K.O.(恋に落ちても)いいですか?~格闘家な年下君と、病弱薬剤師な私~
第二十八話
調査五日目。
しばらく晴れが続いていたのに、今日は朝から冷たい雨だ。
散歩に行けないブルーは暇そうに窓の外を見つめている。
「おはようございます、杏子さん。体調は完全に元通りになりました」
「おはよう青くん。元気になってよかった!」
朝食を食べながら、今日はどうしようかという話になる。
「昨日、寝る前に妹から連絡が来たの。今日の昼に会えないかって。多分仕事の愚痴だと思うんだけど、一緒に行ってもらうことってできるかな?」
「妹さんがいるんすね。大丈夫ですよ」
「そうそう。青くんの試合を一緒に見に行ったのも妹なの。この春から横浜で働いてるんだけど、社会人の洗礼を受けて大変みたい。この姿で会うのはどうかと思ったんだけど、けっこう辛そうだから放っておけなくて」
「……っす。じゃあ午後はそのまま横浜で手掛かりを探しますか」
「そうだね。赤レンガとか中華街は人も多いし、いろんなお店もありそう」
電車で行くつもりだったけど青くんが車を出してくれた。例のかっこいいスポーツカーである。
道中「この車、すごいよねえ。青くんは車が好きなの?」と尋ねてみると、「いや、興味ないですね。これはもともと親父に買ったんですけど、軽トラのほうが便利だって言われちゃって。もったいないんで使ってる感じっす」と教えてくれた。
「ふふっ。じゃあ、軽トラックを贈り直したの?」
「そうしようと思ったんですけど、『んなこと気にするな。お前が稼いだ金は自分で使え』って誤魔化してましたね。……昔から自分のことはいいっていう性格だったんで、照れくさかったのかもしれないです」
「素敵なお父さんだね」
「……ですね。今でも試合前は必ず連絡くれますし。男手一つでここまで育ててくれたのはありがたいっす」
そう言う青くんも、親孝行で素晴らしいと思うけど。
あいにくの雨模様だけど、車内には和やかな空気が流れていた。
待ち合わせの山下公園に着くころには雨も上がり、東京湾には虹がかかっていた。
妹を探していると、どんよりとした様子でベンチに座る若い子が目に入った。
「あっ、あれだ。妹の桃子です」
「……見るからに落ち込んでますね」
わたしが声をかけるわけにはいかないので、彼に妹を呼んでもらう。
妹はがばっと振り返り、べそをかきながら突撃してきた。
「おねえ~~~~! ありがと~~~~! うわーん、社会人つらいよぉ~~!!」
無表情の青くんに抱き着いた妹に複雑な気持ちを抱きつつ、コホンと咳払いする。
「あの、こんにちは。今日は俺も着いてきちゃいました。すみません」
「えっ!? 空谷選手じゃないですか! なんで? どうして?」
とたんに涙が引っ込んだ妹は目をキラキラさせてわたしを見上げる。ほんとミーハーなんだから……。
「偶然なんですけど、小森さんの薬局がかかりつけなんです」
「そうなんですか! わたし、妹の桃子です。姉がお世話になってます!」
実の妹と握手を交わすという経験はなかなかないと思う。
椿原店長と違って桃子は勘とは無縁な鈍い子だから、入れ替わりがバレる心配はまずないだろう。
ストレスを抱え込んでいるという妹の愚痴を聞くため、わたしたちは中華街の食べ放題レストランに移動した。
「えっ、お姉のおごり? いいの? わたし遠慮とかしないから、ありがたくご馳走になっちゃうよ」
「なんか大変そうなんで、いいですよ」
「ありがとーっ! でもお姉ってばキャラ変えたの? それとも空谷さんの前だからクールぶってるだけ? それ、ちょっと変だよ」
変だよ、と言われた青くんはショックを受けた顔をしていた。
(ごめん青くん! 家に帰ったらフォローしないと……!)
