最強の後輩は義妹の奴隷をしてる俺がお気に入り〜ざまぁさせたい後輩としたくない俺〜
03 奴隷の追放
陽奈が伊藤さんとカラオケに行った夜のことだ。
悪戯娘をあしらいながら帰宅して、晩飯の仕込みと掃除を済ませていた。
そして一通りの家事を終えたタイミングで、陽奈が帰宅。
「おかえりなさい」
「……………」
お迎えに挨拶をするも返事はなく、俺はつい眉根を寄せる。
いや、挨拶がないのは割といつも通りだし良いんだけど……どうにも元気がないように見える。
虚勢を張りがちなお姫様気質から考えても、俺の前でこうも消沈しているのは非常に珍しい。
「……どうしました?」
どうせ返事はないだろうが、一応声をかけてみる。
我儘で面倒な主人だが、それでも長くお付きをしてきた主人だ。
滅多に見ない落ち込んだ姿にあまり良い気はしない。
「…………睦人、相談があんの」
「聞きます」
即座に頷けた自分を褒めたい。
いや、思わず変な声が出そうなくらい驚いたんだもん。
いくら落ち込んでるとはいえ、俺に相談なんていつ以来だ……いやまぁ目に余る時は一方的に助言まがいな事はしてきたが、向こうからとなると激レア。
「実はね、今日友香とカラオケ行った帰りに優斗に会ったの」
そう前置きをしてから、しばらくは他愛もない話が続いた。
たまたま雨森さんの部活帰りだったとか、伊藤さんとも別れた後だったので久しぶりの二人きりだった等、つらつらと話が続く。
これは詳しく説明しようと口数が増えているーーのではないんだろうな。
恐らく、本題に触れるのに躊躇いがあるからだと思う。
しかし、いくら遠回りをしようと話していれば本題には辿り着くワケで。
「――それで、今度2人でカラオケ行こ……って言ってみたの」
「はい」
「そしたら………アンタがいるし、悪いから遠慮するって……」
「はい?」
……唐突に理解の外にある発言が飛び出したぞ?
「……………」
さすがに理解不能すぎるので追加の説明を待つも、無情にもここで話は終わりらしく陽奈は口を噤んで立ち尽くすばかり。
……いやいや、その説明じゃ何も分からないんですけど。
「えと、陽奈?勉強不足ですみませんが、意味が少し……」
「はぁ?……いや、まぁアンタだししゃーないか。あのね、優斗はわたしとアンタが付き合ってるか、それに近い関係だと勘違いしてるかもって事よ」
「…………」
欲しかった追加説明を呆れた様子でしてくれた陽奈には悪いけど……ごめん、絶句してしまうわ。
いや、驚いたからとかじゃなくてね?あんまりにも見当違いな発言にだ。
「それは………言っては悪いんですが、雨森さんはその、頭大丈夫なんですかね?病院とか行った方が…」
「遠慮がちな切り出しのくせに言うねアンタ……いやまぁ、今回は擁護できないけどさ」
だってそうだろ、まだオブラートに包んだ方だぞ。
俺と陽奈は義兄妹で主人お付きの関係だ。
しかし実際は義兄妹といっても秋風一家に俺が居候してるのに近い状態だし、主人お付きについても奴隷、良くてパシリみたいな関係だが。
それをどう間違えばそう見えるのか。
雨森さん、一部では無欠の王子とか言われる割にアホなの?
