閉じる

猫のいない街。そこは、

おくとりょう

第4話 しずかなお昼どき①

「それにしても、どうやって探すの?」

 お昼時の学食。
 今日もぽかぽかと天気が良かったので、テラス席でのランチ。私は限定日替わりのステーキ定食。分厚い牛肉を噛み締めると、肉汁が口の中に溢れだす。
 あぁ、この価格でこんなステーキが味わえるのは、学生の懐には大変ありがたい。あの押し合いへし合いの争奪戦を勝ち抜けた幸運に感謝する。

「んー、そうね」

 惜しくも、ステーキを得られなかった葉月は、いつもと同じ明太パスタをつつきながら、頬杖をついた。

「やっぱり現場百遍、的な?
 まずは、連れて行ってよ。黒猫の現場に」

 思わず、あの夜のことを鮮明に思い出し、食事の手が止まる。街灯の並ぶ住宅街。人通りのない道に落ちた黒い塊。そして、その毛皮から覗く赤い肉……。
 うぅ……。どうして、私は牛肉を頬張ってるんだろう。
  A.安く食べられるチャンスだったから。
 もう!私のバカバカバカ!
 あぁ、ステーキ定食を勝ち取ったのは、むしろ凶運だったのかもしれない。

「あー。思い出させちゃった?ごめんごめん。
 聴き込み的なのも考えたけど、死んでるのは野良猫ばっかりだし、誰に聞くのって感じなんだよね」
 ぶっきらぼうな口調ながら、背中を撫でてくれる彼女の手に、ふと彼を思い出した。
 少し気持ちが落ち着いて、おそるおそる口を開く。

「……コウくんにも手伝ってもらわない?」
「コウくんって、根住晃くん?
 あははっ。ネコのことでネズミに助けを求めるって!……くくっ、何か可笑しい。
 いいじゃん。最近、あんたとも良い感じなんでしょ?」
「まぁね!
 今、私モテ期なので!」

 兎にも角にも、黒猫を見た場所へ行くことにした。それは私の自己満で、彼女の優しさで……。それでも、決して好奇心ではないつもりだった。……その時は。

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く