空を飛べない私は嫌いですか?
キッスはほろ苦い
カキーーーーーーン!!!
「おっ!姉ちゃん!すげえな!」
「やるなーーー!」
ギャラリーが盛り上がっている。東条は私をバッティングセンターに連れて来てくれた。特に泣いていた理由も聞かずに傍に居てくれる。
「やっぱり凄いですね。ほとんどホームラン級です。」
「まだまだ腕は鈍りませんよ!」
泣く事もいいけどこれが私にとって一番のストレス解消だ。
「よかった。元気になってくれて。」
東条はそう言うとバッターボックスに立った。
カキーン!
東条も中々の腕前だ。この前より上手くなってる気がする。
「たまに来て練習したんです。どうですか?」
「すごいです!フォームも綺麗になってます!」
私は久しぶりにはしゃいだ気がした。今、こうやって東条といれる事が嬉しい。
「どうしましょう。食事でもして帰りますか?」
思いがけない東条の誘いに胸が弾んだ。
「あの!私、行きたい所があるんです!」
ホテルのラウンジバー、高級フレンチ、隠れ家レストラン、私が行ってみたい所はそういう所ではない。コンビニでおつまみと缶ビールと缶酎ハイを買って公園のベンチで飲んでみたかった。
「本部長、ご迷惑ではなかったでしょうか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「迷惑だったら来ないですよ。」
東条はニコリと笑うと缶ビールの蓋を開けた。私も缶酎ハイの蓋を開ける。
「乾杯。」
グイっと一口飲むと身体の血管が踊りだすみたいだ。
「言いたくなければ構いません。なぜ泣いてたんですか?」
東条は本当に心配してくれてるようだった。ここはきちんと言わなくてはいけないところだ。
「今、このコスメチームに入れて凄くやりがいを感じてるんですが、私は今まで仕事に対してそんなにやる気なかったんです。人の書類のミスのチェックとかして何とか仕事してるふりをしてたんです。けれど、後輩からも馬鹿にされてて。分かってはいたし自分が悪いんですが悔しくて泣いてしまいました。」
話を真剣に聞いてた東条が口を開いた。
「僕は緑子さんの出す意見はきちんと筋が通ってると思いますよ。物事をよく把握していますし、なぜ仕事に対してやる気がなくなったのでしょうか?そこを聞かせて欲しいです。」
そう言われるとなぜ仕事に対しての情熱がなくなったのだろう。
「何となくとしか言えないんです。」
私は自分の気持ちすら分かってないのかと情けなくなってしまう。
「でも今はやりがいを感じてるんですよね?」
東条は畳みかける様に聞いて来た。
「それは…まあ…」
非常に答えにくい。
「それなら答えは簡単です。情熱を注ぐ様な仕事に当たらなかったんです。」
そう言ってビールを飲んだ。
「え?そんな感じですか!?」
余りにあっけらかんとした答えに驚いた。
「だってそうじゃないですか。僕たちの企画は楽しいと思えるんだから。まあ。あの課長じゃやりがいのある企画とか提案出来ないだろうし。」
東条は自分で言って自分で笑っている。
「あ、でも、本当にそうですよね。凄くしっくりきました。なんか笑える。」
思わぬ突破口に完全にやられてしまい、酎ハイをぐいっと飲んだ。
「ねえ、気になってたんだけど緑子さんが飲んでるそういうのって美味しいの?甘い?」
東条が珍しい物を見る様な目で見て来た。
「え?これですか?美味しいです。そこまで甘くはないけど飲みやすいですよ。」
「僕、飲んだことないんだよね。缶ビールも初めて飲んだ。」
「ふぇ!?じゃあいつもは何を飲まれてるんですか!?家とかで飲まないんですか?」
まさかの発言に驚いてしまった。缶ビール初めてなんて言う人が初めてだわ。
「家?あんまり飲まないけど強いて言えばスパークリングワインかな。」
スパークリングワイン?シャンパンみたいなもんじゃん。あんなオシャレなの誰と飲むんだよ。私は色々考えてしまった。
「ねえ、味見していい?」
「え、あ、はい。」
そう言うと東条はいたずらな少年の様な顔つきで私の手から缶酎ハイを取り上げた。
そう思った時には東条は私がさっきまで飲んでた缶に口をつけ飲んだ。
「あ、美味しい。本当に飲みやすいな。ありがと。」
そう言うとまた手の中に缶を戻した。私の中の時間は止まったまんまだ。この缶酎ハイを私が飲んだら、か…か…間接キス…。私はドキドキしながら缶に口をつけた。
「あ、間接キスじゃん。」
東条は私の顔を覗き込んだ。
「もう、からかわないでください!」
