AstiMaitrise

椎奈ゆい

#2 Blood Devil

#2 Bloodブラッド Devilデビル

 平等院びょうどういん 霊否れいなは自分の姿を再度見返した。
 「なんなのこれ‥」

 悪魔のような翼と尻尾、
 フリルがたくさんついた紫色を主体としたロリータファッション。胸元には大きなリボン。
 黒のタイツに厚底のブーツ。リボンのついた黒いハット。
 ふんわりとウェーブがかかった髪は毛先に向かって透明感のある色合いに変化していた。

 そのいでたちに霊否はただただ困惑していた。

 ふわふわと浮遊する陽気な幼女、メドゥーサは、
 「うわっ、めっちゃ可愛い!似合ってるよ霊否ちゃん!」
 と、場にそぐわないハイテンションで言った。

 「いや、確かに可愛いけどさ‥」
 霊否はスカートを広げながら言った。
 ひらひらとしたスカートにもフリルが付いている。

 「でしょ〜、これが私の力だよ!」
 手を腰にあてて、えっへんと言わんばかりに鼻を鳴らす。
 「やっぱ、素材がいいね〜、霊否ちゃん細いし足長いし、」

 「そ、そうかな」
 霊否は少し照れたように笑う。

 「そうだよ!ヨッ、モデル体型!!」

 「えへへ〜〜、っていや、そんなことより!なんなのこれ?何者なのお前?」
 霊否は我に帰ったように言う。

 「お前じゃなくて、メドゥーサだってば。名前可愛いでしょ?」
 メドゥーサは頬を膨らませながら言った。

 「はいはい、メドゥーサ、この姿は何ですか?服装は?何者なの?きみは」

 「んー、教えてもいいけど、今はそれより必要なことあるんじゃない?」

 「は?」

 刺客の一人が竹刀で攻撃してきた。
 「うお!」
 霊否は間一髪で交わす。

 「ひやぁ、こわい」
 メデューサが、呑気な声をあげる。

 「てめぇ、なにヘラヘラしてんだよ!」
 こいつ‥、
 メドゥーサの空気の読めなさに霊否はだんだんイライラしきてきた。
 
 「なんか服装が変わったな。」
 刺客の1人が言う。

 「気にするな。目的が手に入ればクリアさ」

 「え?、お前ら喋れんのかよ!」
 霊否は思わずツッコミを入れる。
 「喋れないキャラで行くのかと思ってたわ!」
 
 刺客の1人が前に出ていう。こいつがリーダーだろうか。
 「平等院霊否。我々の目的はそのつるぎだ。大人しく剣を渡してくれたらもう襲ったりしない。」

 「つるぎ?あたしのこれ?なんでつるぎなんか」
 
 こいつらの目的はあたしが持っているこのボロい剣だったのか。

 「この剣は親からお守りとしてもらったものだ!なんでこの剣が必要なんだよ。」

 「それは教えられない。」

 「教えてくんなきゃ渡さねぇよ」

 「貴様‥!」
 刺客たちは再度猛攻を仕掛けてくる。
 霊否は必死に剣で避けるが、3対1ではやはり捌ききれない。

 「おい、メドゥーサ、なんか力があるんなら貸してくれよ!」

 「はいはい、しょーがないなぁ霊否ちゃんは」

 メドゥーサは小さな手を霊否の右目に触れた。そして、「ほい」霊否の顔の前に手鏡を出した。
 「なにこれ、うわっ!!」
 メドゥーサが触れた霊否の右目が真っ赤になっていた。