ともあれ、現状が分かれば対策も出てくるもので。
「でしたら、その間抜、ごほん、間抜けな勘違いを正しましょう」
「言い直そうとして言い直す気が失せてるじゃん。まぁいいや、で、どうやってよ?」
面倒になった俺を見逃してくれるあたり、陽奈も今回の件は余程堪えてるんだろうな。
しかしすぐに答えを俺に求めるのは悪癖だ。今回のことについては特に。
「俺が考えても良いですが……今回ばかりは陽奈が自分で考えてみるのも大切かと。陽奈自身が考えて努力した方が、きっと雨森さんに近付く糧になると思います」
「………なによ。そんな事言ってめんどくなっただけじゃないの?」
「いえ、恋愛未経験の俺のアドバイスで良ければいくらでも。ただ、あくまで陽奈が考えた上で俺がアドバイスする方が良いと思いまして」
「っち、うるさいわね。調子乗んじゃないっての………」
舌打ち混じりに悪態をもらうも、ちゃんと考えようとしてるのか黙り込む。実は根は素直なんだよな。
それから1分程だろうか。陽奈はゆっくりと、躊躇いがちに口を開いた。
「ムリ………あーんもぉムリ!だって意味分かんないし!なんでアンタなんかと変な勘違いされなきゃいけないワケ?!」
無理でした。おまけに癇癪起こしちゃったよ。
相変わらず手間のかかる……つか何で俺は恋愛なんて未知の領域の相談なんかさせられてんだよ。奴隷は辛いわ。
「はぁ、まぁ気持ちは察します。……そうですね、でしたら俺と距離をとるなんてのはどうですか?」
「はぁ?なんでそーなんのよ。そしたら誰がわたしの世話をするワケ?」
お気に召さないかぁ。まぁぶっちゃけ我ながら投げやりな助言でしたしね。
……いや待てよ?もしかして実は結構良い案なんじゃね?
「陽奈、考えてみてください。人間、言葉だけで納得するとは限りませんよね?いくら言葉を重ねようとも、世の中には嘘や照れ隠しだと捉える人もいますし」
「……そう、だけど」
「ですが、そこに行動が伴えば大きく説得力が増すのも分かりますよね?」
「…………」
理解はしてるけど納得はしていない、といった不貞腐れた顔で俺に睨む陽奈。
だが、これは陽奈の為……と、俺の為になる事なんだよ。いや、少しは奴隷業務もお休みもらいたいし。
「どちらにせよ雨森さんと付き合えたとして……俺を従えてデートに行くなんて無理でしょう?」
「そりゃそうよ。キモい」
「でしたら、予行も兼ねて距離をとってみるのもアリかと」
「……………」
沈黙。葛藤か躊躇か、考え込むように口を固く閉じて黙り込む。
その時間は先程の1分どころじゃない。おまけにだんだんと睨む目が鋭くなってる。あ、あの、怖いんですけど……!
そして数分後。体感で数十分後くらいして、
「……分かったわ」
陽奈は投げやり気味に頷いた。
っしゃキタ!これでしばらく奴隷業務は休暇だっ!
「ついでにとことん優斗に思い知らせる為に、アンタを手酷く追い出してやる」
「………ん?」
あれ、なんか目が座ってますよ姫様?怖い怖い、ガチギレじゃねぇかこれ。
そんな怯える俺に一切構わず、陽奈はお姫様というより女王様な雰囲気で高らかに俺に告げる。
「――睦人。アンタ、お付きクビね。当然、わたし達のグループから出ていって」
………お、おぉ、そりゃ確かに手酷い追放になるなぁ…。
いや、俺としてはお付きの仕事だとか理由をつけて中長期的に少し距離をとるくらいの発言だったんだよね。ほら、俺のリフレッシュ休暇的な意味も兼ねてさ。
でもこれ……休暇どころかリストラだよね?
あー……マジか。え、これはどうなんだ?良いのか?悪いのか?
まぁなんにせよ俺に頷く以外の選択肢なんて、秋風家に拾われて以降ありはしないワケで。
「……分かりました」
「ふん!生意気なアンタにはそれくらいが丁度いいでしょ!せいぜい周りから冷たい目で見られて過ごしなさい!」
うーん、なるほど……。
陽奈の言う通り、俺の学校での立場は厳しいものになるだろうなぁ。
ったく、そこらへんはちゃんと頭が回る主人だこと。
まぁ元々が薄氷の上に立ってたような立場だったしなぁ。
なんせ陽奈だけじゃなく大半の生徒から奴隷だと見下されてる俺が、学校で最も視線を集めるグループにしがみついてる(ように見える)んだから。
そこでいきなりポイっと追い出されてみ?