顔が熱くなり東条から目を逸らした。
「なんか本部長ズルいです。そんなの。」
お酒のせいもあるのか身体中が燃える様に熱くなりドクドクと心臓が早くなる。
「何がズルいの?」
そう言ってまた意地悪っぽく顔を覗き込むと、その拍子に二人の肩が触れ合った。
「あっ。」
動揺しまくって缶を倒してしまった。
「わ、すいません。」
「大丈夫?」
東条が自分のハンカチで濡れた所を拭いてくれた。その拭いてくれる時の距離の近さにまたドキドキしてしまう。東条からはいい匂いがしている。こんなのもっと好きになっちゃうじゃん。
「本部長、ありがとうございます。大丈夫です。」
本当はもっとこうしていたいけどこれ以上は私の心が辛くなる。久遠優紀とはどんな関係なのか!?とか色々聞きたいけど、今はただこのまま二人で居たい。
「落ち着きましたか?もうそろそろ行きますか。」
東条の優しい声にハッとした。
「そ、そうですね。」
本当は帰りたくないけど、飲み干した空き缶を片付け始めた。
「本部長。どうしてこんなに優しくしてくれるんですか?」
酔いと、東条への止められない気持ちとが混ざり合って遂に聞いてしまった。
「え?君とは特別な出会い方をしたし、今は一緒に頑張ってくれるいい部下でもあるからね。」
“いい部下”なんだ。そうだよね。それは分かっていた事だけどなんでこんなに胸が苦しいんだろう。
「もし私があの時に、空を飛んで本部長の目の前に現れなかったらこんな風にはなれなかったって事ですよね?」
私は何を聞いているんだ。ダメだとは分かって居るのに本音なんか聞くのは怖いのに。
「そうですね。出会いが違ったらこんな風にはなれなかったかもしれませんね。」
自分で聞いておきながら自爆してしまった。けど元々住む世界も違うしこれでスッキリ切り替えが出来る。
「本部長!また明日から頑張ります!絶対に成功させましょうね。くす玉も!」
私は何とか話を逸らした。あのまま続いてたら心が折れそうになってしまっていた。もうこれ以上傷付きたくなかった。
「おっ!姉ちゃん!すげえな!」
「やるなーーー!」
ギャラリーが盛り上がっている。東条は私をバッティングセンターに連れて来てくれた。特に泣いていた理由も聞かずに傍に居てくれる。
「やっぱり凄いですね。ほとんどホームラン級です。」
「まだまだ腕は鈍りませんよ!」
泣く事もいいけどこれが私にとって一番のストレス解消だ。
「よかった。元気になってくれて。」
東条はそう言うとバッターボックスに立った。
カキーン!
東条も中々の腕前だ。この前より上手くなってる気がする。
「たまに来て練習したんです。どうですか?」
「すごいです!フォームも綺麗になってます!」
私は久しぶりにはしゃいだ気がした。今、こうやって東条といれる事が嬉しい。
「どうしましょう。食事でもして帰りますか?」
思いがけない東条の誘いに胸が弾んだ。
「あの!私、行きたい所があるんです!」
ホテルのラウンジバー、高級フレンチ、隠れ家レストラン、私が行ってみたい所はそういう所ではない。コンビニでおつまみと缶ビールと缶酎ハイを買って公園のベンチで飲んでみたかった。
「本部長、ご迷惑ではなかったでしょうか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「迷惑だったら来ないですよ。」
東条はニコリと笑うと缶ビールの蓋を開けた。私も缶酎ハイの蓋を開ける。
「乾杯。」
グイっと一口飲むと身体の血管が踊りだすみたいだ。
「言いたくなければ構いません。なぜ泣いてたんですか?」
東条は本当に心配してくれてるようだった。ここはきちんと言わなくてはいけないところだ。
「今、このコスメチームに入れて凄くやりがいを感じてるんですが、私は今まで仕事に対してそんなにやる気なかったんです。人の書類のミスのチェックとかして何とか仕事してるふりをしてたんです。けれど、後輩からも馬鹿にされてて。分かってはいたし自分が悪いんですが悔しくて泣いてしまいました。」
話を真剣に聞いてた東条が口を開いた。
「僕は緑子さんの出す意見はきちんと筋が通ってると思いますよ。物事をよく把握していますし、なぜ仕事に対してやる気がなくなったのでしょうか?そこを聞かせて欲しいです。」
そう言われるとなぜ仕事に対しての情熱がなくなったのだろう。
「何となくとしか言えないんです。」
私は自分の気持ちすら分かってないのかと情けなくなってしまう。
「でも今はやりがいを感じてるんですよね?」