 「これが私の能力だよ!」

 「はぁ、どういうことだよ」

 「この目で相手を見てごらん」

 言われた通りに刺客の1人を見てみる。

 霊否の赤色の目と刺客の目が合う。
 その瞬間、刺客の体内の血液が一気に硬直する。
 
 「うわっ」
 刺客の動きが止まった。

 「なんだ‥っ、これ!動けねぇ!!」
 刺客の体はブルブルと痙攣けいれんをおこしている。喋るのもやっとのようだ。

 「なにこれ‥どうなってんの?」
 霊否は刺客の反応に驚いた。

 「これが私の能力!目で見た人の動きを止められるの!」

 「なるほどな、これでこいつら全員の動きを止めれば・・・」
 刺客は残り2人、こいつらの動きをこの能力で止めればとりあえずこの場は助かる。

 刺客の1人をさっきと同じ要領で動きを止め、
 最後の1人も目を合わせ動きを止めようとしたその時、「あれ?」目で見ているのに動きが止まらない。

 「急に使えなくなった!なんで?!」

 「まだ、調整ができてないみたいだね〜」
 メドゥーサが呑気に言う。

 「おい!どうなってんだよこれ!」

 「しばらく目の能力は使えないね!」

 「はぁ?!どういうことだよ!早くさっきみたいに使えるようにしてくれよ!」

 「だから、しばらく使えないんだってば」

 「はぁぁぁあああ?!?!」

 刺客の残った1人が、霊否が先ほど動きを止めた2人をペシペシと叩く。
 「おい!早く戻ってこい!」
 2人は頭を振りながら感覚を取り戻していく。

 「あぁ!せっかく動き止めたのにぃ!」
 霊否が叫ぶ。

 3人のジリジリと霊否に近づいてくる。

 「くそ・・・・、おいメドゥーサ、他になんかないのかよ!他のすげえ力みたいなの!」

 「無いね」

 「もぉ〜〜〜っ、使えねぇなぁお前!!」

 「ああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!使えないとか言ったぁ!ひっどい霊否ちゃん!!」
 あーー、うるさい!
 目の能力が使えないんじゃ勝ち目がない。