ザマァ見ろとばかりに嘲笑や蔑み、ある事ない事追加して悪い噂でもされかねない。
それはさすがに大袈裟に考えすぎ……だと良いんだけどなぁ。
グループにはあの星川沙織、雨森優斗の2人がいる。陽奈含む他の面子も大概だが、あの2人は別格だ。
そんな2人から間接的にだろうと結果としてグループから追い出されたとなれば、な。
「……分かりました。せいぜい叩かれないようひっそり逃げ隠れて過ごします」
「……ふんっ!勝手にしろっ!」
想像すると普通に恐ろしいけど頷くしかない俺に、陽奈は叩きつけるように叫んでドスドスと去っていった。
おまけにその晩に義父から「陽奈から話は聞いた。お前はお付きもろくに出来ないのか」とお叱りも頂戴してしまった。
いや、ホントに娘の話聞いてました?そして陽奈さんこういう時は仕事早いよね。
しかし義父の機嫌を損ねて追い出されたらやばいしね。深々と謝罪しましたとも。
結論として「また陽奈がお付きを望むまでは迷惑を掛けずに静かにしてろ」との事。
「はぁ、これからどうなるんだか……頼むからイジメとかは起きないでくれよ…」
非常に、切実に、それだけは勘弁して欲しい。
せっかく奴隷から解放されたのにいきなりイジメは辛すぎる。
とまぁ、そんな感じで俺の学校生活は激変する事が決まったワケです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして翌日、ホームルームと1限目の合間の短い時間。
「睦人、もうアンタはグループにいらないから。話しかけてこないでよね」
やはり陽奈は陽奈らしく、高らかに追放の言葉を放った。
『………………』
唐突すぎる発言についていけないのか、グループのメンバーどころか教室中が見事に静まり返る。
俺はこの先の未来を想像して胃が痛むが、当然頷くしかない。
「分かりました」
頷くように陽奈に向かって軽く頭を下げた。
次いでグループの端っこに置いてもらったお礼にと、他のメンバー4人にも一言伝えようと向き直る。
……まぁ少しでも心象を良くして、これからの学校生活への被害を緩和したいって気持ちもあるが。
「みなさん、こんな俺をこれまで置いてもらってありがとうございました」
長く話せば目障りだろうし、短く簡潔に伝える。まぁここで「ほんとそれ」とか言われたら被害緩和どころか大加速だけど。
しかしそんな事はなく、むしろ予想外だったのは4人の反応だった。
正直追い出されたところでどうでも良いくらいの反応しかないと思っていたんだけども。
伊藤さんは混乱したようにあわあわと忙しなく手を動かしていた。
うん、可愛いなこの人。
火縄さんはニヤニヤと眺めていた。
……このヤンキー崩れめ。嬉しそうにしてくれますねぇ。
雨森さんは信じられないものを見たように固まっていた。
良い人だしなぁ。どうか追放の切っ掛けが自分だと気付きませんように。
星川さんは目を丸くして俺を呆然と見ていた。
いや、これが一番驚いた。まずこの人って驚く事あるんだね、いつもクールだし初めて見たよ。
なんにせよ、意外と衝撃を受けてくれたらしい。
それが俺なんかに愛着の欠片でも湧いたからだとしたら嬉しいが、まぁ奴隷が主人から離れる事への単純な驚きって線が濃厚なんだろう。
……まぁそうだとしても俺の存在意義が証明されて少し達成感はあるのかもね。
そんなメンバー達に頭を下げてから背を向けて自分の先へと戻る。
「席につけー、授業始めるぞー」