心配していたものの、妹は何度もおかわりを取に行き食欲旺盛だった。食べられるならまだ大丈夫だとホッとする。
鬱までいってしまうと食欲すらわかなくなるからね。
食事に満足するなり妹はくだを巻き始める。
「わたしは柔術整復師になったのに! どうして店の前でチラシを配らなきゃいけないの? 施術してる時間より外に立ってる時間のほうが長いってどういうことよ!」
「あー。チェーン店だとそういう仕事もあるんだね。大変そう……」
妹が就職したのは全国に展開する接骨院だ。脱臼や捻挫といった保険診療のほか、ほぐしやマッサージといった自由診療も積極的に扱っているらしい。つまり病人以外の顧客も獲得しないといけないから、店頭での呼び込みが必要なのだろう。
「わかっていただけますか空谷さん! 施術の経験を積まないと上達できないのに、なにやってんだろうって虚無になるんですよ」
「新人のうちはそういうのも役割なんじゃない? ずっと続くわけじゃないだろうし、少しの辛抱だよ」
「……そうですね……。やっぱ我慢するしかないですよね……」
妹もそう言われることをわかっていたようで、てへへと頭をかいてウーロン茶をストローで吸った。
青くんはずっと黙って聞いていたのだけど、いきなりボソッと呟いた。
「その店、辞めたら?」
「……お姉?」
「こっ、小森さんっ!?」
驚くわたしたちとは対照的に、青くんは無表情である。
「もっといい職場があると思いますよ。チラシ配りが無駄だとは思わないけど、自分が求めるものじゃないのなら、環境を変えみてもいいんじゃないですか」
「お姉がそんなこと言うなんて……びっくり」
普段のわたしなら絶対に言わないような言葉だった。
でもそれが青くんの心からのアドバイスだということは、妹にも伝わったみたいだった。
「……ありがと。我慢しなくてもいいと思ったら、ちょっと心軽くなったかも」
さっきより力の抜けた表情で妹は笑った。
「そのキャラ変だと思ったけど、いいこと言うじゃん。なんか、逆にもうちょっと頑張れそうな気がしてる」
「……それはどうも」
「えー、今日ずっとそれでいく感じなの? 空谷さんの前だからって張り切りすぎだよ!」
「まっ、まあまあ二人とも。ほら妹さん、デザートのおかわりでも取ってきたらどうですか? もうすぐ時間が終わりますよ」
食べ放題百分の終了が迫っている。あっという間だった。
杏仁豆腐を山盛りよそって戻ってきた妹は、わたしたちを交互に眺めてからとんでもない発言をした。
「最後に聞いておきたいんですけど、お姉と空谷さんって付き合ってるんですか?」
「「えっ」」
青くんと声が重なる。
「だってこの場に二人で来たってことは、そういうことなのかなって。さっきは友人って言ってましたけど」
「……」
「お父さんとお母さんには内緒にしておくからさ! お姉、こっそり教えてよ」
青くんが黙り込んでしまったので、わたしが答えるしかなくなった。
「いや、ほんとうに友達だよ。今日はたまたま俺も横浜に用事があったから一緒に来ただけ。ごめんね、姉妹で会いたかったのを邪魔しちゃって」
「あっ、いえ! 全然そんなことないっていうか、お姉と二人より楽しかったです。試合を観戦した日からファンだったのですごく嬉しいです」
(まったく、この妹は……っ!)
ほんとうに調子がいい子なんだから。
店を出て近くの駅まで妹を送り、解散した。
「じゃあわたしたちも調査に行こっか。中華街に占いの館とかもあったけど、そういうところってどうなんだろう?」
「…………どうでしょうね」
「あれ? どうしたの青くん」
青くんのまわりに漂う不機嫌オーラに気がつく。
顔をわざとらしく横に向け、目を合わせてくれない。
「……もしかして、さっきのことで怒ってる?」
「……」
青くんとは友達だ、と言った件である。
返事は返ってこなかったけど、それが彼の答えだと思った。
「ごめんね。でもああ言うしか――」
「わかってます。すいません、子供みたいな振る舞いをして」
目を逸らしたまま彼はぶっきらぼうに言った。
青くんが傷ついている。
その姿を目の当たりにして、わたしぎゅっと胸が締め付けられた。
(わたしも青くんのことが好きだって、言ってしまおうかしら……?)
