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ブライトオレンジを抱えて

厭世 —Ennsei—

2

沢山の木に囲まれた田舎の病院。
周りに人っ子一人おらず、やけに静かだ。
聞こえてくるのは、鳥たちの囀りとそれに合わせるかのように周りの木々が舞うように葉っぱが擦れる音。
看護師さんに先に戻っててもらうよう頼み、一人で風に当たる。
小学生の時、急な目眩に襲われて、気が付いたら病院のベッドにいた。
中学校に上がる前だったから、中学には一度も行ったことがない。
そして、先日、余命宣告をされた。突然の事で誰かに心臓を掴まれたかのような痛みに襲われた。
――まぁ、当たり前か。
あんな衝突事故で生きていただけでも奇跡だ。
突然横から数十キロも出した車体がぶつかってきたら普通タダでは済まない。
その事故で、父と母が死んだのを聞かされたのは目を覚ましてすぐだった。
その事を聞いた時、私は胸の中ががらんどうになり涙さえ出ない喪失感を覚えた。
昔のことを思い出していると、細々とした道から一つの影が見えた。
また、誰かに心臓を掴まれたような痛みが走る。
彼の姿が見えた。いつもブライトオレンジ色の薔薇の花を片手に母親らしき人のお見舞いに訪れる彼。
私は、彼に惹かれていた。
筋の通った鼻。鈴を張ったような目。少し骨張った手。
端正な横顔。澄んだ瞳はただ一点だけを見つめている。

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