他に寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
プロローグ③
そして迎えた舞踏会当日。会場では貴族の令息、令嬢達はわたくしに、誰も声を掛けては来ない。わたくしも舞踏会が終わるまで壁の花でも、気にすることはなかった。
国王陛下の賛辞も滞り無く終わったことだし、お父様の顔も立てたからと、従者を呼び屋敷に帰ろうとした。そんなわたくしの側に影が落ちる「僕と一緒に踊ってはくれませんか?」とつじょ現れた見目麗しい男性に、わたくしは困惑した。
『すみません、わたくしは帰りますので他の令嬢をお誘いください。皆さん、あなたに声をかけられることをお待ちしておりますわ』
お断りを入れてその場を離れようとした、わたくしの手を掴み、強引に会場の真ん中へと連れ出した。
『なっ、手を離してください!』
デビュタントのダンスで嫌な思いをしてから、自分の手に触れられるのは苦手だ。『コレが女の手か?』と、ダンスを踊った後に言われて、周りの貴族達に笑われたからだ。
『離して! 女なのに酷い手だって、跳ねっ返りの、公爵令嬢だと思っているのでしょう?』
『私は気にしない、君の手は綺麗な女性の手だよ』
『え?』
彼は手慣れた仕草で、わたくしの手の甲へキスを落とし、生演奏が奏でられてワルツが始まる。
『さぁ、私の手を取って』
『えぇ……(なんて、強引な方なの)』
この剣だこの手を嫌がらないなんて……彼と踊る最中、前で流れる金色の髪に青い瞳、微笑んだ顔に心を射抜かれて、恋を知らないわたくしは彼に恋心を抱いた。舞踏会から一週間後には彼からデートの申し込み。さらに、一ヶ月後には婚約の申し出があった。
彼は伯爵家コール・デトロイト――貴公子と貴族の中で噂される伯爵家の長子だ。
その申し出に初めは伯爵家だからと、わたくしに苦労させたくないと両親は反対をしたが。彼と一緒に説得をして承諾してもらい、半年後に彼の婚約者になった。
(今日はどんなドレスを着ようかしら?)
わたくしは毎日欠かさずしていた訓練もせず、剣も握らずドレス選びと美容に明け暮れた。仕舞いには騎士団養成所の入団も、花嫁修行が有るからとお断りをいれた。
初めての恋に浮かれたのだ……命よりも大切な剣を捨てても、あなたの側にいたいと願った。彼もわたくしだけを見てくれると信じきっていた。
『リイーヤ、綺麗だ』
『コール様』
会うたびに囁かれる彼の優しい言葉を鵜呑みにして、花嫁修業が終わった三ヶ月後に彼と結婚した。
そして迎えた初夜。わたくしは大人びたナイトドレスに身を包み彼が訪れるのを、心を張り詰め待っていた。しかし、数時間後に訪れた彼はわたくしにこう言ってきた。
『その格好……期待させて悪かった。私は君を抱くことはない』
『どうして?』
『私には心から愛する、リリィがいる』
『……リリィ?』
彼には数年前から寵愛するメイドのリリィがいるのだと。彼女は平民でお義父様から許しが出ず結婚ができないと告げられた。
しかし伯爵家では跡取りが必要だ。彼女との関係を続けるには何も口を出さない、形だけの妻が彼には必要だったのだ。あの舞踏会で剣に明け暮れ男性などまったく興味もなく、公爵家で家柄も良いわたくしに彼は目を付けた。
わたくしに剣さえ握らせておけば、何も言わないと思ったのだろう。
彼は悪びれもせずこう言いのけた。
『これで君も周囲から何も言われず、剣が握れる助かっただろう? 君は剣を取り、私は彼女を取る。跡取りだって君の子だと彼女が産む。君も私に遠慮なく好きな人を作ればいい』
『……!』
言いたいことだけを言い彼は愛しの彼女の所へと戻って行った。寝室にぽつんと取り残された大人びたナイトドレス姿のわたくし……。
あなたは、わたくしが剣を捨てると思わないの?
貴方に恋心を抱いたとは思ってくださらなかった。それ程まで彼の頭の中はそのメイド一色だったなんて……今更後悔しても遅い、騎士団養成所よりも彼を選んだのはわたくしだ。
愛も、剣も掴めなかったわたくしには何も残っていない。残ったのは馬鹿な女だけ……両親に"彼に愛されている"と浮かれていた、あの頃のバカなわたくしが、恥ずかしくてたまらない。
『うっうう…………うっ……わぁああっ……』
その夜、自分の愚かさに恥じて声を殺して一晩中泣いた。次の日、彼に今日から君の部屋だと離れに追いやられた。この結婚に国王陛下から祝辞をいただき。わたくしのわがままで両親の反対を押し切り結婚したゆえ、両親にも言うことができなかった。
一年が過ぎても、相変わらずの生活をおくっていた。
わたくしは剣を握ることなく、離れでメイドが選んだ本を読んでいた。つぎに手に取った本はリルガルド国の法律に関するものだった。
(これは……?)