 「どうすれば‥」


 霊否がそう思った時、
 突然黒い影が霊否の前に現れた。

 その影は刺客の1人を蹴りで吹き飛ばした。蹴られた刺客は壁に激突、壁にめり込むほどの衝撃で動けなくなる。

 「くそ、おい、こいつは‥!」
 その人物の顔を見た刺客たちに動揺が走る。

 「ちっ、一旦ずらかるぞ!」
 壁にめり込んだ一人引っ張り出し、抱きかかえて立ち去っていった。

 「怪我はないか」
 先ほどの黒い影は、そう言って霊否に手を差し出してきた。

 長くすらっとした足、短い艶のある髪からのぞかせる顔は青白く、端正な顔立ちをしていた。
 
 「お、おう‥」
 
 細長く、血管の浮き出た白い手に握られる。
 なんだ、こいつ、

 「別にお前の助けがなくてもあたし一人で倒せたけどな。」
 と霊否が言う。

 「それは邪魔して悪かったな」
 少しニコッと笑って言った。
 
 「お前、名前は?」

 「名乗るほどの物じゃねぇよ。おれはヒーローだから、お前を助けた。それだけだ。」

 そう言って立ち去った。
 
 あいつ、壇ノ浦学園の制服着てたな。

 「あれ、」
 いつのまにか服も元に戻っていた。



 ︎ ︎ ︎

 翌朝

 学校に行くため、覚えたばかりのメイクをしているとメドゥーサが話しかけてきた。

 「どっか出かけるの?」

 「学校。いくんだよ」

 「学校?!私も学校行きたい!」

 「はぁ?、いいわけねぇだろ」

 「やだ!いく!!」

 「お前は留守番だよ!」

 「やだやだやだやだやだ!!」

 こいつ‥
 早くしないと遅刻してしまう

 どうにかしてこいつを納得させなくては

 「お前みたいな不思議な存在が学校きたらみんなびっくりするだろうが!ただでさえ今不思議な現象が起こってるってのに!」

 「不思議な現象?」

 メデューサが食いついてきた。
 しまった。祟りのことはこいつに言うべきじゃなかったかも知れない。

 「学校で何か起こってるの?ますます気になってきた!行きたい!!」

 「駄目だっつの!!」

 などという水掛け論を30分以上繰り返し、半ば強引に家に閉じ込めてきた。



 ︎ ︎ ︎

 「なんで学校なんて行きてえんだよあいつ・・・・」

 あたしなんて学校行くの億劫で仕方ないよ。
 祟りの噂があるせいで学校での居心地も悪いし。

 「はあ・・・・、」
 大きなため息をつく。

 学校に行く足取りが徐々に重くなる。

 でも今日は上星たちと風紀委員に行って玖源くげん 煌玉こうぎょくに祟りの件を相談するんだ。

 おし、頑張ろう。

 気合を入れて一歩踏み出そうとしたその時、

 「ため息つくと、幸せが逃げていくっていうよ!」
 聞き覚えしかない、陽気な声がバックの中から聞こえた。

 「わあ!!!」
 
 バックのチャックが内側から開き、「うんしょ」と、開いた隙間からメドゥーサが小さい顔をひょこっと出した。

 「ちょ、おま!!なんでついてきてんだよ!」
 霊否は周りの視線を気にしながら、小声で言う。

 「だって〜、どうしても学校行きたかったんだもん!!!」

 霊否はメドゥーサの頬を両手で掴んで言った。
 「‥‥‥帰れ」

 「ふえぇ?!?!そんなこと言われても帰り方わかんないよ〜〜!ここまで霊否ちゃんのバックに入ってたし」

 「はぁ〜、もぉ〜〜‥‥」
 つきてきちまったもんはしょうがねぇな。

 「いいか、絶対鞄から出てくるな、それから喋るな!フリじゃねぇからな!これ!!」

 「フリ?」

 「いいからわかったか!?」
 
 「うん!!わかった!!!やったぁ〜」

 本当にわかったのかこいつ
 「ったく‥」
 霊否は頭を抱え、再度ため息をついた。あ、幸せ逃げてった。


 ︎ ︎ ︎
一限目 歴史

 「この戦いで平家側はみんな海に入水自殺した。二位尼は幼い安徳天皇を抱えて瀬戸内海の冷たい海に飛び込んだ。この時安徳天皇の年齢は8歳。建礼門院徳子など数名のみが引き上げられ、生き残った」
 
 歴史担当の町山まちやま。おそらく60歳くらい。真っ白い頭とキツい口臭。カーキーのポロシャツを着ている。

 それにしてもおじさん先生の授業はなぜこんなに眠いのだろう。
 霊否はうとうととしながら授業を聞いていた。

 抑揚のない淡々とした話し方といい、子守唄かよ。
 
 「・・・・と、まあ、色々教えてきたが、歴史なんてものは時代の支配者が自分の正当性を示すために書かれた作り話だと私は考えている。
 例えば、いま読んでもらった平家物語だが、君たちには平家側が悪・源氏側が正義のように感じられるだろう。事実、そう印象付けるように語られている。
 だいたい最近世の中に溢れているエンタメは善悪をはっきり区別しすぎている。
 そのエンタメにどっぷり浸かっている君たちのような人間には善と悪の区別をはっきりつけたほうがわかりやすいだろう。」

 瞼が徐々に重くなり、視界がぼやけてくる。

 「しかし、はっきり言って歴史には善悪などない。
 仮に源平合戦で平家側が勝利した場合、教科書にはこう書かれるだろう。
 ゛一時的に源氏側の反乱があったが、平家側の有能な武将たちによって無事退けることに成功した。平家の作り上げた文明によって日本は栄えた。“
 そう教えられれば君たちは平家側が善、源氏側が悪のように聞こえるだろう。
 歴史というものは語り方にひとつで我々に大きく異なる印象を与えるわけだ。であるからして‥‥」