年末に告白してくれたときは、青くんに対する気持ちが恋なのか憧れなのかわからなかった。
でも今ならはっきりとわかる。わたしは彼に、異性として好意を抱いていると。
入れ替わり生活を通して彼に対する想いはどんどん大きくなっていったし、他の女性に複雑な感情を抱いてしまったのも事実。彼に触れられたら嬉しいし、わたしも青くんにいろんな表情をさせてみたいと思う。
(昨日青くんがわたしに向けてくれた気持ちと同じ感情を、彼に対して抱いてる)
昨夜洗い物をしながら、胸にすとんと落ちたのだった。
もうタイミングなんてどうだっていい。今この瞬間悲しい顔をしている青くんに、ただ笑ってほしかった。
彼の腕をとってこちらを向かせる。驚きで丸くなる目には、真剣な顔をした自分が映っていた。
「あのね青くん。実はわたしも青くんのことが――」
『~~♪ ~~♪ ~~♪』
言いかけたところで、青くんのスマホが鳴った。
「あ……。出て大丈夫だよ」
「いや、平気です。なんですか杏子さん」
『~~♪ ~~♪ ~~♪』
そうは言っても、さすがにこの状況で告白するのはどうかと思った。
渋る青くんを説得してまずは電話に対応してもらう。スマホを出した青くんは「並木さんだ」と呟いてわたしに手渡した。
スピーカーボタンを押して「もしもし」と応答する。
『並木です。青、今平気か?』
「お疲れ様です。はい、大丈夫ですけど」
並木さんの声が焦っているのが気になった。深刻な内容だと直感して緊張が走る。
『急だが試合が決まった。三週間後の神戸大会だ。松井選手とやる予定だった高橋選手が怪我で出られなくなったんだ。この間タイトルマッチが飛んだだろ? そのリベンジマッチってことで青と組まれた。急いで仕上げるぞ』
試合が決まった――?
しかも一か月後――?
唖然とするわたしの隣で、青くんは厳しい顔をしていた。
しばらく晴れが続いていたのに、今日は朝から冷たい雨だ。
散歩に行けないブルーは暇そうに窓の外を見つめている。
「おはようございます、杏子さん。体調は完全に元通りになりました」
「おはよう青くん。元気になってよかった!」
朝食を食べながら、今日はどうしようかという話になる。
「昨日、寝る前に妹から連絡が来たの。今日の昼に会えないかって。多分仕事の愚痴だと思うんだけど、一緒に行ってもらうことってできるかな?」
「妹さんがいるんすね。大丈夫ですよ」
「そうそう。青くんの試合を一緒に見に行ったのも妹なの。この春から横浜で働いてるんだけど、社会人の洗礼を受けて大変みたい。この姿で会うのはどうかと思ったんだけど、けっこう辛そうだから放っておけなくて」
「……っす。じゃあ午後はそのまま横浜で手掛かりを探しますか」
「そうだね。赤レンガとか中華街は人も多いし、いろんなお店もありそう」
電車で行くつもりだったけど青くんが車を出してくれた。例のかっこいいスポーツカーである。
道中「この車、すごいよねえ。青くんは車が好きなの?」と尋ねてみると、「いや、興味ないですね。これはもともと親父に買ったんですけど、軽トラのほうが便利だって言われちゃって。もったいないんで使ってる感じっす」と教えてくれた。
「ふふっ。じゃあ、軽トラックを贈り直したの?」
「そうしようと思ったんですけど、『んなこと気にするな。お前が稼いだ金は自分で使え』って誤魔化してましたね。……昔から自分のことはいいっていう性格だったんで、照れくさかったのかもしれないです」
「素敵なお父さんだね」
「……ですね。今でも試合前は必ず連絡くれますし。男手一つでここまで育ててくれたのはありがたいっす」
そう言う青くんも、親孝行で素晴らしいと思うけど。
あいにくの雨模様だけど、車内には和やかな空気が流れていた。
待ち合わせの山下公園に着くころには雨も上がり、東京湾には虹がかかっていた。
妹を探していると、どんよりとした様子でベンチに座る若い子が目に入った。
「あっ、あれだ。妹の桃子です」
「……見るからに落ち込んでますね」
わたしが声をかけるわけにはいかないので、彼に妹を呼んでもらう。
妹はがばっと振り返り、べそをかきながら突撃してきた。
「おねえ~~~~! ありがと~~~~! うわーん、社会人つらいよぉ~~!!」
無表情の青くんに抱き着いた妹に複雑な気持ちを抱きつつ、コホンと咳払いする。
「あの、こんにちは。今日は俺も着いてきちゃいました。すみません」