東条は畳みかける様に聞いて来た。
「それは…まあ…」
非常に答えにくい。
「それなら答えは簡単です。情熱を注ぐ様な仕事に当たらなかったんです。」
そう言ってビールを飲んだ。
「え?そんな感じですか!?」
余りにあっけらかんとした答えに驚いた。
「だってそうじゃないですか。僕たちの企画は楽しいと思えるんだから。まあ。あの課長じゃやりがいのある企画とか提案出来ないだろうし。」
東条は自分で言って自分で笑っている。
「あ、でも、本当にそうですよね。凄くしっくりきました。なんか笑える。」
思わぬ突破口に完全にやられてしまい、酎ハイをぐいっと飲んだ。
「ねえ、気になってたんだけど緑子さんが飲んでるそういうのって美味しいの?甘い?」
東条が珍しい物を見る様な目で見て来た。
「え?これですか?美味しいです。そこまで甘くはないけど飲みやすいですよ。」
「僕、飲んだことないんだよね。缶ビールも初めて飲んだ。」
「ふぇ!?じゃあいつもは何を飲まれてるんですか!?家とかで飲まないんですか?」
まさかの発言に驚いてしまった。缶ビール初めてなんて言う人が初めてだわ。
「家?あんまり飲まないけど強いて言えばスパークリングワインかな。」
スパークリングワイン?シャンパンみたいなもんじゃん。あんなオシャレなの誰と飲むんだよ。私は色々考えてしまった。
「ねえ、味見していい?」
「え、あ、はい。」
そう言うと東条はいたずらな少年の様な顔つきで私の手から缶酎ハイを取り上げた。
そう思った時には東条は私がさっきまで飲んでた缶に口をつけ飲んだ。
「あ、美味しい。本当に飲みやすいな。ありがと。」
そう言うとまた手の中に缶を戻した。私の中の時間は止まったまんまだ。この缶酎ハイを私が飲んだら、か…か…間接キス…。私はドキドキしながら缶に口をつけた。
「あ、間接キスじゃん。」
東条は私の顔を覗き込んだ。
「もう、からかわないでください!」
顔が熱くなり東条から目を逸らした。
「なんか本部長ズルいです。そんなの。」
お酒のせいもあるのか身体中が燃える様に熱くなりドクドクと心臓が早くなる。
「何がズルいの?」
そう言ってまた意地悪っぽく顔を覗き込むと、その拍子に二人の肩が触れ合った。
「あっ。」
動揺しまくって缶を倒してしまった。
「わ、すいません。」
「大丈夫?」
東条が自分のハンカチで濡れた所を拭いてくれた。その拭いてくれる時の距離の近さにまたドキドキしてしまう。東条からはいい匂いがしている。こんなのもっと好きになっちゃうじゃん。
「本部長、ありがとうございます。大丈夫です。」
本当はもっとこうしていたいけどこれ以上は私の心が辛くなる。久遠優紀とはどんな関係なのか!?とか色々聞きたいけど、今はただこのまま二人で居たい。
「落ち着きましたか?もうそろそろ行きますか。」
東条の優しい声にハッとした。
「そ、そうですね。」
本当は帰りたくないけど、飲み干した空き缶を片付け始めた。
「本部長。どうしてこんなに優しくしてくれるんですか?」
酔いと、東条への止められない気持ちとが混ざり合って遂に聞いてしまった。
「え?君とは特別な出会い方をしたし、今は一緒に頑張ってくれるいい部下でもあるからね。」
“いい部下”なんだ。そうだよね。それは分かっていた事だけどなんでこんなに胸が苦しいんだろう。
「もし私があの時に、空を飛んで本部長の目の前に現れなかったらこんな風にはなれなかったって事ですよね?」
私は何を聞いているんだ。ダメだとは分かって居るのに本音なんか聞くのは怖いのに。
「そうですね。出会いが違ったらこんな風にはなれなかったかもしれませんね。」
自分で聞いておきながら自爆してしまった。けど元々住む世界も違うしこれでスッキリ切り替えが出来る。
「本部長!また明日から頑張ります!絶対に成功させましょうね。くす玉も!」
私は何とか話を逸らした。あのまま続いてたら心が折れそうになってしまっていた。もうこれ以上傷付きたくなかった。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
4.9万
-
-
7万
-
-
4.8万
-
-
2.3万
-
-
1.6万
-
-
1.1万
-
-
2.4万
-
-
2.3万
-
-
5.5万
書籍化作品
-
-
49989
-
-
37
-
-
38
-
-
1
-
-
3395
-
-
93
-
-
1277
-
-
111
-
-
125
コメント