 もう、限界だーー、寝る‥‥、

 「霊否ちゃん、寝ちゃダメだよ」
 ぼやけていた霊否の視界に突然メドゥーサが現れる。

 「おわぁ!!!」
 一気に目が覚めた。

 「?」
 クラス全員が霊否の方を見る。

 「お前っ!でてくるなっつったろーが!!」
 メドゥーサを慌てて机の下に隠し、小声で言う。

 「どうかしたか平等院」
 町山先生が眠くなる声でいう。

 「いえ〜〜〜、あー・・・えっとお腹痛いんでトイレ行ってきますぅ・・‥‥」

 霊否はメドゥーサを鞄に突っ込んで、そそくさと教室を出た。


 ︎ ︎ ︎

 「いだぁ!」
 女子トイレにて小さな悲鳴が響く。

 霊否がメデューサの小さな額に強烈なデコピンを喰らわせたのだ。

 「言ったよな?出てくるな。喋るなって!」

 「だって〜、鞄の中にいるの退屈だったんだもん!!」

 「次約束破ったらこれが×10回」
 中指を親指に引っ掛けてデコピンリロードしてみせる。

 「それ嫌!絶対!!」
 メデューサは小さな両手で額を守る。

 「はあ・・・全く」
 便座に腰をかけて頭を抱える。
 
 「そうだ、昨日聞きそびれたけどさ‥メデューサ、おまえは一体何者なんだ?」
 
 「あぁ、それはね‥」
 メドゥーサが語り出そうしたその時、

 「平等院さん大丈夫?」
 クラスの女子がトイレ越しに話しかけてきた。とっさにメドゥーサの口を手で塞ぐ。
 「むぐっ!」メドゥーサの小さな叫び声が聞こえる。

 「ああ、大丈夫!!ありがとう。今月ちょっと重くて」
 
 「そうなんだ。」
 その声は、心配というよりはどことなく言わされてる感があった。

 「じゃあ、先生にそれとなく言っとくわ」
 といって去っていった。

 去り際に小声で
 「ちっ、なんであたしが。先生が見に行けって言うから仕方なくきたけどさ」
 と言っているのが聞こえた。

 やっぱそうか。
 あたしを心配してるわけじゃないんだなぁ
 
 クラスでの居場所の無さを再認識し、少し落ち込む。

 その時、メドゥーサが自分の口を押えていた霊否の手をガブっと噛んだ。
 「ぎゃっ!」

 「ん?」
 クラスの女子が足を止める。

 「おンまえっ・・・・・!」
 メドゥーサはべーと舌を出して霊否を挑発した。

 霊否は再びメドゥーサの口を押えようと捕まえにかかる。
 メドゥーサは小さな体でトイレの個室の中を逃げ回る。
 「こいつ!!」個室のドアや壁に何度も激突し、そのたびにバタバタと音が鳴る。

 「平等院さん?」
 クラスの女子が不審そうに言う。

 「なに暴れてんの?」

 「あぁーーー?、いや、これは‥なんかドアの鍵が開かなくて、ぶっ壊れてんのかなぁこれ。あははは」

 必死に誤魔化そうとする霊否の傍でメドゥーサはガチャガチャと鍵を開け、外に出ようとしていた。「あ、これか!」鍵の構造を理解したメドゥーサが鍵を開くと、同時に個室のドアが開く。

