最強の後輩は義妹の奴隷をしてる俺がお気に入り〜ざまぁさせたい後輩としたくない俺〜

みどりぃ

05 姉妹の取引

『…………』

 圧倒的無言。
 
 星川さんの登場に「何なのこれ?」みたいな感じで星川妹とアイコンタクトをし合っていたが、状況を理解する事は出来ず。はぁ、やっぱこいつとアイコンタクトなんて無理だったか。

 そんな俺達を視線で「ついてきなさい」とばかりにアイコンタクトしてくる星川さん。
 俺らと違って伝わりやすいです、完璧超人はアイコンタクトまでお上手なようで。

 そうして目の前で艶やかな黒髪が揺れるのを眺めながらついていく事しばし。
 
「……た、体育館裏…?」

 おいおい、なんかあまりにも彼女のイメージにない場所へと連れてこられたぞ。

「ここの階段、隠れ家として優秀なの」

 彼女が指さすのは体育館裏のさらに奥側にある、体育館内の倉庫に繋がってる階段だ。
 手すり代わりに階段の両サイドがコンクリートで壁になっており、確かに階段に座ってしまえば余程の事がない限り周りから見られる事はないだろう。

「ふーん、お姉ちゃんこんなとこ来るんだぁ。でも体育館裏って告白スポットでもあるよね?」

「そうね。おかげでたまに聞きたくもない恋愛劇を近くで聞かされてるわ。良い迷惑よ」

「開き直ってますね……」

 まさかの覗きをしてる立場が憤慨。逆ギレでしかない。

「というか星川さん、基本的にグループの人達と食べてますよね?」

「ええ、最近はそうね。でもそれ以前はよくここに来ていたし、最近でも昼休憩以外に来たりするのよ」

「そうなんですね……気付きませんでした」

 その存在感でよくバレなかったなと不思議だったが、現に俺が気付かないのだから上手くやれてたんだろう。
 
「そうそう。ちなみにだけど、私が出てきた後の教室はすごかったわよ。うるさくて仕方なかったわ」

「……思い出させないでくださいよ…」

 そういや妹だけつれて逃げてきたんだった。
 ……ぶっちゃけ星川さんならうまく鎮めてくれるだろうと思ってぶん投げたんだけど。

「あなたのせいでしょう、秋風くん。私に後処理をさせようなんて度胸があるのね」

「そ、そんな事は」

「…………」

「すいませんでしたッ!」

 バレてら。何だこの姉妹、勘良すぎません?

「で、お姉ちゃんは何しに来たのー?」

 来たっつーよりつれて来られたんだけどね。
 まぁどうでもいいか、俺も気になるとこだし。

「何って、話の続きよ。秋風くん相手だから簡単にはいかないとしても、真織が好き勝手する危険性があるじゃない」

「えー?なんのことかなー?」

「惚けないの」

 まぁた姉妹だけで良く分からん会話してるよ。まぁ仲良きことは美しいかな、ってね。
 さてと。

「……せんぱい、この状況でお昼食べるとはさすがですね」

 星川妹が呆れたような視線で刺してくるが、いい加減に昼飯食べる時間がなくなりそうなんだもん。仕方ないよね。

「はぁ……とにかく、真織の方法だけ伝えるのは不公平でしょう?私の方法も伝えて、秋風くんに判断してもらうのが妥当だと思わない?」

「えぇーー……それだとせんぱいはお姉ちゃんの方法選ぶじゃんかぁ」

「負けを認めるのね。潔い妹を持てて嬉しいわ」

「負けとゆーか、せんぱいの性格上ね。でもお姉ちゃん、それこそ不公平だって思わない?」

「それを決めるのは彼よ」

 んー、今日の飯も上出来だ。陽奈もこれなら文句はないだろ。

 さてさて、色々言葉が抜け落ちた謎の会話にしか聞こえなかった姉妹のそれも、なんとなく理解できてきたな。
 というかそもそもの前提が違いすぎて気付けなかったわ。
 さすがカーストトップとなると俺みたいな卑屈とは無縁なんですね。