リルガルド国では一度結婚をしたら離婚は許されないとされている。しかし、例外があったのだ。二年間の間に子供ができなかった場合と、どちらかの死亡で離婚ができると知った。
二年まてば離縁できると希望が持てた。
国王陛下の賛辞も滞り無く終わったことだし、お父様の顔も立てたからと、従者を呼び屋敷に帰ろうとした。そんなわたくしの側に影が落ちる「僕と一緒に踊ってはくれませんか?」とつじょ現れた見目麗しい男性に、わたくしは困惑した。
『すみません、わたくしは帰りますので他の令嬢をお誘いください。皆さん、あなたに声をかけられることをお待ちしておりますわ』
お断りを入れてその場を離れようとした、わたくしの手を掴み、強引に会場の真ん中へと連れ出した。
『なっ、手を離してください!』
デビュタントのダンスで嫌な思いをしてから、自分の手に触れられるのは苦手だ。『コレが女の手か?』と、ダンスを踊った後に言われて、周りの貴族達に笑われたからだ。
『離して! 女なのに酷い手だって、跳ねっ返りの、公爵令嬢だと思っているのでしょう?』
『私は気にしない、君の手は綺麗な女性の手だよ』
『え?』
彼は手慣れた仕草で、わたくしの手の甲へキスを落とし、生演奏が奏でられてワルツが始まる。
『さぁ、私の手を取って』
『えぇ……(なんて、強引な方なの)』
この剣だこの手を嫌がらないなんて……彼と踊る最中、前で流れる金色の髪に青い瞳、微笑んだ顔に心を射抜かれて、恋を知らないわたくしは彼に恋心を抱いた。舞踏会から一週間後には彼からデートの申し込み。さらに、一ヶ月後には婚約の申し出があった。
彼は伯爵家コール・デトロイト――貴公子と貴族の中で噂される伯爵家の長子だ。
その申し出に初めは伯爵家だからと、わたくしに苦労させたくないと両親は反対をしたが。彼と一緒に説得をして承諾してもらい、半年後に彼の婚約者になった。
(今日はどんなドレスを着ようかしら?)
わたくしは毎日欠かさずしていた訓練もせず、剣も握らずドレス選びと美容に明け暮れた。仕舞いには騎士団養成所の入団も、花嫁修行が有るからとお断りをいれた。
初めての恋に浮かれたのだ……命よりも大切な剣を捨てても、あなたの側にいたいと願った。彼もわたくしだけを見てくれると信じきっていた。
『リイーヤ、綺麗だ』
『コール様』
会うたびに囁かれる彼の優しい言葉を鵜呑みにして、花嫁修業が終わった三ヶ月後に彼と結婚した。
そして迎えた初夜。わたくしは大人びたナイトドレスに身を包み彼が訪れるのを、心を張り詰め待っていた。しかし、数時間後に訪れた彼はわたくしにこう言ってきた。
『その格好……期待させて悪かった。私は君を抱くことはない』
『どうして?』
『私には心から愛する、リリィがいる』
『……リリィ?』
彼には数年前から寵愛するメイドのリリィがいるのだと。彼女は平民でお義父様から許しが出ず結婚ができないと告げられた。
しかし伯爵家では跡取りが必要だ。彼女との関係を続けるには何も口を出さない、形だけの妻が彼には必要だったのだ。あの舞踏会で剣に明け暮れ男性などまったく興味もなく、公爵家で家柄も良いわたくしに彼は目を付けた。
わたくしに剣さえ握らせておけば、何も言わないと思ったのだろう。
彼は悪びれもせずこう言いのけた。
『これで君も周囲から何も言われず、剣が握れる助かっただろう? 君は剣を取り、私は彼女を取る。跡取りだって君の子だと彼女が産む。君も私に遠慮なく好きな人を作ればいい』
『……!』
言いたいことだけを言い彼は愛しの彼女の所へと戻って行った。寝室にぽつんと取り残された大人びたナイトドレス姿のわたくし……。
あなたは、わたくしが剣を捨てると思わないの?
貴方に恋心を抱いたとは思ってくださらなかった。それ程まで彼の頭の中はそのメイド一色だったなんて……今更後悔しても遅い、騎士団養成所よりも彼を選んだのはわたくしだ。
愛も、剣も掴めなかったわたくしには何も残っていない。残ったのは馬鹿な女だけ……両親に"彼に愛されている"と浮かれていた、あの頃のバカなわたくしが、恥ずかしくてたまらない。
『うっうう…………うっ……わぁああっ……』
その夜、自分の愚かさに恥じて声を殺して一晩中泣いた。次の日、彼に今日から君の部屋だと離れに追いやられた。この結婚に国王陛下から祝辞をいただき。わたくしのわがままで両親の反対を押し切り結婚したゆえ、両親にも言うことができなかった。
一年が過ぎても、相変わらずの生活をおくっていた。
わたくしは剣を握ることなく、離れでメイドが選んだ本を読んでいた。つぎに手に取った本はリルガルド国の法律に関するものだった。
(これは……?)
リルガルド国では一度結婚をしたら離婚は許されないとされている。しかし、例外があったのだ。二年間の間に子供ができなかった場合と、どちらかの死亡で離婚ができると知った。
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