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他に寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

プロローグ①

 今宵は結婚ニ周年のお祝いの夕食の席で、旦那様はわたくしが妊娠して三ヶ月だと、嘘の診断書を出して義理の親に知らせた。それに"待った"をだして、子供ができたと喜ぶ義両親にわたくしがまだ男性と経験がないことを記した、三ヶ月前の診断書を見せた。

 テーブルにならべえられた二つの診断書を見て、義両親は震え声を上げる。

「これは、一体どういうことだ!」
「コール、どういうこと?」

「いっ、いや、そっちの診断書が間違っていて、リイーヤは妊娠している」

 往生際の悪い旦那様は嘘をつきそうとした。
 それに、わたくしは本当のことを告げる。

「いいえ、妊娠などしておりませんわ。旦那様の子を妊娠したのはそこにいる、ピンクの髪色のメイドです。お義母様これを見てください」

 わたくしは旦那の浮気相手のメイドを診察した、診断書も義両親に見せた。

「お前は、なんてことをしたんだ!」

 食堂で義父は旦那様のむなぐらを掴み、義母は問題のメイドに詰め寄る。フフ、2人は必死よね。毎月、わたくしの実家から多額の支援をうけているのですもの。義父、リザルト伯爵家は領地の管理をするだけで、公爵家ばりの裕福な暮らしができている。

 わたくしと離婚すれば全てを失う。

 それなのに、旦那様は平民出のメイドと浮気をして妊娠させた。この事実をわたくしのお父様がしったら、即毎月の援助は即打ち切り。わたくしへの慰謝料として領地はとりあげられて、あとは没落への道しか残らない。

「リイーヤ、頼む。嘘だと言ってくれ」

「嘘もなにも、わたくしが出した診断書に書いてあることは本当のことですわ。あなた、その診断書をよくご覧になって。王族専用、侍医と国王陛下の判と署名が押されているでしょう? わたくし噓はつきません……ふうっ、本日は疲れたので、これで失礼いたします」

「待て、リイーヤ!」

 騒ぎ立てる彼らをおいて離れに戻り、部屋に鍵をかけて、動かせるものを全て扉のまえに置いた。ようやく旦那様との結婚に終わりを迎えられる……わたくしの後を追ってきた義両親と旦那様を無視した。

 今夜。彼が義両親にせかされて、わたくしを襲うかもしれない。

 いま襲われてしまうと、一生ここから逃げられなくなる。明日の早朝、早馬でお父様宛に届く手紙と診断書、離縁書がすべて無駄になってしまう。

 いまさら、初めてをあなたにあげないわ。
 せいぜい、嘘偽りを言って足掻きなさい。

 ドレスを脱ぎ捨て髪を結び、乗馬服に着替えた。誰が、あのメイドのお下がりの服なんて着るのよ。持っていくものは少しのお金と、足となる馬があればいい。

 部屋の入り口には無理に開けようとしてガタガタ音を鳴らし「出て来い」「出てきなさい」と叫ぶ。わたくしはそっと窓から屋敷を抜けだし、馬小屋で彼の馬の縄を解き、鞍をかぶせて跨った。
 
「さあ、行きましょう」

 馬を走らせ一気に屋敷から駆け出す。屋敷の門を通るときわたくしに気付いた、門番は驚いた表情で声を上げて"奥様!"と呼んだ。

(けして振り向かない。いまからでは絶対に追いつけない)

明朝。手紙で事情を知ったわたくしの両親が今日――離縁状を国王陛下に提出してくれるはず。彼の浮気の証拠もあるし、メイドとの子供、わたくしが未経験だという証拠もある。

「さよなら」

 明朝。わたくしの手紙で事情を知った両親が、すぐ離縁状を国王陛下に提出してくれる。彼の浮気の証拠もあるし。メイドと彼の子供、わたくしが未経験だという証拠もある。

「さよなら」

 わたくしは振り向くことなく、真っ直ぐ馬を走らせた。

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