K.O.(恋に落ちても)いいですか?~格闘家な年下君と、病弱薬剤師な私~
第二十四話 Side青③
朝目を覚ました瞬間に、「あー……。熱があるな」とはっきり感じた。
風邪をひいたことなどないのに、これがそうだと確信できるくらい身体が不調を訴えていた。
(ちょっと夜更かししただけで熱が……?)
杏子さんの身体は思っていた以上に弱いみたいだ。俺の身体が強すぎただけっていう考え方もあるけど……。
大切な身体を預かっているのに調子を崩してしまって、一気に申し訳なくなる。
ベッドに入ったまま自己嫌悪に陥ってると、ノックが聞のあとに杏子さんがやってきた。
「青くん起きてる? いつもより遅いから何かあったのかなと思って。 ……あっ、顔が赤い! 熱があるんだね!?」
さすが元自分の身体。そこからの杏子さんの手際は見事で、あっという間に療養の体制が整った。
「他に欲しいものはあるかな?」
「十分っす。すみません、なにからなにまで」
「看病なら任せてね! 病気になる経験だけは豊富だから。じゃあわたしは出かけるから、なにかあったら連絡してね。ブルー、青くんをよろしく頼んだよ」
「ワンワンッ!!」
玄関のドアが閉まる音が聞こえると、とたんに心細さに襲われた。
(変だ。心細いなんて思ったことなかったのに。…………いや、あるか)
ふと、ずいぶん昔の記憶が脳裏によみがえる。
俺が小学校のころ、放課後は学校から空手道場に直行して、夜遅くに親父が迎えに来るまで過ごしていた。
でも一度だけ、道場が設備点検の日だったかで閉まっていた日があった。
そうと知らなかった俺は中に入ることができず、かといって鍵がないため家に入ることもできず、行く当てもなく一人きりになってしまった。
その日初めて、世界がだだっ広いことを知り、自分はちっぽけだという不安に襲われた。
あてもなく町をさ迷い、神社の境内の下に身を隠した。早く時間が過ぎろと思いながら膝を抱えて震えていた。
なぜ自分には母親がいないのか。母親がいたらこんな思いをせずに済んだのにと、直接関係ないことまで持ち出して泣くくらいには、抑え込んでいた感情があふれ出してしまっていた。
(日が暮れるまでそうしていたんだっけ。……その後は確か……)
泣き疲れてウトウトしていたら、女の子の泣き声で目を覚ました。
その子はなぜか裸足で神社に駆け込んできた。パジャマみたいな恰好をして、顔色は悪い。
自分より状況が悪そうな彼女のことが気になって、暗い気持ちはいつのまにか頭の隅に追いやられていた。
「ねえ、どうしたの? なんでないてるの?」
「……きみは、だれ?」
「ぼくはあお。しょうがくいちねんせいだよ」
賽銭箱の前。女の子が腰掛ける階段の隣に座ると、彼女はそのうち泣き止んだ。
病気がちでなかなか学校に行けず、悲しくて病院から逃げてきたのだと言った。
どんな話をしたのか、詳しくは思い出せない。
でも女の子が探しに来た看護師さんに見つかるまで、俺たちはたくさんの話をした。
お互いの涙はすっかり乾いて、最後には笑い合っていたように思う。
(あの子は元気にしてるかな。名前が思い出せないけど……彼女も杏子さんに似ていたかも)
ずっと忘れていた記憶の欠片を思い出してしまうのは、人生で初めて風邪をひいてしまったからか。
病気になるって心細いんだということを実感する。
(……とにかく寝よう。入れ替わりの手掛かりを探さなきゃいけないんだから、早くよくならないと)
高熱による寝苦しさを感じながらも、俺は無理やり目を閉じたのだった。
風邪をひいたことなどないのに、これがそうだと確信できるくらい身体が不調を訴えていた。
(ちょっと夜更かししただけで熱が……?)
杏子さんの身体は思っていた以上に弱いみたいだ。俺の身体が強すぎただけっていう考え方もあるけど……。
大切な身体を預かっているのに調子を崩してしまって、一気に申し訳なくなる。
ベッドに入ったまま自己嫌悪に陥ってると、ノックが聞のあとに杏子さんがやってきた。
「青くん起きてる? いつもより遅いから何かあったのかなと思って。 ……あっ、顔が赤い! 熱があるんだね!?」
さすが元自分の身体。そこからの杏子さんの手際は見事で、あっという間に療養の体制が整った。
「他に欲しいものはあるかな?」
「十分っす。すみません、なにからなにまで」
「看病なら任せてね! 病気になる経験だけは豊富だから。じゃあわたしは出かけるから、なにかあったら連絡してね。ブルー、青くんをよろしく頼んだよ」
「ワンワンッ!!」
玄関のドアが閉まる音が聞こえると、とたんに心細さに襲われた。
(変だ。心細いなんて思ったことなかったのに。…………いや、あるか)
ふと、ずいぶん昔の記憶が脳裏によみがえる。
俺が小学校のころ、放課後は学校から空手道場に直行して、夜遅くに親父が迎えに来るまで過ごしていた。
でも一度だけ、道場が設備点検の日だったかで閉まっていた日があった。
そうと知らなかった俺は中に入ることができず、かといって鍵がないため家に入ることもできず、行く当てもなく一人きりになってしまった。
その日初めて、世界がだだっ広いことを知り、自分はちっぽけだという不安に襲われた。
あてもなく町をさ迷い、神社の境内の下に身を隠した。早く時間が過ぎろと思いながら膝を抱えて震えていた。
なぜ自分には母親がいないのか。母親がいたらこんな思いをせずに済んだのにと、直接関係ないことまで持ち出して泣くくらいには、抑え込んでいた感情があふれ出してしまっていた。
(日が暮れるまでそうしていたんだっけ。……その後は確か……)
泣き疲れてウトウトしていたら、女の子の泣き声で目を覚ました。
その子はなぜか裸足で神社に駆け込んできた。パジャマみたいな恰好をして、顔色は悪い。
自分より状況が悪そうな彼女のことが気になって、暗い気持ちはいつのまにか頭の隅に追いやられていた。
「ねえ、どうしたの? なんでないてるの?」
「……きみは、だれ?」
「ぼくはあお。しょうがくいちねんせいだよ」
賽銭箱の前。女の子が腰掛ける階段の隣に座ると、彼女はそのうち泣き止んだ。
病気がちでなかなか学校に行けず、悲しくて病院から逃げてきたのだと言った。
どんな話をしたのか、詳しくは思い出せない。
でも女の子が探しに来た看護師さんに見つかるまで、俺たちはたくさんの話をした。
お互いの涙はすっかり乾いて、最後には笑い合っていたように思う。
(あの子は元気にしてるかな。名前が思い出せないけど……彼女も杏子さんに似ていたかも)
ずっと忘れていた記憶の欠片を思い出してしまうのは、人生で初めて風邪をひいてしまったからか。
病気になるって心細いんだということを実感する。
(……とにかく寝よう。入れ替わりの手掛かりを探さなきゃいけないんだから、早くよくならないと)
高熱による寝苦しさを感じながらも、俺は無理やり目を閉じたのだった。
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