空を飛べない私は嫌いですか?
魔法を使う
「おはようございます。昨日はありがとうございました。途中で帰って申し訳ありませんでした。」
東条と会うのが何だか照れくさいのと、あれか久遠とどうなったのか気になるけど聞くのは怖い。
「おはよう緑子さん。いえ、夜も遅かったですし気にしないで下さい。帰られた後は久遠に付き合ってもらいました。」
やっぱり久遠さんと食事したんだ。嫉妬に近い感情に戸惑ってしまう。そしてそのクールな表情で名前を呼ばれると何とも言えない気持ちが沸きあがって来て辛い。それに東条に”空を飛ぶ事“以外の私も気にしてもらいたくて、いつもより早めに起きてメイクして、シーナに髪もアレンジしてもらった。
「今日はとてもいいですね。髪の毛も似合ってます。」
待ってましたと思う様なセリフが聞こえてきたけれどそれは東条からではない。後ろから聞こえて来たので振り返るとニューヨーク支社チームの西郷だ。
「和倉さん、いつもスッピンに近い感じでしたがメイクした方が断然映えますよ。バーガンディのリップも似合いそうですね。」
風貌からは想像つかないセリフに驚いたが、素直に嬉しかった。
「ありがとうございます。コスメチームに入ったら、メイクに興味沸いて来ちゃっていつもより早起きしちゃいました。」
「素晴らしい心がけですね。」
西郷はうんうんと頷いた。バーガンディのリップなんて今までは気にもしなかったけど西郷に勧められたら何となく気になってしまう。今日の帰りにでもドラッグストア見てみようかしら。
「じゃあ、今日も頑張りましょう。」
張り切る西郷の背中を見て私もメラメラとやる気が出て来た。
「本日は商品が実際に納品されるので展開の仕方についてコスメチームの意見を参考にしますのでよろしくお願いします。」
東条の朝礼は気が引き締まる。段々と発売に向けて形になって来ると、それまで意見をあまり言わなかったチームのメンバーが仕事に対して自分の考えなどを主張する様になってきた。任された仕事が大きいし東条の誘導の仕方がとても上手なのだ。そうなると伊藤課長の無能さが際立ってしまう。そして姫野も誤算だったみたいだ。元々、優秀なメンバーだったのでこれまた姫野の無能さも見え隠れしてしまう。まあ、本人はお構いなしに東条へのアピールに必死みたいだが。
午前の仕事が終わるころに東条が皆に声をかけた。
「今日、もし予定が合えばランチをご一緒したいのですが行けるよという方はいますか?」
チームは全部で十数人居るがほとんどが“行きます”と答えた。
「おお。予想より多くて驚きました。じゃあお店予約するので。」
そう言って部屋を出て電話している東条がカッコよくて仕方ない。課長がランチ誘っても誰も行かないだろう。全てがスマートでキュンとしてしまう。ボーっと東条を見ていると強めの視線を感じた。恐る恐る視線の先を辿ると久遠優紀だ。今、私が東条を見つめていたのに気づいたのだろうか。昨日の夜の態度もそうだし、もしかして久遠も東条を好きなのではないのかと気になってしまう。
ランチは結局ほとんどの人が行く事になりちょっとした団体になった。今までこんな事なかったので内心ワクワクしてしまう。ただ一人の存在を除けば。
「せぇんぱーい。今日はお化粧して来てるんですね。」
姫野は私をどうしても打ち負かしたい様だ。
「一応、コスメの立ち上げのチームに選ばれたので勉強も兼ねてメイクしているだけよ。」
「えー。そうなんですねぇ。私てっきり婚活か何かだと思いましたぁ。」
この嫌味な言い方に呆れる。この子はこうまでして怒られた時の仕返しがしたいのだろうか。
「あらそうなのね。婚活行けそうな位に綺麗にしているって事で解釈していいのかしら?」
姫野は顔を少し引きつらせた。
「そんな事じゃないですぅ。先輩。ポジティブですね。」
「じゃあどんな意味合いなの?」
「別に意味なんてないです。頑張ってメイクしてるなって思っただけなんで。」
「ありがと。姫野さんみたいに若い子に頑張ってるなんて言われて私は嬉しいわ。」
もう、彼氏を奪ったんだからいい加減私に執着して来るのはやめて欲しい。あの子の顔を見るだけでも頭痛がして来る。もっとガツンと言いたいけど、少し前にネイルを注意した女上司が“パワハラ”だと訴えられて厳重注意を受けていた。課長が贔屓してるし今、面倒を起こすと東条本部長の余計な仕事を増やすだけなので黙っているのが賢明だろう。私はモヤモヤした気持ちを抑え気を取り直しランチのお店に出発した。
