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棘々と輝く君は僕を映すけど

おくとりょう

幕間 どこかの誰かの独り言

 ねぇ。
 こっちを見ないで こわさないで

 そう。悪いのは私。
          ごめんなさい。
 なんて、とても言えないけど。

 もう、動かないで。
 それは過ぎていった私。
 汚点はない? 
  ねぇ、何でそんなこと言えるの?

     ……もう。
 頭の鐘は鳴りやまないし。ハエの羽音はいつも五月蝿うるさいし。目玉が弾んで舌が痺れる。

 あぁ。沸きだすうみは澄んだガラスのように。
 突き刺す棘は夏の甘味かんみのように。明るく叫んでズキズキ疼く。きっとあれは光の欠片。

 あーぁ......。
 視界の奥で何かが割れた。頭蓋の中身が黒く汚れた。恥を墨で隠すみたいに。
 そう。甘い毒がじんわり滲んだ。

 ……あはっ。
 私は目蓋まぶたをぎゅっと抑えた。もう中身が零れて落ちないように。踊って戻って仕舞えるように。

 えぇ。
 通り過ぎるのは知らないおじさん。吐き出す私のウジなんて、もう見えてすらいないから。崩れる可笑しな塊なんて、見えても脳には届かないから。
 はい、そう。
 これでおしまい。もうお仕舞い。もう二度とこんなことなんてするまい。もうお前のことなんて誰も知るまい。好きなご飯はいつなら美味うまい?

 えぇ。だって、
 もう誰も要らないでしょ。こんな壊れもの何かなんて。
 ......ねぇ。
 もう誰も要らないよね……。こんな潰れかけの何かなんて。

 ……ね?

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