棘々と輝く君は僕を映すけど
第2話 朱き血潮は空の香り。
ドンっ!
何かがぶつかる音が店内に響いた。と同時に、窓が砕け散り、黒い影が店内に転がり込む。
「……っ!」
蒸し暑い夏の湿った空気が、割れた窓から流れ込む。
びっくりした僕が尻餅をついたまま、呆然としている間に、影はふらふらと立ち上がる。キラキラと舞い落ちる細かいガラスの欠片。割れた窓から射し込む陽射しがとても眩しかった。逆光で黒い影にしか見えない侵入者をしょぼしょぼと見つめる。
「くっ……ごめんなさい。大丈夫ですか?」
そう言ってこちらへ手を伸ばしたのは少し慌てた様子の子どもの声。まだ幼く高いその声に少しホッとした。しかし、だんだんとハッキリし始めた視界に現れた彼の姿を見て、僕は少し困惑した。
ジーンズ生地の青いオーバーオールに、大きな麦わら帽子。白い半袖Tシャツの下には、黒い長袖のインナーを着て、白の軍手もしていた。こんなに暑い日なのに……。
まぁ、でも、そこまではいい。それだけなら、庭仕事のお手伝いをしていた男の子だ。
僕が何より驚いたのは彼が片手に握った大きな斧。木の柄の部分だけでも、彼の肩くらいまであるのに、そこに身長よりも幅のある金属の大きな刃が鈍く光っているのだ。……さすがにそんなものを子どもに持たせる親はいないだろう。
突然の非日常に再び唖然としていると、次に現れたのは炎の渦。夏の暑さなんて涼しく思える、店ごとすべてを焼きつくさんばかりの熱風が割れた窓から少年めがけて吹き込んできた。
あまりの怒涛の展開に、もはや僕は逃げることもできず、ただ座り込んだままギューッと目をつぶる。
……が、いつまで経っても僕の身体も店内も焼かれることはなかった。……恐る恐る目を開けると、目の前には先ほどの男の子。大斧を両手で握り締めた彼を丸い光の球が包んでいて、それが炎の渦を食い止めていた。
「……もうっ!
いい加減、こんなことやめてよ、ヨウコ姉!」
彼はそう叫んで、柄の先で地面をズンっと突いた。すると、光の球がパリンっと弾け、そこから冷たい冷気がサーッと辺りに広がった。球を飲み込もうとしていた炎は、冷たい風に掻き消され、あとに残ったのは焦げた壁と、融けて歪んだガラス。冷えた空気に煙の香りが漂っていた。
「あーぁ。冷たーいなぁ、タツキは。おねぇちゃん、淋しくなっちゃうなー」
まるで空気を読まないような飄々とした女の子の声。突然、蜃気楼が生じたかと思うと、外の道に黒づくめの少女が立っていた。背の高い黒の三角帽子に、夏らしからぬ黒いコート。そして、肩にのせた真っ黒な傘が彼女の後ろでくるくる回る。
「……さぁ、早く続きを始めようよ♡
ツノポンもいっぱい遊びたいってさ!」
彼女はパチンと指を鳴らして、真っ白な歯がニヤッと覗かせた。紅い唇が裂けるように開く。
僕は何だか背筋がぞわっとしてしまった。空はこんなに晴れているのに。
……白い何かが飛び出して、店は影に呑み込まれた。
何かがぶつかる音が店内に響いた。と同時に、窓が砕け散り、黒い影が店内に転がり込む。
「……っ!」
蒸し暑い夏の湿った空気が、割れた窓から流れ込む。
びっくりした僕が尻餅をついたまま、呆然としている間に、影はふらふらと立ち上がる。キラキラと舞い落ちる細かいガラスの欠片。割れた窓から射し込む陽射しがとても眩しかった。逆光で黒い影にしか見えない侵入者をしょぼしょぼと見つめる。
「くっ……ごめんなさい。大丈夫ですか?」
そう言ってこちらへ手を伸ばしたのは少し慌てた様子の子どもの声。まだ幼く高いその声に少しホッとした。しかし、だんだんとハッキリし始めた視界に現れた彼の姿を見て、僕は少し困惑した。
ジーンズ生地の青いオーバーオールに、大きな麦わら帽子。白い半袖Tシャツの下には、黒い長袖のインナーを着て、白の軍手もしていた。こんなに暑い日なのに……。
まぁ、でも、そこまではいい。それだけなら、庭仕事のお手伝いをしていた男の子だ。
僕が何より驚いたのは彼が片手に握った大きな斧。木の柄の部分だけでも、彼の肩くらいまであるのに、そこに身長よりも幅のある金属の大きな刃が鈍く光っているのだ。……さすがにそんなものを子どもに持たせる親はいないだろう。
突然の非日常に再び唖然としていると、次に現れたのは炎の渦。夏の暑さなんて涼しく思える、店ごとすべてを焼きつくさんばかりの熱風が割れた窓から少年めがけて吹き込んできた。
あまりの怒涛の展開に、もはや僕は逃げることもできず、ただ座り込んだままギューッと目をつぶる。
……が、いつまで経っても僕の身体も店内も焼かれることはなかった。……恐る恐る目を開けると、目の前には先ほどの男の子。大斧を両手で握り締めた彼を丸い光の球が包んでいて、それが炎の渦を食い止めていた。
「……もうっ!
いい加減、こんなことやめてよ、ヨウコ姉!」
彼はそう叫んで、柄の先で地面をズンっと突いた。すると、光の球がパリンっと弾け、そこから冷たい冷気がサーッと辺りに広がった。球を飲み込もうとしていた炎は、冷たい風に掻き消され、あとに残ったのは焦げた壁と、融けて歪んだガラス。冷えた空気に煙の香りが漂っていた。
「あーぁ。冷たーいなぁ、タツキは。おねぇちゃん、淋しくなっちゃうなー」
まるで空気を読まないような飄々とした女の子の声。突然、蜃気楼が生じたかと思うと、外の道に黒づくめの少女が立っていた。背の高い黒の三角帽子に、夏らしからぬ黒いコート。そして、肩にのせた真っ黒な傘が彼女の後ろでくるくる回る。
「……さぁ、早く続きを始めようよ♡
ツノポンもいっぱい遊びたいってさ!」
彼女はパチンと指を鳴らして、真っ白な歯がニヤッと覗かせた。紅い唇が裂けるように開く。
僕は何だか背筋がぞわっとしてしまった。空はこんなに晴れているのに。
……白い何かが飛び出して、店は影に呑み込まれた。
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