「うわーーーん。」
一人でトボトボと公園を歩いていると二、三歳位の女の子が狂った様に泣いていた。母親らしき人は小さい赤ちゃんを抱っこして女の子をあやしていた。
「あたちの風船――――。」
周りを見渡すと少し離れた木の上の方に風船が絡まってる。
「もう、取れないから帰ろう。また新しいの買ってあげるから。」
お母さんは必死に女の子を説得しているがずっと泣いている。私にはどうする事も出来ないのでそのまま見なかった事にしようと通り過ぎようとしたが今度は抱っこしている赤ちゃんまで泣き始めた。気になってお母さんをチラッと見ると今にも泣きだしそうだ。私はどうしても放っておく事が出来なかった。辺りを見回すとそんなに人は居ない。風船の引っかかってる木の近くへ行き、またキョロキョロと辺りを見た。今の所、この木に注目しているのはあの親子だけの様なので、気がそれた瞬間にあの風船をとろうと決めた。そして丁度女の子が地面でジタバタしたタイミングで私は宙に浮き風船をサッと取った。
「ほらあ!もう泣かないで。風船取って来たよ!」
声をかけると女の子も母親もビックリした顔でこちらを見た。
「ありがとーーー。」
女の子はすぐに笑顔になり風船を受け取った。
「あ、あの、ありがとうございます。」
母親は物凄く不思議そうな顔で私を見た。うん。わかる。そんな顔になるよね。あんな高い所の風船どうやって取ったのか気になるよね。
「あの、もしかして買って頂いたのではないでしょうか。風船代お支払いします。」
思いがけない提案にビックリしてしまった。
「いいえ!この風船はあの木の上のですので!では。」
私はこれ以上突っ込まれると困ると思いその場からダッシュで逃げた。
「ああ、やばかった。」
少し落ち着くま休憩をしようと思い近くのベンチに腰を下ろした。貴重な三回のうちの一回を使ってしまった。しかも空を飛ぶというより高めのジャンプだ。けれど風船を渡した時のあの女の子の笑顔を見たらこれはこれでよかったのかなと思う。目を瞑り深呼吸をした。
「ジャンプ力凄いですね。」
その声にギョッとして目を開けた。
「何かスポーツでもされてたんですか?」
そこに居たのは西郷だ。いや、普通に考えてジャンプ力だけの問題じゃないよね!?これ試されてる!?手が勝手に震え出した。
「いや、ソフトボールを少々。」
そう答えるのが精一杯だった。こんな答えで騙せる訳がない。
「ソフトボールすか、ジャンプは直接は関係ないっすね。勿体ないすね!バスケットボールなら大活躍っすね!」
もしかしてもしかして天然!?気にするところそこなの!?
「いえ、脚力は大切なんで。ジャンプ力も大切です。」
「そうなんすか。無知ですません。ところでランチの店まで行く途中なら私もご一緒していいでしょうか。ソフトボールのお話聞きたいです。」
この人、天然?鈍感?めちゃくちゃ純粋?ううん。多分、心がすごく綺麗なんだろうな。
「はい。ぜひとも。」
迷わずにOKを出した。西郷はお店に着くまでの間、私のソフトボールの話を一生懸命に聞いてれた。お店に着くとほとんどのメンバーが揃っていて、西郷と一緒だったので席が東条の近くになった。その隣には久遠もいた。
「晃、聞いて。さっき和倉さんが小さい女の子が飛ばした風船を取ってあげたんだけど、高い所にある風船を凄いジャンプ力でひょいって取ったんだぜ。カッコ良かった。ソフトボールやってたから脚力が強いらしいぞ。私も見習いたいもんだ。」
いきなりその話ぶっこんで来たー。私は冷や汗がダラダラ出て来た。顔はニコニコしているけど鼻息がフーフー荒くなる。
「守。僕、緑子さんのもっとすごいところ知ってるから。」
「ふえっ!?」
私はたまらず変な声が出てしまった。東条の意味深な発言に周りの皆はこちらの話に聞き耳を立てている。
「そうかあ。晃は和倉さんの事を何でも知っているのか。」
人一倍大きな声で西郷が東条の言ったセリフを反芻した。久遠はジッと見ているし厄介な姫野も気付いてる様だ。どう反応すればいいのか分からない。
「お待たせいたしました。ランチコースのサラダです。」
店員がいいタイミングで入って来てくれた。妙な空気が変わり安心して気が抜けたらお腹が空いてきた。