 「空くじゃん」
 クラスの女子が外側からドアを開けていたのだ。

 メドゥーサを取り押さえている霊否。
 トイレの個室の前で立ち尽くしているクラスの女子と完全に目が合う。

 ドアがキィキィと音を立てている。

 見られた、メドゥーサを

 完全に
 見られた。

 「いやぁーー‥、あの‥これは‥」

 どうする
 どう説明する。


 どう____、

 「なに騒いでんの?」
 と、クラスの女子が言う。

 「・・・・・・え?」

 「元気なら早く戻ってきなよ」

 「あぁ‥‥、うん。」
 思わぬ反応に霊否は言葉が出なかった。

 「なに?」

 「えっと‥‥いや、なんでもない」

 まさかメドゥーサは‥‥

 霊否は昨夜の刺客たちを思い出した。

 あいつらはメドゥーサについてはなにも言ってなかった。視界には入っていたはずなのに。
 服の変化に反応しているのなら、こいつの存在について触れても良さそうだが。

 「もしかしてお前、あたしにしか見えないのか?」

 メドゥーサは舌を出して「てへ」っとウインクした。
 
 「お前なぁ‥」

 こいつ、最初からわかってたな


 ︎ ︎ ︎

 上星うえぼし 和成かずなりは今朝から霊否の様子がおかしいことを気にかけていた。
 休み時間に彼女に声をかける。

 「平等院さん」

 「うわぉ!!!」
 霊否は驚いて上星の方を見る

 「ごめん、びっくりさせて」

 「なんだウェボシーか。」

 「なんかあった?今日様子おかしくない?」

 霊否は少し考えたあと、

 「実は‥」



 ︎ ︎ ︎

 「襲われた?!」

 学校の屋上でお昼ご飯を食べながら上星と大宗おおむね 平善へいぜんは同時に声を上げた。

 霊否は昨日あったことについて話したいと上星と大宗を昼休みに呼び出したのだ。

 屋上では霊否たちと同じように昼食と食べている生徒が数人いた。

 大宗はコンビニのコロッケパンと焼きそばパンとスープ。
 上星はコンビニのおにぎりと唐揚げと味噌汁。

 霊否はピンク色の小さいお弁当箱に白いご飯、ウインナー、卵焼き、ひじき、たくあんの漬物が入っていた。

 霊否は白いご飯にふりかけをかけながら続けた。

 「そう、そしたらメドゥーサとかいう妖精みたいなのが現れて‥」

 メドゥーサの力で悪魔のような容姿のロリータファッションに変身したこと、目の能力で動きを止めることができたことなど洗いざらい話した。

 「その妖精、メドゥーサはあたしにしか見えないみたい。さっきクラスの女子にメドゥーサといるところを見られたけど特に驚いた様子がなかったし」
 
 大宗は霊否から聞いた話をメモ帳に記しながら、「なるほど」と戸惑いながらも呟いた。そんな非現実的な情報を聞いて、へえそうなんだと受け入れられるはずがない。

 「よし、予定通り今日の放課後、早速風紀委員を訪ねてみよう。今平等院さんが話してくれた件も含めてね」

 風紀委員長、玖源くげん 煌玉こうぎょく
 
 霊否が掟を破った際、玖源は生徒会長に対して恐れず意見を述べていた。
 彼女を味方につけることができれば、生徒会に対抗するための強い戦力となるはずだ。
 
 「ところで平等院さん」
 大宗が言う。

 「そのお弁当、自分で作ってるの?」
 「え?、あぁ、まあそう」

 「凄いね、卵焼き一口もらっていいかな」

 「お、いいよ」

 「うま!!!」
 醤油と出汁がよく聞いた卵にふっくらとした焼き加減。
 あまりのおいしさに大宗は思わず声を上げた。

 「平等院さん!俺ももらっていいかな?」
 上星も言う。

 「いいけど」
 霊否は笑いながら言った。


 ︎ ︎ ︎

 霊否、上星、大宗の3人は放課後に風紀委員に向かった。

 風紀委員は南校舎の2階にある。

 戸をノックをすると

 「入っていいよ」 
 中から声がした。

 ハキハキとした明るい声。

 おそらく風紀委員長、玖源煌玉の声だ。 
 3人が入ると

 「いらっしゃい」
 玖源煌玉が出迎えた。
 中は教室1個分くらいの大きさで、中では生徒数名がパソコンで何やら作業をしたり、紙に何か書いたりしている。

 「2-B、大宗平善といいます。俺たち、あなたに相談したいことがありまして」
 大宗が話した。
 「相談?」
 玖源はそう言って、

 「いいよ、こっちへ」
 教室の隅にあるパーティションで区切られた場所に案内された。中には机と椅子が用意されていた。

 霊否、上星、大宗の3人が並んで座り、向かいに玖源が座る。

 大宗は佐藤と早川の連続した死、それが祟りなのではないか言われていること。
 掟を破った霊否が祟りを引き起こした原因と噂されていることを話した。

 「掟を破ったのは平等院さんだけじゃないと思うんです。誰にも知られていないだけで、多くの人が掟を破っています。正直いうと俺も何回か西門を通ったことがあります。
 仮に西門を通ることが、祟りが発生するトリガーだとしたらこれまで何回祟りが起こっていたことでしょう。

 今回、平等院さんが祟りを破った時は学校中の人が見ていた。
 そのタイミングでのみ祟りが発生しているということは誰かが人為的に起こしているとは考えられないでしょうか。

 いま、平等院さんはクラスでも孤立してしまっています。学園に関係する誰かが平等院さんの掟破りを利用して人を殺している。我々はその犯人を突き止めたいと考えているんです。」