「えっ!? 空谷選手じゃないですか! なんで? どうして?」
とたんに涙が引っ込んだ妹は目をキラキラさせてわたしを見上げる。ほんとミーハーなんだから……。
「偶然なんですけど、小森さんの薬局がかかりつけなんです」
「そうなんですか! わたし、妹の桃子です。姉がお世話になってます!」
実の妹と握手を交わすという経験はなかなかないと思う。
椿原店長と違って桃子は勘とは無縁な鈍い子だから、入れ替わりがバレる心配はまずないだろう。
ストレスを抱え込んでいるという妹の愚痴を聞くため、わたしたちは中華街の食べ放題レストランに移動した。
「えっ、お姉のおごり? いいの? わたし遠慮とかしないから、ありがたくご馳走になっちゃうよ」
「なんか大変そうなんで、いいですよ」
「ありがとーっ! でもお姉ってばキャラ変えたの? それとも空谷さんの前だからクールぶってるだけ? それ、ちょっと変だよ」
変だよ、と言われた青くんはショックを受けた顔をしていた。
(ごめん青くん! 家に帰ったらフォローしないと……!)
心配していたものの、妹は何度もおかわりを取に行き食欲旺盛だった。食べられるならまだ大丈夫だとホッとする。
鬱までいってしまうと食欲すらわかなくなるからね。
食事に満足するなり妹はくだを巻き始める。
「わたしは柔術整復師になったのに! どうして店の前でチラシを配らなきゃいけないの? 施術してる時間より外に立ってる時間のほうが長いってどういうことよ!」
「あー。チェーン店だとそういう仕事もあるんだね。大変そう……」
妹が就職したのは全国に展開する接骨院だ。脱臼や捻挫といった保険診療のほか、ほぐしやマッサージといった自由診療も積極的に扱っているらしい。つまり病人以外の顧客も獲得しないといけないから、店頭での呼び込みが必要なのだろう。
「わかっていただけますか空谷さん! 施術の経験を積まないと上達できないのに、なにやってんだろうって虚無になるんですよ」
「新人のうちはそういうのも役割なんじゃない? ずっと続くわけじゃないだろうし、少しの辛抱だよ」
「……そうですね……。やっぱ我慢するしかないですよね……」
妹もそう言われることをわかっていたようで、てへへと頭をかいてウーロン茶をストローで吸った。
青くんはずっと黙って聞いていたのだけど、いきなりボソッと呟いた。
「その店、辞めたら?」
「……お姉?」
「こっ、小森さんっ!?」
驚くわたしたちとは対照的に、青くんは無表情である。
「もっといい職場があると思いますよ。チラシ配りが無駄だとは思わないけど、自分が求めるものじゃないのなら、環境を変えみてもいいんじゃないですか」
「お姉がそんなこと言うなんて……びっくり」
普段のわたしなら絶対に言わないような言葉だった。
でもそれが青くんの心からのアドバイスだということは、妹にも伝わったみたいだった。
「……ありがと。我慢しなくてもいいと思ったら、ちょっと心軽くなったかも」
さっきより力の抜けた表情で妹は笑った。
「そのキャラ変だと思ったけど、いいこと言うじゃん。なんか、逆にもうちょっと頑張れそうな気がしてる」
「……それはどうも」
「えー、今日ずっとそれでいく感じなの? 空谷さんの前だからって張り切りすぎだよ!」
「まっ、まあまあ二人とも。ほら妹さん、デザートのおかわりでも取ってきたらどうですか? もうすぐ時間が終わりますよ」
食べ放題百分の終了が迫っている。あっという間だった。
杏仁豆腐を山盛りよそって戻ってきた妹は、わたしたちを交互に眺めてからとんでもない発言をした。
「最後に聞いておきたいんですけど、お姉と空谷さんって付き合ってるんですか?」
「「えっ」」
青くんと声が重なる。
「だってこの場に二人で来たってことは、そういうことなのかなって。さっきは友人って言ってましたけど」
「……」
「お父さんとお母さんには内緒にしておくからさ! お姉、こっそり教えてよ」
青くんが黙り込んでしまったので、わたしが答えるしかなくなった。
「いや、ほんとうに友達だよ。今日はたまたま俺も横浜に用事があったから一緒に来ただけ。ごめんね、姉妹で会いたかったのを邪魔しちゃって」
「あっ、いえ! 全然そんなことないっていうか、お姉と二人より楽しかったです。試合を観戦した日からファンだったのですごく嬉しいです」
(まったく、この妹は……っ!)
