K.O.(恋に落ちても)いいですか?~格闘家な年下君と、病弱薬剤師な私~
第二十二話 Side青①
――好きな人と、身体が入れ替わってしまった。
病室の鏡に映る色白な女性。茶色い髪は肩のところで切りそろえられた感じのいいボブで、目は丸くてくりっとしている。
人懐っこい笑顔は自分にはないもので、笑うとできる小さなえくぼを見るとつい頬に触れたくなる。
(……神様。杏子さんを手に入れたいとは何度も思ったけど、入れ替わりはやりすぎだって……)
こんなのファンタジーすぎるだろ。神様って言ったって、いるかいないかもわからない存在だし。
状況そのものは単純で、『お互いの身体が入れ替わった』だけ。だけど原因には全く心当たりがなかった。
目を覚ました杏子さんも同様で、俺たちは途方に暮れた。
杏子さんの身体を使うことになってから数日は、煩悩を消し去ることに必死だった。
特に杏子さんが退院するまでは地獄だった。
今まで女性になんの興味もわかなくて、ずっと「自分には備わっていないんだ」と思っていた感情が急に頭と心の中で暴れたしたのだから。
こんなこと杏子さん本人には絶対言えないけど――、身体そのものを見なくても着替えの衣類を目にするだけでドキドキしたし、髪をとかすだけで漂ういい香りにクラクラした。今までもらったどんなパンチよりも俺の脳を揺さぶった。
理性が飛ばないように無心でひたすら腹筋をしたけど、杏子さんの身体は筋肉があまりないようで、すぐに疲れてしまった。
(可愛いな。これくらいで疲れちゃうなんて)
服の上からそっとお腹に触れたけど、はっとしてすぐに手を引っ込める。
いつか正式に杏子さんと付き合えるまでは、ちゃんとしていたい。それまでは煩悩などない仏のような心でいなくては。
他の男からの視線を断つために、服はあえてメンズライクなものを選んで買った。
薬局で働く杏子さんはほんとうに天使みたいだったから。彼女に熱視線を送る男性患者を俺は何度も目撃している。
本人に自覚がないのが困るところだけど、それはそれで杏子さんの美点だからいい。不審な男は俺が追い払えばいいだけだ。
共同生活するようになってからは、『元の身体に戻りたい』と『このまま一緒に暮らしたい』がかなり拮抗する事態になっている。
杏子さんは一秒でも早く元に戻りたいはずなのに、俺はひどく浅ましい人間だ。
(でも、杏子さんのままじゃ杏子さんを守れない)
筋トレもできず、ランニングをしてもすぐに息が切れる。
相手を倒す拳もなければ、頑丈で打たれ強い身体もない。
(元に戻る方法を見つけて、早くチャンピオンにならないと)
そうしないと、本当の意味で彼女を守り、側にいることはできない。
ただでさえ俺は二つ年下なんだから、結果を出さないと男として見てもらえないんじゃないか。――そういう焦りと悔しさもあった。
杏子さんの仕事が始まるまでの一週間が勝負だ。
日中はおのおの調査をして、夜にその日の収穫を話し合う。――そういう計画を立てた俺たちは、さっそく行動を開始した。
病室の鏡に映る色白な女性。茶色い髪は肩のところで切りそろえられた感じのいいボブで、目は丸くてくりっとしている。
人懐っこい笑顔は自分にはないもので、笑うとできる小さなえくぼを見るとつい頬に触れたくなる。
(……神様。杏子さんを手に入れたいとは何度も思ったけど、入れ替わりはやりすぎだって……)
こんなのファンタジーすぎるだろ。神様って言ったって、いるかいないかもわからない存在だし。
状況そのものは単純で、『お互いの身体が入れ替わった』だけ。だけど原因には全く心当たりがなかった。
目を覚ました杏子さんも同様で、俺たちは途方に暮れた。
杏子さんの身体を使うことになってから数日は、煩悩を消し去ることに必死だった。
特に杏子さんが退院するまでは地獄だった。
今まで女性になんの興味もわかなくて、ずっと「自分には備わっていないんだ」と思っていた感情が急に頭と心の中で暴れたしたのだから。
こんなこと杏子さん本人には絶対言えないけど――、身体そのものを見なくても着替えの衣類を目にするだけでドキドキしたし、髪をとかすだけで漂ういい香りにクラクラした。今までもらったどんなパンチよりも俺の脳を揺さぶった。
理性が飛ばないように無心でひたすら腹筋をしたけど、杏子さんの身体は筋肉があまりないようで、すぐに疲れてしまった。
(可愛いな。これくらいで疲れちゃうなんて)
服の上からそっとお腹に触れたけど、はっとしてすぐに手を引っ込める。
いつか正式に杏子さんと付き合えるまでは、ちゃんとしていたい。それまでは煩悩などない仏のような心でいなくては。
他の男からの視線を断つために、服はあえてメンズライクなものを選んで買った。
薬局で働く杏子さんはほんとうに天使みたいだったから。彼女に熱視線を送る男性患者を俺は何度も目撃している。
本人に自覚がないのが困るところだけど、それはそれで杏子さんの美点だからいい。不審な男は俺が追い払えばいいだけだ。
共同生活するようになってからは、『元の身体に戻りたい』と『このまま一緒に暮らしたい』がかなり拮抗する事態になっている。
杏子さんは一秒でも早く元に戻りたいはずなのに、俺はひどく浅ましい人間だ。
(でも、杏子さんのままじゃ杏子さんを守れない)
筋トレもできず、ランニングをしてもすぐに息が切れる。
相手を倒す拳もなければ、頑丈で打たれ強い身体もない。
(元に戻る方法を見つけて、早くチャンピオンにならないと)
そうしないと、本当の意味で彼女を守り、側にいることはできない。
ただでさえ俺は二つ年下なんだから、結果を出さないと男として見てもらえないんじゃないか。――そういう焦りと悔しさもあった。
杏子さんの仕事が始まるまでの一週間が勝負だ。
日中はおのおの調査をして、夜にその日の収穫を話し合う。――そういう計画を立てた俺たちは、さっそく行動を開始した。
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