それとほぼ同時に、先生が教室へと入ってきた。
沈黙のまま緩慢な動きで席につく生徒達に先生は怪訝そうな顔をしていたが、深くは突っ込まずに授業を始める。
それから1限、2限と過ごしていく内に……わっかりやすく俺への好奇心や嘲りといった視線がまぁー増えること増えること。
数少ない例外といえは、心配そうにしてくれる伊藤さん、痛ましそうに見てくる雨森さん、考え込むような顔の星川さんくらいか。陽奈と火縄さん?嘲笑丸出しですね。
悪戯娘をあしらいながら帰宅して、晩飯の仕込みと掃除を済ませていた。
そして一通りの家事を終えたタイミングで、陽奈が帰宅。
「おかえりなさい」
「……………」
お迎えに挨拶をするも返事はなく、俺はつい眉根を寄せる。
いや、挨拶がないのは割といつも通りだし良いんだけど……どうにも元気がないように見える。
虚勢を張りがちなお姫様気質から考えても、俺の前でこうも消沈しているのは非常に珍しい。
「……どうしました?」
どうせ返事はないだろうが、一応声をかけてみる。
我儘で面倒な主人だが、それでも長くお付きをしてきた主人だ。
滅多に見ない落ち込んだ姿にあまり良い気はしない。
「…………睦人、相談があんの」
「聞きます」
即座に頷けた自分を褒めたい。
いや、思わず変な声が出そうなくらい驚いたんだもん。
いくら落ち込んでるとはいえ、俺に相談なんていつ以来だ……いやまぁ目に余る時は一方的に助言まがいな事はしてきたが、向こうからとなると激レア。
「実はね、今日友香とカラオケ行った帰りに優斗に会ったの」
そう前置きをしてから、しばらくは他愛もない話が続いた。
たまたま雨森さんの部活帰りだったとか、伊藤さんとも別れた後だったので久しぶりの二人きりだった等、つらつらと話が続く。
これは詳しく説明しようと口数が増えているーーのではないんだろうな。
恐らく、本題に触れるのに躊躇いがあるからだと思う。
しかし、いくら遠回りをしようと話していれば本題には辿り着くワケで。
「――それで、今度2人でカラオケ行こ……って言ってみたの」
「はい」
「そしたら………アンタがいるし、悪いから遠慮するって……」
「はい?」
……唐突に理解の外にある発言が飛び出したぞ?
「……………」
さすがに理解不能すぎるので追加の説明を待つも、無情にもここで話は終わりらしく陽奈は口を噤んで立ち尽くすばかり。
……いやいや、その説明じゃ何も分からないんですけど。
「えと、陽奈?勉強不足ですみませんが、意味が少し……」
「はぁ?……いや、まぁアンタだししゃーないか。あのね、優斗はわたしとアンタが付き合ってるか、それに近い関係だと勘違いしてるかもって事よ」
「…………」
欲しかった追加説明を呆れた様子でしてくれた陽奈には悪いけど……ごめん、絶句してしまうわ。
いや、驚いたからとかじゃなくてね?あんまりにも見当違いな発言にだ。
「それは………言っては悪いんですが、雨森さんはその、頭大丈夫なんですかね?病院とか行った方が…」
「遠慮がちな切り出しのくせに言うねアンタ……いやまぁ、今回は擁護できないけどさ」
だってそうだろ、まだオブラートに包んだ方だぞ。
俺と陽奈は義兄妹で主人お付きの関係だ。
しかし実際は義兄妹といっても秋風一家に俺が居候してるのに近い状態だし、主人お付きについても奴隷、良くてパシリみたいな関係だが。
それをどう間違えばそう見えるのか。
雨森さん、一部では無欠の王子とか言われる割にアホなの?
