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宇宙生まれの逃亡奴隷 不時着惑星でサバイバルをする

まんとひひ

教育の大切さ

 『何もしてないのに壊れた』とはけだし名言である。


 主に間抜けが機械を触った時に口走るたわごとだ。宇宙船での狭い一室でのことである。何を計測しているのかわからない数値がそこら中の画面を走り回っているし、何をする為なのかもわからないボタンがそこかしこに配置されている。
 そんな童心をくすぐる計器を前にして、「よぉし、目の前の奴の足が吹っ飛ぶかもしれないが、ちょっと触ってみるか!」という悪戯心が働く気持ちもわからないでもない。だが、状況を考えて思いとどまってみるというのも歳月を経た大人が持つべき分別というものではないだろうか。


 現在、この十人乗りの宇宙船に乗っているのは二名、妹の静子と兄である俺だけだ。専門的な知識を持ったクルーはいない。というより、俺と静子はまともな教育を受けてすらいない。
 なのでこの艦内に響き渡るBeep音が何を示しているかもわからないし、狂ったようにモニターに羅列される文字と数値も俺たちに異常個所を知らせる親切なアナウンスではなく、ただただ恐怖と混乱を煽る怪奇文章としか受け取れなかったのも無理のない話であると理解してほしい。


「馬鹿! 馬鹿! ほんと、お前、馬鹿!」
「だって! だって!」


 半泣きになってる静子の頭を何度も強く叩き、俺は正体不明の警告音を鳴らしているコクピット席の真ん前に座り込む。
 俺ほどの天才であれば一見未知のテクノロジーで出来ているこのような機械であろうとも少し観察すればなんとか解決の糸口を見つけられるものだと考えていたのだが、やはり人生はそう甘くはないらしい。


 脂ぎった手で銀色の箱をしばらく触っていたが、中を開ける為のネジすらないことに気づきやがてすべてを諦めた。(今思えば、そこから音が出ているとしても、故障個所がそこだという保証があるわけがなかった。ただ警告音を鳴らす出力マイクがそこにあっただけだろう)


「クソッ! う〇こ! もうどうにでもなりやがれ!」


 苛立ちついでにその銀色の箱を大きく蹴りつけてやる。
 途端、警告音が一段と激しくなった。
 俺たちは大きく狼狽する。


「バカ静子! お前のせいだ!」
「えぇ!? いまのはお兄ちゃんが蹴ったからでしょ!」
「うっせえ、『何もしてないのに壊れた』んだよ! くっそッ、マニュアルもねぇ、何が起こってるのかもわからねぇ、このままじゃ死ぬ! 静子、とにかくボタンを押しまくれ!」
「お兄ちゃんさっき変なボタンを押すなって────」
「言ってる場合か、とにかくお兄ちゃんの言うことを聞け!」


 殊勝な静子はバチバチバチバチと俺に言われた通り目の前にあるボタンを手当たり次第押しまわった。
 南無三、しかしながら、今度は警告音だけでなく、俺たちの乗っている宇宙船自体から小さな自揺れまで始まってしまう。


「ひぃぃいいひひ! 死にたくないよぉ!」


 静子が涙を流しながら断末魔にも似た情けない声をあげる。
 俺は静子のケツを思い切り蹴りつけた。


「手を止めんじゃねぇ! このままじゃいずれどうやったって死ぬんだ! わずかな希望に命を賭けろ!」



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