ほんとうに調子がいい子なんだから。
店を出て近くの駅まで妹を送り、解散した。
「じゃあわたしたちも調査に行こっか。中華街に占いの館とかもあったけど、そういうところってどうなんだろう?」
「…………どうでしょうね」
「あれ? どうしたの青くん」
青くんのまわりに漂う不機嫌オーラに気がつく。
顔をわざとらしく横に向け、目を合わせてくれない。
「……もしかして、さっきのことで怒ってる?」
「……」
青くんとは友達だ、と言った件である。
返事は返ってこなかったけど、それが彼の答えだと思った。
「ごめんね。でもああ言うしか――」
「わかってます。すいません、子供みたいな振る舞いをして」
目を逸らしたまま彼はぶっきらぼうに言った。
青くんが傷ついている。
その姿を目の当たりにして、わたしぎゅっと胸が締め付けられた。
(わたしも青くんのことが好きだって、言ってしまおうかしら……?)
年末に告白してくれたときは、青くんに対する気持ちが恋なのか憧れなのかわからなかった。
でも今ならはっきりとわかる。わたしは彼に、異性として好意を抱いていると。
入れ替わり生活を通して彼に対する想いはどんどん大きくなっていったし、他の女性に複雑な感情を抱いてしまったのも事実。彼に触れられたら嬉しいし、わたしも青くんにいろんな表情をさせてみたいと思う。
(昨日青くんがわたしに向けてくれた気持ちと同じ感情を、彼に対して抱いてる)
昨夜洗い物をしながら、胸にすとんと落ちたのだった。
もうタイミングなんてどうだっていい。今この瞬間悲しい顔をしている青くんに、ただ笑ってほしかった。
彼の腕をとってこちらを向かせる。驚きで丸くなる目には、真剣な顔をした自分が映っていた。
「あのね青くん。実はわたしも青くんのことが――」
『~~♪ ~~♪ ~~♪』
言いかけたところで、青くんのスマホが鳴った。
「あ……。出て大丈夫だよ」
「いや、平気です。なんですか杏子さん」
『~~♪ ~~♪ ~~♪』
そうは言っても、さすがにこの状況で告白するのはどうかと思った。
渋る青くんを説得してまずは電話に対応してもらう。スマホを出した青くんは「並木さんだ」と呟いてわたしに手渡した。
スピーカーボタンを押して「もしもし」と応答する。
『並木です。青、今平気か?』
「お疲れ様です。はい、大丈夫ですけど」
並木さんの声が焦っているのが気になった。深刻な内容だと直感して緊張が走る。
『急だが試合が決まった。三週間後の神戸大会だ。松井選手とやる予定だった高橋選手が怪我で出られなくなったんだ。この間タイトルマッチが飛んだだろ? そのリベンジマッチってことで青と組まれた。急いで仕上げるぞ』
試合が決まった――?
しかも一か月後――?
唖然とするわたしの隣で、青くんは厳しい顔をしていた。
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