 「なるほどな。それで私に力を貸して欲しいと」
 玖源は腕を組み直した。なにから考えている様子だった。

 霊否、上星、大宗の3人はごくりと息を呑む。玖源の協力を得ることは霊否たちのとって絶対条件だった。

 しばらくして、玖源が口を開く。
 「私も以前から生徒会のやり方には否定的な意見を持っていた。学園の規則を暴力的な方法で正そうとする考えには同意できなくてね。

 ここ風紀委員はそのための施設。生徒会のやり方に反対するものが集まり、よりよい学校にしていくための団体だ。

 生徒会はこれまでも規則を守るためとお仕置きによって暴力による支配を続けてきた。
 
 祟りについては私の方でも色々と調べていてね。私が思うに、あれは十中八九、人間の仕業だ。そして生徒会は、祟りを利用してこの学園を支配しているんだ。 」

 玖源は立ち上がり、
 「平等院霊否、上星和成、大宗平善、私をはじめ風紀委員全員で君達に全面的に協力しよう。」
 と3人の目を見て言った。

 「やった!」
 霊否は上星の顔を見て言う。
 「ありがとうございます!」大宗がそういうと、

 「お礼を言うのはこちらの方さ。」
 そう言って頷いた。

 「とりあえず今後は
 ①次々と起こる事件の原因
 ②祟りの発端となった20年前の殺人事件の詳細な情報
 この2つを調査する方向で進めてみよう。

 ①次々と起こる事件の原因
 は我々風紀委員の方で調査を進めておく。

 君たち三人は
 ②祟りの発端となった20年前の殺人事件の詳細な情報
 について調べてみてくれ。
 わかったことがあれば随時情報共有を頼む。」


 ︎ ︎ ︎

 今後の方針が決まったところで今日のところは解散となった。

 「上星。悪いが平等院を家まで送ってやってくれないか。また刺客に襲われるかもしれない。」
 と玖源煌玉が言った。

 「いや、そんなんいいよ。悪いし。」
 と、霊否が言う。

 「今度は攫われるかもしれないぞ。上星、どうだ?」

 「俺は、大丈夫!送るよ!」
 霊否と一緒に帰れる絶好のチャンス。上星は当然OKだ。

 「まあ、ウェボシーがいいなら‥」
 霊否はそう言って、カバンを肩にかけた。


 ︎ ︎ ︎

 霊否と上星は二人並んで帰路についた。上星が道路側を歩く。

 会話の無い、沈黙が続く。
 気まずい

 なにか話さないと、つまらない奴だと思われるよなあ・・
 上星は少し焦る。

 霊否も気まずいと思っているのかなと霊否の方を見てみる。

 すると、
 霊否の綺麗に整えられた艶やかな髪が見える。
 こうして並んで歩くと霊否は結構背が小さいと思った。
 上星は178センチなので男子の中でも大きい方だ。
 霊否は160センチないくらいだろうか。

 霊否に見惚れていて、沈黙を忘れていた。
 何か話さなくて
 
 「いやぁ〜、よかったよね!玖源さんの協力が得られるようになって!」
 と、上星は話を切り出した。

 「あぁ、うんそうね」

 「あー・‥、よかったよね」

 「よかった、よかった‥」

 会話終了。こういうときどんな話すればいいんだ‥

 「いやぁ〜、それにしてもメドゥーサだっけ?妖精がいるなんてすごいよね」
 再び話題を切り出す上星。

 「そうだね。あたしもめっちゃびっくりしたよ」

 「そのメドゥーサってのは今もここにいるの?」

 「いまはね、ウェボシーの顔の前にいる。」

 メドゥーサは上星の顔の前でふよふよと浮いて、
 「この子、背が高くてかっこいいね!イケメンだ!」
 そう言った。
 
 「えぇ?!そうだったの?全然分からないな。言ってよ!」
 上星は「どこどこ?」とあたりを見回す。

 「ふふふふ、ごめん」
 霊否はあはははと笑う。

 「あ、ついた。ここあたしの家」
 霊否が示した家は、3階建てくらいの古いアパートだった。

 「せっかくだから上がっていきなよ。お茶でも出すよ」

 ︎ ︎ ︎

 「麦茶でいい?」
 霊否が冷蔵庫を開けながら言った。

 7畳くらいのリビングと部屋が1つあるような小さなアパートだった。
 上星がイメージしていた女の子の部屋とは程遠い、質素な家だった。
 
 「母さん、友達だよ。」

 霊否がそう言って、車椅子に座わった30代くらいの女性に話しかけた。リビングで、窓の方を向いて無言でどこか遠くを見つめるようだった。
 足は上星の腕よりも細く、何年も歩いていないことがわかる。

