですか?」
「緑子と結婚したい。」
「はい。」
もう涙が止まらない。けれど嬉しさの中でシーナの事が頭を過る。
「もうすぐニューヨーク支社に帰らなければ行けないけど、また日本に戻って来るからその時に結婚しよう。」
「晃さん。どうぞよろしくお願い致します。待っています。」
私はこのまま幸せになっていいのか。いつかどこかで崩れてしまうのではないかとビクビクしながらこの生活を送る事には疲れるけど、今の幸せは手放したくない。
家に帰ると指輪をはめて思い切り泣いた。
泣き疲れていつの間にか寝てしまった。窓から差し込む朝日で目が覚めた。そして何となくいつもと違う様な気がした。
「何だろ、この感覚。」
それは初めてシーナに会った時の様な感じに近かった。家じゅう探したけれどシーナは居るはずもなかった。

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