 で、性格から予想するにーー

「星川妹は陽奈に復讐、星川さんは脱奴隷で対等な関係の構築……とか?」

「………へぇ?」
「おー、やるじゃんせんぱーい」

 面白いものを見たように目を細める星川さんと、楽しげに俺の肩をバシバシ叩く星川妹。
 どうやら当たらずとも遠からずってとこくらいは突けたらしい。

 つまりは俺の問題解決の話だったワケだ。
 俺は泣き寝入りか我慢するしか考えないのに、彼女達くらいになると即座に解決へと行動に移すらしい。こういうところが人気者の理由の一つなのかねぇ。

「概ね正解ね。どう?私も責任をもって協力するわ。グループの人達とも対等に話せるようにするわよ」

「で、せんぱいはどうしたいんですかー?」

 となれば、答えは決まってる。

「どちらもお気持ちだけで。俺には必要ありません」

「…………はぁ」
「あー、そっちのパターンきちゃったかー」

 仕方なさそうにため息をつく星川さんと、天を仰ぐ妹。
 あれ、俺の発言読まれてたの?なんか微妙に恥ずかしいんだけど。

 それより、一番気になるはそこじゃないんだよね。

「ところで失礼ながら……なんで星川さんが俺にそんな事を?」

 気になるのは、あの星川さんが俺なんかの面倒事に介入しようとしてくれる事だ。

 いやね、妹はまだ分かるんだよ。
 こいつの事だから面白そうだし良いネタがあるから、ってとこだろうよ。どうせ。

 ただ姉はホント分からん。
 カーストの頂点に立つ星川さんが、渾名通り底辺の奴隷をやってる俺に介入するメリットがない。
 そしてメリットが分からない以上、どこにデメリットが潜んでるかも分からないという事だ。うまい儲け話には裏があるってのは定説だしな。

「……そうね。あなたみたいなタイプには、先に損得から伝えるべきだったわ」

「ふふーん、今更気付いたのお姉ちゃーん?せんぱいの疑り深さをナメちゃダメだよぉ?」

「なんで真織が偉そうなの。けどそうね、私との共同作業なんて大抵の男子なら思考放棄で飛びついてくるから、つい失念してたわ」

 い、言いますねぇ……。いやまぁそうだろうけどさ。こう聞くと男ってやるせないよなぁ。

「はぁ……けどやっぱりあるんですね、損得の部分が」

「そうね。もちろん秋風くんが決断する前には話すつもりだったのよ?ただ予想以上に話が早かったから……」

「なるほど。遮ったようですみません」

「いえ、むしろ感心したわ。それで損得についてだけど……私、生徒会長になろうと思うの」

「はい。はい?」

 いやいや話が飛んだな。
 生徒会長になるのは……まぁ現会長からも誘われてるらしいし妥当だろう。むしろ立候補したら過去最高の賛成票が集まるんじゃない?
 
「それで、秋風くんには副会長または庶務をしてもらいたい……という対価を考えているの」

「は?」
 は?

 いやいや驚きすぎて思考より先に口が動いたわ。
 俺が生徒会役員?荷が重いわ。

 ……しかも星川さんが会長となると、副会長をはじめとした役職にはかなりの人数が飛びつくのが目に見えてる。
 ついさっき本人が話したように、思考放棄で飛びつくだろうよ。

 なんせあの星川さんと放課後堂々と一緒にいる権利と同義なんだ。
 仕事の責任というデメリットと天秤にかけても、思春期の男子高校生なら食いつく奴は多いはずだ。

(……いや、だからこそか?)

 これまで陽奈経由とはいえ同じグループにいた星川さんは、俺が彼女にそういった感情を向けてこなかった事に気付き、理解してるはず。
 だからこそ変な心配なく招き入れる事が出来ると考えた?

 ……んー、それだと全員女子で固めてしまえば良いだけの話か。
 いや、多岐に渡る生徒会の仕事だし男手の確保はしておこうって判断とか?

「あのね。色々と考えているみたいだけど、理由は単純よ?あなたの補佐の能力を私に貸して欲しいの」

「え?や、それは……俺には荷が重いんですが」

「そんな事ないわよ。謙遜も過ぎたら嫌味になるわ、気をつけなさい」

「す、すみません」

 ってなんで俺が謝ってんの?すげぇナチュラルに謝罪してたわ。
 えっ、怖い。無意識だったわ、陽奈よりお姫様、てか女王様の素質あるんじゃない?

