空を飛べない私は嫌いですか?

みとしろ

悪魔との契約

「ただいま。」
「おかえりー。このお菓子本当に最高!」
「またポテチ食べてるの?好きだねー。」
シーナはこの世界のお菓子がよほど好きみたいだ。
「こんな美味しいもの食べた事ないよ。ずっと食べていたい。ところで今日、遅かったね。」
「あー、うん。会社の人とご飯食べてた。」
シーナがじっと見て来る。
「何?何かついてる?」
「ううん。あのさ、いつもより緑子の周りがピンク色なんだよね。恋でもしてる?」
私は飲もうとした麦茶の入ったグラスを床に落としてしまった。
「ああもう何やってるの!?」
シーナが雑巾を持って来て床を拭いてくれている。
「ねえ、なんで恋してるかなんて聞いたの?」
私はぼんやりしながらシーナに聞いた。
「シーナには怒りや悲しみ喜びなんかの感情が色で見えるの。怒っている時は黒い色。嬉しい時は金色。悲しい時は深い青色がその人を取り巻いてる。今日の緑子は淡いピンクなの。これは恋をしている色よ。」
心臓がドクンドクンと早くなってくる。本部長の笑顔にドキドキしたり、久遠が現れた時、胸が痛くなったり、彼の事をもっと知りたいって思うのは恋なの?私はもっと東条晃と近付きたい。もっと私を見て欲しい。その為には東条と出会った時のあの力が欲しい。
「ねえ、シーナ。私、願い事決めた。」
「え?何?何?急だね。じゃあお願い事聞く準備しましょうか。はい、これ片づけて。」
落としたグラスを洗って片付け、シーナの居るテーブルへ行き向かい合って座った。
「じゃあ、緑子のお願い事を聞きましょう。その前に契約を交わすにあたって大切な事を伝えるね。」
シーナは真面目な顔をして私の手を握った。
「緑子の願いが叶った瞬間に契約が成立して報酬を受け取る事になります。そこで緑子とはお別れになるから。」
「そうなの?」
私は願いを言うのを少しためらってしまった。
「大丈夫。ずっと一緒に居る訳にはいけないし、緑子の願いを叶えるために来たのだから何も心配いらないわ。それにまだ未熟者だから叶えられない願いもあるし。」
私はシーナの手をギュっと握った。
「…じゃあ、お願い事言うね。」
「わかった。」
シーナは真面目な顔になり私を見つめた。
「私に空を飛ぶ力をください。」
シーナは固まった。
「え?これ無理な願い事?」
私はシーナのその顔を見ると無理なのだろうと落胆してしまった。
「ビックリ。そんなのでいいの?」
「え?無理な訳じゃないの?」
「いや。緑子の事だからカッコイイ彼氏を出してとかもっと難しい事言って来るかと思ったよ。」
「何だそれ。じゃあ空を飛べるように出来るの?」
その質問にシーナはうーんと少し考え込んだ。
「空を飛べるようにする事は出来るけど制約がついちゃう。それでもいいなら出来るよ。」
「制約ってどんなの?聞かせて。」
シーナはコホンと咳ばらいをした。
「まず、人間である緑子を悪魔に変えたりすることは無理なんだけど、シーナの持ってる悪魔の力を魔法として貸すという方法があるの。けれど緑子がその魔法を使えるのは三回まで。その三回目を使い切った時に契約は成立するわ。」
「待って。もしも私が三回使い切らずにいたらシーナとは契約成立しないのよね?もし三回使わずに年をとって死んでしまったらどうなるの?」
「そうすると貸した力はリセットされてまたシーナの所に戻って来るよ。」
三回かあ。でも普通に生活してたら空を飛ぶことなんてないしいいよね。
「その魔法が欲しい。空を飛べるようになりたい。」
私の答えにシーナはニッコリと笑うとおでこをくっつけて来た。
「緑子、飛んでる姿をイメージしてみて。今から私の力を送るね。」
私は言われるままに飛んでる姿をイメージしているとおでこがジワジワと熱くなる。
「はい!これで緑子飛べる様になったよ。」
「ふぇ?もう終わり?本当に飛べるの?」
「うん。飛べるよ。あ、でも試しに飛んだりしたらそれも一回にカウントされるからね。」
「そうなの!?ケチじゃん。」
「うるさいぞ。あ、それとこの魔法は前と違って浮いてる姿は見えるから気をつけてね。」
「そうなんだー、意外と面倒だなあ。」
今は特にこれと言って何にも変わらないけど“お守り”みたいな感覚で心の安定剤になりそうだ。それに今はシーナが居てくれてすごく助かってるから、この魔法の力は大切に使いたい。

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