東条と会うのが何だか照れくさいのと、あれか久遠とどうなったのか気になるけど聞くのは怖い。
「おはよう緑子さん。いえ、夜も遅かったですし気にしないで下さい。帰られた後は久遠に付き合ってもらいました。」
やっぱり久遠さんと食事したんだ。嫉妬に近い感情に戸惑ってしまう。そしてそのクールな表情で名前を呼ばれると何とも言えない気持ちが沸きあがって来て辛い。それに東条に”空を飛ぶ事“以外の私も気にしてもらいたくて、いつもより早めに起きてメイクして、シーナに髪もアレンジしてもらった。
「今日はとてもいいですね。髪の毛も似合ってます。」
待ってましたと思う様なセリフが聞こえてきたけれどそれは東条からではない。後ろから聞こえて来たので振り返るとニューヨーク支社チームの西郷だ。
「和倉さん、いつもスッピンに近い感じでしたがメイクした方が断然映えますよ。バーガンディのリップも似合いそうですね。」
風貌からは想像つかないセリフに驚いたが、素直に嬉しかった。
「ありがとうございます。コスメチームに入ったら、メイクに興味沸いて来ちゃっていつもより早起きしちゃいました。」
「素晴らしい心がけですね。」
西郷はうんうんと頷いた。バーガンディのリップなんて今までは気にもしなかったけど西郷に勧められたら何となく気になってしまう。今日の帰りにでもドラッグストア見てみようかしら。
「じゃあ、今日も頑張りましょう。」
張り切る西郷の背中を見て私もメラメラとやる気が出て来た。
「本日は商品が実際に納品されるので展開の仕方についてコスメチームの意見を参考にしますのでよろしくお願いします。」
東条の朝礼は気が引き締まる。段々と発売に向けて形になって来ると、それまで意見をあまり言わなかったチームのメンバーが仕事に対して自分の考えなどを主張する様になってきた。任された仕事が大きいし東条の誘導の仕方がとても上手なのだ。そうなると伊藤課長の無能さが際立ってしまう。そして姫野も誤算だったみたいだ。元々、優秀なメンバーだったのでこれまた姫野の無能さも見え隠れしてしまう。まあ、本人はお構いなしに東条へのアピールに必死みたいだが。
午前の仕事が終わるころに東条が皆に声をかけた。
「今日、もし予定が合えばランチをご一緒したいのですが行けるよという方はいますか?」
チームは全部で十数人居るがほとんどが“行きます”と答えた。
「おお。予想より多くて驚きました。じゃあお店予約するので。」
そう言って部屋を出て電話している東条がカッコよくて仕方ない。課長がランチ誘っても誰も行かないだろう。全てがスマートでキュンとしてしまう。ボーっと東条を見ていると強めの視線を感じた。恐る恐る視線の先を辿ると久遠優紀だ。今、私が東条を見つめていたのに気づいたのだろうか。昨日の夜の態度もそうだし、もしかして久遠も東条を好きなのではないのかと気になってしまう。
ランチは結局ほとんどの人が行く事になりちょっとした団体になった。今までこんな事なかったので内心ワクワクしてしまう。ただ一人の存在を除けば。
「せぇんぱーい。今日はお化粧して来てるんですね。」
姫野は私をどうしても打ち負かしたい様だ。
「一応、コスメの立ち上げのチームに選ばれたので勉強も兼ねてメイクしているだけよ。」
「えー。そうなんですねぇ。私てっきり婚活か何かだと思いましたぁ。」
この嫌味な言い方に呆れる。この子はこうまでして怒られた時の仕返しがしたいのだろうか。
「あらそうなのね。婚活行けそうな位に綺麗にしているって事で解釈していいのかしら?」
姫野は顔を少し引きつらせた。
「そんな事じゃないですぅ。先輩。ポジティブですね。」
「じゃあどんな意味合いなの?」
「別に意味なんてないです。頑張ってメイクしてるなって思っただけなんで。」
「ありがと。姫野さんみたいに若い子に頑張ってるなんて言われて私は嬉しいわ。」
もう、彼氏を奪ったんだからいい加減私に執着して来るのはやめて欲しい。あの子の顔を見るだけでも頭痛がして来る。もっとガツンと言いたいけど、少し前にネイルを注意した女上司が“パワハラ”だと訴えられて厳重注意を受けていた。課長が贔屓してるし今、面倒を起こすと東条本部長の余計な仕事を増やすだけなので黙っているのが賢明だろう。私はモヤモヤした気持ちを抑え気を取り直しランチのお店に出発した。