ともあれ、現状が分かれば対策も出てくるもので。
「でしたら、その間抜、ごほん、間抜けな勘違いを正しましょう」
「言い直そうとして言い直す気が失せてるじゃん。まぁいいや、で、どうやってよ?」
面倒になった俺を見逃してくれるあたり、陽奈も今回の件は余程堪えてるんだろうな。
しかしすぐに答えを俺に求めるのは悪癖だ。今回のことについては特に。
「俺が考えても良いですが……今回ばかりは陽奈が自分で考えてみるのも大切かと。陽奈自身が考えて努力した方が、きっと雨森さんに近付く糧になると思います」
「………なによ。そんな事言ってめんどくなっただけじゃないの?」
「いえ、恋愛未経験の俺のアドバイスで良ければいくらでも。ただ、あくまで陽奈が考えた上で俺がアドバイスする方が良いと思いまして」
「っち、うるさいわね。調子乗んじゃないっての………」
舌打ち混じりに悪態をもらうも、ちゃんと考えようとしてるのか黙り込む。実は根は素直なんだよな。
それから1分程だろうか。陽奈はゆっくりと、躊躇いがちに口を開いた。
「ムリ………あーんもぉムリ!だって意味分かんないし!なんでアンタなんかと変な勘違いされなきゃいけないワケ?!」
無理でした。おまけに癇癪起こしちゃったよ。
相変わらず手間のかかる……つか何で俺は恋愛なんて未知の領域の相談なんかさせられてんだよ。奴隷は辛いわ。
「はぁ、まぁ気持ちは察します。……そうですね、でしたら俺と距離をとるなんてのはどうですか?」
「はぁ?なんでそーなんのよ。そしたら誰がわたしの世話をするワケ?」
お気に召さないかぁ。まぁぶっちゃけ我ながら投げやりな助言でしたしね。
……いや待てよ?もしかして実は結構良い案なんじゃね?
「陽奈、考えてみてください。人間、言葉だけで納得するとは限りませんよね?いくら言葉を重ねようとも、世の中には嘘や照れ隠しだと捉える人もいますし」
「……そう、だけど」
「ですが、そこに行動が伴えば大きく説得力が増すのも分かりますよね?」
「…………」
理解はしてるけど納得はしていない、といった不貞腐れた顔で俺に睨む陽奈。
だが、これは陽奈の為……と、俺の為になる事なんだよ。いや、少しは奴隷業務もお休みもらいたいし。
「どちらにせよ雨森さんと付き合えたとして……俺を従えてデートに行くなんて無理でしょう?」
「そりゃそうよ。キモい」
「でしたら、予行も兼ねて距離をとってみるのもアリかと」
「……………」
沈黙。葛藤か躊躇か、考え込むように口を固く閉じて黙り込む。
その時間は先程の1分どころじゃない。おまけにだんだんと睨む目が鋭くなってる。あ、あの、怖いんですけど……!
そして数分後。体感で数十分後くらいして、
「……分かったわ」
陽奈は投げやり気味に頷いた。
っしゃキタ!これでしばらく奴隷業務は休暇だっ!
「ついでにとことん優斗に思い知らせる為に、アンタを手酷く追い出してやる」
「………ん?」
あれ、なんか目が座ってますよ姫様?怖い怖い、ガチギレじゃねぇかこれ。
そんな怯える俺に一切構わず、陽奈はお姫様というより女王様な雰囲気で高らかに俺に告げる。
「――睦人。アンタ、お付きクビね。当然、わたし達のグループから出ていって」
………お、おぉ、そりゃ確かに手酷い追放になるなぁ…。
いや、俺としてはお付きの仕事だとか理由をつけて中長期的に少し距離をとるくらいの発言だったんだよね。ほら、俺のリフレッシュ休暇的な意味も兼ねてさ。
でもこれ……休暇どころかリストラだよね?
あー……マジか。え、これはどうなんだ?良いのか?悪いのか?
まぁなんにせよ俺に頷く以外の選択肢なんて、秋風家に拾われて以降ありはしないワケで。
「……分かりました」
「ふん!生意気なアンタにはそれくらいが丁度いいでしょ!せいぜい周りから冷たい目で見られて過ごしなさい!」
うーん、なるほど……。
陽奈の言う通り、俺の学校での立場は厳しいものになるだろうなぁ。
ったく、そこらへんはちゃんと頭が回る主人だこと。
まぁ元々が薄氷の上に立ってたような立場だったしなぁ。
なんせ陽奈だけじゃなく大半の生徒から奴隷だと見下されてる俺が、学校で最も視線を集めるグループにしがみついてる(ように見える)んだから。
そこでいきなりポイっと追い出されてみ?