「あなたはあの単細……単純明快で、その……傍若無人な陽奈が周りと衝突しないよう支え続け、かつこれまで大きなミスもなく学校生活を送らせてきたわね」

「単細胞と言いかけたり濁そうとして結局ぶっちゃけた事は目を瞑るとしてですね。それは子供の頃からやってたから出来るってだけです。陽奈にだけですよ」

「熱烈な言葉ね。妬けちゃいそうだわ」

「星川さんって冗談とか言うんですね……」

 そりゃ人間だし冗談くらい、と言いたいが、割とマジで意外だわ。特にこの手の冗談は。

「でもね、私はそうは思わないわ。むしろ、あの陽奈相手に出来てるからこそ大抵の人には適用できると思うの」

 あー、そう来たかぁ。
 てかこの姉妹って真逆なようで似てる?頑固だったり我を通す為に口が達者だったり。

「秋風くんが補佐してくれたら生徒会長としてより良い結果を残せると思うの。そしてその代わりに、あなたを奴隷なんて下らない立ち位置から引き上げてみせるわ」

 これって要は……陽奈から星川さんに乗り換えれば、会長補佐として以外で他の誰からも命令されなくなる、って話か。

 現状大半の生徒に見下されて雑務やらを押し付けられる俺からしたら確かに大出世ではあるんだろう。
 ふーむふむ。なるほどなるほどねぇ。

 んで、次は……

「じゃー次はあたしですね、せんぱい?」

「……お前の方はなんとなく予想はつくけどな」

 ……星川妹だ。
 ただなぁ。こいつは陽奈経由で割と衝突したからな、なんとなく分かると思う。

「お前は自分の立場をよく理解してるからな……多分あれだ、俺をお前と同じ立場に仕立てるとかじゃないか?」

「ふんふん?」

 なにその「続けたまえ」みたいなツラ。
 さすがだな、イラつかせる天才だよ君。

「お前の立場を作る要素はたくさんあるけど、まぁ主なとこだと二つ。ひとつは容姿やコミュ力からくる単純な『人気』。もうひとつは怒らせたら何をするか分からないという『怖さ』だ」

 片方だけじゃこいつの自由奔放な立ち位置は作れない。
 前者だけならある程度人の顔色を伺う必要があるし、後者だけだといつか集団に手痛い反撃やハブられるといった目に合うのは目に見えてる。

「それを俺に持たせる。そうだな、陽奈への復讐を周りに見せる事で『怖さ』を持たせて……『人気』の方はお前と仲良くなったように見せる事で持たせる、とか?」

「おぉ、すごいすごーいせんぱい!さすがのキモさですね!概ね正解ですっ!」

「褒め方イカれてんのか。……で、お前は陽奈への復讐で心置きなく暴れ回って楽しむってとこか?」

「んー……まぁ正解って事でいいですよー?」

 あっれぇ、違ったか?
 なんか今の濁し方は不正解だったくさいぞ。

 え、恥ずっ、こんだけ偉そうに説明して外れるとか……正解にしてくれたのも気を遣われたとか?うわ惨めすぎません?

「ふふっ……」

「傷口に塩塗り込むのはやめてください……」

 星川さんも同様に思ったようで、俺を見て笑ってきた。

「ごめんなさい。でもいいと思うわよ。ほとんど正解だったようだしかっこよかったわ……ふふっ」

「傷口に消毒液ぶっかけるのも勘弁してください。しみすぎて痛いです……」

 あーはいはい、良い笑顔だなぁ。
 うん、確信したわ。この姉妹似てる。俺をイラつかせる才能をお持ちですわ。

「あはは、まぁ仕方ないですよせんぱい」

 そうフォローしてくれるのは星川妹だ。

「せんぱい、あたしとたくさん遊んだからやり方は読めても、あたしの気持ちとかは分かってませんもん。だから偉そうに話した結果思い切り間違うのも仕方ないですよぉ」

 違った。
 上げて落とすやつだわ、つまり煽ってきただけだった。その殊勝な表情やめろや。

 しかし、だ。

「……気持ち?」

「そうですよ?……ねぇせんぱい、あたしがなんで元飼い主さんとせんぱいばっかり会いに行ってるか考えた事ありますか?」

「陽奈の反応が面白いから」

「それもありますけど」

「ほれ見ろ」

「むぅ、でもそれだけじゃわざわざ上級生のとこまで行きませんよー?」

 まぁそうかも知れないけどな。
 うーん。気持ち、理由……ね。

「………分からん」

「でしょーねー。だからせんぱいはあたしに勝てないんですよー?」

「ぐっ……」

 まぁ確かに毎回後手に回ったり、せいぜい阻止が限界だ。
 つまり良くて引き分け。
 気持ちよく「勝った」と言えた事はほぼないのは確かだ。

 ……だが逆に言えばその気持ちとやらが分かれば勝てるって事か?
 いや、それはあくまでこいつがそう言ってるだけだ。確証はない……が、考えてみる価値はあるのかも知れない。