「うわーーーん。」
一人でトボトボと公園を歩いていると二、三歳位の女の子が狂った様に泣いていた。母親らしき人は小さい赤ちゃんを抱っこして女の子をあやしていた。
「あたちの風船――――。」
周りを見渡すと少し離れた木の上の方に風船が絡まってる。
「もう、取れないから帰ろう。また新しいの買ってあげるから。」
お母さんは必死に女の子を説得しているがずっと泣いている。私にはどうする事も出来ないのでそのまま見なかった事にしようと通り過ぎようとしたが今度は抱っこしている赤ちゃんまで泣き始めた。気になってお母さんをチラッと見ると今にも泣きだしそうだ。私はどうしても放っておく事が出来なかった。辺りを見回すとそんなに人は居ない。風船の引っかかってる木の近くへ行き、またキョロキョロと辺りを見た。今の所、この木に注目しているのはあの親子だけの様なので、気がそれた瞬間にあの風船をとろうと決めた。そして丁度女の子が地面でジタバタしたタイミングで私は宙に浮き風船をサッと取った。
「ほらあ!もう泣かないで。風船取って来たよ!」
声をかけると女の子も母親もビックリした顔でこちらを見た。
「ありがとーーー。」
女の子はすぐに笑顔になり風船を受け取った。
「あ、あの、ありがとうございます。」
母親は物凄く不思議そうな顔で私を見た。うん。わかる。そんな顔になるよね。あんな高い所の風船どうやって取ったのか気になるよね。
「あの、もしかして買って頂いたのではないでしょうか。風船代お支払いします。」
思いがけない提案にビックリしてしまった。
「いいえ!この風船はあの木の上のですので!では。」
私はこれ以上突っ込まれると困ると思いその場からダッシュで逃げた。
「ああ、やばかった。」
少し落ち着くま休憩をしようと思い近くのベンチに腰を下ろした。貴重な三回のうちの一回を使ってしまった。しかも空を飛ぶというより高めのジャンプだ。けれど風船を渡した時のあの女の子の笑顔を見たらこれはこれでよかったのかなと思う。目を瞑り深呼吸をした。
「ジャンプ力凄いですね。」
その声にギョッとして目を開けた。
「何かスポーツでもされてたんですか?」
そこに居たのは西郷だ。いや、普通に考えてジャンプ力だけの問題じゃないよね!?これ試されてる!?手が勝手に震え出した。
「いや、ソフトボールを少々。」
そう答えるのが精一杯だった。こんな答えで騙せる訳がない。
「ソフトボールすか、ジャンプは直接は関係ないっすね。勿体ないすね!バスケットボールなら大活躍っすね!」
もしかしてもしかして天然!?気にするところそこなの!?
「いえ、脚力は大切なんで。ジャンプ力も大切です。」
「そうなんすか。無知ですません。ところでランチの店まで行く途中なら私もご一緒していいでしょうか。ソフトボールのお話聞きたいです。」
この人、天然?鈍感?めちゃくちゃ純粋?ううん。多分、心がすごく綺麗なんだろうな。
「はい。ぜひとも。」
迷わずにOKを出した。西郷はお店に着くまでの間、私のソフトボールの話を一生懸命に聞いてれた。お店に着くとほとんどのメンバーが揃っていて、西郷と一緒だったので席が東条の近くになった。その隣には久遠もいた。
「晃、聞いて。さっき和倉さんが小さい女の子が飛ばした風船を取ってあげたんだけど、高い所にある風船を凄いジャンプ力でひょいって取ったんだぜ。カッコ良かった。ソフトボールやってたから脚力が強いらしいぞ。私も見習いたいもんだ。」
いきなりその話ぶっこんで来たー。私は冷や汗がダラダラ出て来た。顔はニコニコしているけど鼻息がフーフー荒くなる。
「守。僕、緑子さんのもっとすごいところ知ってるから。」
「ふえっ!?」
私はたまらず変な声が出てしまった。東条の意味深な発言に周りの皆はこちらの話に聞き耳を立てている。
「そうかあ。晃は和倉さんの事を何でも知っているのか。」
人一倍大きな声で西郷が東条の言ったセリフを反芻した。久遠はジッと見ているし厄介な姫野も気付いてる様だ。どう反応すればいいのか分からない。
「お待たせいたしました。ランチコースのサラダです。」
店員がいいタイミングで入って来てくれた。妙な空気が変わり安心して気が抜けたらお腹が空いてきた。
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