ザマァ見ろとばかりに嘲笑や蔑み、ある事ない事追加して悪い噂でもされかねない。
それはさすがに大袈裟に考えすぎ……だと良いんだけどなぁ。
グループにはあの星川沙織、雨森優斗の2人がいる。陽奈含む他の面子も大概だが、あの2人は別格だ。
そんな2人から間接的にだろうと結果としてグループから追い出されたとなれば、な。
「……分かりました。せいぜい叩かれないようひっそり逃げ隠れて過ごします」
「……ふんっ!勝手にしろっ!」
想像すると普通に恐ろしいけど頷くしかない俺に、陽奈は叩きつけるように叫んでドスドスと去っていった。
おまけにその晩に義父から「陽奈から話は聞いた。お前はお付きもろくに出来ないのか」とお叱りも頂戴してしまった。
いや、ホントに娘の話聞いてました?そして陽奈さんこういう時は仕事早いよね。
しかし義父の機嫌を損ねて追い出されたらやばいしね。深々と謝罪しましたとも。
結論として「また陽奈がお付きを望むまでは迷惑を掛けずに静かにしてろ」との事。
「はぁ、これからどうなるんだか……頼むからイジメとかは起きないでくれよ…」
非常に、切実に、それだけは勘弁して欲しい。
せっかく奴隷から解放されたのにいきなりイジメは辛すぎる。
とまぁ、そんな感じで俺の学校生活は激変する事が決まったワケです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして翌日、ホームルームと1限目の合間の短い時間。
「睦人、もうアンタはグループにいらないから。話しかけてこないでよね」
やはり陽奈は陽奈らしく、高らかに追放の言葉を放った。
『………………』
唐突すぎる発言についていけないのか、グループのメンバーどころか教室中が見事に静まり返る。
俺はこの先の未来を想像して胃が痛むが、当然頷くしかない。
「分かりました」
頷くように陽奈に向かって軽く頭を下げた。
次いでグループの端っこに置いてもらったお礼にと、他のメンバー4人にも一言伝えようと向き直る。
……まぁ少しでも心象を良くして、これからの学校生活への被害を緩和したいって気持ちもあるが。
「みなさん、こんな俺をこれまで置いてもらってありがとうございました」
長く話せば目障りだろうし、短く簡潔に伝える。まぁここで「ほんとそれ」とか言われたら被害緩和どころか大加速だけど。
しかしそんな事はなく、むしろ予想外だったのは4人の反応だった。
正直追い出されたところでどうでも良いくらいの反応しかないと思っていたんだけども。
伊藤さんは混乱したようにあわあわと忙しなく手を動かしていた。
うん、可愛いなこの人。
火縄さんはニヤニヤと眺めていた。
……このヤンキー崩れめ。嬉しそうにしてくれますねぇ。
雨森さんは信じられないものを見たように固まっていた。
良い人だしなぁ。どうか追放の切っ掛けが自分だと気付きませんように。
星川さんは目を丸くして俺を呆然と見ていた。
いや、これが一番驚いた。まずこの人って驚く事あるんだね、いつもクールだし初めて見たよ。
なんにせよ、意外と衝撃を受けてくれたらしい。
それが俺なんかに愛着の欠片でも湧いたからだとしたら嬉しいが、まぁ奴隷が主人から離れる事への単純な驚きって線が濃厚なんだろう。
……まぁそうだとしても俺の存在意義が証明されて少し達成感はあるのかもね。
そんなメンバー達に頭を下げてから背を向けて自分の先へと戻る。
「席につけー、授業始めるぞー」
それとほぼ同時に、先生が教室へと入ってきた。
沈黙のまま緩慢な動きで席につく生徒達に先生は怪訝そうな顔をしていたが、深くは突っ込まずに授業を始める。
それから1限、2限と過ごしていく内に……わっかりやすく俺への好奇心や嘲りといった視線がまぁー増えること増えること。
数少ない例外といえは、心配そうにしてくれる伊藤さん、痛ましそうに見てくる雨森さん、考え込むような顔の星川さんくらいか。陽奈と火縄さん?嘲笑丸出しですね。
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