空を飛べない私は嫌いですか?

みとしろ

どつきましたい

「久遠さあん。花火却下でくす玉をOK出したのなら、久遠さんが責任取ってそれ相応の物作らないとですよねー。」
あれから姫野は久遠に変な絡み方をする様になった。
「みんなで作り上げましょう。」
久遠は特に気にする事もなくスルーしている。姫野は日に日に醜態を晒す様になって来た。あ、女性の前だけだけど。
「このデータ入力やっておいてくださーい。」
そう言って断れなさそうな大人しい社員に仕事を押し付ける。
「あのね、姫野さん。皆、自分の仕事があるんだから自分の分は自分でやって。」
いちいちこんな事言いたくはないんだけど、私の中の何かが許さない。
「私、これから会議の資料を準備しなくちゃいけないんです。仕事増えたんで暇そうな人がいるなら割り振っていいですよね。」
ああ言えばこう言うじゃないけど、素直に従ってくれる訳がないよね。
「姫野、じゃあ行こうか。」
姫野親衛隊の一人が迎えに来た。裏方の作業は全部私達に押し付けてお偉いさんが出る会議にはチャッカリ出て点数稼ぎ。可愛いは武器だ。いやもう凶器だ。姫野はしょうがないとして、あの子にいいように利用されてる男達を見るとそこに一番腹が立つのかもしれない。もちろん聡もだ。
「久遠さん、どうぞ会議の方へ行ってください。私が後は引き継ぎます。くす玉のデザインも考えるので後で確認お願いします。」
「いえ、今日はこちらの仕事を優先する様に晃からも言われてますので大丈夫ですよ。」
「そうですか。わかりました。」
平然を装って居るが「晃」という言葉に私のレーダーが反応してしまう。名前を呼び捨てにする仲なんだよね。私は気付かれない様に久遠を観察した。彫刻の様な綺麗な顔にモデル並みのスタイル。細くて長い指、グレーのパンツスーツがとてもよく似合っている。東条と並ぶとざわめきが起きる程だ。それにしても姫野は久遠に勝てるなんて自信はどこから来るのだろうか。
「和倉さん。一つ伺っても宜しいでしょうか?」
久遠が急に話題を振って来たので驚いてしまった。一体何を聞かれるのだろう。
「はい。何でしょう。」
「姫野さんの今までの功績って何でしょうか?本人に聞いても”自分はセンスがある“という抽象的な答えしか返って来ないんです。」
おうっ。まさかそこが来るとは思わなかった。私と東条の仲はどうなってるのかなんて聞かれるかと身構えてしまった。
「私は人選については何も聞いてないので分かりませんが、恐らく課長の推薦なのではないでしょうか。…あの、何かありましたか?」
「いえ。ただ個人的な興味です。失礼しました。」
久遠はそう言うとまた仕事に集中した。私も特にそれ以上深堀する事は出来ずにいた。

「くす玉割を参考にしたのですが、紐を引っ張って割るというよりもコスメブランドのイメージが小悪魔ぽさなのでハートを槍で突く感じはどうでしょうか。」
私はトイレでの後輩の言葉が引っかかっていた。やはり彼女達も若い世代なわけで普通のくす玉割だと色んな人にそういう印象を与えかねない。
「いいと思います。くす玉が割れる時に合わせて照明の演出で華やかさを出しましょう。」
久遠とある程度のアイディアをまとめた。
「モデルさんは当日は一人なので少しでも印象に残るようにしたいですね。」
「そうですね。あ、これモデルのリストです。この中から和倉さんがいいと思う子を選んでください。」
「ええ!?そんな重役いいんですか!?」
「レセプションですし、そんなに気張らないでください。」
久遠がニコリと微笑んだ。こうやって見ると中性的な顔立ちが本当に綺麗だ。メイクも上品で上手い。この人になら負けても仕方ないかな。
「戻りましたあ。」
姫野が不機嫌そうな声を出して戻って来た。異様に早くないか?
「姫野さん、戻って来たのならくす玉の案件がまとまって来てるので和倉さんに指示貰ってください。」
久遠はそう姫野に言うが私はこの子の手助けは遠慮したい。
「ええー。くす玉とかあんまりやる気起きないんですけどお。私、色々忙しいんです。」
この頭お花畑は何を言ってるんだ。どつきまわすぞ。
「姫野さんの抱えてる仕事はどういったものでしょうか。今はレセプションパーティーのモデル決めとランウェイの演出の方を優先して欲しいんですが。無理でしょうか?」
久遠が淡々とした口調で話すといきなり姫野の態度は変わった。
「えええ。モデルって先輩が決めるんですか?何の権限があってそうなるんですかあ。まあ、仕方ないから私が先輩手伝ってあげますね。」
本当に許されるならばこの生意気な口を聞いてるこいつを殴りたい。
「あ、折角ですがもう手は足りて…」
そこまで言うと久遠が遮った。
「いいえ。これは上司命令だと思って聞いて下さい。」
私は固まった。何となく久遠は姫野をよく思ってないと思っていたので少し悲しかった。
「はい、分かりました。」
「そおですよお。せんぱーい。はいじゃあ、モデルリスト見せてくださあーい。」
いちいち腹が立つ。本当にどつきまわしたい。

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