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白深き日々の隙間で【短編集】

おくとりょう

2.白くて丸くて朗らかで

 お腹が空いて、目が覚めた。光が眩しい。
 ……あぁ。電気を消さずに寝ちゃったのか。
 電気代のことを思って、うんざりした。

 ゆっくり身体を起こすと、頭が妙に冴えていて、部屋の丸い室内灯が白く乾いたような気がした。まるで他人行儀になったように。
 いつもと同じ明かりなのに。
 ……あぁ。きっと似ているせいだ。彼女はこんなに無機質じゃないのに。そのはずなのに。

 ジジっと音が聴こえた気がした。蛍光灯じゃないのに。
 無機質な部屋に低い耳鳴りが短く響く。

 つい僕は閉めきった雨戸の先、外のことを考えた。真っ暗で真っ黒な夜空のことを。白くて丸くて明るい月を。

 ……そんなこと、これっぽっちも考えたくないのに。

「あの子、付き合ったんだって」

 人づてに聞いた、仲良しな彼女の恋愛事情。
 そんなの聞かなきゃよかったのに。……今日もあの子は明るく笑ってたから。
 いつも明るい優しい彼女。楽しいときには静かに寄り添い、悲しいときには優しく照らす。いつも明るく朗らかで、だけどどこかに影もあり……。
 ずっとそうだと思ってた。

 だけど、帰りに見た彼女は僕の知らない顔をしていて、知らない声で笑っていた。夏の陽射しが彼女の側だけ照らしてるみたいで……。
 僕はそっと目をそらして、見えないふりして通り過ぎた。鼻の頭が冷たかった。コートを着ていてよかったと思う。

 ……あぁ。昼間のことを思い出しているうちに、僕のお腹がきゅーっと鳴った。
 ほとんど空の冷蔵庫に残っていた牛乳を電子レンジで温める。
 扉に映る腫れた目をした僕。その中で鈍く照されながら、ゆっくり回るマグカップをじっと見つめていた。

 ずーっと続く長い耳鳴り。その後に、「チーン」となって、明かりは消えた。

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