 「ボロいっしょ」
 と霊否

 「いや、そんなことないよ!」

 上星は慌てて言った。
 とりあえず霊否の母親らしき女性に挨拶した方がいいかと考え、近づいて、

 「初めまして、霊否さんのクラスメイトの上星和成と言います。」
 と言った。

 霊否の母はこちらを見向きもせず、ただ窓の方を見つめていた。

 「話しかけても答えないよ。」
 霊否が麦茶をテーブルに置きながら言った。

 「もう何年のそんな感じなんだ。」

 「病気‥なの?」
 聞いていいのかわからないと思いながら上星は訪ねた。

 霊否は「まあ、そんな感じかな」と答えた。
 「うちね、父がちょっと問題がある人で‥まあDV的な?母さん、それで病んじゃって‥」

 「そうなんだ‥そのお父さんは?」

 「私が小学生くらいの頃に死んじゃった。
両親の貯金と母形の祖父と祖母の仕送りで暮らしてるんだ。」
 
 そう言って霊否は母親の方を見た。
 「ごめん、なんか暗い話になったね」
 上星の方を向いて少し笑った。

 「いや、いいよそんな」
 と上星

 「あたしね、ウェボシーにはちゃんと言わないとって思ってたことがあったんだ」
 体ごと上星の方を向き、改まったように言う。

 「あたしを助けてくれてありがとう。」

 「いや‥‥全然っ‥!」
 上星は霊否の思わぬ言葉に動揺した。
 「俺はただ、間違ってることをしてるなって思って‥‥!」
 
 「ははは」
 霊否は笑った。

 彼女の笑顔はとても可愛かった。


 ︎ ︎ ︎
 翌日

 3-D 渋谷しぶや あかねが昨日の夜から行方不明になっていると担任から連絡があった。
 現在警察が捜査しているとのことだった。

 「これで3人目か‥」
 佐藤、早川に続いて今日の渋谷・・・・

 壇ノ浦学園の生徒には西門へ近づいてはいけないことに加えて集団登校、集団下校が義務付けられた。
 そして怪しい人物には絶対に近づかないことが徹底された。

 2年の間では祟りの原因と噂される霊否の話題で持ち切りだった。

 「平等院さんが転校してきてから祟りが始まったって噂だよ」
 「あーー、転校初日に掟破ったやつね・・・」
 「しかも転校生だからってお仕置き受けてないらしいよ」
 「えーー、やば、じゃあ、やっぱりこの祟りって・・・・」

 この日は気分が悪くなり早退する生徒が相次いだ。無理もないだろう。


 ︎ ︎ ︎
 「平等院さん、祟りが噂の件、気にしなくていいよ」
 上星が霊否に言う。

 「うん、ありがとう」 

 「早いとこ真相を突き止めないとな。」
 大宗が言う。

 「玖源煌玉から頼まれていたミッションのおさらいだ。
 祟りの発端となった20年前の殺人事件の詳細な情報の収集
 これが俺たちの目的だ。」

 「今週の土曜日、3人で図書館に行こう!そこで調査しよう」
 と上星が言った。


 ︎ ︎ ︎
 上星は家に帰ると父親のパソコンを開き、早速「壇ノ浦学園 殺人事件」と調べてみた。

 図書館に行く前に軽く調べておこうと思ったのだ。
 すると、"壇ノ浦町女子高生連続殺人事件"のサイトが出てきた。

 サイトにはこう書かれていた。


 壇ノ浦町女子高生連続殺人事件とは、1988年《昭和63年》2月に壇ノ浦町で発生した女子高生を狙った連続殺人事件の総称である。

 女子高生(当時17歳 壇ノ浦学園3年)が相次いで同級生を殺害した、未成年による連続猟奇殺人事件。


 なんだと‥‥、犯人は当時未成年。しかも壇ノ浦学園の生徒だったのか!!

 サイトを続けて読む


 事件が発生したのは3回。

 第一の事件は1988年《昭和63年》2月10日《水》16時35分頃、壇ノ浦町常盤台一丁目1番 ときわ台公園にて発生。
 近所に住んでいた主婦から女子高生2人(壇ノ浦学園3年生)が倒れていると通報があった。通報時点で既に被害者は亡くなっていた。
 現場には証拠が一切残っていなかった。
 
 第二の事件は、同月16日《火》18時27分頃、壇ノ浦町常盤台二丁目1番 住宅街の路上にて女子高生2人が倒れていると通報があった。
 被害者が同じ学校の同じクラスであることから10日の事件との関連性が示唆された。
 警察はこの時点で本事件を連続殺人事件とし、女子高生ばかりを狙う固執性と猟奇的な点から犯人は30代〜40代の男性と見て捜査していた。

 第三の事件は、同月24日《火》12時27分頃、壇ノ浦学園にて発生。
 1名が死亡。3名がナイフで手や足を切り付けられるなどの重軽傷を負った。
 この事件で犯人が被害者と同じクラスの少女A(仮名)であることがわかった。