 なんせ散々振り回されてきたんだ。
 こいつに完勝する方法があるなら俺がだって知りたい。そしてこいつにドヤ顔きめたい。おまけに嘲笑いたい。

「そんなあたしの気持ちが気になって気になって仕方ないせんぱい?」

「は?いえ、気になってませんけど?何言ってるんですか?」

「は?あたしに敬語とか鳥肌立つんでやめてください。キモいです」

「……ガチトーンやめろ……何故か傷つく…」

 いちいち挑発や小馬鹿にしてきやがって……いつか覚えてろよこいつ。

「ともかく。きっと、あたしと組んだら察しの悪いせんぱいでも気持ちが分かると思いますよ?それがあたしの方法のもう一つのメリットでーす!」

「はいはい。デメリットは?」

「うーん……せんぱいはさっき『あたしと同じ立ち位置にする』って言いましたけど、多分微妙に違う形になります。多分あたしより周りに距離をとられると思うんですよ」

 ……なるほど。
 確かに『こいつと仲良し』ってバックボーンだけだと立場向上はともかく、俺自身の性格は無関係なのか。
 こいつのようなコミュ力や可愛らしさまで手に入るワケじゃないしね。

 つまり、そうなると『人気』よりも『危険人物』って印象の方が色濃く出るって事か。

「なので、気軽に話せる人が減るかもです。……まぁ今も気軽に話せる人はいないと思いますけど」

「おーい核心つくなよ。その通りすぎて反論できないわ」

「あはははっ!あっ、言い忘れてましたけどあたしと一緒にいる時間がちょお増えます!仲良く見せないとですしね!あたしとした事がとっても大事なメリット言い忘れてました!えへへ」

「でっっかいデメリットあるじゃああん!それ言い忘れるとかもはや詐欺だぞ!」

「んなっ?!ちょっとせんぱいひどすぎませんか?!」

 特大のデメリット伏せるとか詐欺以外の何物でもないだろ!やっぱこいつただの危険人物だわ!
 ぎゃーぎゃー言う星川妹に言い返していると、凛とした声が耳に届く。

「もういいわね?私も真織も、2人とも説明は終わったわ」

「あっ、は、はい」

 妹と話してた勢いが急に止まってつんのめる感覚に陥るも、星川さんは構わず右手を顔の横に持ち上げ、人差し指をすっと空へと向けた。

 え、何?宇宙の帝王みたいな巨大エネルギー弾でも出すの?……意外と似合いそう。
 とか思ってると、体育館の天井付近のスピーカーからチャイムが鳴り始めた。

「もう時間ね。続きはまた後にしましょう」

 そう言い残して颯爽と去っていく星川さん。
 あー……さっきの指はチャイムが鳴るって意味ね。かっけぇ。かっけぇんだけど。

「……なぁ。あれってかっこつけたんかな?」

「あ、せんぱいも思いました?」

 妹もそう思ったんなら正解かもなぁ。
 なんつーか、この短い間で星川さんのイメージが結構変わったわ。

 冗談も言えばかっこつけたりもする。
 近寄りがたい完璧超人だと思ってたけど、思ったよりは年相応な部分もあるらしい。

「まぁお姉ちゃんって結構『自分が上だー』って言動しますからねー。負けず嫌いというかなんというか」

「似た者姉妹なんだな」

「ちょっ、あそこまでひどくないですよー!」

 どんぐりの背を比べたがる後輩を無視して校舎に戻る。

 しかし、この高校の二大巨頭みたいな姉妹からの手助けの提案……いや、取引か。
 どちらかの手を組むか、組まずに耐えるか。

 だが……ありがたい反面、どうにも警戒が先立つんだよなぁ。
 

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