魔女が最高層の世界で最下層の男と愛し合ったら 〜最下層のディアレスト〜

星名 泉花

拾われた男と3番目のお姫様【5】

それからリベルトはエレオノーラに隠れて服を脱ぎ、湯につかる。

ぎこちなく丸まっていたが、エレオノーラがご機嫌な様子で石鹸を手にし、泡立てると髪に触る。

ますますリベルトは小さくなってしまった。


「あの、自分でやる……」

「わぁー、男ってこんな感じなんだー。全然ちがーう」


好奇心で遠慮なくリベルトの身体に触るエレオノーラ。

リベルトの身体に触るという行為への羞恥心というものは持ち合わせていなかった。

アリシアが嫌がって逃げてしまったので、エレオノーラは自分でリベルトの身支度を整えようと気合を入れていた。

姫でありながら低魔力の劣等感により、他のメイドへの遠慮癖がついている。

唯一、気兼ねなく接することの出来るアリシアに断られてしまうとエレオノーラは自身でなんとかするしかない。

しかし本でしか知らなかった男という存在にワクワクして、リベルトの羞恥も知らず状況を満喫していた。


「ちょ、あ、それ以上はっ……」

「あら。あらあらあら……」

(こんなの本には書かれてなかったわ。なんなの、これ?)

「ねぇ、リベルト。これは一体なんなの?」

「し、知らない! お願いだから見ないで!」


エレオノーラの手をはじいて湯に潜り込む。

間抜けた顔をしてその様子を見下ろしていたエレオノーラだったが、見られることへの恥ずかしさを持つのも同じだと知り、目を輝かせていた。


(ふーん、見られたくないものなんだ。女も見られたくないとこあるし、同じね)


この気持ちはなんだろう。

リベルトがかわいく見えてしまう。

誰に感じたこともないドキドキにすっかりはしゃいでしまっていた。


「よーし、黒髪堪能するぞー!」

「わっ!?」

「いい匂いでしょー? 私のお気に入りなんだー」

「うぅ……」


汚れがどんどん落ちることにより、エレオノーラの期待値は高まっていく。

これはきっと素敵な黒髪になるという自信があった。

同時に女であればすごい魔女だったと考えてしまう。

だがそんなことを思ってしまった事実にエレオノーラは手を止めた。


(なんて……嫌な考え)


リベルトを否定するような発想にかき消したくなる気味の悪さを感じる。

リベルトはエレオノーラと何も変わらない。

いや、リベルトの方が綺麗だと痛感する。

女というものに怯えているだけで、リベルト自身は真っ直ぐだ。

エレオノーラという存在を認識すると、ちゃんと向き合って落ち着こうとしているのがわかる。

その証拠にリベルトは羞恥を除けばエレオノーラから逃げようとしなかった。

漆黒の瞳がエレオノーラをとらえていた。


(びっくりするくらい大人しい。男ってみんなこんな感じなのかしら?)


あまりに想像と違いすぎて、戸惑いが大きい。

他の男がどのような生態をしているかを知らないため、リベルトが新鮮であり、妙な親近感を抱いてしまっていた。


「……あったかい」

「ん? どうかした?」

「なんでも、ない……」


同様に、リベルトにとってもエレオノーラははじめて接するタイプの魔女であった。

それをお互い、まだ知らない。







浴室から出ると、エレオノーラは濡れてしまったドレスを脱ぎ、簡素なワンピースへと着替える。

リベルトには大きめのバスローブを着せていた。

私室へと戻るとアリシアが呼んでくれていた洋裁の仕立て屋が待っていた。

男性でも着れる服を何着か提示してくれる。


「こちらでよろしいのですか?」

ジト目でリベルトを見ながら仕立て屋は服をまとめる。

そのうち一着をリベルトに着てくるよう声をかけた。

服を着て戻ってきたリベルトを見てエレオノーラは満足げに頷く。


「ありがとう」

「……男に服を作ることになるとは」


お礼を言うエレオノーラに対して、仕立て屋は恐れもなくぼやいて部屋を出ていった。

アリシアが頭をさげて仕立て屋と共に部屋を去る。

二人きりになって、リベルトは落ち着かない様子でエレオノーラをチラチラと見ていた。


「あの、こんなしっかりした服……」

「男の服ってわからないから、これから増やしていくわね。本とか見ればわかるかしら?」


楽しんでいるエレオノーラにリベルトは困惑する。

疑問をすべて口にしてしまうリベルトは率直に投げかけてしまう。 


「本当に、女の人?」

「ええー? 女だよー? なにか変なところある?」

「だって、優しい……」


そこまで称賛されるほどのやさしいものなのだろうか。

普通に接しているつもりのため、リベルトの戸惑いに対して違和感がある。

一体、男の居住地はどうなっているのだろう。

そこまで女って怖いは怖いと思われる状況なのか。

最下層の男のリアルは、最上層にいる魔女のエレオノーラには想像もつかなかった。


「リベルト、私はあなたを傷つけない。約束するわ」

魔女の中で最上層である王族でありながら、侮蔑の目で見られていたエレオノーラがリベルトに向き合う姿勢に壁はなかった。

真っ直ぐに、目の前のリベルトという存在を見ている。


「あんまり強くないけど、がんばるわね!」

「……うん」


リベルトもまた、魔女ではなくエレオノーラをそのままに見ていた。

緊張のあった二人の間が和やかになり、笑みが増えていく。


「ねぇ、そろそろ名前で呼んでよ?」

「え? そんなの、ダメだから……」

「私がいいって言ってるからいいの! ね? 呼んでほしい!」


グイグイといくエレオノーラにリベルトが顔を赤らめていく。

黒い前髪の隙間からエレオノーラを映す瞳に熱が灯る。


「……エ」


唾を飲み込み、リベルトはしっかりとエレオノーラを見据えた。


「エレオノーラ」


全身の細胞がぶわっと舞い上がる。

まるで心臓と一体化したかのように、興奮状態となった。

ニヤニヤとしてしまう頬に手を当てて、表情を誤魔化す。


(わ、わわー! なにこれ感動がすごいわ! ど、ドキドキ?)

「あはは、ちゃんと呼ばれたの久しぶり。エレオノーラと、リベルト……」


(本当に、リベルトは光り輝いてるな)


「なんだかくすぐったい。ありがとう、大事にするわ」


このやさしい光は忘れたくない。

それほどエレオノーラにとって喜びが大きいものであった。



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