 今わかるのはこれくらいか・・・・
 サイトの情報は限られているし、信憑性も薄い。真実を知るには書籍からの情報の方が良い。


 ︎ ︎ ︎

 翌日

 上星は待ち合わせ場所である駅に向かうと
 「おう、ウェボシー。」

 霊否が先に来ていた。

 白いシンプルなTシャツにスラリと伸びた長い足には青色のジーパン、スニーカー。黒いバック
 自然なメイクに髪は少しウェーブがかかっている。

 最後に大宗が来て、三人で図書館に向かう。
 向かう途中で大宗がこそことと上星に言ってきた。
 「休日に指定したのはこのためか?」
 
 霊否をチラチラ見ながら言う。
 
 うるせぇな。
 そうだけど


 ︎ ︎ ︎

 図書館についた3人は検索機にて「壇ノ浦町女子高生連続殺人事件」と検索してみた。

 「あれおかしいな」
 検索にヒット無しと出たのである。

 「別のキーワードならどうだ?」
 大宗がそう言い、
 「壇ノ浦学園 事件」 「壇ノ浦町 事件」のワードで検索してみたが、「壇ノ浦町女子高生連続殺人事件」に関する書籍は一冊もヒットしなかった。

 「おかしいな、一冊もヒットしないなんて。」
 3人は図書館のスタッフに聞いてみることにした。

 「すいません、本を探して欲しいんですが」
 
 「はい、どのような本を」

 「壇ノ浦町女子高生連続殺人事件についての本、無いですか?」

 すると、スタッフの顔つきが急変した。そして冷たく、

 「無いです。」

 と言った。

 「そんな、調べもしないで」

 「申し訳ありませんが、当館では壇ノ浦町女子高生連続殺人事件についても資料は取り扱ってないんです。」

 「ちゃんと調べてくださいよ」
 上星が必死に訴えかける。

 「ウェボシー、行こう。」
 大宗にさとされ、三人は図書館を出た。


 ︎ ︎ ︎

 図書館を出て、大宗が言う。
 「俺もある程度調べてきたんだ、事件のこと。
 未成年の猟奇殺人ってことで当時は世間的にもかなり大騒ぎになったらしい。
 それなのに事件に関する本が1冊も無いのはおかしい。」

 「となると‥」

 「事件の事実を隠している可能性が高い。それも壇ノ浦町全体としてな」

 祟りの原因となる20年前に発生した壇ノ浦町女子高生連続殺人事件。
 その事件の真相が隠蔽されている?
 壇ノ浦町全体としてそういった方針になっているのか。

 「20年前の壇ノ浦学園に、一体何があったんだ・・・」



 ︎ ︎ ︎


 電話が鳴った。
 「私です。」

 「壇ノ浦町図書館です。今日、例の事件に関する本はないかと聞いてきた学生がいました。念の為報告しておきます。」

 「そうですか。その学生とはどんな人物だったでしょうか?」

 「男子生徒2人に女子生徒1人。男子生徒は背が高い短髪の男と小太りのメガネ。女子生徒は黒髪ロングの子です。」

 黒髪ロングの女子生徒‥

 「了解しました。報告ありがとうございます。」

 「いえ、では」

 電話を切った。

 「例の転校生でしょうか。」
 傍にいた女が紅茶を注ぎながら話しかける。

 「おそらくな。」

 窓に向かって腕を組みながら続ける。
 「平等院霊否、上星和成、大宗平善‥なにやら嗅ぎ回ってやがるな、あの3人」

 「先日送った刺客も、剣を奪えなかったようですしね」
 女は紅茶をテーブルに置きながら言う。

 「まあ、問題はない」

 紅茶に口をつけ、続けた。
 「奴は使える時に使ってやるさ」
 自分の首から下げた勾玉をぐっと握りしめた。

 「そうですね、会長」
 メガネが暗闇で光った。








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【次回予告】

 上星 和成だ!20年前の事件を調べようと思ったのに思うように情報が手に入らないな・・・
 あ、学校の先生ならなにか知ってるかもしれない。あきらめずに探してみよう!

 次回、AstiMaitriseアスティメトライズ #3 「The Battleバトル Flameフレーム Colosseumコロシアム
 すべては、AstiMaitriseの名のもとに!






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